はめつのおうこく

はめつのおうこく

魔女が魔法で人間を助けていた平和な世界は、科学力を持った人間たちによってディストピアへと変貌した。師匠にして最愛の女性だった魔女のクロエ・モルガンを人間たちに惨殺された青年、アドニスが、すべての人間に復讐するため奔走する姿を描いたダークファンタジー。「月刊コミックガーデン」2019年5月号から掲載の作品。

正式名称
はめつのおうこく
ふりがな
はめつのおうこく
作者
ジャンル
ダークファンタジー
 
恋愛
レーベル
BLADEコミックス(マッグガーデン)
巻数
既刊11巻
関連商品
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あらすじ

魔女が魔法を使って人間を助け、平和を築くよう神に告げられた世界。しかし、圧倒的な科学力を手にしたリディア帝国の皇帝、ゲーテは、人間の進歩のために魔女の不要論を掲げ、突如、魔女の殲滅(せんめつ)作戦を実行し始めた。最愛の女性であり「氷結の魔女」と呼ばれたクロエ・モルガンを眼前で惨殺されたアドニスは、自らもリディア帝国の永年幽閉刑に処されながら、復讐の機会をうかがい、その手段を講じ続けていた。10年が経ち、アドニスが幽閉されるメイヘム捕虜収容所に「愛の魔女」と呼ばれるドロカが捕虜に扮して潜入し、アドニスを脱獄させることに成功する。すぐさまリディア帝国の国民を惨殺していくアドニスだが、不意を突かれ、危機に陥ってしまう。やがてアドニスの死体を晒(さら)した兵士がリディア帝国国民の歓声を浴びるが、その死体は複製であり、本当のアドニスは魔女たちが新たに作った魔女の国「月園」に転移させられていた。そこでアドニスは魔女たちのリーダーであるオフィーリア・クレメンタインから、クロエを再生させるために助力を求められる。

関連作品

漫画

本作『はめつのおうこく』の物語は、yoruhashiの『剣の王国』と密接に関係している。『剣の王国』ではドロテーア・グレーテがヒロインとして登場しており、父親を救うため、国内で暴虐の限りを尽くす女王にして愛の魔法を使う魔女を討つべく、主人公のアルフレド=ペンドラゴンと行動を共にしている。また、シロウサギと非常に容姿が似ている「白兎のジョーカー」というキャラクターも登場する。

登場人物・キャラクター

アドニス

魔女のクロエ・モルガンに育てられた青年。ボサボサの黒髪に太いまゆ毛をしている。クロエから記述式召喚魔法を教わったため、ふつうの人間ながら羽根筆を使って魔法を発動させることができる。クロエが処刑されたあとは脅威レベルSSとされ、アイアン・メイデン型の強固な牢の中で永年幽閉刑に処されていた。心からクロエを愛しており、「クロエの命は全人類の命より尊い」と考えている。そのため、クロエを惨殺したリディア帝国の国民、ひいては人間そのものを憎んでいる。人間を殲滅させることだけを生きる目的としているため、メイヘム捕虜収容所から脱獄した直後、リディア帝国を魔法で強襲した。一度はオフィーリア・クレメンタインにそそのかされ、クロエを再生しようとしたが、かつてクロエ本人が生きることに苦しんで涙していたことを思い出し、クロエの再生を取りやめてドロカを再生させた。

ドロカ

男性に好意を抱かせる魔法を使う魔女の少女。ピンク色の髪を長く伸ばしている。アドニスを救うためにリディア帝国の捕虜としてメイヘム捕虜収容所に潜入していた。アドニスを脱獄させることに成功したあと、魔女たちがクロエ・モルガンを再生しようとしていることだけを伝えたものの、一度はリディア帝国の兵士たちによって殺害されている。死の直前、オフィーリア・クレメンタインが、自分たちが利用するためにクロエを再生させようとしていることをアドニスに伝えていた。また、アドニスが憎しみがあふれる世界にクロエを再生させることを嫌ったこと、さらにクロエの再生に関する情報を与えてくれたドロカに借りを作ることを嫌がったことから、借りを返す意味で世界樹から再生されることとなった。敵であっても傷つけることをよしとしておらず、和睦を求めている。「愛の魔女」とも呼ばれている。

クロエ・モルガン

氷をあやつる魔女。銀色の長い髪をポニーテールにしている。アドニスに魔法を教えた師匠でもあり、リディア帝国が魔女を処刑し始めたことを知り、アドニスを連れて魔女に寛容な国へ逃げようとしていた。また、本来は魔女だけの能力である魔法をアドニスに教えたことから、魔女の国を追放されている。そのことから、アドニスを唯一の拠り所としており、人間からの攻撃に対しては逃亡と抵抗戦を繰り返していたが、最終的に魔法光子抑制装置によって魔法を無効化され、ゲーテによってアドニスの眼前で惨殺された。アドニスが記述式召喚魔法を発動させるために使用する羽根筆の製作者であり、人間の奴隷や子供を拉致して記述式召喚魔法を教えて代理戦争をさせようと企んだオフィーリア・クレメンタインたちによって再生を計画されている。「氷結の魔女」とも呼ばれている。

ゲーテ

リディア帝国第23代皇帝の座に就く壮年男性。茶色の髪をオールバックにし、口ひげを蓄えている。人間の進歩のためには、人間を圧倒的弱者として扱う魔女を絶滅させるしかないと語り、魔女を絶滅寸前に追い込んだ。科学によって急速に国内を発展させ、その変革を超産業革命と名づけている。「アンドロメダ」を名乗り王妃となったドロテーア・グレーテを溺愛している。

ドロテーア・グレーテ

魔女の少女。茶色の長い髪をロングヘアにしている。リディア帝国の皇帝、ゲーテの王妃であり、ゲーテの死後は女王として君臨している。アンドロメダ銀河が故郷だと話しており、それにちなんで王妃の頃は「アンドロメダ」を名乗っていた。また王妃として暗躍していた頃は、顔を隠すヴェールを付けており、表に立つことはなく、陰からゲーテに対して魔女を絶滅させるようそそのかしていた。多重奏宇宙を移動することができると自称しており、何者かを生き返らせるためにアドニスの首を欲している。「未知の魔女」とも呼ばれている。

シロウサギ

リディア帝国の国家諜報局局長を務める男性。ドレッドヘアにサングラスをかけ、テンガロンハットをかぶっている。ドロテーア・グレーテが王妃「アンドロメダ」を名乗っていた頃からドロテーアの本名や、魔女である事実を知ったうえでドロテーアに忠誠を誓っていた。また、ドロテーアが何者かを生き返らせるためにアドニスの首を欲していることも理解しており、アドニスを追っている。ドロテーアからは「ウサギちゃん」と呼ばれている。

パルポル

リディア帝国にあるメイヘム捕虜収容所の看守長を務める男性。青髭の目立つ彫りの深い顔立ちで、非常にふくよかな体型をしており、オネエ口調で話す。女性の顔が苦痛に歪むのを好み、メイヘム捕虜収容所に収容している女性たちを性奴隷として国民に提供している。

ヤマト

リディア帝国の国家保安局局長を務める男性。骨太で筋肉質な体型に、丸刈りで非常に大きな福耳をしている。皇帝であるゲーテの代理として、独断で兵士に命令を下せる立場にある。魔女を邪悪な種族だとかたく信じているため、人間でありながら魔法を使用するアドニスのことも嫌悪している。また妹であるユキを大切にしており、アドニスがリディア帝国を強襲した際に、ユキが高濃度放射線を放出する魔法光子抑制装置を起動して急性被爆したことで、アドニスを強く憎んでいる。シータ・サマンスタからは「ヤマト坊」と呼ばれている。

シータ・サマンスタ

リディア帝国の国家科学局局長を務める女性。ワンレンのミディアムヘアで、白衣を身につけている。ヤマトやユキを幼い頃から知っている様子で、二人を叱責することもある。魔法光子抑制装置が起動すると高濃度の放射線が放出されることを知っており、ユキが魔法光子抑制装置を起動した際には急性被爆を覚悟で停止に走った。急性被爆したが、月園の存在がリディア帝国に知られてからは、人工呼吸器などが備え付けられた車椅子姿で会議に招集されている。

ユキ

リディア帝国の国家保安局副局長を務める少女。年齢は14歳。長い金髪を下ろしたままにしており、太く丸いまゆ毛と、頰に丸いチークを乗せている。ヤマトの妹で、ヤマトを非常に慕っており、ヤマトの役に立つことを第一に考えている。アドニスがリディア帝国を強襲した際には、高濃度放射線を放出する魔法光子抑制装置を起動して急性被爆した。

エーコート

リディア帝国の首都警備局局員の青年。中性的な顔立ちの痩身で、色素の薄い柔らかな髪をしている。片言ながら、誰に対しても気やすく接し、ヤマトからの指令に対しても「ウィーっす」など気軽に応じている。超長距離からの狙撃を得意としており、アドニスと出会ったばかりのドロカを射殺している。

オフィーリア・クレメンタイン

重力をあやつることができる魔女の老女。白い髪を後頭部でシニヨンにまとめている。魔女たちから尊敬されており、人間たちによる魔女の虐殺が始まった頃、身近に集まっていた魔女たちを率いて月に逃れ、月園を作り出した。羽根筆を製作できるクロエ・モルガンを再生させ、人間の奴隷や子供を拉致して記述式召喚魔法を教えて代理戦争をさせるため、アドニスの救出を計画してドロカとアンナをメイヘム捕虜収容所に潜入させた。「天啓の魔女」とも呼ばれている。

アンナ

人体を含めた任意のものを複製できる魔女。赤毛で、大きく内巻きにしたミディアムヘアをしている。アドニスを救うため、ドロカと共にリディア帝国の捕虜としてメイヘム捕虜収容所に潜入していた。リディア帝国の兵士に殺害されかけていたアドニスのもとに兵士姿で現れ、アドニスの体を複製し、死体を偽造した。「複製の魔女」とも呼ばれている。

パンチ

廃材平原の頭目を務める男性。肥満体型のぶ厚い二重顎をしている。モヒカンヘアで、尖ったサングラスにゴーグル付きの革製ヘルメットをかぶっている。月園から地上に帰還したアドニスとドロカを砂漠で発見し、廃材平原に連れ帰って傷の手当てなどをした。かつてクロエ・モルガンに命を救われた過去があり、アドニスのことも知っている。

場所

リディア帝国 (りでぃあていこく)

ゲーテが治める国。ニューナイトメアを首都とした科学王国で、突如として魔女の絶滅を掲げて蜂起した。魔女がいる限り人間に進歩はないとの考えから、魔女の処刑を行った。超産業革命によって科学技術が非常に発達したため、リディア帝国こそが世界の頂点にして神と同じ存在だと謳(うた)っている。そのため他国に対して非常に高圧的な態度を取り、巨大な軍事力で他国に対する侵略戦争を行っては、他国民を奴隷にして収監している。また、リディア帝国の領土から一歩外に出ると砂漠が広がっている。

メイヘム捕虜収容所 (めいへむほりょしゅうようじょ)

リディア帝国の第七管理地区にある捕虜の収容所。パルポルが看守長を務めている。収容所の環境は劣悪で、牢の中はネズミが闊歩するほど不潔で、食事も充分に提供されていない。アドニス以外に収監されている捕虜のほとんどが女性であり、その中の数人を性奴隷として国民に提供している。また、永年幽閉刑に処されたアドニスも収監されていた。

月園 (るなみりあ)

人間からの虐殺を逃れた魔女たちの国。月面にあり、一見すると鳥籠や巨大な温室のように見える。月園の内部は酸素濃度や重力が調整されているため、人間がふつうに暮らすことができるが、一歩外に出ると宇宙服の着用が必要となる。また、魔女は宇宙空間でも通常の服装で行動することができ、虐殺された魔女たちの墓標は月園の外側に並べられている。

廃材平原 (はいざいへいげん)

砂漠にある集落。集落全体が廃材や廃墟で構成されており、大きなパラボラアンテナや地表から突き出した船舶が目印になっている。パンチが頭目を務め、途上国の人間や難民、リディア帝国から脱走した奴隷が住民となっている。また、住人たちは放射能に冒されているため、体中に白斑が見られ「汚染民」と称されている。

その他キーワード

記述式召喚魔法 (きじゅつしきしょうかんまほう)

人間が魔法をあやつるための唯一の技術。アドニスが使用している。魔法のメカニズムを理解して体系化し、特殊な羽根筆を用いて数式化、記述することで魔法を発動することができる。物質形成や召喚のほか、熟練度次第でどんな魔法も使うこともできる。

魔女 (まじょ)

神の代わりに人間を導く存在。魔法を使うことで災害や疫病から人間を守ることを定められており、友愛と献身の精神をもって人間に寄り添っていた。しかし人間が進歩するためには、魔女を滅ぼさねばならないと語ったゲーテと、その言葉に煽動されたリディア帝国の国民によって絶滅寸前に追い込まれた。魔女は女性しかおらず、配偶者を持たないため、生命樹になる果実からある程度成長した状態で産まれる。

魔法光子抑制装置 (まほうこうしよくせいそうち)

起動させることで、近隣で魔法を発動できなくさせる機械。リディア帝国が発明し、魔女の殲滅の際に用いられた。クロエ・モルガンの死後、国家保安局の地下格納庫に収められている。放射性物質が使用されており、起動すると高濃度の放射線が放出されるため、魔女の殲滅作戦に参加した兵士の半数がヒト細胞機能不全疾患を患った。ただし、この事実は隠蔽されており、ヤマトも知らされていなかった。

羽根筆 (くいる)

アドニスが使用する羽根ペン。人間が魔法をあやつる技術である記述式召喚魔法を使うために必要なアイテムで、アドニスのためにクロエ・モルガンが製作した。クロエが処刑されてからは、羽根筆を製作できる魔女は現れていない。さざなみをデザインしたペン軸に、赤竜の瞳を模した赤い宝玉が埋め込まれている。さらに羽根は魔力を込めた鳳凰の羽根が使用されており、オフィーリア・クレメンタインからは傑作だと評価されている。

生命樹 (みと)

魔女の誕生と再生を司る木。ほとんどは人間たちによって焼き払われたが、オフィーリア・クレメンタインによって一株だけ月園に運び込まれた。ツタが大きく丸く絡んだような果実がなり、その中で魔女の肉体が作られる。また、果実から産まれ落ちる前に死んだ魔女にかかわる記憶を埋め込むことで、死んだ魔女を再生することができる。

超産業革命 (ぎあえくすぱんしょん)

リディア帝国で起こった産業革命。超産業革命以前の人間たちは木造、もしくは石造りの家に住み、天災や疫病に対して自衛の手段を持たず、魔女の魔法にすがって生きていた。しかし、超産業革命後10年経過すると、暴風雨にも耐える巨大なビル群が建ち並んで、飛行船や電車が日常的に街を行き来する現代的な街並みに変貌し、スマートフォンやテレビも普及するようになった。

書誌情報

はめつのおうこく 11巻 マッグガーデン〈BLADEコミックス〉

第10巻

(2024-02-08発行、 978-4800014207)

第11巻

(2024-07-10発行、 978-4800014733)

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