ベクター・ケースファイル 稲穂の昆虫記

ベクター・ケースファイル 稲穂の昆虫記

カミムラ晋作の代表作。昆虫をテーマにしており、昆虫に対する造詣が深い藤見泰高が原作を務めている。現代日本を舞台に、昆虫に詳しい女子高校生・榎稲穂がその知識を生かして、昆虫に関連するさまざまな事件を解決していく姿を描いた知的昆虫ロマン。同じくカミムラ晋作と藤見泰高がコンビを組んだ『サイカチ 真夏の昆虫格闘記』と、世界観や登場人物を共有している。秋田書店『チャンピオンRED』2006年9月号、11月号に掲載後、2007年5月号から2010年6月号にかけて連載され、さらに同社『チャンピオンREDいちご』でも不定期掲載の作品。

正式名称
ベクター・ケースファイル 稲穂の昆虫記
ふりがな
べくたーけーすふぁいる いなほのこんちゅうき
原作者
藤見 泰高
漫画
ジャンル
動物・ペット
 
サスペンス
関連商品
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身近な昆虫に関する深い知識が得られる

本作『ベクター・ケースファイル』における「ベクター」とは、衛生害虫のことを指す。本作は、これらの昆虫が引き起こすさまざまな事件を、昆虫に詳しい女子高校生・榎稲穂が、その知識を生かして解決していく物語となっている。その際、問題となる昆虫の特徴や習性、人間にとって何が問題であり、どのように対策すべきかが、稲穂によって詳細に語られる。時には環境破壊などの社会問題にも踏み込むこともあり、身近な問題に警鐘を鳴らすサスペンススリラーとしても楽しむことができる。また、各巻の巻末には「補足 ムシちく!」というコラムが設けられており、作中で登場した昆虫について、さらに深い知識を得ることができるようになっている。

昆虫に関する知識を武器に事件を解決していく

稲穂は人付き合いが苦手で、小・中学校時代は引きこもりがちな生活を送っていた。高校でも変わり者として知られ、友人は里美あずさと、そのあずさと親しい北村八重子くらいしかいない。だが、一歩間違えれば命の危険さえある事件に対して、自らの昆虫に関する知識を惜しみなく生かし、誰に対してもいっさいの見返りを求めずに解決していく、その姿は周囲の共感を呼び起こす。そしていつしか、孤独だった稲穂は、学校のクラスメートたちだけでなく、刑事やインテリヤクザからも信頼を得るようになり、彼女の周りにはにぎやかな人間関係が構築されていく。本作では、そんな稲穂の活躍がシリアスに描かれる一方で、事件に対峙していない時はほのぼのとしたコミカルなシーンや、時にセクシーなシーンを交えながら物語が展開される。

やがて姿を現す強大な敵「グリーン・プラネット」

稲穂が自然や昆虫について学んでいるのは、8年前に東南アジアのジャングルで調査中に消息を絶った父親・榎教授を捜すという、強い決意から来ている。一方、物語が進むにつれて、作中では「グリーン・プラネット」という組織の名がたびたび登場するようになる。この組織は環境保護のためなら過激な抗議活動を辞さない自然保護団体であるが、それは表向きの顔で、裏では昆虫などを使って事件を引き起こし、それを利用して巨額の富を得ている疑いがある。その活動内容から、稲穂は彼らの起こした事件にかかわり、しばしばその計画を阻止することとなる。こうして意図せず強大な組織と対立する中、稲穂はグリーン・プラネットが榎教授の失踪に関与しているのではないかと、疑念を抱くようになっていく。

登場人物・キャラクター

榎 稲穂 (えのき いなほ)

華桜女子高等学校2年3組に在籍する女子。市立動植物博物館の娘で、昆虫に関する造詣が非常に深い。その知識を生かして、昆虫が関与するさまざまな事件を解決に導き、「昆虫博士」「ムシキング」「昆虫ご意見番」など、さまざまな異名を持つ。また、自然の中でのサバイバル能力にも優れている。かつて父親が着用していた白衣をいつも身にまとっているが、この白衣が昆虫関連の事件において役立つことも少なくない。身長が高く身体能力も高いはずだが、ふだんはドジで鈍くさく、スポーツも苦手。また字も汚く、他人が解読するのは非常に困難である。生真面目で堅苦しいしゃべり方をするうえ、人付き合いがあまり得意ではないため、友人が少ない。だが優しい性格で、困っている人や将来困難に直面しそうな人に対しては、たとえ相手が自分に敵意を抱いていても放っておけない。同時に昆虫に対しても深い愛情を持ち、事件の原因となった昆虫に対しても、根絶するのではなく、できるだけ安全に放逐・共存する手段を選ぶ。闘虫や闘蟋(とうしつ)の技術にも優れており、かつて世界闘甲虫大会で、日本代表チームの参謀として優勝に導いた実績を持ち、「闘虫女帝」として、昆虫愛好者や裏社会のギャンブラーにもその名を知られた存在である。ちなみに味覚は確かだが、どんな料理にも大量の酢をかけて食べるのが好きで、周囲からは「味覚破壊者」と評されている。

里美 あずさ (さとみ あずさ)

華桜女子高等学校2年3組に在籍する女子。テニス部に所属している。運動神経が非常に優れており、テニス部の期待の次世代エース。榎稲穂の親友で、稲穂からは最初に間違って「あずき」と覚えられ、その名で呼ばれている。ショートヘアの明朗快活な少女で、変わり者の稲穂ともふつうに付き合っている、数少ない人物の一人。実家は中華飯店「烈度亭(レッドてい)」を営んでいるが、現在は両親が事故で入院しているため、里美あずさが一人で店を切り盛りしている。そのため、学校や部活動は休みがちだが、実直な努力家であり、夜中に隠れてテニスの練習を欠かさず行っている。ちなみに、客受けをよくするため、店に立つ際はメイド服を着ている。いたずら盛りの小学5年生の妹・かりんと、小学3年生の弟・ツヨシがおり、妹弟のことを非常に大切に思っている。

クレジット

原作

藤見 泰高

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サイカチ 真夏の昆虫格闘記 (さいかち まなつのこんちゅうかくとうき)

昆虫相撲に魅了された少年の小笠原真夏が、手塩にかけて育てたヒラタクワガタの力丸を操り、数々のバトルで強敵を倒していく作品。秋田書店「少年チャンピオン」2005年40号から47号にかけて掲載された作品。 関連ページ:サイカチ 真夏の昆虫格闘記

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