それでも世界は美しい

それでも世界は美しい

「雨の公国」の第四王女で、雨を降らせる特殊能力を持つニケ・ルメルシエは、祖国のために「晴れの大国」の太陽王と呼ばれるリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアに嫁ぐことになった。そんなニケが、リヴィウスに反発しながらも次第に心を通わせ、二人で力を合わせてニケの能力の謎、世界中で起きている現象「少雨化」の原因、そしてリヴィウスの抱える心の闇を照らしていく姿を描いたファンタジックラブストーリー。「花とゆめ」2009年7号、13号、2011年19号に不定期掲載されたのち、2012年2号から2020年11・12合併号にかけて連載された作品。2014年4月にテレビアニメ化。

正式名称
それでも世界は美しい
ふりがな
それでもせかいはうつくしい
作者
ジャンル
ファンタジー
 
恋愛
レーベル
花とゆめコミックス(白泉社)
巻数
全25巻完結
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あらすじ

雨の公女

東方の鎖国国家「雨の公国」の第四王女であるニケ・ルメルシエは、ある日突然、「晴れの大国」の「太陽王」と呼ばれるリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアのもとに嫁ぐことになった。雨の公国の王家に伝わる能力「アメフラシ」に関心を持っているリヴィウスは、雨の公国の自治を認める代わりに、姫を一人差し出すよう要求したのだ。その結果、姉妹四人のじゃんけんに負けたニケがリヴィウスに嫁ぐことになった。こうして晴れの大国を訪れたニケだったが、リヴィウスはまだ11歳の少年であるうえに、人を人とも思わない横暴な性格だった。そんなリヴィウスに憤りを感じたニケは彼に手を上げ、投獄されてしまう。しかしニケはそこで牢番(ろうばん)から、リヴィウスの母親は下層階級の出身で3年前に暗殺されたことや、リヴィウスがその後に数々の苦しみの果てに王となり、腐敗した政治を健全化して敵対する国々を平定したことを聞かされる。これによってリヴィウスに興味を持ったニケは、アメフラシの能力の発動条件の一つである、その土地の美しさを知ること、つまり晴れの大国のよさを教えてくれるようにリヴィウスに申し出る。その日からニケとリヴィウスはいっしょに過ごすようになり、少しずつ交流を深めていく。そんなある日、ニケは暗殺者の矢から身を呈してリヴィウスをかばい、ケガを負ってしまう。

Ring of tales

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの暗殺未遂事件を機に、ニケ・ルメルシエとリヴィウスは一気に距離を縮めていた。ニケの披露パーティを行ったり、「湖(うみ)の王国」からやって来たリヴィウスの友人であるアマルナ・ルイラサエルと交流したりと、充実した日々を送っていた。そんな中、二人は正式な婚約の大典を執り行うことになるが、国の最高機関である「神官庁」はこれを快く思っていなかった。神官庁は、ニケが異民族であることを理由に婚約は認められないと意義を唱えてきたのだ。しかし、神官庁が本当に疎ましく思っているのは、ニケではなくリヴィウスだった。リヴィウスは即位した際、腐敗した神官庁に大ナタを振るったことを、今でも庁内の人間たちは恨んでおり、リヴィウスを失脚させようとしていたのだ。そんな神官庁は婚約を認める条件として、ニケに「闇返りの儀」を受けることを命じる。それは婚約式「日輪交換の儀」で使う特別な指輪を、ニケ一人で地下神殿まで取りに行くというものだった。ニケはその命に応じようとするが、闇返りの儀を受けることは、自身が異端であると認めることでもあった。この経緯を知ったリヴィウスは闇返りの儀を拒否しようとするが、最終的にニケはリヴィウスと共に歩んでいくためにも、闇返りの儀に応じることを決める。

宰相バルドウィン

無事に「闇返りの儀」と「日輪交換の儀」を成功させたニケ・ルメルシエリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、晴れて正式な婚約関係を結ぶ。そんなある日、「晴れの大国」に突如リヴィウスの叔父(おじ)であり、晴れの大国の元宰相でもあるバルドウィン・シシル・イフリキアが戻って来る。バルドウィンはリヴィウスが即位すると共に宰相になったが、ある日突然出奔して旅に出てしまう。しかしリヴィウスが婚約したと聞き、急遽(きゅうきょ)戻って来たのである。ニケはそんなバルドウィンにさっそく口説かれるが、バルドウィンに恋愛感情がないのは明らかだった。そこでニケはその理由を尋ねようとするが、その場面を目撃したリヴィウスは激怒し、姦通罪でバルドウィンを投獄してしまう。この処罰に納得のいかないニケは、その晩、牢屋に向かう。ニケはバルドウィンが戻って来た本当の目的が、リヴィウスの婚約者である自分を見定めるためであると考えていたのだ。バルドウィンはすんなりそれを認め、ニケが信頼できる人物である以上、自分は不要であるために再び旅に出ると言い出す。

雨の公国

ニケ・ルメルシエが話し合いの場を設けたことで、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアバルドウィン・シシル・イフリキアの関係は修復され、バルドウィンは再び「晴れの大国」の宰相に就任する。こうしてニケが晴れの大国に来てから3か月ほど経ったある日、突如ニケの母国である「雨の公国」から手紙が届く。その内容は、ニケの祖母のトハラが体調を崩してしまったため、少しでいいから帰国できないかというものだった。これを知ったリヴィウスはニケに帰国を勧め、リヴィウスやニールと共に雨の公国に向かうのだった。しかし長旅を経てニケたちがようやく雨の公国にたどり着くと、トハラは単なるぎっくり腰であることが判明する。安堵(あんど)したニケたちはしばらく雨の公国に滞在することとなるが、これはトハラとニケの従兄、キトラの仕組んだ罠(わな)だった。ニケは雨の公国王族の中でも特別な存在で、本来なら国を出てはならない人物だった。しかしトハラが不在の中、このことを知らないニケの父親が晴れの大国に嫁がせてしまい、トハラはなんとしてでもニケを連れ戻さなければならないと考えていたのだ。そこでトハラは、子供の頃からニケと親しく、ニケに思いを寄せているキトラを使って「黒蓮(こくれん)の塔」と呼ばれる、罪を犯した王族を閉じ込める塔に閉じ込めようとしていたのだ。

雨おくり

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、沼の中から「黒蓮(こくれん)の塔」の鍵を見つけ出すという、トハラとの勝負に勝利し、ニケ・ルメルシエを無事救出する。こうして事件は解決するが、同行する「晴れの大国」の臣下たちは納得せず「雨の公国」には、なんらかの制裁を加えるべきだと激怒していた。しかしリヴィウスは臣下たちを諫(いさ)め、今回の件は自分とトハラの個人的な喧嘩(けんか)のようなもので決着がついた以上、制裁は不要であると説明し、雨の公国の人々の行いを咎(とが)めることはなかった。これによってニケたちはようやく雨の公国で落ち着いて過ごせるようになる。そんな中、リヴィウスはニケの母親であるイラハに声をかけられる。イラハは病弱でふだんは床に伏せており、今回の件にも関与していなかった。しかしなぜトハラがニケを取り戻そうとしていたのかは説明すべきであると考え、個人的にリヴィウスに会いに来たのだ。そして語られた理由は雨の公国の伝承が関係していた。雨の公国には最も優れた歌い手であるニケにのみ受け継がれる秘術があった。それはこれまでの「アメフラシ」とは比べ物にならないほど強力なもので、兵器にも等しいものだった。そのためトハラは、この力が誰かに悪用されるくらいなら、ニケを雨の公国に閉じ込めていた方がよいと考えていたのだ。

Shock of the lightning

「雨の公国」から戻ったニケ・ルメルシエたちは、「砂の皇国」の第一皇太子であるイラーダ・キ・アークを国賓として迎えることになる。砂の皇国は「晴れの大国」の隣国であり、国力は並だが世界五大国の中で最も歴史が古く、各国に一目置かれる存在である。さらにリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアが「世界王」と知られているのも、砂の皇国が味方であることが大きかった。しかし、現在は国王が患っており、代わりにイラーダが国を取り仕切っていた。この事情を知ったニケは、緊張しつつもイラーダたちを迎える。しかしニケが灌漑(かんがい)設備を深く理解していないこと、砂の皇国では非常に貴重な雨を「アメフラシ」して見せるという、見世物のような扱いをしたことで、イラーダとその従者、ファラハを失望させてしまう。ニケはその晩すぐさまイラーダたちに謝りに行くが、その場で砂の皇国の現状を聞かされる。現在、砂の皇国は全世界で起きている「少雨化」の影響を強く受けており、数年のあいだにオアシスが急激に枯れてしまっていた。イラーダたちが晴れの大国に来たのも、灌漑設備の視察と水の供給の支援要請を行うためだったのだ。そこでニケは、砂の皇国の現状をこの目で確かめるため単身視察に向かう。

砂の皇国

「砂の皇国」に向かったニケ・ルメルシエは、いっしょに国中を巡る過程でイラーダ・キ・アークファラハと親しくなり、砂の皇国民たちからも信頼されるようになっていた。ニケの真摯な人柄や美しい歌声、そして「アメフラシ」の能力は彼らを魅了し、いつしか砂の皇国民たちは、ニケにずっと砂の皇国にいて欲しいとまで考えるようになっていた。そんなある日、ニケたちはイラーダの叔父、つまり皇弟が治めるナジーラの街に滞在する。ナジーラは非常に保守的でよそ者を嫌う傾向にあるが、大きな砂嵐が近づいていたため、ここに身を寄せざるを得なかったのだ。しかし、ニケはここでも信頼を得て積極的に交流した結果、彼らと打ち解け、その考え方までも変えてしまう。この様子を見ていたイラーダは、ニケにナジーラの街に滞在することを提案するが、二人は突如砂嵐に襲われてしまう。なんとか地下水道に避難した二人は、翌朝ファラハたちに救出されるがニケは体調を崩し、なかなか目を覚まさずにいた。これを好機ととらえたイラーダの従者、ウルマは、ニケは昨日の砂嵐で行方不明になったと報告すれば「晴れの大国」からニケを奪えると言い出す。ファラハはこれに激怒するが、イラーダはこの意見を受け入れてしまう。

帰るところ

ニケ・ルメルシエは、ようやく目を覚ましたものの、イラーダ・キ・アークから「晴れの大国」には帰さないと言われ、混乱していた。イラーダは「砂の皇国」の民よりもニケを必要としている者はいないことを伝え、ニケを説得しようとする。その自覚があるニケは一人で悩んでいると、そこにファラハが現れる。ファラハはどうしてもイラーダのこのやり方が納得できず、本当にこのまま砂の皇国に留まるか、それとも晴れの大国に帰るのかをニケに確認しに来たのだ。この行動に背中を押されたニケは、帰ることを決意。偶然出会った皇弟の協力も得て、ファラハと共にナジーラを脱出し、皇弟はイラーダの過去について語り始める。イラーダにはかつてアマルディナという妹がおり、彼女は国をよくするため、人一倍水の獲得や供給に熱心な人物だった。イラーダはそんなアマルディナと共に、緑豊かな砂の皇国を作る夢を抱いていたが、父親は病弱で満足に仕事をするのも難しく、横暴な母親が実権を握る状況にあった。そんなある日、アマルディナは流行(はや)り病で急死。さらにその後数年水不足が続き、ある日とうとう民が王都周辺に押し寄せて来る。そこでイラーダは、王宮内の貯水池を民に解放しようと進言するが、母親はこれを拒否。王族を生かすためであれば、民はその犠牲になって死ぬべきだと言い放つ。これに怒ったイラーダは母親を粛正し、砂の皇国を背負う覚悟を決めるのだった。

Never end

ニケ・ルメルシエファラハは、皇弟の協力で「砂の皇国」王都であるテラキアまで戻って来た。そこで二人は、皇弟から渡された手紙を持って宰相、オルカンを訪ねる。二人はオルカンに事情を説明し、「晴れの大国」に帰る手はずを整えてもらうことにしたのだ。しかし時すでに遅く、晴れの大国にニケが遭難したと報告されていた。さらにここでアマルディナの幻を見たニケは、このまま逃げ帰るのではなく、イラーダ・キ・アークと話し合うことにする。ニケは「アメフラシ」で、アマルディナが生前大切にしていた花「砂漠の潮」を開花させると、その花畑にやって来たイラーダに、砂の皇国のことは大好きだが、自分は晴れの大国に帰りたいという、自分の意思を伝えるのだった。こうしてニケは帰国できることになり、砂漠の潮が花開く姿に希望をもらったイラーダは、自力でこの国を復興させる気持ちを新たにする。さらに時同じくして、ニケを探しにやって来たリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアが王宮に到着し、ニケとリヴィウスは再会を果たす。その後リヴィウスとイラーダは、イラーダがウソの報告をした件について改めて話し合うが、リヴィウスはニケを探す以外にも砂の皇国に来た目的があった。それは現在各地で進行する「少雨化」に対抗するため、晴れの大国と砂の皇国が足並みをそろえ、晴れの大国の出資で大規模な地下水道を建設しようと提案することだった。

再来

ニケ・ルメルシエリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、「砂の皇国」での一件を経て、婚約者としてさらに絆(きずな)を深めていた。そんな二人がようやく砂の皇国から帰国すると、そこにアマルナ・ルイラサエルがやって来る。アマルナは自由自治州フォルティス領の公爵、クロードとの縁談が来ているが、彼と歳が離れすぎていることやクロードの人柄が気に入らず、リヴィウスの力を借りて破談にしようと考えていたのだ。これは単なるアマルナのわがままに思えたが、バルドウィン・シシル・イフリキアは、ほかに何か理由があるのだろうと見抜いていた。確かにアマルナは正直な性格だが、同時に王女としての立場を理解しており、感情だけで物事を判断する女性には思えなかったからである。そんなバルドウィンの言葉に背中を押されたアマルナは、ニケとリヴィウスに結婚相手は自分で決めたいこと、そしてその相手と恋愛したうえで結婚したいと打ち明ける。これを聞いたニケとリヴィウスは、クロードの人柄を見極めるため、いっしょに「湖(うみ)の王国」に滞在する計画を立てていたことを伝える。

湖(うみ)の王国

ニケ・ルメルシエアマルナ・ルイラサエルの強い希望で、男装して「カナリス・ミケーネ」と名乗り、「湖(うみ)の王国」にやって来た。アマルナはクロードよりも自分の両親の話の通じなさや、強引さを問題視していた。そこで、男装したニケを自分の恋人であるとでっちあげ、自分は両親のおもちゃではないことを理解してもらい、二人の考え方を変えようと試みる。アマルナはまずは弟のテーベ・ルイラサエルに、このことを話す。一方その頃、ニケはクロードが従者と怪しげな話をしているのを耳にしてしまう。思わずニケはその場に割って入るが、結局クロードが何かを企んでいるらしいこと以外はわからず、彼に恋のライバルとして宣戦布告するのに留まるのだった。その後、ひとまずニケはこのことをリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアとアマルナやテーベに伝え、クロードを追い出す計画を続行する。こうして湖の王国に来て5日が経過し、ニケたちはクロードと共にアリアド湖に遊びに行く。アマルナはここでクロードと二人で小舟に乗り、離島に誘い込む作戦を立てていた。まず、アマルナは離島に到着後に自分だけ逃げ出し、その後はライバルであるニケに救助させることで、クロードに大恥をかかせてやろうと考えたのだ。しかし、ニケとリヴィウスが先に離島で待っていると、天候が怪しくなってくる。

呉越同舟

天候が崩れたことで、ニケ・ルメルシエリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアアマルナ・ルイラサエルクロードの四人は離島で遭難してしまう。そんな中、ニケは男装によって胸を長時間締め付けていたことで呼吸器疾患に陥り、気を失ってしまう。医療の心得があるクロードが介抱したことでひとまず回復したものの、アマルナはニケが男装していることを認めざるを得なくなり、今回の企みもクロードにばれてしまう。こうしてクロードと協力せざるを得なくなったアマルナは、気を失ったニケをリヴィウスに任せ、クロードと食料を探しに行く。その途中の崖で呼吸器疾患に効く薬草を見つけたアマルナは、危険を承知で取りに行く。クロードの助けもあって無事に薬草を回収し、この一件を機に二人の距離は急速に縮まるのだった。クロードはアマルナの勇敢で責任感の強い性格を、アマルナはクロードの知的で落ち着いた人柄を知り、お互いに惹(ひ)かれ始めていた。そこでその夜、アマルナは改めてクロードと二人きりになり、クロードの企みについて尋ねるがクロードは答えず、アマルナは涙する。

カナリスとして

ニケ・ルメルシエは、アマルナ・ルイラサエルからクロードに惹かれていることを打ち明けられ、クロードに勝負を挑むことにした。それはニケが「アメフラシ」を行い、ニールテーベ・ルイラサエルが異変に気づいて救助に来たらニケの勝ち、気づかなければクロードの勝ちというものだった。この勝負にみごと勝利したニケはクロードに真意を尋ねるが、クロードは「湖(うみ)の国」の王都に戻ってから話すとだけ伝える。こうしてニケたちは無事王都に戻るが、ここでニケとアマルナは、クロードの従者のリウから衝撃の事実を知らされる。クロードの目的は湖の国の内部に入り込むことで、アマルナと結婚することではなかった。そのため目的を果たしたあとは、婚約を破棄するつもりでいると明かす。アマルナはこの言葉にショックを受けるが、リウはアマルナが鵜呑(うの)みにしていたクロードの悪い噂(うわさ)はウソであり、離島での一件でアマルナ自身が見てきたクロードこそが、本来の彼であるとも告げる。これによってアマルナは覚悟を決め、クロードが真相を話してくれるというお茶会へと向かう。

毒婦の純情

クロードの真の目的は、麻薬の原料「黒リゼリヤ」を売りさばいている犯人を探し出すことだった。数年前から自治州に出回り始めた黒リゼリヤは、外海の国のどこかで栽培・製造されているらしいことを突き止めたものの、特定には至っていなかった。しかし、やがて「湖(うみ)の王国」を経由して自治州に入っていることが判明して、ついに王家直属の御用船団の中から黒リゼリヤを見つける。そこでクロードは王家にかかわる者が犯人であると推測し、犯人逮捕のためにやって来たのだ。そしてその犯人は、湖の国大臣のガラリヤだった。これをお茶会の最中にばらされたガラリヤは逆上し、アマルナ・ルイラサエルを人質に取るが、ニケ・ルメルシエの風の術とテーベ・ルイラサエルの剣術によって捕縛され、黒リゼリヤ事件は解決する。こうしてアマルナは、クロードが湖の王国の敵であるどころか恩人であったことを理解するが、もう一度話をする前に、クロードは自治州に帰り、婚約も解消すると言い出す。これにショックを受けたアマルナは一度はあきらめかけるが、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの言葉に背中を押され、クロードに思いを告白する。

白い奸計

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの生誕を祝う「大国祭」が近づき、ニケ・ルメルシエはヴィオレタ・ルートウィックのアドバイスを受けて身内だけの誕生日パーティを開いたり、大国祭に向けた準備を進めたりしていた。そんなある日、ニケは街で足をケガした不思議な動物、リュカールを見つけ、手当てをする。これがきっかけで、リュカールの飼い主である少女、スランと知り合ったニケは、彼女の頼みで当面のあいだ、歌を教えることになる。スランはこの周辺では見かけない銀髪に金色の瞳を持つ美少女で、大国高地の奥からやって来た自由民だった。自由民たちは本来、歌と踊りを特技としていたが、どちらも苦手なスランは歌が得意なニケに教えを乞おうと考えたのだ。この日からニケとスランの交流が始まるが、ある日リュカールが蜂に襲われ、身体中を刺されてしまう。すぐさまニケたちは街に向かい、医師とヴィオレタの協力のもと治療を開始する。これでリュカールは助かり、ニケはこの件のお礼として、スランから故郷の紋章が入った薬入れをプレゼントされる。ニケはこれを喜び、大国祭でもいっしょに過ごそうとスランを誘うが、次の日からスランは姿を見せなくなってしまう。

大国生誕祭

ニケ・ルメルシエは、スランに会えないまま「大国祭」当日を迎えた。一方のヴィオレタ・ルートウィックは、スランと以前会ったことがあるような気がして記憶を辿(たど)る中で、とあることに気づいてバルドウィン・シシル・イフリキアのもとへ向かっていた。しかし、王宮までたどり着いたところでスランの手の者に騙(だま)され、誘拐されてしまう。時を同じくしてリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、贈り物を見るために保管所を訪れた際、ニケの私物の中に「氷の王国」の紋章が入った薬入れがあることに驚愕(きょうがく)する。氷の国は以前「晴れの大国」が滅ぼした国であり、リヴィウスは薬入れの持ち主を、王族の生き残りであるウルスラ・レイルイチャーニエに違いないと考えたのだ。リヴィウスはすぐさまニケに、「スラン」と名乗った少女こそがウルスラであり、スランはニケに危害を加えるために近づいてきたのかもしれないと伝えようとするが、その途中でこの事実を受け入れられず錯乱。これまで自分がいかにたくさんの人に迷惑をかけてきたかを思い出し、ニケの話も聞かずに去って行ってしまう。そしてリヴィウスはこの事態をニールやバルドウィンに伝え、この機会にウルスラやウルスラのバックについている反・晴れの大国派組織「カラオス会」を一掃することを宣言する。

北風と太陽

「大国祭」の舞踏会の時間になり、バルドウィン・シシル・イフリキアは怪しい人物が会場に紛れ込んでいないかと、場内を警備していた。そこでヴィオレタ・ルートウィックらしき女性を見かけたバルドウィンは、慌てて彼女を追いかける。そしてバルドウィンは、ヴィオレタが身動きできなくなる薬を飲まされたうえで変装させられ、「カラオス会」の男性二人に舞踏会に連れられて来たことを知り、救助する。するとカラオス会の男性たちはその場から逃げ出すが、すぐさまリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアたちによって捕らえられる。そんな騒ぎの中、その場にウルスラ・レイルイチャーニエが現れ、リヴィウスを刺そうとするが、これを身を呈してかばったニケ・ルメルシエが、代わりに刺されてしまう。

桎梏(しっこく)

ニケ・ルメルシエウルスラ・レイルイチャーニエに刺されたものの意識はあり、手当てされていた。ウルスラとその従者のネロは捕らえられ、ニケはリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアと共に改めてウルスラに会いに行くが、ここで衝撃の事実が明かされる。リヴィウスは氷の国を滅ぼしたあと、生き残ったウルスラと婚姻関係を結ぼうとしたが、ウルスラはこれを拒否し、与えられた城に火を放って逃げ出したのだ。そして現在まで、復讐の機会をうかがって生きてきたのだという。リヴィウスはそんなウルスラとネロを明日公開処刑することにして一度ニケと別れ、ニケは大臣のビシニウスの馬車で帰宅することになる。しかしビシニウスは、ニケを王妃邸ではなく、幼少のリヴィウスとその母親、シーラが暮らしていた「白金の塔」へ連れて行く。ビシニウスは、リヴィウスが重要な過去の出来事をニケにいっさい話さないことを納得できず、これを機にニケに少しでも当時のことを知ってもらおうと考えたのである。たとえば氷の王国を滅ぼした件についても、戦争を始めたのはリヴィウスではなく父親のレオニダス三世であり、リヴィウスはレオニダス三世の死後、遺志を引き継いだに過ぎなかった。しかしリヴィウスは、すべては自分の意思であるかのように振る舞っていたのだ。これを知ったニケは、次はリヴィウス自身の口から過去を聞き、絆を深めようと考えていたが体調を崩してしまう。

長い夜

「カラオス会」に盛られた薬の効果も切れ、無事に帰宅したヴィオレタ・ルートウィックは、ウルスラ・レイルイチャーニエの仲間であるロミオにウルスラからの伝言を聞き、動揺していた。一方その頃、王宮では謎の煙が立ち込め、煙を吸った者が痺(しび)れやめまいを訴えて混乱していた。つまり、先ほどウルスラが特攻してきたのは囮(おとり)で、真の目的は王宮内をこの謎の煙で混乱させ、そのあいだに牢屋から脱出して、再びリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアを狙うことにあった。まんまと罠にはめられたリヴィウスは、王宮内の者たちをなんとか守ろうとするが、そこにニケ・ルメルシエが到着する。本来ニケは王妃宮に戻る予定だったが、ビニシウスが機転を利かせ、リヴィウスと合流できるようにしたのだ。そこで怒り狂って我を失っているリヴィウスが、カラオス会を支持する元・氷の王国周辺の小国まで滅ぼすと言い放つが、そんなリヴィウスをニケが落ち着かせる。そしてリヴィウスに、これからは一人で憎まれ役を演じるのはやめ、いっしょにさまざまな問題を解決しながら、生きていこうと説得するのだった。これによってリヴィウスはようやく正気を取り戻し、安堵したニケは毒煙を消すために「アメフラシ」を行う。アメフラシは成功するものの、その途中で力が暴走したことでニケは意識を失ってしまう。

限定解除

ニケ・ルメルシエの力が暴走したのは、耳に付けている「制限石」が壊れてしまったからだった。その場は突然現れたニケの姉、カラが、黒蓮(こくれん)石のネックレスと自らの歌を歌って収めるが、バルドウィン・シシル・イフリキアは、ニケがこうなった原因に心当たりがあった。ニケはウルスラ・レイルイチャーニエに刺されたが、そのナイフには毒が塗っていたため、ニケが意識を失っているのではないかと考えたのだ。バルドウィンの予想は的中しており、ニケは一度は正気を取り戻したものの、またすぐに気を失ってしまう。医師のサモンは遅効性の毒と判断して治療を開始するが、どの解毒剤を使っても効果はなく、ついには打つ手がなくなってしまう。そこでカラは得意な精神作用の術を使ってニケを安定させるが、これは時間稼ぎにすぎなかった。とうとう手段を選んでいられなくなったリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、元老院の力を借りることを決意。元老院には武器、軍事、諜報のスペシャリストである三人の賢人がいるが、リヴィウスとは国政の建て直しの際に揉(も)めてから、折り合いが悪くなっていた。そのため現在は閑職に追いやられており、リヴィウスは三人に頼りづらいと考えていたのだ。しかしリヴィウスがいざ元老院を訪れると、三人は意外なことを言葉を口にする。

旅立つ空に

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、ニケ・ルメルシエを助けるため、元老院のケイツビー、ヴォーダン、ラトクリフの三人に頼み込んで協力を仰ごうとしていた。誠心誠意の依頼に心打たれた三人は、これまでのことを水に流してリヴィウスに力を貸すことを約束し、「晴れの大国」の奥にある森林地帯「惑いの森」に住む大魔女、カッサンドラの存在を教える。カッサンドラは薬学のエキスパートで、彼女であればニケの解毒剤を作れる可能性があるという。しかし、カッサンドラは非常に気難しい人物であるため、会うためには依頼者が直接単身で訪れるほかない。リヴィウスは、一人で惑いの森に行くことを決意し、すぐさま「大国祭」で起きた一連の事件の後処理を済ませるために仕事に励む。そんな中、リヴィウスはうっかり眠ってしまうが、目覚めると仕事はニールたち従者が終わらせており、ケイツビーたちまでもが協力してくれていた。こうして周囲の人々の温かさに触れたリヴィウスは、気持ちも新たに惑いの森に旅立つ。しかし、そのあとを追いかけてくる謎の少女には、リヴィウスは気づいていなかった。

赤い嵐

「惑いの森」に最も近い宿場街「エコート」にたどり着いたリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、自分の素性を隠すために女装し、「ヴィアンカ」と名乗って情報を集めていた。そこでリヴィウスは、宿屋の人々とリヴィウスを女性とカンちがいして声をかけてきた青年のジシンから、盗賊団の存在を教えられる。彼らは惑いの森の入り口付近を根城にしており、一般市民を襲うことはないが、惑いの森に近づく人間や惑いの森に危害を加えようとする人間には容赦がないのだという。これを聞いたリヴィウスは、盗賊団とカッサンドラがつながっていると考え、ジシンとその友人のキマタキの協力を得て、頭領に会うことを決める。しかしその途中で、リヴィウスが貴い身分であることがジシンにばれてしまい、キマタキと二人で盗賊団の根城に行くことになってしまう。そのうえキマタキは、実は盗賊団の人間だった。キマタキに失神させられたリヴィウスは盗賊団の屋内に運び込まれると、そこに現れたのはジシンだった。

惑いの森

ジシンの正体は盗賊団の頭領だった。ジシンから信用できない人間は「惑いの森」に入れられないと言われたリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、無理やり突破しようとするが、そこに突如謎の少女が現れて根城内は大混乱に陥る。リヴィウスはこの混乱に乗じて、先ほど自分の世話をしてくれた少年、カナの協力を得て奥へと進む。しかし先ほど助けてくれたはずの少女が再び現れ、カナを足手まといとばかりに殺そうとする。これを阻止しようとしたリヴィウスは、カナと追ってきたジシンの三人で逃げ出す。だが、カナは先ほどの少女の指摘どおり自身が足手まといになると悟り、あとはジシンに任せて戻って行く。こうしてジシンと二人きりになったリヴィウスは、自分なりの誠意を見せるため、かつらを取って素性を明かす。そしてカッサンドラに会いに来たのは、毒に侵された妻のニケ・ルメルシエを助けるためだと打ち明けるのだった。

魔女カッサンドラ

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアはジシンにすべてを打ち明け、「惑いの森」に立ち込める瘴気(しょうき)の壁の正体を見抜き、ついにカッサンドラの家にたどり着いた。その過程で先ほどの謎の少女を発見したリヴィウスは、まずは瘴気に侵された少女の手当をカッサンドラやジシンと共に行う。さらに二人から「カッサンドラ」とは森に住む魔女が代々受け継ぐ名前であり、先代のカッサンドラと元老院のラトリクフは親しかったこと、現代のカッサンドラも今回ラトリクフから手紙を受け取っており、リヴィウスが来るのを待っていたこと、そしてカッサンドラとジシンは家族のような関係であることを教えられる。そんなカッサンドラは協力してもいいが、この件を神官庁に知られてはいけないこと、リヴィウスがいくつかの試練を乗り越えなくてはならないことを伝える。リヴィウスはすぐさまこれに応じるが、最初に与えられた試練は、家の掃除をはじめとする家事全般で、日常的なことばかりやらされる。リヴィウスは戸惑いつつも家事をこなしていくが、その日常の中で生きている実感や、身の回りのささいな物事の美しさや尊さを知るようになる。そんなある日、少女が目を覚まし「ツバイ」と名乗る。ツバイは自身の主の命で派遣され、リヴィウスが目的を果たす直前までは手助けするが、最終的にはこれを邪魔してリヴィウスを不幸にするためにやって来たのだという。リヴィウスはこんな悪趣味なことをする人物に心当たりがあるものの、ひとまずカッサンドラ、ジシン、ツバイと共に生活を続けることとなる。

最後の試練

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの精神的な成長を目の当たりにしたカッサンドラは、最後の試練として「龍の口」と呼ばれる恐ろしい洞窟から、最深部に住む主の産んだ卵を取ってくるように命じた。そこでリヴィウスは、カッサンドラの家で飼われているフクロウのシカンダと共に龍の口の中に入るが、そこでシーラに出会って驚愕する。龍の口が恐ろしい場所と知られるゆえんは、主である黄金鳥が龍の口に入った者に幻覚を見せるからだった。一方その頃、バルドウィン・シシル・イフリキアニールの報告を受けて、カラと会っていた。ニールは先日カラがニケ・ルメルシエに対して不審な発言をしており、バルドウィンはその意図を知るため、まずはカラとゆっくり話をしてみることにしたのだ。しかしここでバルドウィンは、カラのよくも悪くもはっきりとした物言いに困惑していた。カラの言うことは確かに正論であり、相手を思ってのものだった。しかし正論すぎて相手を傷つけたり、言い方に遠慮がなさ過ぎて冷たく聞こえたりしていたのである。バルドウィンはカラと口論になってしまうが、バルドウィンもまた言いすぎたことを反省するものの、二人は気まずい雰囲気のまま別れることとなる。そのうえ、神官庁にリヴィウスがカッサンドラに会いに行ったことを嗅ぎつかれてしまう。

太陽王の提案

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアが、カッサンドラに会いに行っていることが神官庁にバレてしまう。神官庁がこれを利用してニケ・ルメルシエを殺害し、リヴィウスを退位させようとしていると気づいたニールバルドウィン・シシル・イフリキアは対策を立てるが、その頃リヴィウスは母親であるシーラの幻覚に襲われていた。しかしリヴィウスは、このままシーラの幻覚と安息の中で生きていくよりも、シーラを救えなかった後悔を抱えながら生きる道を選ぶ。こうして幻覚を振り切ったリヴィウスは、黄金鳥の卵を得て無事に脱出する。そしてカッサンドラの家に戻ると、リヴィウスがカッサンドラの家にいることが神官庁にバレたという衝撃の報せを受ける。リヴィウスはこれでカッサンドラの協力を得られなくなってしまうと焦るが、カッサンドラはリヴィウスが試練を乗り越えた以上、何があっても協力するとすでに決意していた。そこでリヴィウスたちが対策を練っていると、黄金鳥が孵化(ふか)する。これにヒントを得たリヴィウスは、これから黄金鳥をペットとして連れ帰るように、カッサンドラのことも魔女としてではなく、自分の側室として連れていくこと、「惑いの森」の自治権をカッサンドラと盗賊たちに与えることを思いつく。

ファランドール

ニールバルドウィン・シシル・イフリキアは、神官庁からニケ・ルメルシエリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアを守るため、異母兄で神官の一人でもあるラニ・スピラーリに協力を仰いだ。スピラーリであれば大神官に直接会って、ニケとリヴィウスの婚約関係を守って欲しいと頼むことができるからだった。しかしスピラーリはこの件に及び腰で、ニールたちは失望して帰ることになってしまう。だが、現在スピラーリといっしょに暮らしている元神官のラニ・アリステスは、本当はスピラーリがこの件に協力したいのではないかと見抜いていた。そこでアリステスは、過去の経験やこれまでに集めてきた情報を駆使して、スピラーリに協力を申し出る。その直後、リヴィウスは王都に戻り、カッサンドラを側室として紹介していた。王妃を招くには神官庁の許可がいるが、側室であればリヴィウスの一存で迎えられるからである。この法の抜け穴をついたリヴィウスの行動に神官庁は怒り狂うが、カッサンドラは堂々と王宮に入ることに成功し、すぐさまニケの治療を始めるのだった。こうしてついにニケは目を覚ますが、神官庁との件は解決したわけではなかった。そこでバルドウィンは自分の立場と引き換えに、ニケとリヴィウスの婚約関係を守るために神官庁を訪れる。しかしそこにスピラーリとアリステスがやって来る。

転向

ラニ・アリステスが神官庁の悪事を暴き、ラニ・スピラーリが大神官に二人の件を取り成したことで、神官庁はニケ・ルメルシエリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの婚約の件から手を引き、二人は婚約を継続できることになった。これによってバルドウィン・シシル・イフリキアは考えを改め、先日スピラーリを臆病者だと罵ったことを謝罪する。こうして二人の仲は、以前よりも大きく改善されるのだった。一方その頃、ニケはリヴィウスが側室としてカッサンドラを連れて来たことを初めて知り、驚いていた。リヴィウスはこうなった経緯を真摯に説明し、ニケは納得するものの複雑な気持ちを抱いてしまう。そんなある日、ニケやリヴィウス、ニールはジシンの依頼でカッサンドラとお忍びで王都に遊びに行くことにする。カッサンドラはその名を引き継いだ以上、本来は「惑いの森」から出ることのできない存在である。そのため、ジシンは王都にいるうちに、カッサンドラに楽しい思い出を作って欲しいと考えたのだ。しかしその最中、ニケは町中の人々がリヴィウスとカッサンドラの関係を面白おかしく噂していることを知り、傷ついてしまう。

迷宮

ニケ・ルメルシエリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、話し合った末にカッサンドラを側室に迎えるのはやめ、カッサンドラはジシンと共に「惑いの森」に帰ることになった。後日、カラによって制限石が作り直されたことで、ニケは「再接続」の儀式を行うことになる。ニケは毒煙の一件で暴走した際、カラの持つ黒蓮(こくれん)石によって強制的に天空との接続を切られていた。これによって暴走は止まったものの、再び「アメフラシ」を使うには、制限石とカラの協力のもと、天空との再接続を行わなければならなかったのである。そこで二人はさっそく再接続の儀式を行うが、なぜか失敗してニケは能力を取り戻せなくなってしまう。その後、すぐに風の力は戻ったものの「アメフラシ」を行なうことはできず、ひとまずニケたちは様子を見ることにする。そんな中、バルドウィン・シシル・イフリキアはリヴィウスからシーラの霊廟(れいびょう)を作る話を聞かされ、深いショックを受けていた。今でもシーラを思っているバルドウィンは、この件を受け入れられず、シーラの死を受け止めて前に進もうとするリヴィウスを理解できなかったのである。そんなある日、バルドウィンはカラの依頼で地下図書館にいっしょに行くことになる。カラはニケの「アメフラシ」の力を復活させるため、数百年前の古文書を読みたいと考えていたのだ。

デルニタリ温泉郷

バルドウィン・シシル・イフリキアカラと共に地下図書館での出来事をきっかけに、以前よりもシーラへの思いに対して前向きになる。そんなある日、年内の公務を終えたリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、ニケ・ルメルシエと従者たちを連れて慰安旅行を企画する。この旅行に護衛役としてガルタ・バイロイトも同行し、ニケたちは「晴れの大国」領、デルニタリ温泉郷で楽しい時間を過ごす。しかしその最中、ニケはガルタと共に謎の一味にさらわれてしまう。そのうえ薬を盛られて声が出せなくなり、風の力を使うこともできなくなってしまう。

大河の攻防

ニケ・ルメルシエとガルタ・バイロイトをさらったのは、「空の大公国」の国家元首、ネフェロ・スティクス・レテだった。ニケはガルタを人質に取られているために従わざるを得ず、彼らの船で「晴れの大国」と空の大公国の国境があるガビ峡谷を越えようとしていた。対するリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアはこのルートを予測し、大国軍を派遣していた。そこでネフェロは徒歩でガビ峡谷内を行くことで、大国軍を巻こうとする。その途中、ニケとガルタはスキをついて逃げ出そうとするものの、散々痛めつけられているガルタと共に逃げ切れそうもなく、最終的にガルタの治療をしてもらう代わりに、ネフェロに従うことにする。こうして国境を越えたニケは、せめてもの手がかりとして、制限石のイヤリングが入った小瓶を国境のガビ砦(とりで)に捨てていくことにする。

空の大公国

「空の大公国」に連れていかれたニケ・ルメルシエとガルタ・バイロイトは、大公国城に幽閉されてしまう。ニケは現在「アメフラシ」が使えないことから、アメフラシができない自分には利用価値がないだろうことを伝えたのだが、元より長期戦のつもりでいたネフェロ・スティクス・レテには通じず、城で過ごすことを余儀なくされてしまう。一方その頃、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアはニケを見つけられず、一度王都に帰還していた。しかしガビ峡谷に送った使者が、制限石のイヤリングが入った小瓶を見つけたことで、今度は単身空の大公国に潜入することを決意するのだった。そんなリヴィウスをニールは今回も見送ろうとしていたが、王都で出会った少女、ミーナに背中を押されたことで、自分も同行したい気持ちを伝える。これによってリヴィウスとニールは、二人で旅立つのだった。一方のニケは薬を強要されなくなり、通常どおり話せるようになったものの、ネフェロに連れ回される生活が続いていた。そんな中、ニケはネフェロが国家元首とは思えないほど市民たちに馴染(なじ)んでおり、その一人一人の名前を覚えているほど良好な関係を築いていることを知る。ニケはネフェロを嫌う気持ちは変わらないが、空の大公国についてもっと知りたいと思い始めていることを、ネフェロに伝える。

不協和音

ニケ・ルメルシエとネフェロ・スティクス・レテは、塩田の土砂崩れ事件を協力して解決したことで、以前よりもわかり合える関係になっていた。しかしネフェロは、ニケを利用価値のある道具としてではなく、一人の女性としても関心を持つようになり、力ずくでも手に入れたい思いが強くなる。一方その頃、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアニールは「空の大公国」に向かう途中で、「カタラ」という名の若い男性に出会う。そこでリヴィウスはカタラに道案内を依頼し、三人での旅が始まる中で空の大公国にある湖「エルメアラ」の話を聞く。なんでもエルメアラには龍神がおり、かつて災害から空の大公国の人々を救ったことがある。そして今でもエルメアラで「災害の元」を封じながら、国民を守っているのだという。そんなリヴィウスたちがいよいよ空の大公国に近づいて来た頃、ニケはネフェロの行いに怒り、失望していた。ネフェロは市街地の人間も招いた晩餐会で、突如ニケと婚姻関係を結んだとウソの発表をしたうえ、その夜ニケを襲い、無理やり自分のものにしようとしたのだ。これはニケが抵抗したことで未遂に終わるが、ニケはネフェロに裏切られたことで深いショックを受ける。しかしニケが傷つき一人泣いていると、そこへリヴィウスにそっくりな青年が現れる。

邂逅

ニケ・ルメルシエは、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアにそっくりな青年、アルの手引きで大公国城を脱出した。アルは塩田開発を進める食客として「空の大公国」にやって来たのだが、ネフェロ・スティクス・レテの強引なやり方が気にくわず、ニケに力を貸したくなったのだという。その頃リヴィウスたちは、カタラが実は「空の大公国」大公家の人間であり、ネフェロの兄であることを知らされて驚いていた。カタラとネフェロは以前は非常に仲のよい兄弟だったが、数年前父親が病に倒れ亡くなり、同時期にカタラも生と死の境をさまよっていたことで、カタラではなくネフェロが即位した。これをきっかけにネフェロは改革を進め、これまでどおり静かに暮らすべきだと考えていたカタラとは意見が対立。二人の関係は悪化して最終的にカタラは大公家を飛び出し、高地で一人暮らしするようになったのだ。しかしカタラはこれを悔いており、今からでもネフェロがニケを誘拐したり、反「晴れの大国」派の計画に協力したりするなどのよからぬ行動を止めなくてはならないと思っていた。そんな折にリヴィウスたちと出会い、また旅の過程でリヴィウスの人柄を知ったことで、この件を打ち明けたのだ。これを聞いたリヴィウスとニールはカタラに協力することを申し出て、三人はネフェロの悪行をいっしょに止めようと決意するのだった。

ふたつの兄弟

ニケ・ルメルシエは、アルに騙(だま)されて龍神の祠(ほこら)に連れていかれ、祠内の謎の空間に落とされてしまう。アルの目的はニケをネフェロ・スティクス・レテから救うことではなく、ニケのような「雨の公国」の人間をこの祠に連れていくことで、これまで龍神が封じていた「災害の元」を開放することだった。こうしてニケは謎の空間をさまよい、「空の大公国」は地震と豪雨による大災害が発生し、市街地は大ダメージを負ってしまう。事態を知ったネフェロはアルを問い詰めるが、アルにはニケはネフェロに連れてこられただけであり、この事態を引き起こしたのはネフェロではないかと反論されてしまう。一方その頃、豪雨によって事態を理解したリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアたちはガルタ・バイロイトと合流したのち、カタラには市民を避難させるように頼んでいた。こうしてリヴィウスとニールはガルタの案内で祠に向かうが、祠は黒い霧が立ち込めて近づけず、どう突破すべきか悩んでいた。するとそこにアルが現れ、リヴィウスに声をかける。アルの真の名は「アルターリア」といい、リヴィウスとは因縁の深い人物だった。そのためリヴィウスはアルターリアを見ただけで怒り狂うが、アルターリアはニケを止めるための黒蓮(こくれん)石をリヴィウスに手渡し、その場を去っていくのだった。

レジリエンス

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアとネフェロ・スティクス・レテが協力して龍神の祠に突入したことで、黒蓮(こくれん)石に触れたニケ・ルメルシエの能力は強制的に制御され、豪雨は収まった。しかしその直後祠が崩壊し、ネフェロは大ケガをして意識を失ってしまう。これを見たリヴィウスは、もしニケが少しでもネフェロに復讐したいと思っているなら、このまま見殺しにしても構わないと告げる。しかし、ニケは当然これを断り、ネフェロには死んで欲しくないし、リヴィウスにも人殺しをさせたくない気持ちを伝える。こうしてネフェロは救出されひとまず事態は収まるが、市街地や塩田は壊滅。ネフェロも一命は取り留めたものの、両目と両足を失ってしまう。しかしそれでも希望を失わない空の大公の国民の力強さに、ニケは心打たれる。

山の向こうに

「空の大公国」の復興の手伝いを終えたニケ・ルメルシエたちは、このまま「晴れの大国」には帰らず、アルターリアを追って北へ向かうことになる。リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアはニケを国に戻そうと考えていたのだが、ニケはリヴィウスの傍にいたいと考え、ニールとガルタ・バイロイトの四人で旅をすることになったのだ。一方その頃、晴れの大国では「湖(うみ)の王国」の第一王子メンフィス・ライル・ルイサラエルが訪れていた。メンフィスは王子だが考古学研究者でもあり、今は「少雨化」の謎を解明するために「雨の公国」の人間とコンタクトを取ろうと考えていたのだ。そこで、不在のニケの代わりにカラが応じることになる。

慟哭

ニケ・ルメルシエは、北へ向かう旅の途中で、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアから、リヴィウスが王になるまでの経緯を聞かされた。アルターリアはリヴィウスの異母兄であり、子供の頃は親しくしていたものの、やがてすれ違うようになってしまう。そしてこれをリヴィウスの裏切りとみなしたアルターリアは、ある日「晴れの大国」第二王子、オルビア殺しの罪をシーラになすりつけ、シーラを殺したのである。この一件からリヴィウスはアルターリアを憎むようになるが、アルターリアはその後姿を消したため、手出しできなくなっていたのだ。これを聞いたニケは、リヴィウスの壮絶な過去を受け入れ、改めてずっといっしょにいることを誓い、二人の絆はさらに深まるのだった。その頃、カラバルドウィン・シシル・イフリキアは、メンフィス・ライル・ルイサラエルと三人で「少雨化」の謎を知るための旅に出ることになった。メンフィスはこれまでの研究から、かつて非常に高度な文明を築き、天候すらあやつる力を持った「古代人」がいたこと、「雨の公国」の人間は、その古代人をルーツに持つらしいことを理解した。そして先日カラから話を聞いたことで、各地にある謎の碑はその古代の英知とつながっており、少雨化を止めるカギになることを知る。そしてその碑は、遠い北にある「闇の帝国」と関係があるらしいと考えたため、三人はいっしょに闇の帝国を目指すことになったのだ。対するニケたちは、かつてリヴィウスが滅ぼしたウルスラ・レイルイチャーニエの国「氷の王国」があった土地にたどり着いていた。

願いはそれだけ

「元・氷の王国」の王都、フィーガ・イデアールに着いたニケ・ルメルシエたちは、現在統治を任されている「晴れの大国」の将軍タンバ・エンロットと面会する。しかしその夜、ニールとガルタ・バイロイトは、タンバがすでに晴れの大国を裏切っており、今は「カラオス会」に協力していることを知ってしまう。これによってニールとガルタ、ニケとリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアはそれぞれ別々に捕らえられ、ニケたちのもとにウルスラ・レイルイチャーニエが現れる。ウルスラは現在、カラオス会と共に晴れの大国を滅ぼすための計画を進めていた。それにはフィーガ・イデアールの先にある遺跡「閉ざされた神殿」の力が必要なのだが、その起動と制御には「雨の公国」の人間であるニケの力が必要としていた。そこでウルスラはニケを捕らえ、無理やり言うことを聞かせようと考えたのだ。一方その頃、ニールとガルタはニールの古い友人であり、今はカラオス会にいる男性、アインの協力で脱出していた。アインは「空の大公国」でもニールに接触し、いっしょに来て欲しいとニールに頼んでいた。しかしニールがこれを断ったため、それきりになっていたのだ。だが、この度カラオス会の主が計画を早め、これに賛同できないアインは、ひとまずニールとガルタを助けに来たのだった。

共闘

ニケ・ルメルシエリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキア、ガルタ・バイロイトは、アインの手引きでどうにか逃げ出したが、その途中でニールと離れ離れになってしまう。そんな三人を保護したのは、「カラオス会」の総主、タルティーブだった。三人は状況が飲み込めずタルティーブを警戒するが、彼女からカラオス会も決して一枚岩ではなく、ウルスラ・レイルイチャーニエと計画を進めているのはカラオス会の中でも急進派であると教えられる。さらに、タルティーブから現在のウルスラの状況を知ったリヴィウスは、ウルスラを止めることを決意。リヴィウスには、憎しみに任せてすべてを滅ぼそうとしているウルスラが、かつての自分の姿のように思えていた。そんな彼女が、かつての自分のように罪を犯すのは、とても耐えられないと考えたのだ。そんな中、町中に怪文書が貼られ、ニケたちもこれを目にする。この怪文書を、ニールは無事だが返して欲しければ「閉ざされた神殿」まで来いというウルスラのメッセージだと理解したニケたちは、すぐさま向かおうとする。しかしウルスラの仲間であり「晴れの大国」の貴族でもあるベラ卿が、自分も連れて行って欲しいと頼み込んでくる。

悪霊

カラバルドウィン・シシル・イフリキアは、メンフィス・ライル・ルイサラエルと三人で「少雨化」の謎を解明するため「晴れの大国」北東の高原地帯まで来ていた。そこで三人は碑を発見するが、これによって以前ニケ・ルメルシエが龍の祠の謎の空間に彷徨(さまよ)ってしまったように、謎の場所へ落ちてしまう。そこで謎の少女と出会った三人は、彼女を便宜上「悪霊ちゃん」と呼ぶことにして仲間に加える。悪霊ちゃんは過去の記憶を失っているが、大切な人に会いたいという気持ちだけは残っているため、これからカラたちといっしょに碑と少雨化の謎を探る旅をすれば、記憶を取り戻すヒントが見つかるかも知れないと考えたのだ。また、悪霊ちゃんを説得する過程でカラへの思いを自覚したバルドウィンは、カラに告白するのだった。一方のニケ・ルメルシエリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、ベラ卿からウルスラ・レイルイチャーニエが晴れの大国を滅ぼす計画に執心するようになってしまった理由を聞いていた。ベラ卿の父親であるベラ家当主はウルスラの支持者で、積極的に援助を行っていた。しかし、これを理由にウルスラに愛人になれとせまったところ、断わられたためウルスラへの援助を打ち切ったのだ。さらにウルスラは「大国祭」でもリヴィウス暗殺に失敗したため、これを逆転するには計画の実行をするほかないとアルターリアにそそのかされて、現在に至るのである。これを聞いたリヴィウスは、ウルスラを止めるため、ニケの髪の毛を一房お守りとしてもらい、ガルタ・バイロイトと二人で出発する。ニケは神殿に行くと危険であるため、このままベラ卿とタルティーブの家に残ることになるが、そこに「カラオス会」急進派のロミオが訪れ、ニケたちも逃げ出さざるを得なくなる。

カタストロフィ

ニケ・ルメルシエとベラ卿は、協力者の少年、オルサーの案内で「氷の洞窟」を管理するゴドーにかくまってもらうことになった。一方のリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、ウルスラ・レイルイチャーニエの待つ「閉ざされた神殿」にたどり着く。しかしニールの無事は確認できたものの、ウルスラはリヴィウスにまるで関心を持っていない様子だった。これにショックを受けたリヴィウスは、転んだはずみに、神殿内の謎の装置を起動させてしまう。本来この装置は「天象者」つまりニケしか起動できないはずのものだった。しかし装置は、リヴィウスがお守りとして付けていたニケの髪の毛に反応したのだ。しかし髪の毛だけではやはり情報が不足していたことと、その場に天象者のニケ以外もいることで装置は制御不能となり、暴走してしまう。すると突如世界中の気候が乱れ、竜巻や雷が起こり、閉ざされた神殿の万年氷が溶け始める。このまま万年氷が解け続けると、大陸すべてが海にのまれてしまうことに気づいたウルスラは絶望する。アルターリアはそんなウルスラに、これで世界を滅ぼそうとしているウルスラの願いが叶(かな)うし、この程度でうろたえ後悔するのであれば、これまでのウルスラの苦しみにはなんの価値もないのではないかと躊躇(ちゅうちょ)するのだった。

人間

ニケ・ルメルシエとベラ卿は、ゴドーから「氷の洞窟」と「閉ざされた神殿」はつながっていると教えてもらい、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアたちとの合流を目指して神殿へ向かう。一方その頃、リヴィウスたちは氷が溶け始めたことによって足場が崩壊し、リヴィウス、ウルスラ・レイルイチャーニエ、その従者のネロの三人は窮地に陥る。そこでリヴィウスはケガを負い呼吸の止まったネロに人工呼吸して目覚めさせ、三人で協力して脱出を試みる。ウルスラはその最中で、この機会に乗じてリヴィウスを殺すことを考えていた。しかし、いっしょに先に進むうちに今のリヴィウスの人柄を知り、ひとまずこの場で殺すのをあきらめ、最終的には助け合って、ニールや助けに来たアインたちと合流するのだった。そしてそこにニケとベラも到着すると、ニケは幽霊のような存在に声をかけられ、指示に従うよう命じられる。これによってニケと幽霊はいっしょに歌うことで装置を強制終了させ、事態を解決するのだった。しかし幽霊は、この状況は一時的なもので、一度装置が始動させた世界を滅ぼす「破局コード」を完全に止めるには、最北にある「メインシステム」を停止させなければならないと語る。

フィーガ・イデアール会談

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、「閉ざされた神殿」から脱出後、殺される覚悟でウルスラ・レイルイチャーニエの怒りをすべて受け止めた。これによってウルスラは復讐をあきらめ、リヴィウスは「元・氷の王国」の要人を集めてフィーガ・イデアール会談を開き、今後ウルスラに総督を任せたい旨を伝える。本来総督であるはずのタンバ・エンロットは現在行方不明であるため、リヴィウスはウルスラが代役にふさわしいと推薦したのだ。そして会議後、ニケ・ルメルシエ、リヴィウス、ニール、ガルタ・バイロイトの四人は、アインの案内で「黄昏の国」を経由して「メインシステム」のある最北へ出発することになる。アインは「赤眼」と呼ばれる「黄昏の国」の少数民族で、現在の代王とも見知った仲であるため、アインがいれば代王とも会談できると考えたのだ。その途中でニケたちは、アインの妹でニールの友人でもあるセーラの家に宿泊し、過去のアルターリアの話を聞く。その後ニケたちが黄昏の国に到着する頃、カラバルドウィン・シシル・イフリキア、メンフィス・ライル・ルイサラエル、そして悪霊ちゃんに、これまでずっと抱えてきた悩みを打ち明けていた。

告白

以前カラトハラから、「少雨化」を引き起こしている原因は、大陸の各地に封じられている悪霊であることを聞かされていたが、誰にも相談できなかったことを打ち明けた。この悪霊は1000年間何度も大陸を混乱に陥れてきたが、ある日「雨の公国」の人間によって、その身をバラバラにされて各地に封印された。しかし今でも死んだわけではなく、雨の公国を憎んでいる。そのため雨の公国人が近づくと反応して身体を乗っ取ろうとし、これに失敗しても雨の公国人がその土地にいるだけで活性化して強くなる。それに加え、高位術師がそばにいるほど、少雨化を加速させていくのだという。つまり、これまでニケ・ルメルシエカラが碑にいる謎の存在に襲われたのも、この悪霊が雨の公国人を恨んでいるからだったのだ。これを知ったトハラは、すぐさまカラにニケを連れ戻すよう命じていたが、カラはどうしてもそれができないまま、今日に至っていた。しかし、当事者である悪霊ちゃんは、その話に記憶喪失ながら違和感を覚えていた。一方のニケたちは、「黄昏の国」の代王から「メインシステム」は黄昏の国に最奥にあるが、そこへの道を封鎖する二つの氷壁のうちの一つ「イゴシムの氷壁」が、3日前突如消失したことを伝えられていた。

promised land

ニケ・ルメルシエたちが「黄昏の国」の代王と話しているあいだに、「イゴシムの氷壁」だけでなく、もう一つの「イムベルフの氷壁」も消失してしまった。これで最奥に到達しやすくなり、すでに向かっているアルターリアの意のままである。これを案じたニケたちは王の力を借りて、すぐさま最奥を目指すのだった。しかしその途中で、ニケはこれまで感じていた違和感を指摘する。アルターリアの目的が世界の破滅ならば、装置を起動し「破局コード」が動き始めたあと、これを止めようとしているニケたちを殺せばいい話である。しかしアルターリアはそうせず、自らの足で最奥に向かっている。つまり最奥には、アルターリアの真の目的があると推測したのだ。そんな最奥には、2枚の氷壁の向こうに「白い世界」と呼ばれる場所が広がっており、その中心には「アマタアラ」と呼ばれるものが存在していた。このアマタアラこそが「メインシステム」であり、同時に「災いの大元」も封印されていると考えたニケたちは、ついにそれらしきものを発見するが、そこには行方不明となっていたタンバ・エンロットが立ちふさがっていた。

永遠の噓をついてくれ

アルターリアの真の目的は、ニケ・ルメルシエの推測どおり「アマタアラ」に封印された「災いの大元」に会うことだった。しかしいざ目覚めた災いの大元は、アルターリアのことをまるで知らないどころか冷たく振る舞い、すがりつくアルターリアに暴行を加える。そして、これから守護者を引きずり出すと、不思議なことを言い出すのだった。同時に周囲の崩壊が始まり、ひとまずニケたちは、ショックでまともに動けずにいるアルターリアと、アルターリアに同行していたツバイと共にその場を逃げ出す。そんな中、ニケの耳に「閉ざされた神殿」で出会った幽霊の声が聞こえてくる。彼の声に従って近くの塔にたどり着いたニケたちは、「破局コード」の解除を始める。その過程でニケはアルターリアに、もしアルターリアが力を貸してくれるなら、今後自分がアルターリアの存在を肯定し続けると約束する。アルターリアは確かに大罪を犯したが、だからと言ってこの世に必要のない人間ではない。少なくともニケはそう考えており、アルターリアがどれだけ絶望しても、今後もこの世界に生きていていいということを伝えたかったのだ。これに同意したアルターリアの協力により「メインシステム」は止まったかに思われたが、世界は闇にのまれてニケたちが目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。

プリズム

ニケ・ルメルシエたちが到着したのは、その昔古代人たちがこの星を生かすために作った、特殊な亜空間だった。ここには星を守る「守護者」がおり、これまでニケを助けてくれた幽霊の正体は、現在の守護者だった。また、先ほど「災いの大元」が引きずり出そうとしていたのも、彼のことだったのだ。しかし守護者はすでに力のほとんどを失っており、ケガを負ったリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアたちを治療するだけでも辛(つら)そうだった。そこでニケは守護者の力を借りて、今回アルターリアがこのような事件を起こした経緯を教えてもらうことにする。こうしてアルターリアの記憶の世界を見たニケは、アルターリアが「氷の王国」付近の小さな村で母親と共に暮らしていたものの、レオニダス三世の息子であることを疑われたのを機に母親に裏切られ捨てられたこと、死にかけてさまよっていたところを「悪霊の手足」に救われたことを知る。悪霊の手足の目的は「黄昏の国」最奥に眠る「災いの大元」を目覚めさせるため、その資質のある人間を見つけることだった。アルターリアには強い資質があると見た悪霊の手足は、その日から献身的にアルターリアの面倒を見るようになったのだ。そしてアルターリアも、悪霊の手足にはなんらかの目的があるらしいと察しながらも、やがて親子のような関係を築いていく。しかし、悪霊の手足もまた本気でアルターリアを愛し始めたある日、悪霊の手足の身体に限界が訪れてしまう。

プリズム2

時はさかのぼる。「悪霊の手足」は、その身体に限界が訪れたある日、アルターリアにウソをついて、彼に新しい生きる目的を与えることにした。悪霊の手足はすでにアルターリアを利用する気をなくしていたが、このまま自分が死ぬと、アルターリアは生きる希望をなくしてしまうと考えたのだ。そこで、「黄昏の国」最奥に眠る「災いの大元」を目覚めさせれば、もう一度自分に会えるとウソをつくことにしたのだ。こうしてアルターリアはこのウソを信じ、災いの大元を復活させるために動き出す。その過程で「晴れの大国」に入り込み、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアと出会ったのだ。これを知ったニケ・ルメルシエはアルターリアのあまりに過酷な人生を憂えて涙するが、守護者と話すうちに悪霊の手足を復活させることはできなくても、死にかけているアルターリアを助けたり、世界の崩壊を止めたりする方法はあることに気づく。それは、ニケが新たな守護者になることだった。

雨上がりの夜空に

ニケ・ルメルシエは、自分であればこの星を守る「守護者」になれることに気づき、力を失いかけている現・守護者と交代を申し出る。これによって世界は再起動し、闇に染まった世界は一気に晴れる。こうして世界はニケを亜空間に残す形で再生し、アルターリアは、本当にニケが自分を見捨てず、自分の命を救うためにも守護者になったことを知るのだった。しかしすべての問題が解決したわけではなく、カラと悪霊ちゃんは、それから1か月以上が経ったあとも目が覚めることはなかった。二人は先日、カラが「少雨化」の原因を話している最中に倒れ、以来ずっと眠り続けているのである。対するリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、ニケが守護者になる直前まで彼女と話をしたが、結局ニケを止められず、こうなった原因でもあるアルターリアを許すことができずに苦しんでいた。それでも「晴れの大国」に戻ってこれまでどおり執政を続けていたが、そこにツバイがやって来る。

Top Of The World

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアは、ツバイの説得がきっかけで、現在「晴れの大国」離宮で暮らしているアルターリアともう一度話をする。これをきっかけにリヴィウスは、アルターリアも現在死にたいほど苦しんでいること、しかし自分を守ってくれたニケ・ルメルシエのことを思うと死ぬこともできず、なんとか生きていることを知る。この苦しみこそがアルターリアに与えられた罰だと受け取ったリヴィウスは、アルターリアを処刑せず、共に生きていくことを決意。同時にニケのこともあきらめず、亜空間から救い出すすべを模索し始めるのだった。そんな中、カラと悪霊ちゃんが目を覚ます。

メディア化

テレビアニメ

2014年4月から6月にかけて、本作『それでも世界は美しい』のTVアニメ版『それでも世界は美しい』が日本テレビ系で放送された。監督は亀垣一、シリーズ構成は藤田伸三、キャラクターデザインは夘野一郎が務めている。キャストは、ニケ・ルメルシエを前田玲奈、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアを島﨑信長、バルドウィン・シシル・イフリキアを櫻井孝宏が演じている。

登場人物・キャラクター

ニケ・ルメルシエ

東方の鎖国国家「雨の公国」の第四王女。腰まで伸ばした茶色のストレートロングヘアに緑色の瞳を持つ。爽やかで快活な印象の少女で、スタイル抜群。雨の公国の王族に受け継がれる風を吹かせる能力と、雨を降らせる能力「アメフラシ」を持つ。しかし、この能力は持って生まれたものではなく、祖母のトハラのもとで修行をして得たものである。また、この能力は歌を歌いながら行使するため、特技も歌を歌うことで、公国一の歌い手としても知られている。耳には自らの能力を制御するための「制限石」を加工したピアスを付けている。少し乱暴な男性的な口調で話すものの、明るく分け隔てなく周囲の人たちに接する優しい性格の持ち主。また、考えるよりも先に手が出るタイプで、やや直情的なところがある。そのため他者と衝突することも多いが、相手が敵であっても、必要ならば躊躇なく相手に手を差し伸べる度量の広さがある。一方で堅苦しいことや作法は苦手で、非常に庶民的な考え方を持つ。そのためよくも悪くも王族であるという自覚には乏しく、よく周囲に心配されている。ある日突然「晴れの大国」の太陽王であるリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアに嫁ぐことになり、戸惑いつつもこれを受け入れたものの、リヴィウスの横暴な態度に腹を立てる。しかし、すぐにリヴィウスの抱える心の闇に気づき、婚約者として彼と向き合い、支えていく決意をする。身体能力が高く、雨の公国から晴れの大国まで歩いてやって来た。「湖(うみ)の王国」を訪れた際は、アマルナ・ルイラサエルの意向で、正体がバレるまでは男装して「カナリス・ミケーネ」と名乗っていた。

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキア

「晴れの大国」の王を務める少年。愛称は「リビ」。「太陽王」「リヴィウス一世」とも呼ばれる。年齢は11歳。ストレートショートヘアでかわいらしい顔立ちの美少年で、黒髪に黒い瞳を持つ。先王レオニダス三世と側室のシーラとのあいだに生まれた庶子で、容姿も人柄も父親に似ている。しかし、リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキア自身はレオニダス三世とは折り合いが悪く、似ていると言われると嫌悪感をあらわにする。クールで俺様気質ながら王としての才覚は本物で、非常に頭が切れる合理主義者。そのため、即位する前から不安定な国をその手腕で支え、臣民から頼られていた。また、即位後は3年で世界征服を果たし、「太陽王」の名をほしいままにしている。ある日、雨を見てみたいというだけの理由で「雨の公国」に関心を持ち、雨の公国の自治を認める代わりに、四人の王女のうち一人を自分に差し出すよう要求する。これがきっかけで、王女四人のじゃんけんで負けてやって来たニケ・ルメルシエと出会った。当初はニケを生意気で反抗的な女性だと思っていたが、敵対派閥に暗殺されそうになったところを助けられたのを機に、ニケに関心を持つようになる。また、この時にニケから、リヴィウスは物事を美しいと思う心を失っていると指摘され、少しずつ周囲と見聞を広めるようになっていく。もともとは非常におとなしい性格で、知性にあふれる人物ではあったものの、王になるつもりはまったくなかった。しかし、シーラの死をきっかけに復讐に燃え、現在の地位に上り詰めた。ニケに出会うまでは、死んだシーラを思うばかりの空虚な日々を送っていたが、ニケとの交流によって、少しずつ人間らしい心を取り戻していく。一時期女装して「ヴィアンカ」と名乗っていた。

ニール

「晴れの大国」でリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの首席秘書官を務める若い男性。銀色のショートヘアを撫(な)でつけ髪にし、銀の下縁眼鏡をかけている。瞳の色は紫で、クールで落ち着いた雰囲気を漂わせている。身体には子供の頃にアインをかばってできた火傷と打撲の痕があり、人には肌を見せないようにしている。少し皮肉屋ながら、心優しく情に厚い性格をしている。平民出身で叔父(おじ)と二人暮らしだったが、7歳の時に村が夜盗に襲われ壊滅した。そして捕まってしまったニールは売り飛ばされ、裏家業のギルドに二束三文で買い取られた。そこで出会ったアインとセーラと親しくなり家族同然の関係になる。この頃は非力で何もできない存在だと自認していたが、ある日、ニールの視力が弱いことを見抜いたアインから眼鏡をプレゼントされ、読書や勉強に励んでめきめきと頭角を現す。そこでギルドから重宝されるようになり、アインからは私塾の試験を受けるようにと勧められていたが、アインとセーラのそばにいることを優先していた。だが、ある日街が戦火に包まれ、二人と離れてアインに紹介されてスタインベック家の養子に迎えられた。その後、王立アカデミーを卒業後して王宮の文官となり、中央館の役職に就任した。リヴィウスの意向によって、首席秘書官に任命された。リヴィウスといっしょに過ごすようになったのは大戦が終わる頃からのため、リヴィウスの過去については知らないことも多い。しかしリヴィウスの苦悩を理解し、心から仕えている。趣味はカードゲームで、晴れの大国でもトップクラスのプレイヤーである。また、珍しいものが大好きで、旅に出ると行く先々で大量の品々を買い込んだり、自然の貴重な素材を積極的に集めたりしては、リヴィウスに呆(あき)れられている。

バルドウィン・シシル・イフリキア

「晴れの大国」の宰相を務める若い男性。リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの叔父。先王レオニダス三世の末の異母弟でもあり、愛称は「バルド」。腰まで伸ばした金色のストレートロングヘアで、金色の瞳を持つ。華やかなイケメンで、明るく親しみやすい人柄から異性に人気がある。いつも楽しげで暗い表情を見せることがないため、誤解されがちだが、本質的には非常に繊細で傷つきやすい一面がある。リヴィウスの母親であるシーラに思いを寄せていたが、ある日彼女がアルターリアの策略で殺害され、深いショックを受ける。それから数年が経過した現在でもシーラを思い続けており、女性遊びが激しいながらも、特定の恋人を作らないのもそのためである。シーラの暗殺後は、リヴィウスを守るために自分ではなくリヴィウスを王に任命し、自分は宰相としてリヴィウスを支えるつもりでいた。しかし日ごと人の心を失い、残酷な振る舞いをするようになっていくリヴィウスに耐え切れず、ある日出奔。以来ずっと旅を続けていたが、リヴィウスがニケ・ルメルシエと婚約したと聞き、ニケの人柄を見極めるために帰国する。そしてこの時、ニケによってリヴィウスと話し合う機会を得たことで過去のわだかまりが解け、再び宰相に就任した。見た目は悪いが味は抜群という、不思議な料理の腕を持つ。

トハラ

ニケ・ルメルシエの祖母。東方の鎖国国家「雨の公国」の前公王を務めていた老齢な女性。小柄でやや太めの体型で、髪に大きな筒状の二つの髪飾りを付けている。15歳で王位に就いて国を鎖国化した偉大な人物で、国民に慕われている。また、王位をニケの父親に譲ったあとも彼が頼りないこともあり、変わらず国の実権を握っている。冷静沈着で肝も据わっているが、非常に頑固な一面がある。また、ずっと国の統治者として逆らう者がいなかったこともあり、つねに自分の考えが正しいと信じて疑わない。その結果、他人の意思を軽んじる傾向があり、家族も振り回されがちである。リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアが雨の公国から妻を娶(めと)りたいと言い出した時は国を不在にしており、諸国漫遊の旅に出ていた。そのためこの事態を知ってすぐに、自分が体調を崩したとウソをついてニケを帰国させ、そのまま婚約を反故(ほご)にしようとした。これが失敗に終わると、ニケとリヴィウスの関係を認めているものの、ある日世界各地に封印されている悪霊と雨の公国人の関係、そして「少雨化」の原因を知って、再びニケを連れ戻せとカラに命じる。

キトラ

ニケ・ルメルシエの従兄(いとこ)。東方の鎖国国家「雨の公国」の王族の一人でもある少年。癖のある外はねの短髪で、クールで生真面目な性格をしている。幼い頃に両親を亡くし、ニケたち姉妹と共にトハラに育てられた。そのためニケとは兄妹同然の関係ながら、ひそかにニケに思いを寄せている。リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアが、雨の公国から妻を娶りたいと言い出した際には、トハラに付き添っていたため不在で、彼女と共に諸国漫遊の旅に出ていた。そのため帰国してからこの事態を知り、納得できずにトハラと協力してニケを取り戻そうとする。王族の中では能力が低く、雨を呼ぶ力も持っていない。しかし子供の頃、同じように雨を呼べなかったニケが血のにじむような努力を重ねて国一番の歌い手になったことから、ニケを人間的にも非常に尊敬している。

イラーダ・キ・アーク

「砂の皇国」の第一皇太子の青年。「雷帝」と呼ばれ恐れられている。黒髪短髪の長身の美青年で、宝石のような青い瞳を持つ。周囲の国からは実利主義で排他的、自国の利益のためなら手段を選ばない冷たい人物だと誤解されているが、実際は非常に国民思いの心優しい性格をしている。しかし表情や感情表現に乏しかったり、奢侈(しゃし)を好まず堅実を美徳とする砂の皇国民そのもののような考え方を持つことから、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。「少雨化」に苦しむ砂の皇国をよくするために尽力しており、ある日、灌漑設備の視察と水の供給の支援要請のために「晴れの大国」を訪れ、ニケ・ルメルシエと出会う。当初はニケのことを自分たちへの配慮に欠ける失礼な女性だととらえていたが、ニケがすぐに謝罪したことや、砂の皇国の実情を知りたいと国までついてきたことから、少しずつ考えを改めて心を開くようになっていく。また、その過程でニケの人柄と「アメフラシ」の能力の凄(すご)さに惹かれ、思いを寄せるようになる。そこでニケを砂嵐で遭難したことにし、砂の皇国にとどまらせようとするが、従者のファラハに諫められたこともあり、最終的にはニケの意思を尊重した。

ファラハ

イラーダ・キ・アークの従者を務める少女。銀髪を肩まで伸ばして段をつけた髪型で、小柄な体型に褐色の肌を持つ。女性的なかわいらしい見た目と、男性的な快活さのある中性的な人物。少し乱暴な口調で話し、一人称は「俺」。正義感の強い姉御肌で、やや怒りっぽいところはあるが、非常に心優しく情に厚い性格をしている。幼い頃は泥棒を生業としていたが、ある日イラーダの持ち物を狙ったことでその身体能力の高さを気に入られ、イラーダと交流を持つようになる。やがてイラーダの心優しく自己犠牲的な人柄に触れ、イラーダの忠臣となった。そんなある日、イラーダに付き添って「晴れの大国」を訪れ、ニケ・ルメルシエと出会う。当初はニケのことを自分たちへの配慮に欠ける失礼な女性だととらえていたが、ニケがすぐに謝罪したことで、悪意はなかったことを理解する。そこですぐに考えを改めて、身分を越えた友人として親しくなる。相手が目上であっても、思ったことははっきりと言うタイプだが、その発言にはつねに愛情と思いやりがある。このことがニケやイラーダをはじめとした周囲の人物の心を動かすことも多い。

アマルディナ

「砂の皇国」の皇女。イラーダ・キ・アークの妹で、故人。金色のロングウェーブヘアに金色の瞳を持つ美しい少女で、丁寧なお嬢様口調で話す。快活な性格で、活動的で研究熱心なところがある。砂の皇国をよくするために周囲の水の状況などを観察しては、今後の国の環境改善に役立てようとしていた。イラーダとは非常に仲がよく、いっしょに緑豊かな砂の皇国を作ろうと約束していた。しかし流行り病によって命を落とし、これがイラーダの心に深い影を落とすこととなった。

アマルナ・ルイラサエル

「湖(うみ)の王国」第一王女。リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの友人。金髪碧眼(へきがん)の美少女で、ストレートングヘアをツインテールにしている。あだ名は「ルナ」。勝ち気ながら生真面目な性格で、思ったことをはっきりと口にする。よくも悪くも他人の目を気にしないため、即位するまで「晴れの大国」でひどい扱いを受けていたリヴィウスとも親しくしていた。一方、傷つきやすいバルドウィン・シシル・イフリキアとは相性が悪いが、お互いに苦手意識があるだけで本気で嫌っているわけではない。当時からリヴィウスに思いを寄せていたが、シーラが暗殺されてからリヴィウスが変わってしまったことで、距離ができてしまう。そんな中、リヴィウスがニケ・ルメルシエと婚約したことを知り、晴れの大国を訪れたことでニケと知り合った。当初はニケをライバル視していたものの、すぐにその人柄に触れて友人関係となり、リヴィウスへの思いをキッパリとあきらめる。しかしそれからしばらく経ったある日、今度は自由自治州フォルティス領の公爵、クロードと結婚させられそうになり、これを破談にするためにニケたちに助けを求めた。なかなか素直になれないところがあるが、自分の非を素直に認められる潔さがある。また、王族としての責任感も強く、国のあるべき姿を真摯に考えている。そのためクロードのことも最初は快く思っていなかったものの、お互いの人柄を知って打ち解けていく。

テーベ・ルイラサエル

「湖(うみ)の王国」第二王子の少年。メンフィス・ライル・ルイサラエルの弟で、アマルナ・ルイラサエルの兄。顎まで伸ばした金髪のボブヘアで、中性的でかわいらしい顔立ちをしている。おっとりとした素直な性格で、穏やかで丁寧な口調で話す。少しずれた享楽的な両親を持ちながらも、常識的でしっかりとした倫理観を持っているが、少々天然気味なところがある。また趣味も女性的であることから、テーベ・ルイラサエル自身は男らしさに欠けると感じているため、男性的なものにあこがれる傾向にある。ある日、アマルナとクロードの縁談が持ち上がり、これを阻止するためにニケ・ルメルシエたちがやって来たことで、ニケと知り合う。この時、ニケが男装していたことから男性とカンちがいした。その後正体を知ってからも、勇敢で頼りがいのあるニケのことを理想的な男性像だとして慕うようになる。実は剣術を習っており、いつか自分自身の力で大切な人を守りたいと願っている。

クロード

自由自治州フォルティス領の公爵を務める若い男性。黒髪を撫で付け髪にし、口ひげと顎ひげを蓄えている。やや軽薄な雰囲気を漂わせ、何を考えているのかわからないところがある。しかし、実際は知的かつ誠実な性格ながら、目的のためなら自分は悪く思われてもいいと考えていることから、誤解されやすい。フォルティス領の公爵として海を冒険したり、となりの領主の悪事を暴いて子供たちを助けたりと、周辺のトラブルを解決しながら暮らしている。そんなある日、「黒リゼリア」と呼ばれる麻薬の原料が自治州やほかの地域に蔓延(まんえん)していることを知り、これを売りさばく犯人を突き止めようとした。そこで犯人と目星を付けた「海(うみ)の王国」の王家に、アマルナ・ルイラサエルとの縁談を理由に入り込み、調査を始めた。この経緯からアマルナと結婚する気はなく、事件が解決すれば破談にするつもりでいた。しかしアマルナと接するうちにその人柄に触れ、年齢差を超えて本気で惹かれるようになる。

ウルスラ・レイルイチャーニエ

すでに滅んでしまった「氷の王国」の第一王女。プラチナブロンドのウルフボブヘアで、金色の瞳を持った色白の美少女。以前は素直で感受性が豊かな心優しい性格だったが、現在は国を滅ぼしたリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアと「晴れの大国」に復讐心を抱くあまり、冷徹で残酷な「氷の女」であろうとしている。しかし、本来の温かく人間味あふれる人柄が、信奉者のベラ卿をはじめとする周囲の人々には愛されている。子供の頃にリヴィウスによって故国を滅ぼされ、家族や婚約者、種族を超えた友人、アーウラをはじめ、大切な人のほとんどを失ってしまう。それでも従者のネロと共に生き延びるが、リヴィウスに政略結婚をせまられ、耐え切れずに与えられた城に火を放って逃げ出した。以来リヴィウスへの復讐を誓い、ベラ家や反・晴れの大国派の組織「カラオス会」の援助を受けながら、その機会をうかがっていた。そこでリヴィウスの生誕祭である「大国祭」で暗殺計画を立てるが、この時ニケ・ルメルシエと出会い「スラン」と名乗って近づく。この暗殺計画に失敗したあとはベラ家から援助を打ち切られ、精神的に追い詰められていた時に、アルターリアにつけこまれてしまう。

カラ

「雨の公国」の第三公女。ニケ・ルメルシエの姉の一人。オレンジ色のベリーショートヘアで、細身の体型をしている。幼い頃から周囲を観察する力に長(た)け、どうしたら物事がうまく進み、どう言えば意思が伝わるかを考えながら育った。そのため器用な人物ととらえられがちだが、実際は繊細な一面を持つことから、何か事件が起きても傍観者に徹しがちで、自分の悩みを他人に打ち明けるのも苦手である。トハラが絶対の存在である雨の公国においても、自分の考えをはっきりと持っており、ニケがリヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアを伴って一時帰国した際にトハラと対立してでも、カラ自身が正しいと思う道を歩むことを決めてニケたちを助けた。しかしその後、トハラから「少雨化」の原因と各地に封印された悪霊の件を知り、無理やりにでもニケを連れ戻すよう命じられてしまう。それでもニケの自由を願って一人悩んでいたが、バルドウィン・シシル・イフリキアとメンフィス・ライル・ルイサラエルとの出会いにより、変化していく。基本的に人の気持ちを推し量るのが苦手で、よかれと思った言動が人を傷つけてしまうことがある。カラ自身もこのことに悩んでいたが、バルドウィンたちとのかかわりの中で少しずつ変わっていく。

アルターリア

リヴィウス・オルヴィヌス・イフリキアの異父兄。リヴィウスにとって最大の敵でもある。リヴィウスと同様に非常に父親似で、黒髪短髪の長身のイケメン。しかし幼い頃、実の母親につけられた大きな傷跡が顔の中心にある。一人称は「私」で、口調も柔らかいことから中性的な印象を与える。「氷の王国」付近の小さな村で母親と共に暮らしていたが、ある日「晴れの大国」国王であるレオニダス三世の息子であることを疑われたことから、母親に裏切られ捨てられてしまう。息も絶え絶えにさまよっていたところを、世界を憎んでいる心を買われて「悪霊の手足」に救われた。悪霊の手足とは良好な関係を築き、親子同然の関係になるが、ある日悪霊の手足の身体に限界が訪れて亡くなる。それからは、「黄昏の国」最奥に眠る「災いの大元」を目覚めさせれば、もう一度悪霊の手足に会えるというウソを信じて、世界を滅ぼすための活動を続けている。一見物腰柔らかく穏やかに見えるが、悪霊の手足以外の者は虫けら同然に考えている冷徹な性格の持ち主。目的のためには手段を選ばず、リヴィウスの母親、シーラを殺したのもアルターリア自身である。本名は「レオニダス」だが、悪霊の手足に拾われた際に、花の名前から「アルターリア」と名づけられた。そのため「アル」というあだ名で呼ばれることも多い。また「空の大公国」にいた際は、塩田開発を手伝う食客「クマイア卿」として活動していた。

書誌情報

それでも世界は美しい 全25巻 白泉社〈花とゆめコミックス〉

第1巻

(2011-12-20発行、 978-4592188728)

第25巻

(2020-08-20発行、 978-4592216407)

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