細分化する現代医療の問題点
現代の日本医療は高度に発展し、「内科」「産婦人科」「脳神経外科」「耳鼻咽喉科」「放射線科」など、専門分野が多岐にわたり細分化されている。現在では専門領域が18にも及ぶが、日々進歩する医療技術に伴い、さらに細分化が進んでおり、医療現場は極めて複雑な状況を呈している。そのため、医師であっても自分の専門外の診療が困難となり、患者が「たらい回し」にされる原因ともなっている。本作は、こうした現状に一石を投じるべく、魚虎総合病院に「特定の臓器を専門としない19番目の専門医」、すなわち「総合診療科」を新設したことから物語が始まる。
「なんでも治せるお医者さん」の理想と現実
みずきは、幼い頃から「なんでも治せるお医者さん」になることを夢見て医師を志し、念願叶って魚虎総合病院の整形外科医として勤務を始めた。しかし、現代医療の専門化が進む中で、自分の専門外の分野は他科に任せるのが一般的となり、理想と現実のギャップに日々葛藤していた。そんな中、病院に総合診療科が新設され、徳重が赴任してくる。最初は徳重の診療スタイルに反発していたみずきだったが、彼が患者に寄り添い、自分が見逃していた病状を的確に見抜く姿を目の当たりにし、次第に考えを改めていく。そして、みずきは徳重の診療方針に深く共感し、自らも総合診療科への転科を決意するのだった。
診断未確定に挑む医師の葛藤
本作は、患者と医師のあいだに生じる認識のズレを通じて、「診断未確定」という現代医療が抱える深刻な課題に焦点を当てている。患者が体の不調を訴えて医療機関を訪れても、検査で異常が見つからなければ、正式な診断が下されないケースは少なくない。特に稀(まれ)な症例ではこの傾向が顕著であり、診断がつかない患者は病の苦しみに加え、医療への不信感を募らせていく。主人公の徳重は、そうした患者たちに真摯に寄り添い、彼らの人生そのものと向き合うことで、病の根源にせまっていく。その姿は、まるで病という謎に挑むメディカル・ミステリーのように描かれている。
登場人物・キャラクター
徳重 晃 (とくしげ あきら)
魚虎総合病院の新設された総合診療科に赴任した男性医師。長身痩軀(そうく)で、眼鏡をかけている。誰に対しても気さくに話しかける人懐っこい性格で、初対面の相手とも自然に打ち解けることができる。医療の専門分化による技術の進歩を認めつつも、それが理由で患者の病気を見逃してしまっては意味がないと考えている。だからこそ、患者一人ひとりの生活背景に深く寄り添うことが、真の病巣を見つけ出す鍵だと信じている。「患者を診るスペシャリスト」であることを信条としており、患者の言葉を否定せず、日常生活や仕事の状況を丁寧に聞き取り、多角的に分析して病気の症状を探る姿勢を貫いている。
滝野 みずき (たきの みずき)
魚虎総合病院の整形外科に勤務する女性医師。黒髪のショートヘアと小柄な体格から、実年齢よりも幼く見られることが多い。幼い頃から「なんでも治せるお医者さん」になることを夢見て医師の道を歩んできた。しかし、専門分野に細分化された現代医療の現場では、専門外の患者を前に無力感を感じることも少なくない。そんな中、新たに赴任してきた医師の徳重との出会いが彼女の転機となり、彼の医療に対する姿勢に深く共感。一度はあきらめかけていた理想を再び追い求める決意を固め、総合診療科への転科を決意した。明るくひたむきな努力家だが、医師としてはまだ3年目と経験は浅いため、その情熱が時に空回りすることもある。大きな失敗に落ち込む日もあるが、そこから真摯に学び、次への成長の糧にする前向きさと、揺るぎない強い芯を併せ持つ。
クレジット
- 医療監修
-
川本 剛史
書誌情報
19番目のカルテ 徳重晃の問診 12巻 コアミックス〈ゼノンコミックス〉
第1巻
(2020-04-20発行、978-4867200001)
第2巻
(2020-11-19発行、978-4867201862)
第3巻
(2021-06-18発行、978-4867202456)
第4巻
(2021-11-20発行、978-4867202791)
第5巻
(2022-05-20発行、978-4867203798)
第6巻
(2022-10-20発行、978-4867204306)
第7巻
(2023-02-20発行、978-4867204696)
第8巻
(2023-10-20発行、978-4867205747)
第9巻
(2024-04-19発行、978-4867206348)
第10巻
(2024-10-19発行、978-4867206843)
第11巻
(2025-04-18発行、978-4867207628)
第12巻
(2025-09-20発行、978-4867208014)







