概要・あらすじ
昭和21年(1946)8月、戦地から日本に戻った金田一耕助は瀬戸内海に浮かぶ小島・獄門島に向かう船の中にいた。復員船で息を引き取った戦友の鬼頭千万太から「自分が生きて帰らないと3人の妹たちが殺される。自分の代わりに獄門島に行ってくれ」という不吉な頼みごとをされたのである。金田一は船中で出会った了然和尚の手引きで千万太の実家である本鬼頭家に招かれるが、そこで千万太の妹の鬼頭月代、鬼頭雪枝、鬼頭花子に出会い、彼女たちの美しいがどこか尋常ではない異様さに戦慄を覚える。
やがて千万太戦死の公報が入り、本鬼頭の家で通夜が行われることになったが、その夜に花子が行方不明になってしまう。
登場人物・キャラクター
金田一 耕助 (きんだいち こうすけ)
数々の難事件を解決してきた高名な探偵の男性。出征中に戦地で友人となった鬼頭千万太から「自分が帰らないと3人の妹が殺される」という不可解な遺言を託され、獄門島にやって来た。亡き戦友の最期の願いに応えるべく島内で調査を開始するが、その矢先に3人の妹の一人、鬼頭花子が殺害されるという事件が発生。さらに、よそ者であるため駐在の清水に不審に思われ、事件の参考人として獄に繋がれてしまう。
了然 (りょうねん)
獄門島にある千光寺の和尚。本鬼頭の当主だった鬼頭嘉右衛門から厚く信頼されていた島の重鎮の一人。村長の荒木、医師の幸庵と共に「本鬼頭の三奉行」と言われている。獄門島に向かう船中で金田一耕助と出会い、彼から嘉右衛門の孫である鬼頭千万太の戦死を知らされることになる。
鬼頭 早苗 (きとう さなえ)
鬼頭千万太のいとこで鬼頭一の妹。両親が早くに亡くなったので、兄妹共々本鬼頭当主だった祖父の鬼頭嘉右衛門に引き取られた。嘉右衛門が終戦前に病死し、本鬼頭の跡取り候補である千万太と一が共に軍に召集され、本来の次期当主である鬼頭与三松も精神に異常をきたしてしまっているため、女ながら一人で本鬼頭を切り盛りしている。
磯川 (いそかわ)
金田一耕助と旧知の岡山県警の警部。鬼頭花子、鬼頭雪枝殺害の捜査のため獄門島を訪れ、島にいた金田一と再会することとなった。瀬戸内海の島々を荒らして回っている海賊の捜査も行っており、逃亡した一味の一人を追っている。
清水 (しみず)
獄門島に駐在しているただ一人の巡査。よそ者の金田一耕助が鬼頭花子殺害の捜査に首を突っ込むのを不審に思い、彼が犯人ではないかと疑惑の目を向ける。ついには容疑者として金田一を投獄するが、彼が牢にいる間に鬼頭雪枝が殺される事件が起きたため疑いを解いた。
鬼頭 嘉右衛門 (きとう かえもん)
終戦直前に亡くなった本鬼頭の先代当主。本鬼頭を、近隣の島々の中でも有数の網元にした人物で、「太閤さん」と呼ばれた島一番の権力者だった。しかし、長男の鬼頭与三松が女役者のお小夜に溺れたあげく精神を病み、孫で跡取り候補の鬼頭千万太と鬼頭一も出征。本鬼頭の行く末が不透明になり、苦悶のあまり卒中でこの世を去った。
鬼頭 千万太 (きとう ちまた)
鬼頭嘉右衛門の孫で父親は鬼頭与三松。鬼頭月代、鬼頭雪枝、鬼頭花子は腹違いの妹。父親が精神を病んだため本鬼頭の跡取りとされていたが、軍に召集され復員船の中で病死した。自分が帰らなければ3人の妹たちが殺される運命にあることを悟っており、今際(いまわ)の際に戦友の金田一耕助に後事を託した。
鬼頭 与三松 (きとう よさまつ)
鬼頭嘉右衛門の息子で鬼頭千万太の父親。先妻の死後、旅役者をしていたお小夜の美貌に溺れ、嘉右衛門の反対を押し切って結婚。お小夜との間に鬼頭月代、鬼頭雪枝、鬼頭花子をもうけた。だが、お小夜が狂い死んだことにより精神を病んでしまい、10年以上座敷牢に閉じ込められている。
鬼頭 花子 (きとう はなこ)
鬼頭千万太が「自分が帰らないと殺される」と予言した3人の異母妹の一人。母親はお小夜で、鬼頭月代、鬼頭雪枝は同腹の姉。月代、雪枝共々美しいが精神が幼く、どこか尋常ではない狂的な雰囲気を漂わせている。最初の犠牲者で、梅の木に逆さ吊りにされるという無残な死体となって発見される。
鬼頭 雪枝 (きとう ゆきえ)
鬼頭千万太が「自分が帰らないと殺される」と予言した3人の異母妹の一人。姉の鬼頭月代、妹の鬼頭花子と同じく母親はお小夜。月代、花子共々美しいが精神が幼く、どこか尋常ではない狂的な雰囲気を漂わせている。2番目の犠牲者で、遺体を釣鐘の中に押し込まれるという異様な姿で発見される。
鬼頭 月代 (きとう つきよ)
鬼頭千万太が「自分が帰らないと殺される」と予言した3人の異母妹の一人。母親はお小夜で、鬼頭雪枝、鬼頭花子は同腹の妹。雪枝、花子共々美しいが精神が幼く、どこか尋常ではない狂的な雰囲気を漂わせている。3番目の犠牲者で、「一つ家」と呼ばれる祈禱所で縊死体となって発見される。
お小夜 (おさよ)
鬼頭与三松の後妻で、鬼頭月代、鬼頭雪枝、鬼頭花子の母親。旅役者をしていたが、先妻を亡くしたばかりの与三松に見初められ彼の妻となった。獄門島第一の実力者である鬼頭嘉右衛門を相手に一歩も引かない強(したた)かな女だったが、了然和尚をも敵に回してしまったため島内で孤立。ついには精神に異常をきたしてしまい、座敷牢に放り込まれたあげく狂い死んだ。
荒木 (あらき)
獄門島の村長を務める男性。本鬼頭の当主だった鬼頭嘉右衛門のもとで島のさまざまなことを取り仕切ってきた重鎮の一人。千光寺の了然和尚、医師の幸庵と共に「本鬼頭の三奉行」と呼ばれている。本鬼頭に近い存在のため分鬼頭の鬼頭志保からはあまりよく思われていない。
幸庵 (こうあん)
獄門島で医師をしている老人。本鬼頭の当主だった鬼頭嘉右衛門のもとで、島のさまざまなことを取り仕切ってきた重鎮の一人。千光寺の了然和尚、村長の荒木と共に「本鬼頭の三奉行」と呼ばれている。鬼頭雪枝が殺害される事件が起きた際、曲者に襲われて左腕を折ってしまう。
鬼頭 一 (きとう ひとし)
鬼頭千万太のいとこで鬼頭早苗の兄。両親が早くに亡くなったので、妹の早苗と一緒に本鬼頭当主だった祖父の鬼頭嘉右衛門に引き取られた。千万太と同じく戦時中に軍に召集され、まだ復員してきていないが、無事であるとの知らせは届いている。
鬼頭 志保 (きとう しほ)
本鬼頭と敵対する分鬼頭の現当主である鬼頭儀兵衛の妻。本鬼頭に強い敵愾心を持っており、鬼頭嘉右衛門に激しく楯突き、彼を大いに苦しめた。島の外から連れてきた鵜飼という青年に鬼頭月代、鬼頭雪枝、鬼頭花子を誘惑させ、3人娘を操ることで本鬼頭を乗っ取ろうと画策している。
鵜飼 (うかい)
分鬼頭のおかみである鬼頭志保が、どこかから連れてきた美しい青年。本鬼頭の乗っ取りを企む志保の命を受けて鬼頭月代、鬼頭雪枝、鬼頭花子の3人娘を誘惑しており、彼が月代に出した恋文が花子殺害に利用されることになる。
清ちゃん (せいちゃん)
獄門島で床屋をしている若い男。金田一耕助からは「親方」と呼ばれている。話好きで金田一と気が合い、彼に島や本鬼頭に関するさまざまなことを教えた。ただ、よそ者である金田一に不審の目も向けており、彼が本鬼頭の財産を横領するためにやって来たのではないかと、島の者たちと噂していた。
場所
獄門島 (ごくもんとう)
瀬戸内海のほぼ中ほどのあたりに浮かぶ周囲8キロばかりの小さな島。人口は千人余り。藤原純友の頃に瀬戸内海を荒らし回った伊予海賊が、この島を北の固めとしたことから名付けられた「北門島」がいつしか転じて「獄門島」になったとも、徳川時代に流刑地にされたのが由来とも伝えられている。現在は本鬼頭と分鬼頭という2つの網元が島の二大勢力となって互いに対立している。
その他キーワード
本鬼頭 (ほんきとう)
獄門島で網元をしている家のひとつ。先代の鬼頭嘉右衛門のときに勢力を大きく伸ばし、島で一番の権力を持つまでになったが、嘉右衛門はすでに逝去。嘉右衛門の長男の鬼頭与三松は精神に異常をきたしていて、跡取りの鬼頭千万太も復員中に病死してしまったため先行きが不安視されている。分鬼頭は分家筋にあたるが仲は良くない。
分鬼頭 (わけきとう)
獄門島の網元のひとつで、何代か前に本鬼頭から分かれた分家筋にあたるが、今では本鬼頭に匹敵する勢力になっている。現在の当主は鬼頭儀兵衛。本家である本鬼頭と対立していて、島の実力者であった鬼頭嘉右衛門が亡くなって不安定になっている本鬼頭を乗っ取ろうとしている。
クレジット
- 原作