世界観
本作『こまったやつら ~民俗学研究会へようこそ~』は、1989年の東京を舞台としている。桑子順がディスコに行く様子や、原宿を訪れた永見勇気がタレントショップに行きたがる描写などがあり、たびたび作中でその時代を知らない読者向けに注釈が入っている。
作品誕生のいきさつ
本作『こまったやつら ~民俗学研究会へようこそ~』の筆者である吉川景都が、以前から民俗学をもとにした作品を描いていたことと、キャンパスものを描きたいとの思いから大学を舞台にした作品が構想された。企画段階で新型コロナウイルスの世界的流行が起こったため、民俗学に関する実地取材はほとんど行えなかったが、民俗学会や研究発表の多くがオンラインで試聴することができたため、それらを参考にしたと語っている。
あらすじ
生まれつき他人には見えない小さな神々を見ることのできる青年、桑子順は、東京にあるS大学への進学を機に、ふつうの人生を満喫すべく期待に胸を膨らませていた。しかしそんな矢先、小さな神を頭に乗せた青年、櫻井安慈から言葉巧みに九尾寮へと誘われた順は、小さな神が憑(つ)いているか否かで本物の道祖神を見抜いたことで、民俗学研究会に体験入会することになる。民俗学は、妖怪やオカルトを研究する胡散(うさん)臭いものだと考えていた順だったが、幼なじみの永見勇気と共に、安慈や清水文乃、さらに顧問で民俗学を専門にしている教授の村瀬和郎と出会って民俗学の奥深さに触れる。そして順は、自分にだけ見えていた神々と、昔ながらの生活がいかに神と密接に関係しているかに興味を覚えるようになる。
登場人物・キャラクター
桑子 順 (くわこ じゅん)
東京にあるS大学に通う男子。明るい色の短髪を真ん中分けにしている。生まれつき他人には見えない小さな神々を見ることができるため、変人扱いされることが多い。S大学に進学して上京したのを機に、小さな神々から離れてふつうの生活を送りたいと考えていたが、結局小さな神々が東京までついて来たことに軽く絶望していた。しかし、民俗学研究会にも大量の小さな神々がいること、そして小さな神々といっしょに生活をしていても問題のなさそうなサークルであることを知り、民俗学研究会に体験入会することを決意する。もともとは新入生用の新しい寮で生活していたが、周囲の学生が都会的で馴染(なじ)むことができないため、九尾寮で寝起きしている。
永見 勇気 (ながみ ゆうき)
東京にあるS大学に通う女子。桑子順の幼なじみ。肩までの黒髪をハーフアップにしている。順に小さな神々が見えていることは知っているが、それがどんな姿で、どういう理由で見えているかを理解しているわけではない。怪談話が好きで、順と共に民俗学研究会の新入生歓迎パーティーに参加したが、結局テニスサークルに入会した。しかし、サークルでのノリや雰囲気が合わずに、民俗学研究会に入り浸っている。S大学近くにある築25年の木造アパートで一人暮らしをしている。
櫻井 安慈 (さくらい あんじ)
東京にあるS大学に通う2年生の男子。民俗学研究会に所属している。ウェーブがかった黒髪を肩下まで伸ばしており、旧制高校の制服だった袴(はかま)姿で生活している。新入生を勧誘するため、少々強引に九尾寮へ誘導することもある。九尾寮の寮長を務めており、たった一人で2階で暮らしている。傲慢な性格ながら、所持金を考えずに大量の買い物を行うような天然気味な一面もある。旧制高校に男のロマンを感じている。
清水 文乃 (しみず ふみの)
東京にあるS大学に通う女子。黒髪をワンレングスにしている。S大学では美人として知られているが、民俗学研究会所属で九尾寮に入り浸っていることから、男子学生から腫れ物のように扱われて遠巻きにされている。永見勇気は清水文乃の容姿にあこがれて化粧品などを教えてもらおうとしたが、文乃自身は化粧やファッションにまったく興味がなく、「その辺を歩いている子になんとなく似せているだけ」と語っている。
村瀬 和郎 (むらせ かずお)
東京にあるS大学で社会学部の教授を務めている初老の男性。短髪白髪を天頂部だけ少し尖(とが)らせている。民俗学および民間信仰を専門にしており、さまざまな土地を巡って実際に地元の人々と交流しながら研究を続けている。民俗学研究会の顧問でもあり、研究過程で世話になった家の蔵の虫干しの手伝いなどで、民俗学研究会の面々を動員することもある。
結城 (ゆうき)
T大学で日本文学部の助教授を務めている男性。黒髪を七三分けにして、口ひげを蓄えている。村瀬和郎の熱心な信奉者であり、櫻井安慈と非常に気が合う。中学生の頃から文化人類学を研究するなど、民俗学に情熱を傾けている。桑子順を「生半可に民俗学に興味を持ったイマドキの若者」と考えており、現状のまま順が民俗学のゼミを目指しては村瀬の迷惑になると考え、フィールドワークの基本を教えたりしている。
集団・組織
民俗学研究会 (みんぞくがくけんきゅうかい)
東京にあるS大学のサークル。九尾寮を拠点に活動している。櫻井安慈をはじめ、民俗学研究会に所属するメンバーは変人の集まりと思われているため、ふつうの学生たちからは腫れ物のように扱われている。また、多くのメンバーが九尾寮で生活しているが、別の寮やアパートで暮らしているメンバーもいる。発足時は民俗芸能研究会を兼ねていたため、各地の祭で使用する飾りや仮面のレプリカなども保管しており、新入生歓迎パーティーなどで活用している。
場所
九尾寮 (きゅうびりょう)
S大学の寮。大正2年に旧制高校の寄宿舎として建設された。木造2階建てで櫻井安慈が寮長を務め、住人全員が民俗学研究会に所属している。S大学から九尾寮に向かう通路には、村境を意味するさまざまな道祖神やしめ縄、人形などが飾られており、ヤギやニワトリも飼われているため、一見すると農村の一角のように見える。老朽化でいつ倒壊してもおかしくないため、大学側からは退去を勧められているが、住人たちは自分たちで修復しながら住み続けることを望んでいる。
クレジット
- その他
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廣田 龍平
書誌情報
こまったやつら ~民俗学研究会へようこそ~ 全3巻 少年画報社〈YKコミックス〉
第2巻
(2022-07-29発行、 978-4785971991)
第3巻
(2023-02-28発行、 978-4785973346)