問題児の隠れた才能に魅了される優等生
周囲から妬まれたり嫌われたりすることを恐れる清水史郎は、学校では目立たないように過ごしていたが、そんな日々にどこか退屈さを感じていた。ある日、図工の時間に変わり者として知られる信楽大伍が、見事な紙粘土作品を作り上げるのを目撃する。大伍に興味を持った史郎は、彼の迷惑にならないようにこっそりと観察を始める。そんな中、偶然にも自宅の向かいにあるドクダミ畑で、大伍が草人形を作っているところを見かける。それ以来、自宅から大伍の作業を見守ることが日課となる。するとある夏の日、長時間作業をしていた大伍が畑で倒れ込んでしまう。熱中症を疑った史郎は慌てて駆け寄って大伍に水をかけ、彼を自宅に招き入れて衣服を乾かしながら食事を振る舞う。こうして私的な接点を持った清水と大伍は、やがて友人として交流を深めていくことになる。
対照的な二人の奇妙な友情
裕福な家庭に生まれ、成績優秀で運動神経も抜群の史郎は、まさに完璧な優等生。一方、大伍は落ち着きがなく、些細なことでパニックになったり怒り出したりするため、周囲からは問題児として扱われていた。史郎は、大伍が自分とかかわることで傷つくのではないかと心配し、距離を置いて接していたが、彼に興味を抱いてからは一転、大伍となかよくなるために積極的に行動するようになる。大伍も、史郎が自分とかかわると妙にハイテンションになることに戸惑いながらも、彼の純粋な好意を感じ取っていた。やがて二人は、図工の時間だけでなく、ほかの活動でもいっしょに過ごすようになり、互いの個性を認め合いながら友情を育んでいく。
個性豊かな登場人物たち
史郎と大伍の周囲には、家族やクラスメート、教師など、彼らに劣らず個性的な人物が多く存在する。特に、二人の担任である小鹿田先生は、授業の一環として行っている交換日記を通じて、史郎と大伍の近況を把握していた。二人の奇行とも言える行動に内心ツッコミを入れつつも、彼らの友情を温かく見守っている。大伍の母親であるアミもまた、息子同様に不思議な言動で周囲を翻弄しているが、大伍や家族に対する愛情は深く、彼となかよくなりたいと願う史郎や、彼の母親である麗子にも分け隔てなく接する。こうした個性豊かな登場人物たちが織り成す、遠慮のないやり取りは、テンポのよい物語展開に一役買っている。
登場人物・キャラクター
清水 史郎 (きよみず しろう)
焼成市立小学校に通う5年生の男子。裕福な家庭に育ち、父親の清水誠、母親の清水麗子と共に暮らしている。年の離れた姉は一人暮らしをしている。文武両道の優等生で、教師やクラスメートからの信頼も厚い。ふだんは思慮深く理知的な性格で、周囲から妬まれたり嫌われたりすることを何よりも恐れている。しかし、内心ではクラスメートたちを辛辣に評価したり、家族に対しては外面のいい顔を見せるなど、小学生らしい二面性を持っている。当初はクラスで腫れ物扱いされている信楽大伍を敬遠していたが、図工の時間に彼が作った作品に心を奪われ、大伍の内面を知りたいと強く願うようになる。しかし、大伍への興味が強すぎるあまり、挙動不審になってしまい、彼から「落ち着きがない」と指摘されることもある。
信楽 大伍 (しがらき だいご)
焼成市立小学校に通う5年生の男子。母親のアミとおばのマリ、そしてマリの六人の子供たちと共に暮らしている。学校では落ち着きがなく、些細なことで怒ったりパニックになったりすることが多い。しかし手先が器用で、図工の時間に作った紙粘土作品や、ドクダミ畑で作った草人形は清水史郎からも高く評価されている。また、子供たちの扱いや身近な大人への気遣いにも優れている。信楽大伍は、自分が理解されないと癇癪を起こすことがあるが、一方で難しいことでも理解しようと努力する生真面目な一面も持っている。クラスメートたちに手を焼かせることが多く、クラスでは浮いた存在で、大伍を理解しているのは担任の小鹿田先生だけだった。しかし、史郎とかかわるようになってからは、戸惑いながらも彼の好意を受け入れるようになる。
書誌情報
どくだみの花咲くころ 3巻 講談社〈アフタヌーンKC〉
第1巻
(2024-05-22発行、978-4065354971)
第2巻
(2024-12-23発行、978-4065377215)
第3巻
(2025-06-23発行、978-4065397282)







