ふしぎ遊戯 白虎仙記

朱雀の巫女、夕城美朱と青龍の巫女、本郷唯を描いた本編『ふしぎ遊戯』（朱雀・青龍編）は、1992年から1996年まで、小学館「少女コミック」に連載された、渡瀬悠宇の代表作の一つ。テレビアニメ化されたほか、OVA、小説、舞台、ゲームなど様々なメディアに展開された大ヒット作である。本作は、玄武の巫女・奥田多喜子を主人公にした『ふしぎ遊戯 玄武開伝』（玄武編）に続くスピンオフ作品。前2作にも登場した白虎の巫女、大杉鈴乃にスポットを当てた白虎編である。なお、本作に先駆け、小学館「月刊flowers」2015年4月号に掲載された読み切り作品『ふしぎ遊戯 白虎異聞』の主人公は、虎人（フウイン）の少女・寧蘭で、鈴乃ではない。

「朱雀・青龍編」での鈴乃は、四正国で白虎の巫女になり、白虎七星士の一人、婁宿（カサル=ツォニェ）と相思相愛になった。しかし、四正国で婁宿と共に生きる願いは叶（かな）わず、一人で現実世界に生還し、数十年後に訪ねてきた美朱の兄、奎介に「四神天地書」について語った。一方、四正国に残った婁宿は、術で老化を止め、白虎廟で神座宝（鈴乃が持っていた鏡）を守り続ける。しかし、白虎廟を出れば一気に肉体が衰え、死を迎える運命にあった。本作は、鈴乃が白虎の巫女になった過程や、婁宿との出会いと別れなど、「朱雀・青龍編」では描かれなかったエピソードが綴られていく。

本作で描かれる時代は、四正国の時間で「朱雀・青龍編」の約90年前。「玄武編」からは約20年が経過した世界である。なお、現実世界では大正12年にあたる。「玄武編」の直後、鈴乃の父・大杉高雄が、多喜子の父・奥田永之介から「四神天地書」の処分を依頼されたところから物語が始まる。燃やしても裁断してもビクともしない「四神天地書」に高雄が手を焼いていたある日、関東大震災が発生する。家屋の下敷きになった高雄は、「四神天地書」を抱きながら震えている鈴乃に、本を開くよう命ずる。鈴乃の命を救うためのやむを得ない選択であった。言われた通り本を開いた鈴乃は、異世界の四正国に飛ばされてしまった。