きみを死なせないための物語

きみを死なせないための物語

地球を離れざるを得なかった人類が、宇宙に浮かぶ都市国家のコクーンで暮らす時代。愛は猥雑なものと評され、契約だけがものをいうすべてが管理された社会で、孤独に怯えながら地球に戻る事を夢見て生きる人々の葛藤を描く。秋田書店「ミステリーボニータ」2016年11月号から2020年10月号まで連載。「このマンガがすごい!2018」オンナ編の第7位、第52回「星雲賞」コミック部門を受賞。

正式名称
きみを死なせないための物語
ふりがな
きみをしなせないためのすとーりあ
作者
ジャンル
宇宙開発
 
終末・ディストピア
レーベル
ボニータ・コミックス(秋田書店)
巻数
既刊1巻
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あらすじ

第1巻

人類が地球を離れ、宇宙で暮らす時代。宇宙に浮かぶ都市国家のコクーンでは、長寿命となる遺伝子変異を持つ者が新たに生まれるようになった。宇宙時代に適応した新人類のネオテニイである本多・アラタシーザー・パトリック・プレストンターラルイ・ラ・トゥールの四人は、人類の未来のために、よりよい遺伝子を残すという重責を担っていた。実年齢は20歳ながら見た目は小学生程度の彼らは、年齢と心に反比例してゆっくり成長する体へのジレンマを抱えながら、完全管理された世界の中で、日々を暮らしていた。そんなある日、ルイに連れられて秘密の歓楽街、京都コクーンを訪れたアラタとシーザーは、そこで緑色の髪と目を持った娼婦の祇園と出会う。ルイは、美しくも自由奔放な彼女に強烈な刺激を受け、祇園の魅力に引き込まれていく。祇園と関係を持つようになったルイは、結婚と同等の意味を有する第三パートナー契約を彼女と結ぶ事を決めるが、それを聞いたアラタとシーザー、ターラは猛反対する。特にターラは祇園の姿を一目見て、彼女がダフネー症という短命の病気を患っている事を指摘する。しかし、それを聞いてもなお、考えを変えようとしないルイは、涙ながらに彼女への思いをアラタに語る。そして最終的に親友三人の同意を得て、ルイは祇園と東京スペースツリーで結婚式を挙げる事となる。

第2巻

祇園が亡くなった事故から16年後。本多・アラタシーザー・パトリック・プレストンターラルイ・ラ・トゥールの四人は36歳になっていた。しかし、ネオテニイである彼らは老け込む事もなく、その姿は若々しさを保っていた。祇園が亡くなったあと、シーザーとルイが第二パートナーとなり、家族の意向によってアラタとターラも半ば強制的に第二パートナーとなっていた。だが、ターラはアラタが自分の手にだけしかキスしてくれない事を、ひそかに思い悩んでいた。そんな中、16年前からダフネー症についての研究を始めたアラタは、ジジという少女をダフネー症の被験体として研究室に迎える。しかし、祇園が亡くなった事故はアラタの心の中に大きな傷を作り、ダフネー症患者の姿や匂い、地球の映像は16年経った今でもトラウマとなってアラタを蝕み、悩ませ続けていた。この時代、宇宙に浮かぶ都市国家のコクーンに収容できる人類には限りがあり、社会的価値がないと判断された人は安楽死対象としてリストインされる事が定められている。その査定のため、アラタやその周辺を憲兵の双子がうろつき始める。

第3巻

ダフネー症ジジは、同じ病気のマリィと共に、病気に負けず精力的に日々を生きていた。そして同時に、世話係のリサからの差別的扱いに悩まされていた。リサの言葉はダフネー患者の短い命を軽んじ、その視線は契約に縛られずに生きる彼女たちを軽蔑するものだった。そんなある日、ジジはリサとの事を相談するため、外出中の本多・アラタに会おうと、ルイ・ラ・トゥールシーザー・パトリック・プレストンの部屋を訪れる。アラタの背後に、ルイの姿を見つけたジジは興奮に任せてルイを指さし、「シーザーの第二パートナーの!」と発言。それを聞いたルイは、ジジの礼儀知らずを叱責して名前を名乗るように告げる。ジジは「ダフネーのジジ」と名乗るが、それを聞いたルイは他人の言葉でしか自分を説明できない事を嘆き、ジジを膝に乗せてダフネー特有の緑色の瞳を褒めたうえで、「緑の目のジジ」と呼ぼうと決める。そこへ姿を現したのは、1か月ぶりに帰宅したシーザーだった。シーザーに一目惚れしたジジは、存在価値のない人間は生きる事すら許されない世界で、短命という宿命を負いながらも恋をして、将来を夢見るのだった。

第4巻

人類は、宇宙に浮かぶ都市国家のコクーンの限られた空間で生きるため、生命の価値が査定され、評価の低いものが安楽死となるべくリストインされる。この役割を担うのは、「天上人」と呼ばれる組織に属する憲兵の双子だった。彼らは不気味な笑みを浮かべつつ、突然姿を現しては簡単な事のように人の命を値踏みしていく。中でも、16歳までしか生きられないといわれる奇病であるダフネー症ジジは、天上人の査定によってリストインされる事と、つねにとなり合わせの日々を送っていた。それでも彼女の周りにはいつも笑顔があふれていた。ジジは12歳になった今を必死に生き、40歳になったシーザー・パトリック・プレストンに全力で恋をしている。そんな中、ジジはシーザーと初めてのデートに連れて行ってもらうため、待ち合わせをしていた。ジジはそこでシーザーにキスを要求するが、みごとに玉砕してしまう。情熱的に恋するジジの言葉でシーザーの心をゆさぶるが、その思いが叶う事はなく、ジジは自分がダフネーである事を初めて呪う。一方の本多・アラタは、ビジネスパートナーのリュカと共に国際学会に参加していた。リュカはそこで自分の発見に基づいた質問を投げ掛けた事により、憲兵の双子から危険分子の疑惑を持たれてしまう。

第5巻

宇宙に浮かぶ都市国家のコクーン内で暮らす人類にとって「人類が遠くへ行く」事は禁忌であった。この天上人の真理に近づきすぎてしまったリュカは命を狙われ、コクーンから地球へと脱出しようとした際に殺されてしまう。その悲劇を目の当たりにした本多・アラタは、憲兵の双子にせまられ、選ぶ側である天上人になる事を決意する。これは世界と戦う決意を固めるとともに、今後の戦いに必要な武器となる知識を得るためだった。それと同時に、生殖パートナーのプロポーズをしたターラから、こっぴどくふられたアラタは天上人として新たな環境の中に身を置いてもなお、ターラへの未練にとらわれ続ける事となる。さらに自分が抜ける事で頓挫してしまうであろうダフネー症のプロジェクトやジジの今後と、さまざまな事態にアラタの心は傷付き、彼はより孤独を深めていく。そんな中、アラタは研修カリキュラムの一環で訪れた施設で、ターラそっくりの男性のキュヴィエと出会う。彼は人懐っこい笑顔でアラタに近づき、ターラとの関係について聞き出そうとしてアラタを翻弄。さらにターラのもとにも姿を現すなど、不穏な動きを見せる。

登場人物・キャラクター

本多・アラタ (ほんだあらた)

東京コクーン出身のネオテニイF4世代。嗅覚と視覚が混ざってしまう共感覚の持ち主のため、いつもマスクを着用している。ネオテニイの中でも、記憶力に関して特に秀でた能力を持つが、それを悟られないように平凡を装っている。国連大学の学生で、工学部に在籍している。シーザー・パトリック・プレストン、ターラ、ルイ・ラ・トゥールとは親友であり、5歳の時に第一パートナーとして契約した関係。戸籍上は20歳だが、外見は小学生くらいに見える。ひいばあちゃんから読み聞かせられた『銀河鉄道の夜』や『ドリトル先生』シリーズなどをはじめとする、コクーン社会では禁忌とされている書物をすべて暗記している。20歳の時に起きた祇園の転落死をきっかけに、ターラと第二パートナーの関係となる。同時に、ダフネー症患者の生存年数を延ばすための生命維持システムを開発するため、研究を始めた。また、日曜大工と称した監視カメラに偽装を施した隠れた空間で、ひそかに巨大出力のロケット制作に勤しんでいる。祇園の死は心の傷となって残り、ダフネー症患者特有の姿や匂い、地球を目にする事などのちょっとした出来事が、事故当時の映像がフラッシュバックするきっかけとなり、トラウマとなって蝕んでいる。のちにビジネスパートナーであるリュカの死をきっかけに、天上人の仲間入りを果たす事となり、ダフネー症の研究は頓挫する。彼の名前はARATAとも表記される。

シーザー・パトリック・プレストン

NYコクーン出身のネオテニイF3世代。国連大学の学生で、工学部に在籍している。本多・アラタ、ターラ、ルイ・ラ・トゥールとは親友であり、5歳の時に第一パートナーとして契約した関係。父親は次期大統領候補で、由緒ある家柄。友達思いで真っすぐな性格をしている。基本的に人生の方向性を父親が決めていく事が多いが、親の言いなりになる事に対して異存はない。自分の幸福よりも周囲の幸福、さらには契約相手の幸福を優先している。つねに個よりも多であり、より多くの幸福を考えるように生まれついている犠牲的精神の持ち主。もともと親の意に従い、ターラと第二パートナーになりたがっていたが、20歳で起きた祇園の転落死をきっかけに、ルイとを契約を結ぶ事になる。しかし長きにわたってルイから拒絶を続けられ、関係を好転させるべく努力を続けるが、つねに孤独に苛まれている。また、日曜大工と称して監視カメラに偽装を施した隠れた空間で、アラタたちと共にひそかに巨大出力のロケット制作に勤しんでいる。大学卒業後はアメリカ空軍に所属して40歳で中尉となり、その後に中佐へと昇進した。現役大統領となった父親から、上院議員選に出馬するように告げられる。私服はいかにもなアメリカンでド派手なものが多い。彼の名前はCAESAR、皇帝とも表記される。

ターラ

デリーコクーン出身のネオテニイF3世代。国連大学の学生で、医学部に在籍している。シーザー・パトリック・プレストン、本多・アラタ、ルイ・ラ・トゥールとは親友であり、5歳の時に第一パートナーとして契約した関係。「好き」という気持ちを猥雑なものであると考えられている時代において、「恋」は純粋なものであると信じている。幼い頃、アラタと交した約束を心に留め、アラタに思いを寄せている一方で、アラタに対してミーハーなファン心理を抱いており、ネット上にあるネオテニイのファンによるコミュニティーフォーラムに素性を隠して参加している。20歳で起きた祇園の転落死をきっかけに、両親から半強制的にではあるが、アラタと第二パートナー契約の関係となる。しかしそれでもなお、16年にわたってアラタからは手へのキスしかしてもらえない事を思い悩んでおり、片思いの状況はまったく変わっていない。また、日曜大工と称して監視カメラに偽装を施した隠れた空間で、アラタたちと共にひそかに巨大出力のロケット制作に勤しんでいる。大学卒業後は大学病院に勤務する事になる。アラタが天上人になると決めた際、生殖パートナーのプロポーズをしてくれたが、頰へのビンタとともに拒絶。それ以降は彼への思いは吹っ切れたかのように、強い女性として生きていくが、実際はアラタへの思いを捨てきれずに心に留めている。彼女の名前は星とも表記される。

ルイ・ラ・トゥール

パリコクーンの名門の家柄出身であるネオテニイF3世代。国連大学の学生で、芸術学部に在籍している。シーザー・パトリック・プレストン、本多・アラタ、ターラとは親友であり、5歳の時に第一パートナーとして契約した関係。芸術家肌で、特殊な感性を持つインモラリスト。自己主張が強めで、本質的には自我よりほかに誰をも必要としないタイプ。京都コクーンで祇園と知り合い、彼女と第三パートナーの契約を結ぶべくプロポーズした。しかし、結婚式を挙げた直後に祇園が東京スペースツリーから転落死し、最愛のパートナーを失う事となる。その後は、心に大きな傷を負って心を閉ざしてしまったため、半強制的にシーザーと第二パートナーの関係になるが、長きにわたって拒絶を続け、上辺だけの関係を続ける事になる。また、日曜大工と称して監視カメラに偽装を施した隠れた空間で、アラタたちと共にひそかに巨大出力のロケット制作に勤しんでいる。大学卒業後は建築デザインの仕事に就き、華々しい活躍をみせる。足は生まれつき動かす事ができないため、体が小さいうちはシーザーにおぶって貰う事もあったが、無重力下では自由に飛び回っていた。大人になってからはつねに車いすを使用している。彼の名前は王様とも表記される事がある。

祇園 (ぎおん)

京都コクーンに住む娼婦。地球に対して強い憧憬の念を抱いている。ダフネー症を患っており、患者特有の蛍光に輝く緑色の目に、銀緑色の髪を持っている。何にもとらわれない自由奔放さと、儚さを併せ持っており、禁書から抜け出てきたような美しさで人を魅了する。ある日、京都コクーンにやって来た本多・アラタ、シーザー・パトリック・プレストン、ルイ・ラ・トゥールと知り合う。その後ルイからのプロポーズを受け、第三パートナーとして契約する事になる。もともと市民IDを持っていないため、行政区や居住区に出入りする事ができなかったが、シーザーの協力で市民IDを偽装して契約に至った。しかしルイとの結婚式直後に、東京スペースツリーから落下して帰らぬ人となった。

ジジ

ダフネー症を患っている8歳の少女。識別番号G103R-g03F被験体として、国連大学で保護および治療が施されている。本名はジーナディーヤだが、識別番号の頭文字「Gg」から、「ジジ」と呼ばれている。天真爛漫な性格の甘えん坊で、地球が大好き。本多・アラタとターラを慕っており、保護施設を抜け出してはアラタの部屋に入り浸っている。また、シーザー・パトリック・プレストンに思いを寄せており、将来はシーザーと第三パートナーになる事を夢見ている。もともとはモスクワコクーン出身の両親から生まれたが、生まれてすぐに大学に連れてこられて以来、両親は一度も姿を見せないために会っていない。7年にわたり、研究者や学生たちによって育てられたからか、誰にでもべたべたと体を接触させ、懐く傾向にある。契約者以外と接触する事を猥雑とする時代故に、そんな彼女を見るに堪えないとして、差別的に接する人がほとんど。勉強を必要としないと判断され、学ぶ機会がなかったために8歳ながら文字が読めない。

ソウイチロウ・本多 (そういちろうほんだ)

宇宙工学者の男性で、人類最初のネオテニイ。全ネオテニイの大元であり、始祖。コクーンにおける社会契約制度を作りあげた張本人で、コクーン内を支配する組織の天上人の代表者でもある。コクーン歴0029年、彼の特異な体質が公表されて以降、彼の貴重な遺伝子は各国間で奪い合いとなった。国連協定のもと、人工授精による直子を各国コクーンに誕生させ、国際的な影響力を持つに至る。その後、ホモ・サピエンスの人工授精医療のいっさいを全コクーンで禁止。人類個人の尊厳である繁栄を願い、3段階の社会パートナー制度と、それと並行する生殖パートナー制度を施行。それに伴って薬物注射による安楽死制度が施行された。コクーンには、天上人以外で彼の顔を知る者はほとんどいない。そのため、さまざまなコクーンに姿を現しては「郵便屋」「先生」などと呼ばれ、一般人にまぎれて多くの人と関係を築いているほか、キュヴィエからは「預言者」と呼ばれており、ミステリアスで謎多き存在。

大地 (だいち)

18歳の青年で、本多・アラタの弟。ソウイチロウ・本多の血を引くF4世代ではあるが、ネオテニイではない。受験に有利だからという理由で、社会的評価の高い男子と第二パートナーの契約をした。その後、数人とのパートナー契約を経てカナエという女性と第二パートナーの契約をし直し、彼女が別の生殖パートナーとのあいだに作った娘の実とファミリー契約を結び、家族として自分の子のようにかわいがっている。いつも明るい笑顔で周りを和ませる存在。なかなか会えない兄を大切に思っており、再会の時にはいつも喜びを爆発させて歓迎する。実はアラタの個人的なファンであり、ネット上にあるネオテニイのファンによるコミュニティーフォーラムに素性を隠して参加している。

ライオン

ジラフと第一パートナーの関係の男性。優秀な植物学者で、宇宙環境における正常な植物栽培と品種改良を専門分野としている。ジラフの病を理解し、苦しみながらも毎日を共に過ごしている。第二パートナーになる事を考えているが、プロポーズしても忘れてしまうため、二の足を踏んでいた。のちに無事プロポーズが成功し、ジラフと第二パートナーの契約を結ぶに至る。本名は「レオーネ」。

ジラフ

本多・アラタの叔父にあたるネオテニイF3世代。宇宙工学の博士で優秀な研究者だったが、実験中の事故による外傷が脳に深刻な記憶障害をもたらした結果、眠るたびにその日一日の記憶を喪失、記憶がリセットされるようになってしまう。もう10年ものあいだ、同じ一日を繰り返す日を送っている。一時期、憲兵の双子の査定によってリストインさせられるが、その後に第三パートナーとしてライオンと契約した事で、リストインが解除された。自分が記憶を失っている事を理解していなかったが、最近では毎日自分の病状についてライオンから聞かされ、翌日には忘れてしまってもまた繰り返す事で、自分の状態を知ってもショックを受ける時間が減ってきており、穏やかな時間が増えつつある。本名は「倣麒麟」。

アジア

ターラの友人の女性。ふわふわのヘアスタイルで、右頰に星のマークが二つ並んでいる。ターラとは学生時代から仲がよく、ワーキング・パートナー契約を結んでいたが、のちにセクシャルなプライベートを相談できるシティ・フレンド契約に変更し、ターラからアラタとの悩みについて相談を受ける事になる。アジア自身は、第三パートナー、生殖パートナー契約を済ませており、さまざまな可能性について親身になって相談に乗っている。のちに双子を出産する。

憲兵の双子 (がーどのふたご)

天上人の下部構成員である憲兵の双子。ツインテールとショートヘアのコンビで性別は不明。安楽死させる人類を査定するために突如として姿を現し、リストインするかどうかを決める。いつも不気味な笑顔を振りまいている。

リサ

国連大学で、ダフネー症の子供たちの世話をしている女性。研究室に来たばかりの頃は、明るく優しい眼差しで子供たちの面倒を見ていたが、時間が経つにつれて態度が変化。ダフネーに対する差別や偏見が強く見え、あからさまな態度で意地悪する事も少なくない。契約外の人にべたべたしたり、見つめたりと、一般的に禁忌とされている事を許されているダフネーの子供たちを嫌っている。

マリィ

ダフネー症の少女で、ジジとは仲のいい友達。識別番号G106U-m03F被験体として、国連大学で保護および治療が施されている。小児科医のラリックに特別な思いを寄せており、時々訪れる二人だけの時間が生きるうえで心の支えとなっている。ラリックに服が欲しいとねだった際、与えられたのは下着が透けたネグリジェのような服だった。それを身につけたマリィは、ラリックと愛を確かめ合うように性行為に及ぶ。マリィは、第三パートナーの契約を見込んでの事だったが、社会的価値を気にするラリック側にそのつもりはなかった。行為の現場をターラに見られた事で大問題となるものの、結果的に社会的価値を落とされたのはマリィの方だった。その後、マリィはリストイン対象となり、安楽死させられる事となる。

ひいばあちゃん

本多・アラタ の曾祖母で、ソウイチロウ・本多の娘。アラタが幼少期の頃から、ただのネオテニイではない事に気づいていた。コクーン内に秘密の図書室を持ち、その中にある本はすべてコクーン社会で禁じられた禁書ばかり。だが、それは人類にとって決してなくしてはならない大切なものであり、天上人が人類から奪おうとしているものだと語った。それらすべてをアラタに託し、一冊読んで暗記する毎に薬でドロドロし、ダストシュートに入れる事を教え、地球人類の遺産を守ってほしいと懇願した。文学者の男性と第三パートナーの契約をしたが、先立たれたためにパートナーのない状態で、アラタがまだ小学生の頃にリストインとなり、安楽死させられた。

リュカ

本多・アラタのビジネスパートナーとして契約している男性。「宇宙自由工業nana's」の代表を務めている。自由奔放な性格で、浅黒い肌を持つ。頭脳明晰でさまざまな発見の種を見つけているが、それをアラタに渡して軽いノリで金を要求している。太く短く派手に生きる事を目的に日々を送っている。研究者としてのジラフにあこがれており、大ファン。もともとは、アラタたちが日曜大工と称してひそかに作っている、巨大出力ロケットの制作協力者。お金さえ払えば、忠実にその仕事をこなす。ナナの第三パートナーとして契約。のちに生殖パートナーにも希望するが、学会で発言した自分の発見内容から、危険分子と判断された結果、天上人に殺されて帰らぬ人となる。

ナナ

リュカの第三パートナーとして契約している女性。のちに生殖パートナーにも望まれていた。もともとは、本多・アラタたちが日曜大工と称してひそかに作っている、巨大出力ロケットの制作協力者の一人。のちにリュカを失ったと悟った時は、リュカの名を何度も呼びながら、悲痛な叫び声を上げた。

ラリック

国連大学の教授を務める男性医師。もさもさの髭を生やしている。小児科医師としての立場から、ダフネー症患者の研究に携わっている。実は第一パートナー、第二パートナー共に契約を失効しており、シティ・フレンド契約も、ファミリー契約もしていない。その点でいえば社会的評価は高くないが、医師として社会的価値を上げている。彼は、マリィに歪んだ愛情を持ち、服を欲したマリィに娼婦のような下着の透けた服を与え、マリィと生殖行為に及んだ。しかし愛を語っておきながら、それがターラに知られるや否や態度を急変させ、自己の保身だけに走った。

おじいちゃん

京都コクーンを作り出した老人男性。表情に乏しい顔つきをしている。ダフネー症の祇園を、まだ幼いうちに密航により京都コクーンに連れて来た。その後は京都コクーンを管理しつつ、祇園と生活を続けて来た。

ターラの母親 (たーらのははおや)

デリーコクーン在住のターラの母親。ターラの父親である夫とは、愛情により結ばれ、略奪のうえに第三パートナーの契約に至った。そのため、娘のターラにも恋をして、心身共に結ばれてほしいと願っている。

キュヴィエ

海洋生物学を専門としている、生物学者の男性。天上人で構成されている地球再生企画環境科学班に所属し、定期的に地球の観測チームから報告を受けて、研究している。F4世代であり、ソウイチロウ・本多から受け継いだネオテニイ因子の保持者ではあるが、ネオテニイではない。デリーコクーン出身で、ターラとは遠い親類にあたるため、外見はかなりターラに似ている。水に濡れるとターラに似たしなやかな髪になるが、乾くとかなり強めのカールがかかり、印象が変わる。そのヘアスタイルをわざとターラに寄せ、本多・アラタに接触。強引な方法で長期のワーキングパートナー契約を結び、何かと近づこうとする。同時に、ターラに対しても親密になろうと近づき、生殖パートナーとして契約したいとプロポーズするが、アジアによって阻止された。ソウイチロウを「預言者」と呼び、親密そうな関係である事を窺わせる。

(みのり)

ニュースキャスターを務める女性のカナエの娘。カナエと第二パートナーの契約を結んでいる大地とは、ファミリー契約の関係にあり、実の親子のような関係を築いている。大地を訪ねてきた本多・アラタが天上人である事を知ると、天上人と話したのは初めてだと興奮気味に語り、学校の友達に自慢しようとするなど、まだ幼さが残る。

人工重力装置の管理者 (じんこうじゅうりょくそうちのかんりしゃ)

天上人として、コクーンを支える人工重力装置を管理している老人男性。70年にわたり、たった一人で装置から吐き出される数字を眺め、上に報告する日々を送っている。

集団・組織

天上人 (てくのくらーと)

コクーン内を支配する、科学者や技術官僚の組織。ネオテニイの始祖であるソウイチロウ・本多が長を務めている。人類の社会的価値を査定して価値が低いと判断された者は、リストインされて安楽死される事になる。コクーンに生きる人類を監視カメラで管理し、契約によって関係を統制している。彼らにより禁忌とされている事が多くあり、人類が遠くへ行く事もその一つ。天上人に適性のある人類はまれにしか生まれないとされている。人類という種の保存こそが第一義であり、それに身命を賭して仕える公僕であると考えられている。

場所

コクーン

地球を離れた人類が住む宇宙居住施設。各国が一つずつ所有するコロニーがテザーでつながれた、テザード・コロニーとなっている。それぞれの国ごとに一つのコクーンがあり、東京コクーンやパリコクーンなど、慣習的に、かつての中心都市の名前で呼ばれている。人口に対して、決して大きいものではなく、狭い空間にひしめき合うように暮らす事になるため、監視カメラのもとで厳しく社会道徳的な人間関係を求められている。

京都コクーン (きょうとこくーん)

成人だけが出入りを許されている歓楽街の一つ。もともとは東京コクーンの廃棄物を保管するエリアだったが、いつの間にか人が住み着き、廃材を使ったいろいろな店ができた。そのため、この場所には監視カメラがなく、何をしても記録される事のない穴場となっている。街には赤ちょうちんや毛氈(もうせん)のしかれた店が軒を連ねており、昭和をイメージさせる飲み屋や、中華街に似たまんじゅう屋なども存在する。

その他キーワード

ネオテニイ

地球を離れた人類の中に生まれつつある、長寿命となる遺伝子変異を持つ者の総称。「幼形成熟」とも表記される。人類最初のネオテニイであるソウイチロウ・本多を始祖として、その子を「F1」、孫を「F2」、ひ孫を「F3」、玄孫を「F4」と呼ぶ。彼の貴重な遺伝子は、各国間で奪い合いとなった事もあったが、現在は国連協定のもと、人工授精による直子を各国コクーンに誕生させ、国際的な影響力を持つに至る。ネオテニイの遺伝子はまだまだ貴重なものであるため、その遺伝子を残すという重責を担う事になる。また、彼らはある意味国民のアイドル的存在であり、数少ないネオテニイそれぞれに多数のファンや、ファン同士で語らうためのネット上のコミュニティーが存在する。肉体の成長が著しく遅いため、20歳でも小学生程度の外見にとどまる。

第一パートナー (ふぁーすとぱーとなー)

コクーンにおける社会的契約の一つ。親が子供のために決める幼少期の親友で、「キッズ・パートナー」とも呼ばれる。5歳前後に、四から六人のグループで形成される事が多く、そのメンバーとは大人になっても助け合う存在となる。この契約を結ぶには、パートナー全員で極限状態でのちょっとしたテストをパスする必要がある。ちなみに、契約のない相手にじかに接触する事は、たとえ子供同士であっても許されない。

第二パートナー (せかんどぱーとなー)

コクーンにおける社会的契約の一つ。第二次性徴期に、自分自身で決める社会的パートナー。優秀な第二パートナーを持つと、社会的評価が上がるため、受験に有利という考え方から、相手を選ぶ事も少なくない。実際は恋人のような存在であり、監視カメラの前で定期的なキスが確認できないと、偽装を疑われる事になる。そのため、「キッシング・パートナー」とも呼ばれる。性別の決まりは特になく、異性と同性いずれも契約が可能となっている。

第三パートナー (さーどぱーとなー)

コクーンにおける社会的契約の一つ。第二パートナーの次の段階となる社会的パートナー。結婚と同等の意味を持つもので、生活拠点を共にし、寝室を共にする事が条件となる。性別の決まりは特になく、異性と同性いずれも契約が可能となっている。

生殖パートナー (せいしょくぱーとなー)

コクーンにおける社会的契約の一つ。現在、コクーン内では人工授精が禁止され、出産制限があるために生殖には申請と認可が必要となっている。そのための相手は生殖パートナーに限って許される。第二パートナーと第三パートナーが異性の場合に限り、生殖パートナーを兼ねる事が可能だが、並行して別人とパートナーになってもいい。

ダフネー症 (だふねーしょう)

一万人に一人といわれる宇宙時代の原因不明の奇病。胎児の時に全身の細胞が光合成をするように変化してしまう。本当は原因が解明されているが、医学界はそれを隠していると噂されている。大学で研究が進められているが、16歳くらいまでしか生きられないのが通常で、光合成によって得られるエネルギーで支えられる体格を超えると、汚く枯れて死ぬといわれており、成人するまで生きた子はいないとされている。地球に対して過剰な執着を見せる傾向にある。「緑人症」とも表記され、この病気を患った者は緑色の髪に緑色の瞳を持ち、特有の植物の香りを持つのが特徴で、基本的に生殖機能はない。ただし、ただひたすらに愛を求めるようにできており、それがコクーンに生きる者には激しい誘惑となるため、「生まれながらの娼婦」とも評される。そのせいもあり、ダフネー症の子供への社会的評価は低く、その価値はないに等しいとされており、差別的な扱いを受ける事が多くある。病名の由来は、河の神の娘ダフネーが太陽神アポローンに襲われ、身を護るために月桂樹の樹へと姿を変えたというギリシア神話に由来する。

契約 (けいやく)

地球を離れた人類によって築かれた世界では、狭いコクーンで生きるための知恵として、契約外の相手との接触が禁止されている。その代わりに、さまざまな契約を結んだ人間たちの交流が存在する。代表的なものとして、第一パートナー契約、第二パートナー契約、第三パートナー契約、ファミリー契約、スクール・メイト契約、シティ・フレンド契約、ワーキング・パートナー契約、生殖パートナー契約などがあり、それぞれに細かく許容される事柄が設定されている。また、パートナーが優秀であれば自分の社会的価値が高くなるために、社会的な評価を重視して契約する事が多く、愛や恋、好きという感情的な事に関しては、猥雑であると考えられている。

クレジット

作画協力

中澤 泉汰

書誌情報

きみを死なせないための物語 1巻 秋田書店〈ボニータ・コミックス〉

第1巻

(2017-04-14発行、 978-4253264013)

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