実話を元に終末期病棟の真実を描く
作者の沖田×華は、看護師の資格を持っており、代表作『透明なゆりかご』の内容は、看護師見習いとして産婦人科医院に勤務したときの実体験である。一方、本作はかつての看護師仲間から聞いた話と、自分の想像力の複合であり、客観的な目線で執筆しているという。「まんが王国」掲載のインタビューによると、本作執筆のきっかけは、友人から聞いた終末期の患者の話が良くも悪くもすごく面白かったこと。口うるさいおじいちゃんだけれど憎めないところがあったり、暴れん坊だが好きなヘルパーの前では真っ赤になってしまったりと、病室には様々なドラマがある。陰で「ゴミ捨て場」と呼ばれている、終末期病棟(ターミナル)だが、患者たちはゴミではない。社会的に忘れられてしまった人たちの人生と死を通して、終末期病棟の真実を描いているのが本作である。
終末期病棟で働く、看護師のリアルな日常
本作の主人公、辺見歩は、終末期病棟で働いて2年目になる看護師。言うことを聞かない、入れ歯を投げるといった、問題行動を起こす患者が多いため、1年ぐらいで新人ナースは辞めてしまう。辺見はお気に入りの患者に愚痴を聞いてもらうことで、ストレスを解消しながら日々の業務をこなす。終末期病棟ならではの隠語と医学用語、延命治療で儲けたいという病院の方針、院内感染を防ぐための詳細な方法と手順、患者が亡くなった際の死後処置など、医療現場ならではの日々の出来事とハプニングを、ユーモアを交えてリアルに描かれているのが本作の魅力の一つである。
死にゆく患者と家族の「生と死と人生」
終末期病棟の患者の状態とその家族の事情もじつに様々である。例えば、宗教にハマった末に肺がんで余命宣告された清井さんは、毎日9時に大声でお題目を叫ぶ。そんな清井を訪ねてくる娘は、ずっと父のそばで何かを話しかけている。親孝行な娘と思ったら、じつは宗教で家庭を壊した父を何時間も罵っていた。認知症の81歳女性で家族の前では大人しすぎるほどの幸村さんは、ヘルパーの男性にシモネタを言い続け、風呂場で彼に抱きつき唇を奪う。肺炎を発症してしまった女性ハルさん83歳は、長い間苦しんだ末に死んでしまう。親の年金で生活する一人息子が、お金をかけることを嫌い必要な治療を受けさせなかったのだ。本作は、終末期病棟で生きる、いろいろな患者とその家族の「生と死と人生」が生み出す、笑い、怒り、悲しみ、愛憎の人間ドラマである。
登場人物・キャラクター
辺見 歩 (へんみ あゆみ)
△×病院の別館、終末期病棟(ターミナル)で働いて2年目になる看護師の女性。彼氏なし、親友なしの32歳。一人暮らしで猫を飼っている。両親は10年前に離婚。実家には母と、ウツと摂食障害を発症し、自傷・他害を繰り返す、28歳の妹がいる。仕事には真摯に向き合っており、患者の死に際し人生について考えることもしばしば。腹の立つ患者もいるが、お気に入りの患者に愚痴をこぼすことでバランスを保っている。
赤根 涼子 (あかね りょうこ)
△×病院の別館、終末期病棟(ターミナル)の看護主任の女性。43歳で、高校3年生の息子がいる。病院勤務のほか、息子の学校関連のイベントやママさんとの付き合いで平均睡眠時間3時間という働き者。病院一怖いと患者たちから恐れられている。辺見歩のよき相談相手。
書誌情報
お別れホスピタル 12巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2018-08-09発行、 978-4098600571)
第2巻
(2019-04-26発行、 978-4098603022)
第3巻
(2019-10-11発行、 978-4098604470)
第4巻
(2020-04-10発行、 978-4098605996)
第5巻
(2020-10-14発行、 978-4098608096)
第6巻
(2021-04-30発行、 978-4098610969)
第7巻
(2021-11-30発行、 978-4098611904)
第8巻
(2022-05-30発行、 978-4098613397)
第9巻
(2022-11-30発行、 978-4098614721)
第10巻
(2023-06-29発行、 978-4098617104)
第11巻
(2024-01-30発行、 978-4098626205)
第12巻
(2024-05-30発行、 978-4098627974)