「脳」だけではなく「人生」を診る
本作の原作者の子鹿ゆずるは、元・脳外科医であり、救急現場や脳疾患の症状、手術のシーンがリアルかつ丁寧に描かれている。しかし、本作最大の特徴は、片麻痺、失語症、記憶障害といった様々な脳障害の後遺症が描かれている点である。脳外科手術においては、ほんの少しの遅れが後遺症につながる。だから主人公の三瓶友治は、周囲の反発を気にせず、瞬時に判断を下して緊急手術を強行する。そして、救命だけではなく、患者の社会復帰までをサポートする。また三瓶は、後遺症など障害を持つ人の社会復帰には、本人の努力はもちろん、サポートする側の理解と協力が重要だと説く。本作は、「脳」だけではなく患者の「人生」を診る脳外科医を描いた医療ドラマである。
失ったものより残っているものが大切
本作の第1話。脳内血腫で運び込まれた建設作業員の山本は、三瓶の緊急手術により一命を取り留める。しかし、左半身に重度の麻痺が残り、一生半身不随になってしまう。もうすぐ生まれる子どものためにもリハビリに励む山本だったが、麻痺のほか、空間認識能力も低下しており、作業員の仕事には戻れそうになかった。そこで三瓶は、計算能力や論理的理解力は正常という検査結果を踏まえ、山本にできる仕事を会社に提案。事務職として職場復帰できるように取り計らった。2021年3月23日掲載の「文春オンライン」で、原作者の子鹿は「失ったものより残っているもの、駄目だった昨日より明日の希望。人間の弱くて、強くて、美しい姿を伝えたいです」と語っており、これが本作の大きなテーマとなっている。
ミヤビの記憶障害に隠された謎
事故により記憶障害を抱える医師の川内ミヤビは、昨日のことを覚えていられず、日記に日々の出来事を書いて記憶をカバーしていた。手術室にも入れず、雑用しかできないことに自信を失いかけていたが、三瓶の適切なサポートにより、手術の手伝いができるようになる。そんなある日、救命救急部長の星前宏太が、ミヤビと三瓶が一緒に写っている古い写真を偶然見つける。じつは記憶を失う前、ミヤビと三瓶は婚約していたのだ。三瓶は、ミヤビの障害は治る可能性があると考えており、彼女の主治医、関東医科大学の大迫教授に疑念を抱いていた。本作は、三瓶とミヤビの過去と現在を描き、記憶障害に隠された謎を追うドラマでもある。
登場人物・キャラクター
三瓶 友治 (さんぺい ともはる)
アメリカから、日本の丘陵セントラル病院にやってきた脳外科医の男性。ボサボサ頭と目の下のクマが特徴で、ほぼ病院で暮らすワーカホリック。世界トップレベルのフィラデルフィア大学病院で、史上最年少で顕微鏡手術を担当したほか、論文が世界中で引用されており、研究者としての功績も大きい優秀な医師である。周囲の空気を一切読まずに行動するが、それは患者のことを第一に考えた結果である。事故前の川内ミヤビと婚約しており、彼女の記憶障害を治そうとする。
川内 ミヤビ (かわうち みやび)
丘陵セントラル病院の総合診療科と脳外科を兼務する女性医師。過去に交通事故を起こし、それ以来記憶障害を抱え、昨日のことも覚えていられない。医師としての自信をなくしかけていたが、三瓶友治や周囲の医師のサポートで、手術室に入ることも許される。事故前に、三瓶と婚約していたことを告げられ初めは戸惑うが、三瓶の普段の行動から、彼を信じるようになる。
星前 宏太 (ほしまえ こうた)
丘陵セントラル病院の救命救急部長の男性。脳外科を兼務している。金髪が特徴で、自らをエースと呼ぶ自信家。母親が、病院の各科をたらい回しされた結果、骨髄のがんが進行した過去を持つ。そのため、自分の専門しかわからない医師を嫌い、全科で専門医レベルを目指している。
クレジット
- 原作
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子鹿 ゆずる
書誌情報
アンメット ーある脳外科医の日記ー 17巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(2021-03-23発行、 978-4065227695)
第2巻
(2021-06-23発行、 978-4065234518)
第3巻
(2021-09-22発行、 978-4065245453)
第4巻
(2021-12-23発行、 978-4065261286)
第5巻
(2022-03-23発行、 978-4065269978)
第6巻
(2022-06-22発行、 978-4065280522)
第7巻
(2022-09-22発行、 978-4065292617)
第8巻
(2023-01-23発行、 978-4065300107)
第9巻
(2023-02-21発行、 978-4065308479)
第10巻
(2023-04-21発行、 978-4065311677)
第11巻
(2023-05-23発行、 978-4065315057)
第12巻
(2023-08-23発行、 978-4065326695)
第13巻
(2023-11-22発行、 978-4065333679)
第14巻
(2024-04-23発行、 978-4065352229)
第15巻
(2024-05-22発行、 978-4065352236)
第16巻
(2024-08-22発行、 978-4065363829)
第17巻
(2024-10-22発行、 978-4065373118)