実体験から生まれたリアルなストーリーと描写
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として精神科病院や医療少年院で10年以上勤務した経験があり、本作の登場人物は原作者が実際に出会ってきた非行少年たちをモデルにしている。また、漫画のために新たに書き下ろしたシナリオを、『「子供を殺してください」という親たち』ほかで、ノンフィクションのコミカライズに定評のある鈴木マサカズが漫画化。実績のある二人のコラボにより、少年たちが抱える問題やその家族の実態などが、非常にリアルに描かれている。単行本巻末のコラムによると、本書の目的は「こういった少年の存在を世間に知ってもらい、憎しみ以外の観点でも彼らを見てほしい」「小・中学校で障害に気づかれていない子たちを早期に見つけ、非行を防ぐために力を貸してほしい」「本書を読んで、少年院といった矯正施設で働きたいと思う人が増えてほしい」という3点だという。
知的ハンディが引き起こす負の連鎖
少年院の医務室に勤務する精神科医の六麦克彦は、非行少年たちと接するうちに、彼らの多くにある共通点を見出す。それは「丸いケーキを3等分する」といった簡単な問題が解けないことである。知的障害は、「IQ(知能指数)70未満」とされており、「IQ70から84未満」は「境界知能」と呼ばれるグレーゾーンである。境界知能に属するのは全人口の14パーセントで、例えば35人クラスだと約五人が該当する計算になる。軽度な知的ハンディを持つ彼らは、支援が必要なのに気づいてもらえず、「生きづらさ」「しんどさ」を抱えている。また、勉強についていけず、いじめや虐待にあい、利用されて非行に走るという「負の連鎖」も少なくない。知能と非行に関連を見出す六麦は、非行少年たちと対話を重ね、自分にできることを精一杯行う。
少年犯罪者と少年院のリアルな描写
模範生として少年院を出院するが、悪い知人に利用され、最終的に殺人を犯してしまう軽度の知的障害の少年。女児への性的暴行で捕まるが、少年院に入るという意味がそもそも理解できない、自閉スペクトラム症の少年。困難に直面した際、対処方法が考えられず、キレてしまう知的障害の少女など、様々な理由から犯罪を犯す少年・少女たちの実態をリアルに描いているのが本作の特長である。また、少年院の単独寮、集団寮での生活、担任教官との対話となる日記指導、暴力防止プログラムなどの矯正プログラムといった、少年院生活の現実も描写されている。
登場人物・キャラクター
六麦 克彦 (ろくむぎ かつひこ)
精神科医の男性。38歳。少年院の医務室で精神科診療を行う。「丸いケーキを3等分できない」「簡単な計算ができない」といった、知的なハンディと非行に関連があることに気づく。境界知能の少年少女が、挫折を繰り返し、非行に繫がることを懸念している。
田町 雪人 (たまち ゆきと)
第1話から第4話に登場する20歳の青年。IQ(知能指数)は68で軽度の知的障害がある。5歳のときに、父のDVが原因で両親が離婚し、母と二人の兄弟と暮らす。生活は困窮しており、6歳の頃から万引きを繰り返す。母のネグレクトが原因で保護所に入所。その後、暴力問題などを起こし、16歳のときに少年院に送致される。少年院での教育が功を奏し、模範生として出院するが、知人に騙(だま)され多額の借金ができ、それが原因で殺人を犯してしまう。
クレジット
- 原作
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宮口 幸治
書誌情報
ケーキの切れない非行少年たち 9巻 新潮社〈バンチコミックス〉
第1巻
(2020-12-09発行、 978-4107723420)
第2巻
(2021-04-09発行、 978-4107723741)
第3巻
(2021-09-09発行、 978-4107724250)
第4巻
(2022-02-09発行、 978-4107724717)
第5巻
(2022-07-07発行、 978-4107725158)
第6巻
(2023-02-09発行、 978-4107725714)
第7巻
(2023-09-08発行、 978-4107726469)
第8巻
(2024-03-08発行、 978-4107726926)
第9巻
(2024-08-07発行、 978-4107727374)