31歳の小説家と10歳の少女の純愛物語
スランプに陥っている31歳のハードボイルド小説家の内海真一は、都会の喧騒(けんそう)から逃れて気晴らしのため祖母の遺した田舎(いなか)の一軒家に引っ越したところ、そこに突然、10歳の森本遥がやってくる。遥は拾った猫を自宅で飼うことができず、庭で飼わせてほしいと内海に懇願。面倒ごとが嫌いな内海だったが、なぜか遥の強い眼差しに感じるものがあり、庭で猫を飼うことを許可する。そんな環境の変化を知った担当編集者の大垣は、二人の奇妙な関係性に着目して内海に恋愛小説を書かせようと画策する。内海の家に出入りするようになった遥は次第に内海に恋心を抱くようになるが、内海は世間の目もあって遥に優しく接することができず、二人は近すぎず遠すぎずの一定の距離感を保っていた。やがて、遥が成長するにつれて家庭環境やいじめ問題、中学受験といったさまざまな問題に向き合うこととなる。
森本遥の家庭環境と内海真一の過去
森本遥は4年前に兄を事故で亡くし、それ以来兄を溺愛していた教育熱心な母親は、現実を受け入れることができずに心を病んで入院している。父親は仕事でほとんど海外にいるため、家では遥は週に3日だけ家政婦がやってくるだけの、孤独な時間を過ごしていた。一方の内海真一は、8歳の頃に一家心中で両親を亡くしており、自分だけが生き残ったという壮絶な過去を背負っている。内海は遥の家庭環境を知り、幼い頃から孤独感を抱く遥を自分の姿と重ね合わせて、彼女が放っておけない存在となっていく。
心を許せる友達たちの存在
内海真一の担当編集者、大垣薫は、内海の高校時代からの親友であり、辛辣な物言いながらも彼のよき理解者の一人。さらに二人とは小学校時代からの幼なじみで、化粧が派手なサトミも内海の家に出入りしている。実はサトミはゲイバーで働く元男性で、不思議な三人の友情関係はお互いの環境が変わっても続いている。一方の森本遥にも、親身になってくれるクラスメイトがいる。学級委員を務める杉田真宏は遥に思いを寄せており、彼女が内海の家に出入りしていることを心配している。また、曽野原詩子は小学5年生で同じクラスになった当初は、遥に陰湿ないじめを行っていたが、紆余(うよ)曲折の末に和解して遥のよき理解者となる。そんな彼らは、二人の行く末を案じながらリアルな同世代の視点で、内海と遥をつなぐ役割を担っている。
登場人物・キャラクター
内海 真一 (うつみ しんいち)
小説家の男性。年齢は31歳。ハードボイルド作家として人気を博し、デビュー当初は「文芸界のプリンス」と褒めそやされたこともあったが、現在はスランプに陥っている。執筆環境を変えようと、都会の喧騒から離れて祖母が遺(のこ)した田舎の一戸建てに引っ越し、森本遥と出会う。不愛想で口が悪く、とにかく面倒なことを嫌っている。自分の身の回りのことにも無頓着で、誰かに世話をしてもらわないとすぐにゴミだらけの部屋になってしまう。8歳の頃、一家心中に巻き込まれて両親を亡くし、自分だけが生き残った過去を持つ。それ以来孤独な戦いを続けてきたが、家庭環境が複雑で孤独感に苛(さいな)まれる遥に自分の姿を重ね合わせ、遥が自宅に出入りすることを許可した。遥との関係性は時を経ても変わらないが、近所の子供というスタンスから遥の父親の承諾を得たことで、保護者としての覚悟を持つことになり、心中は大きく変化していく。そんな内海の支えとなったのは、親友にして担当編集者の大垣薫とサトミで、大垣にたきつけられて執筆することになった恋愛小説が、内海自身の心の内を知るためのツールにもなっている。
森本 遥 (もりもと はるか)
小学生の女子。年齢は10歳。ある日、猫を拾うが自宅で飼うことができないため、空き家だと思っていた内海真一の家の庭に入り込んだ。そこで思いがけず内海真一が住んでいることを知るが、彼の許可を得て家の庭で猫を飼い始める。当初は猫の世話だけが目的だったが、やがてズボラな内海の身の回りの世話も焼くようになり、次第に内海に恋心を抱くようになる。物静かな性格で家庭環境が複雑なこともあり、年齢よりも大人びて見える。4年前に兄を交通事故で亡くし、兄を溺愛していた母親は現実を受け入れられずに心を病んで入院中。仕事で忙しい父親はほとんど海外で過ごしているため、家政婦が週に3日やってくる以外は、一人で過ごしていた。そんな中、父親の許可を得て内海の家で過ごす時間が増えてからは、内海の友人や自分を心配してくれる杉田真宏や曽野原詩子の存在も支えとなり、孤独感から解放されていく。内海を一途(いちず)に思い続けているが、時間を経ても関係性は変わらず、保護者に徹しようとする内海に対して物足りなさを感じている。