きみが英雄になる物語

きみが英雄になる物語

平安時代の大陰陽(だいおんみょう)師の安倍晴明をご神体にする由緒正しい神社「朱堂神社」の次男である朱堂一颯は、優れた兄と自分を比較して落ち込み、うだつの上がらない日々を送っていた。しかし兄の死によってすべてが一変し、一颯はその呪われた宿業に身を投じていくことになる。少年が英雄に至る軌跡を描いたスピリチュアルサーガ。「MAGKAN」で2021年4月から配信の作品。

正式名称
きみが英雄になる物語
ふりがな
きみがえいゆうになるものがたり
作者
ジャンル
バトル
 
異能力・超能力
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あらすじ

鬼雨

朱堂神社の跡取り息子である朱堂成海は、若さと才気に満ちあふれており、悪霊や怪異を祓(はら)い、鎮める役目に励んでいた。成海は神社のご神体である安倍晴明の力と魂を宿した「英雄の書」を所持しており、その日もその力を借りて、悪霊と化した武将、後藤又兵衛の霊を鎮めていた。無事に又兵衛の霊魂を英雄の書に封じ込め、家に戻った成海は、かわいがっている弟の朱堂一颯と憩いのひとときを過ごしていた。一颯は兄の成海を「英雄」としてあこがれの目で見ており、晴明の書に興味津々だった。そのため一颯は兄の居ぬ間にこっそり晴明の書を取り換え、その中身を見てみようと考える。しかしその直後、封じていた後藤又兵衛の書に異変が起き、成海は行方不明となった後藤又兵衛の書を追いかけにいってしまう。一颯は自分が取り返しのつかないことをしてしまったと深く後悔し、兄のあとを追うが一颯が目にしたのは、激闘の果てに死した兄の姿だった。一颯は自分が晴明の書を取り換えたことで、兄が死んでしまったと強い罪悪感を抱くが、そこに晴明が現れ、新たな契約者として一颯を選ぶ。一颯は己の罪深さに耐えきれずに自死すら考えるようになるが、運命はそれを許さず、己の身には朱堂神社が1000年かけて封印してきた「」が封じられており、一颯が死ねばその封印が解かれるという事実が知らされる。兄もその事実を知り、弟を守るため人知れず尽力していたのだ。しかしその事実を知った瞬間、一颯は巴御前の襲撃を受けて大ケガを負い、その傷と負の感情が呼び水となり、鬼の覚醒が始まるのだった。

鬼謀

朱堂一颯は心の中でと対峙(たいじ)する。鬼は異形の姿をしていたが、一颯の心の傷に気づいた鬼は、朱堂成海の姿を取って言葉巧みに彼を惑わす。そして鬼は一颯の体と心が傷つき、死んでいくたびに力を取り戻していくことを告げ、巴御前が右腕を切り落としたことで、右腕を取り戻したことを一颯に見せつける。右腕から一颯の全身を支配した鬼は覚醒し、その力で暴れ出す。異変に気づいた一颯の父親の朱堂清秋と、英雄の書を取り締まる「福音正教会」の面々は現場に駆け付け、鬼となった一颯と対峙する。圧倒的な力を持つ鬼に苦戦する一行であったが、安倍晴明の力で鬼は再び封じられ、一颯は正気を取り戻すのだった。一颯は激動の体験を経て、兄の遺志を受け継いで強くなることを決意。そのための第一歩として、福音正教会の申し入れを受け入れ、鬼となった際に彼らに討たれるのと引き換えに彼らのもとで鍛錬し、鬼を克服することを目指すこととなる。一方、鬼の仮の復活を見届けた謎の少女、おひいさまは、その結果に満足して鬼の完全復活のため一颯に狙いを定める。そして、おひいさまは次なる一手として、紫式部の英雄の書を一颯に差し向けるのだった。おひいさまの罠(わな)によって追い詰められた一颯は、またしても鬼の覚醒を許してしまうが、紫式部の救いの声を聞いた一颯は、鬼に乗っ取られつつも紫式部に手を伸ばし、その手をつかむことに成功する。こうして一颯は初めて己の手で英雄の書を救い上げ、確かな一歩に手ごたえを感じる。しかし、その身は着実に鬼に蝕まれており、おひいさまは覚醒を繰り返せば目論見どおり鬼の封印は弱まっていくと確信し、不吉な笑みを浮かべるのだった。

登場人物・キャラクター

朱堂 一颯 (すどう いぶき)

朱堂成海の弟で、中学生の少年。年齢は13歳。ぼさぼさの髪に大きな丸縁眼鏡をかけている。いつも自信なさげで冴(さ)えない雰囲気を漂わせており、内気で臆病な性格をしている。嫌なことからすぐに逃げてしまう癖があり、学校でも孤立しがちなためサボりがち。ただし、成績は優秀で意外と凝り性なところがあり、いつも逃げ込む家の蔵を快適に過ごせるように自力でリフォームしている。好奇心も旺盛で、英雄の書を見てみたいと思っているが、門外不出の英雄の書は見てはならぬと父親と兄の成海に止められている。その好奇心が災いし、ちょうど兄が戦いに出向く直前に英雄の書を黙って持ち出してしまい、それによって兄の成海は死亡する。あこがれの兄を自分が殺したため、深い自責の念に囚われている。英雄の書に宿る安倍晴明と契約し、清明から自分の中に鬼が封じられている事実を知らされる。兄の成海と父親が自分を守るため、あえて鬼の封印を秘密にしていたことを知り、二人の意思を引き継いで強くなることを誓う。その後は髪を切って眼鏡を外し、大幅に見た目が変わっている。もともと内向的な性格をしていたが、兄の死で心の奥底ではつねに昏(くら)い気持ちを抱えている。一方でそんな自分を変えたいとも思っており、福音正教会に合流し、彼らに鍛えてもらっている。

安倍 晴明 (あべの せいめい)

「朱堂神社」の守り神にして、英雄の書に宿る陰陽師の男性。色素の薄い髪を長く伸ばした偉丈夫で、平安時代に名の知れた陰陽師。朱堂成海と契約を交わし、彼の呼び声に応えて、さまざまな術で力を貸す。召喚された際には五芒星(ごぼうせい)が描かれた面布を付けているが、これは成海の力が足りずに行動と力を制限されているため。そのため、成海に召喚された際は制限時間が短い。1000年前に鬼を倒し、それを朱堂家の血筋に封印した。以来、朱堂家の者と協力して鬼を封じ続けており、現在も力の大半をそれに割いている。成海の死後は朱堂一颯を新たな継承者とするが、皮肉にも当代の鬼の血の継承者である一颯とは力の相性がよく、ほとんどの制限が取り払われ、面布もなくなり素顔をさらして召喚される。ただしその思惑には謎が多く、一颯の鬼の封印を施したかと思えば、一颯のことを見捨てるような言動も取るなど、一貫していない。また、一颯に福音正教会に向かうように指示している。実在の人物、阿部晴明がモデル。

朱堂 成海 (すどう なるみ)

由緒正しき「朱堂神社」の跡取り息子。赤い髪を後ろで一つ結びにしており、若武者のような凛々(りり)しい雰囲気を漂わせている。豪放磊落(らいらく)な竹を割ったような性格で、神社のお役目の際には得意の武器を使って戦う。朱堂神社のご神体でもある英雄の書に宿る安倍晴明と契約を交わし、その力を借り受けることができる。弟の朱堂一颯のことをかわいがっており、弟からは「英雄」のような存在とあこがれの目で見られている。実は鬼の血を受け継いだ弟とは違い、晴明の力をほとんど引き出せてはいない。しかし弟を守るべく、その事実を秘密にして兄として荒事の矢面に立っている。しかし、後藤又兵衛を英雄の書に封印したあと、その異常性に気づき警戒していたところ、佳乃があやつられ後藤又兵衛の書を持ち出したため、そのあとを追う。那須与一と巴御前の張り巡らした何重もの罠(わな)に足を踏み入れ、奮闘するもそのまま命を落とした。その直前に、一颯が出来心で晴明の英雄の書を持ち出していたため、この出来事が一颯の心に消すことのできない深い罪悪感を残すこととなる。ただし与一は、西行法師の力も借りて英雄の書の力を封じる結界も張っていたため、たとえ朱堂成海が晴明の英雄の書を持っていたとしても死の運命は変わらなかったとされる。晴明によれば、成海本人も自分の死期が近いことを薄々察しており、それでも己の意思でその道を選んだとのこと。

朱堂 清秋 (すどう せいしゅう)

「朱堂神社」の神主で、朱堂一颯と朱堂成海の父親。精悍(せいかん)な壮年の男性で、厳格な性格をしている。成海のことを立派な息子だと思っているが、破天荒な部分には難色を示し、いつもケンカをしていた。しかし成海が死んだ際には、その死を大いに悲しみ、彼を涙ながらに弔った。一颯のことは逃げ癖があるとしかっていたが、その身に大きな宿命を背負わせたことを悔いており、彼を守るためあえて鬼の血のことを秘密にしていた。一颯の意思を尊重し、彼が福音正教会に保護されるのを許可した。

デリック・ハードウィック

福音正教会に所属する青年。金髪碧眼のイケメンで、ナルシストな言動が多く、周囲からその言動をツッコまれている。神の愛や美しいものが好きで、それらを目にするとテンションが上がる。英雄の書「メアリ一世」と契約しており、剣を武器に戦う。英雄の書の回収を任務としているが、強引な言動が多く、主に北条がそのフォロー役に回ることが多い。一方で我が強いが、根本の部分はよくも悪くもまっすぐな性格の持ち主。

北条 (ほうじょう)

福音正教会に所属する青年。黒い髪を伸ばして左目に眼帯をしている。冷静沈着な性格で、デリック・ハードウィックのお目付け役でもあり、よく彼の言動にツッコミを入れている。英雄の書の回収を任務としており、安倍晴明の書が朱堂神社にあると知り、その回収のため訪れる。朱堂成海の死と、鬼の覚醒を目の当たりにして任務の方針を転換し、朱堂一颯の監視と保護を朱堂清秋に提案して条件付きでこれを受け入れさせた。

梅比良 (うめひら)

福音正教会に所属する青年。小説家であるロバート・ルイス・スティーヴンソンの英雄の書と契約している。能力は英雄の書の中でも非常に変則的で、ルイスの執筆した作品のキャラクターを一人だけランダムに呼ぶことができるというもの。自分でもソシャゲのガチャみたいなものと思っており、毎回、目当てのキャラクターを引こうとお祈りしているが、なぜか『ジキル博士とハイド氏』のハイドがやたらと出てしまう。

佳乃 (よしの)

「朱堂神社」で巫女(みこ)を務める女性。流れるような黒い髪を長く伸ばし、お淑(しと)やかな雰囲気を漂わせている。可南と共に、朱堂神社のお役目にサポート役として携わることが多く、後藤又兵衛の悪霊騒ぎの際も、その手伝いをしていた。朱堂成海が後藤又兵衛を英雄の書に封じた際、その回収を任されるが、その際に後藤又兵衛の怨念が左腕に焼き付いてしまう。佳乃自身はそのことに気づいておらず、いつの間にか左腕に痣(あざ)が付いたと気にも留めていなかった。しかしその後、英雄の書に封じられた後藤又兵衛と同調し、後藤又兵衛の書を持ち出してしまう。実は一連の事件は、おひいさまと那須与一が仕組んだ罠で、知らずにそれに巻き込まれていた。成海によって助け出されるが、成海はその戦いで死亡。彼の死を悼んで遺体を弔った。

可南 (かな)

「朱堂神社」で巫女を務める女性。ボリュームのある髪を肩で切りそろえている。カメラ系女子で、いつもスマホで何かを撮影している。営業向きなタイプでやたら弁が回り、流れるように神社の説明を開始する。いつも明るく振る舞っているが、朱堂成海の死を悲しみ、涙を流した。

最上 りほ (もがみ りほ)

朱堂一颯のクラスメイトの少女。黒髪ストレートロングヘアにしている。一颯とは小学校時代からの付き合いだが、影の薄い一颯のことは気にもかけておらず、逆に一颯からは一方的に苦手意識を抱かれている。一颯が自分をあからさまに避けているのに気づいており、その様子をウザイと思っている。一颯と家が近いため、一颯が学校を休んだ際にプリントを届けにいくが、そこで鬼と覚醒した一颯を偶然見てしまう。同級生が突然化け物に変身する異様な光景を見て大きなショックを受け、そのまま倒れてしまう。その後、福音正教会の者に介抱されて家に送られるが、ショックのせいか見たものをすべて忘れ去った。しかし大事なものを忘れている気がして、一颯の行動を注視している。

(おに)

安倍晴明によって朱堂家の血筋に封じられた鬼。平安の世を荒らし回った邪悪な鬼だが、晴明に敗れ、朱堂家の血筋に封じられることとなる。「朱堂神社」は悪霊や怪異を鎮めるのをお役目としているが、真のお役目はこの鬼の封印で、当主とそれに近しい者だけがこの真実を知っている。表向きは朱堂神社の跡取り息子は朱堂成海で、彼が鬼の血を引いているとされているが、それは本来の血の持ち主を隠すための隠れ蓑(みの)で、当代の鬼の血を受け継いでいるのは成海の弟である朱堂一颯。一颯自身も含めてほとんどの者はこの事実を知らずに成海の死後、それが明らかとなった。一颯の心と体の傷を糧にしており、彼が罪悪感に打ちのめされたことで、晴明の封印が綻びて覚醒し、一颯の心象風景の中で姿を現した。当初は異形の姿をしていたが、一颯の心の傷を知るや、それを刺激するためあえて成海の姿を取り、彼を言葉巧みに追い詰める。また、一颯が右腕を巴御前に切り落とされた際には、鬼の右腕を取り戻している。覚醒後、晴明によって再封印されるが、封印は綻びたままで一颯の負の感情に呼応して、たびたび彼に呼び掛けている。

おひいさま

10代前半の幼い容姿をしている謎の少女。ただならぬ気配を漂わせ、那須与一、西行法師を従えて暗躍している。見た目どおりのわがままな童女のような性格で、さまざまな策謀を張り巡らしている。目的は不明だが、鬼の復活と安倍晴明の抹殺を目的としているらしく、その契約者を探し回っている。各地で英雄の書の暴走を引き起こし、それをエサに朱堂成海をおびき寄せ、彼が晴明の契約者であることを突き止める。その後、十重二十重(とえはたえ)に張り巡らした罠に成海を誘い込み、彼を殺した。ただし、成海が鬼の血の継承者でなかったことと、成海が持っているはずの晴明の書がすり替わっていたのは完全に誤算で、目論見が外されてしまう。成海の弟の朱堂一颯が本来の鬼の血の継承者であることを突き止め、その封印を解くべく、策謀を張り巡らしている。

那須 与一 (なすの よいち)

おひいさまの配下の一人で、弓を武器に戦う武士の青年。英雄、那須与一の霊で、類まれなる弓の名手。軽薄な性格だが根は酷薄な狩人で、敵を罠にはめて着実に追い詰める戦法を得意とする。朱堂成海を罠にはめ、巴御前と二人がかりで殺した。隠密行動を得意としており、その弓の腕前と併せて神出鬼没な攻撃は非常に脅威。一方で居場所を暴かれると強みが殺されてしまう。北条と戦った際には、彼の放った猟犬の式神にすぐに居場所を特定されたため、逃げの一手に徹した。実在の人物、那須与一がモデル。

西行法師 (さいぎょうほうし)

おひいさまの配下の一人で、高級そうな着物を着た老爺(ろうや)。英雄・西行法師の霊で好々爺(こうこうや)然とした人物ながら、呪法に長(た)けて戦闘能力が非常に高い。対安倍晴明用の結界「絶界」を編み出しており、絶界の中では晴明も力を使うことはできない。朱堂成海を罠にはめた際も、絶界に彼を閉じ込めている。実在の人物、西行がモデル。

巴御前 (ともえごぜん)

おひいさまの配下の一人で、若い女武者。英雄・巴御前の霊ながら半ば暴走状態で、悪霊化している。西行法師によれば、もともとガタがきていたらしく、那須与一たちに比べて言動が安定していなかったという。それに加えて朱堂成海との戦いで勝ちはしたもののかなり消耗したようで、悪霊化が進んで異形の姿となっていた。成海の死後、安倍晴明の英雄の書を奪うために朱堂一颯の前に姿を現し、彼の右腕を切り落とした。しかしその後、一颯は鬼に覚醒。その力で英雄の書に封印された。実在の人物、巴御前がモデル。

紫式部 (むらさきしきぶ)

おひいさまの配下の一人で、絢爛(けんらん)な着物を身にまとった女性。英雄・紫式部の霊ながら、那須与一に無理やり目覚めさせられたため悪霊化し、両腕を失った状態で暴走し始める。失った両腕を探しており、両腕を求めて周囲の人間を手当たり次第に襲うようになる。着ている着物を鞭(むち)のようにしならせて相手を攻撃するが、与一によれば、戦闘能力は高くないという。ただし相手の情念に訴えかける力は、英雄たちの中でもかなり強いらしく、朱堂一颯の負の情念を育て、鬼の覚醒をうながすために暴走させられて彼と戦わされる。目論見どおり鬼の覚醒が相成ったため、そのまま用済みとして鬼に殺されるものかと思われたが、紫式部の救いを求める声を聞いた一颯が健闘したことで、英雄の書に封じられて回収される。実在の人物、紫式部がモデル。

その他キーワード

英雄の書 (えいゆうのしょ)

歴史に名を刻んだ英雄や偉人の魂が宿った書物。ただの本ではなく英雄たちの魂そのものともいえる書物で、その力と意思を宿しており、契約すればその力を行使することも可能。ただし、英雄の残した情念や力は非常に強いため、ふつうの人間が契約してもその力を完全に振るうことはできない。また英雄の書が契約されず、安置もされずに放置されていると、長い年月をかけて陰の気を吸い込んで、英雄の書に宿る霊は悪霊化して暴走する。悪霊化した英霊は正気を失い、生前の情念に従って行動するだけなため、制御もできず、ただ周囲に災いを振りまくだけの存在となり果てる。そのため神社や教会の一部の者たちは、荒ぶる英霊を鎮めて書を回収し、その封印をお役目としている。英雄の書は英雄たちによってその姿かたちが変わるが、基本的に日本の英雄の書は巻物型で、海外の英雄は本型となっている。強い契約者であれば、英雄の書に宿る英霊を実体化して使役することも可能だが、強い契約者は非常に希少。

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