ペンギンたちが問いかける「生きものとしての価値」
本作は、「生きものとしての価値」という根源的な問題がテーマになっている。生きることは苦痛に満ちており、生産性や効率を重視することが価値を持つとされる世界において、ペンギンのペンとマールはそれぞれの視点から異議を唱えている。ペンは「生きることは苦痛だから、愛する者たちを皆殺しにしよう」という過激な考えを抱いており、一方のマールは「子作りをしなくても生きる意味はある」と信じ、拾った石を温め続けている。マールはペンの極端な思想を危ぶみ、自らの生き方を通じて命がけでペンの魂を救おうとする。
マールの言葉がペンの魂を変えていく
マールはペンギンとしての死を迎えたあとも、ペンを導く存在として、さまざまな動物の姿となって生き続けている。時には仲間の弔いの方を教え、時には命よりも大切なものが存在することを示し、時には他人の目を気にせず夢中になれることの素晴らしさを伝える。これらの行動と共に語られるマールの言葉が、何年もかけてペンの魂に訴えかけ、生きることは苦しいという彼の考え方を徐々に変えていく。
ペンギンの未来を託されたペン
何度目かの転生を経て、ペンはペンギンとして生まれ変わり、再び「ペン」という名を持つことになった。そして、彼の義理の息子であるバートと共に、地球上に存在する最後のペンギンとなってしまう。自分たちが死んでしまえば、この世にペンギンが存在しなくなるというプレッシャーに押し潰されそうになり、バートはペンと共に死ぬことを決意する。しかし、ペンは命をつなぐことこそが自分の使命だと考え、この極限状態において一つの答えを導き出す。
登場人物・キャラクター
ペン
丸い大きな目をした雄のペンギン。生きることの厳しさから「生まれてこなければよかった」と考えている。ペンギンという種族を深く愛するあまり、「生」という苦しみから彼らを救うため、ペンギンの絶滅を計画し、1日に100匹のペンギンを殺している。友人のマールを尊敬し、共に生活をしていたが、彼からはペンギン絶滅計画については何度も諭されていた。人間が戦争中に残した爆薬を使って棚氷を破壊する計画を目論むものの、マールがその情報をほかのペンギンに漏らしたため、武装したペンギンたちの抵抗に遭い、命を落としてしまう。ハワイガラスに転生した際には「ロコ」、ラッコに転生した際には「モギー」、カワウソに転生した際には「カワヒコ」、カカポに転生した際には「ポポン」と名乗り、つねにマールの転生した動物と出会っている。
マール
三白眼が特徴の雄のペンギン。ペンギン絶滅計画を企てるペンと共に生活し、彼を諭しながら日々を過ごしていた。子供を作り、世代を重ねることに重きを置く一方で、生産性と効率だけが生きる価値を決める世界に反発している。その抗議の象徴として、マールは拾った石を温め続けている。最終的には、ほかのペンギンたちの攻撃からペンを守るために命を落とすことになったが、死の直前には「来世もその次も、この石のことを忘れないでくれ」と遺言を残した。ハワイガラスに転生した際には「先輩」と呼ばれ、ラッコに転生した際には「フロウ」、カワウソに転生した際には「うそ朗」、そしてカカポに転生した際には「コロロ」と名乗っている。マールはつねにペンの転生した存在と出会って、その生き方の指標となる行動を取っており、彼は丸い石を所有している。
クレジット
- 原作
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後谷戸 隆