つれづれ花譚

つれづれ花譚

ノスタルジックな雰囲気を漂わせた「少し前の日本」を舞台に、その時代に暮らすふつうの人たちの、何げない日常の一コマを描いたオムニバス短編集。さまざまな花にまつわるエピソードが語られ、その花を絡めた人間ドラマが展開される。「増刊 主任がゆく!スペシャル」vol.117からvol.118にかけてと、vol.121からvol.131にかけて掲載された作品。またコミックス刊行にあたり、描き下ろしのエピソードも収録されている。

正式名称
つれづれ花譚
ふりがな
つれづれかたん
作者
ジャンル
日常
関連商品
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あらすじ

花屋を訪れた昭子は、野崎の勧めもあり、コスモスの花を購入する。昭子は頻繁に花屋を訪れているが、実際は花が好きというよりも、思いを寄せている野崎と親しくなるためのきっかけづくりのためだった。しかし昭子は、今日も野崎とうまく会話することができず、暗い気持ちのまま帰宅する。(第1話「彼女が花を買う理由」)

登場人物・キャラクター

昭子 (あきこ)

エピソード「彼女が花を買う理由」に登場する。頻繁に花屋「野崎生花店」を訪れ、花を購入している少女。幼い頃に店を訪れた際、親切に接客してくれた野崎に片思いをしている。毎回花を購入しているが花が好きというよりも、野崎と接点を持ちたいという気持ちが強いが、なかなか勇気が出せずに何度もチャンスを逃している。野崎に昭子自身が認識されているのかもわからず、思い悩んでいる。

(みのる)

エピソード「運ぶ人」に登場する。花屋「野崎生花店」で長年勤務している男性で、野崎がまだ幼い頃からの付き合い。まだ小さかった野崎を仕入れに連れて行ったことで、彼が花好きになり「野崎生花店」を継ぐきっかけをつくった。感情を表に出すことがなく、不愛想でクールな性格ながら、面倒見がいい一面もある。

女中 (じょちゅう)

エピソード「女中の一日」に登場する。地元の名士である前田家で、女中として働き始めたばかりの女性。失敗をしながらも少しでも早く仕事に慣れようと、一生懸命に働いている。田舎に両親がいるため、心配かけないように頻繁に近況を綴った手紙を書いている。毎日同じことを繰り返していたある日、近所の見知らぬ書生から梅の枝をもらって胸をときめかせる。

クマ

エピソード「菫の君」に登場する。出版会社「文化出版」で編集者を務める若い女性。先生を担当しており、彼の筆を進めるために好物や資料を用意するなど、さまざまな方法でサポートを行っている。クールな性格で、感情を表に出すことはなく、仕事にも淡々と向き合っている。誰よりも熱心な先生ファンであり、クマ自身を一般読者として偽り、ひそかに感想を綴った手紙を渡している。

夏目 博 (なつめ ひろし)

エピソード「呑気は剛毅」に登場する。小学校に通っている男子で、クラスでは委員長を務めている。成績も優秀で性格もサバサバしているため、周囲からの評価も高い。遅刻を繰り返すクラスメートの正太郎が、いったい何を考えているのか理解できずに冷たい態度を取っている。しかし、ひょんなことから正太郎との接点が生まれ、彼への誤解を解くようになる。

零二 (れいじ)

エピソード「思案のほか」に登場する。整った容姿の女好きの青年で、いわゆるプレイボーイ。どんな女性にも優しく接し、甘い言葉をささやく。友人からはその様子をあきれられているが、零二自身は女性に喜んでもらうことを何よりの楽しみにしているため、まったく気にしていない。行きつけの洋食レストランの給仕をしている女性たちにもたびたび花を贈り、くどいているが、一人だけ嬉しそうな顔をしない澄のことが気になっている。

佳央里 (かおり)

エピソード「盛夏の候」に登場する。栄吉の孫で、裕福な商家の家庭に育った少女。女学校に通ったあとに舞の稽古、家の手伝いと毎日忙しく過ごしている。夏の暑さにうんざりしており、日当たりがよすぎて風通しの悪い部屋で行われる舞の稽古を、いつも憂鬱な気持ちで迎えている。年齢の割にしっかりとした考えを持っており、面倒見のいい性格をしている。妹の喜見の世話も積極的に行っているため、近所の大人からは親孝行な娘だと評判が高い。しかし、舞の稽古の前に立ち寄る髪結屋のタツにだけは気を許しており、子供らしい一面を見せる。

栄吉 (えいきち)

エピソード「夏のさくら」に登場する。商家として代々栄えている一族の男性で、高齢のために表舞台からは退いており、隠居生活を送っている。孫に佳央里と喜見がいる。子供や孫にも恵まれているが、幼い頃に病死した娘のことが忘れられずにいる。喜見から病死した娘が好きだった、紙でできたオルゴールの一種「紙腔琴(しこうきん)」を聴かせてほしいとねだられ、久しぶりに音を鳴らすことにする。

高志 (たかし)

エピソード「甘い香り」に登場する。小学校に通う少年で、頻繁に父親のタバコを買いに行かされている。いつもはタバコ屋の店番をしているキンに代わって、孫のフミが店番をするようになったことで、フミに淡い恋心を抱くようになる。やんちゃな性格で、親に対して生意気な口をきくことが多い。

キン

エピソード「変わらないもの」に登場する。須納子と幼なじみの高齢な女性。タバコ屋に嫁いできて、ふだんは店番をしている。しかしギックリ腰になり、店番を孫のフミに代わってもらって今は静養している。見舞いに駆けつけてくれた須納子と、思い出話に花を咲かせている。須納子のことを大切な友達だと思っており、結婚する際にも彼女とこれからも同じ街に住めるようにと、近所のタバコ屋に嫁いでいる。

テル

エピソード「園田家のクリスマス」に登場する。年が離れた三人の兄がいる、末っ子の幼い少女。近所に住む喜見から「クリスマスの日にサンタクロースが、いい子にだけプレゼントを持ってくる」という話を聞き、自分にも来てくれるのではないかと期待する。しかし、テルの家ではクリスマスを祝う習慣がなく、兄たちを悩ませている。

野崎 (のざき)

エピソード「彼女が花を買う理由」「運ぶ人」に登場する。眼鏡を掛けた優しそうな青年で、花屋「野崎生花店」を切り盛りしている。親族が野崎生花店を経営していたが、野崎が継いだかたちとなっている。幼い頃の昭子が母親への贈り物のために野崎生花店を訪れた際、親切に接したことがきっかけで、彼女から片思いされることとなった。何度も昭子の接客をしているが、彼女から思いを寄せられていることには気づいていない。実からは「坊ちゃん」と呼ばれている。

先生 (せんせい)

エピソード「菫の君」「変わらないもの」に登場する。文筆業を生業にしている男性で、クマが担当編集を務めている。才能はあるもののかなりの遅筆で、クマにさまざまなサポートを受けている。クマが自らの大ファンであることは知らず、彼女が一般読者として偽り、ひそかに感想を綴った手紙を渡されることを毎回楽しみにしている。作家としてはすばらしい才能を秘めているものの、私生活ではいい加減で面倒くさがりな性格の持ち主。キンが店番を務めるタバコ屋の常連でもある。

正太郎 (しょうたろう)

エピソード「呑気は剛毅」に登場する。小学校に通っている男子で、夏目博とクラスメート。頻繁に遅刻を繰り返し、授業中も上の空で担任から怒られることが多い。しかし、正太郎自身はまったく気にすることなくマイペースな言動で、博から呆れられている。地味な容姿の穏やかな性格で、いつも笑顔を絶やすことがないが、今一つつかみどころがない。大家族の長男で、父親が早く他界したことから、きょうだいと支え合いながら生活している。

(すみ)

エピソード「思案のほか」に登場する。零二が行きつけの洋食レストランで、給仕として働いている若い女性。零二が来店のたびに、給仕をしている同僚たちに花や甘い言葉を贈っているが、その様子を冷ややかな目で見ている。華やかなタイプの多い同僚の給仕たちと比べると、地味で目立たない容姿をしている。また社交的ではなく、口数も少ない。

タツ

エピソード「盛夏の候」に登場する。佳央里が舞の稽古前に立ち寄る、髪結屋で働いている女性。のんびりとしたマイペースな性格で、つねに人の目を気にしてしっかり者を演じている佳央里から慕われている。自分の前では年相応の子供らしい表情を見せてくれる佳央里のことを、かわいらしいと感じている。

喜見 (きみ)

エピソード「夏のさくら」に登場する。栄吉の孫で、裕福な商家の家庭に育つ幼い少女。姉に佳央里がいる。栄吉の家で偶然、紙でできたオルゴールの一種「紙腔琴(しこうきん)」を見つけ、音を聴かせてほしいと栄吉におねだりする。栄吉からは幼い頃に病死した娘に似ていると思われている。活発な性格で年相応にわがままな一面もあり、たびたび佳央里を困らせている。

フミ

エピソード「甘い香り」「変わらないもの」に登場する。キンの孫で若い女性。ギックリ腰になったキンの代わりに、タバコ店の店番をするようになり、頻繁に父親のタバコを買いに来る高志と顔見知りになる。高志のことはやんちゃな小学生としか認識しておらず、高志から淡い恋心を抱かれていることには気づいていない。既婚者で、もうじき子供が生まれる予定。

須納子 (すなこ)

エピソード「変わらないもの」に登場する。キンと幼なじみの高齢な女性。キンがギックリ腰になったと聞き、彼女の好物や本を持って見舞いに駆けつけた。キンに対しては憎まれ口を叩くことが多いが、内心では大切な友達だと思っており、誰よりも大切な存在だと考えている。キンの孫のフミとも顔見知りで、仲もいい。キンからは「スーちゃん」と呼ばれている。

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