複雑に絡み合う恋愛模様
由樹は学内では男っぽく振る舞っているが、本当は女の子らしさにあこがれている。佳人は学内でも有名なイケメンと知られているが、女子になりたいという隠された欲望を持っている。未果子は学内ではお嬢様を装っているが、夜の街では黒いセーラー服を身につけ、自らの年齢を15歳と偽って売春を繰り返していた。由樹は女装を生き甲斐にしている佳人に恋心を抱き始めるが、佳人は完璧な美少女ながら歪んだ快楽を享受する未果子にあこがれを抱いており、未果子は女性でもなく、男性でもない由樹に執着するようになる。恋愛未満の感情が入り交じる三角関係は、お互いの内面を知るにつれてさらに複雑になっていく。
すべてのきっかけは街中での偶然の出会い
由樹が佳人に女装癖があると知ったのは、夜の街中で偶然に未果子を見かけて声をかけたのがきっかけだった。由樹は未果子にあこがれるあまり、未果子と同じ服とアクセサリーを身につけて町を歩き、羨望の眼差しを向けられることを喜びとしていた。唯一所有する高校生時代の制服のスカートを身につけている時にしか、自分を「女」と実感できないでいた由樹は、女装姿の佳人を未果子と間違って声をかけた際に、倒錯した性と向き合うため、佳人に「女友達になろう」と持ちかける。
マイノリティならではの葛藤と欲求
売春にアイデンティティを見出す未果子にとって、由樹は心を満たしてくれる唯一の癒される存在。また、女性への変身願望を抱く佳人にとって、由樹は唯一の女友達。そして、抑えられない欲求をさらけ出す二人の前で、由樹は未(いま)だに女の子らしくなりたいと願っていた。19歳という子供と大人の境界で揺れ動く、三人の性的コンプレックスは複雑に絡み合っていく。
登場人物・キャラクター
櫟原 由樹 (いちはら ゆき)
花森大学に通う女子。年齢は19歳。濃い茶髪のショートカットで、基本的にTシャツとジーンズで過ごしている。外見と言動が男性っぽいため、幼なじみのショウから「ヨシキ」というあだ名を付けられ、大学でもその愛称で呼ばれている。女子からは男装の麗人として羨望の眼差しを向けられている。しかし、由樹自身はいつからか、「他人に望まれる男性を演じなくてはいけない」という自己暗示にかかり、女性らしいかわいい服装にあこがれを抱きながらも実行することができずにいる。下着もスポーツブラとボクサーパンツを着用している。自宅では唯一所有する高校時代の制服のスカートを身につけ、自慰行為に耽(ふけ)っている。大学の同級生である佳人の女装趣味と共に、未果子への異常な執着を知って戸惑うものの、「女友達」として外見を女性らしくする方法を教えてくれれば秘密を守ると約束する。そんな中、女友達として接していた佳人を男性として意識するようになるが、佳人の未果子へのあこがれの感情も恋だと考え、佳人と未果子が恋愛関係にならないよう、未果子と恋人同士のような関係になっていく。
相葉 佳人 (あいば かいと)
花森大学に通う男子。年齢は19歳。ウェーブがかった明るい茶髪で、口元にほくろがある。ファッション雑誌の街角スナップの常連になっているイケメンで、その中性的な外見から学内でも熱い視線を向けられている。幼い頃に母親や付き合っていた彼女から、女装させられたことをきっかけに女装癖に目覚めた。複数の中年女性と肉体関係を持っており、彼女たちのクレジットカードを使って贅沢(ぜいたく)な生活を送っている。清楚(せいそ)でお淑(しと)やかな未果子にあこがれを抱き、未果子と一体化したいと望み、彼女と同じ服や小物を身につけ、未果子になりきって街に繰り出している。その姿を由樹に目撃され、女装癖を秘密にしてもらう代わりに由樹の外見を女性らしくするための指導を行ないながら、「女友達」として急速に親しくなる。そんな中、由樹を女性として意識していることを自覚し、未果子が売春をしていることを知ってからは、未果子と由樹を引き離そうと画策するようになる。
書誌情報
ヒメゴト~十九歳の制服~ 8巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2011-04-28発行、 978-4091837776)
第2巻
(2011-08-30発行、 978-4091840967)
第3巻
(2012-03-30発行、 978-4091844248)
第4巻
(2012-08-30発行、 978-4091845764)
第5巻
(2013-02-28発行、 978-4091848376)
第6巻
(2013-10-30発行、 978-4091855237)
第7巻
(2014-04-30発行、 978-4091862501)
第8巻
(2014-11-28発行、 978-4091867162)