孤独と情愛が交錯する冒険ロマンス
三夏猫が海辺で出会った謎めいたおねえさんは、人類未踏の深海の奥にある異界「トワイライトゾーン」で孤独に潜む人魚。彼女は、人間の「絶望」「怒り」「憐れみ」といった負の感情から生まれた、まるで心の化身のような存在である。元となった人間の心がその姿や性格に色濃く反映されており、人間の血肉を求める本能を持っている。人魚は人間の血肉を取り込むことで、徐々に人間の姿に近づくことができる。そのため、深海での孤独な生活を嫌い、陸へのあこがれを抱いた人魚は、人間を食らい「人間として生きる」道を選ぶ者もいる。おねえさんも当初は三夏猫を食べて人間になろうとしていたが、彼の純粋な心に触れたことで、その衝動を必死に抑え込んでいた。「三夏猫を食らいたい」という本能と、「三夏猫を殺したくない」という情の狭間(はざま)で葛藤する彼女の姿が、物語に深い悲哀と緊張感をもたらしている。
深海の謎と人魚伝説
逆吹島にある海洋生物研究所の所長、久貝丸明里は、ウミウシをこよなく愛するマイペースで個性的な学者。深海へと去ったおねえさんの手がかりを求めて研究所を訪れた三夏猫に対し、海洋生物や人魚に関する知識を授ける重要なキーパーソンとなる。幼い頃、同じく研究員だった父親が人魚と恋に落ちて失踪したという過去を持ち、人魚の実在を証明し研究することを生涯の悲願としていた。三夏猫との出会いをきっかけに、人魚の実在と人魚が潜む深海の「トワイライトゾーン」の存在を確信する。失踪した父親と人魚を純粋な心で追い求める明里の姿は、三夏猫がおねえさんに会いに行こうとする動機やその後の旅路と重なり、物語のもう一つの軸となっている。
怒りの化身、スカベンジャーとおねえさんの関係
人間の「怒り」という感情から生まれた人魚、スカベンジャーは、同じ人魚であっても捕食する異端の存在。長髪の少年のような姿で、ほかの人魚を仲間とは認めず、海底で孤独と怒りを糧に生き続けている。しかし、幼い頃に唯一優しく接してくれた「おねえさん」だけは特別な存在とみなし、狂気に満ちた独占欲を執拗に向け続けていた。やがて、トワイライトゾーンまでおねえさんに会いに来た三夏猫を敵視し、彼を排除して再びおねえさんを独り占めしようと画策する。その行動は、結果として三夏猫、おねえさん、そしてスカベンジャー自身の運命を大きく変えていくことになる。海底に沈んだ人間の淀んだ感情の化身であるスカベンジャーは、作中で人間の傲慢さや歪(ひず)み、そして弱さを象徴する存在として描かれている。
登場人物・キャラクター
金子 三夏猫 (かねこ みかね)
長崎県の離島、逆吹島で暮らす少年。年齢は14歳。優しく思いやりにあふれ、島の人々から愛されているが、心の奥底には消しきれない虚しさを抱えている。かつては母親と関東で暮らしていたが、心労の絶えない彼女を思いやり、一人で父親の住む島へ帰郷した過去を持つ。家族や友人に囲まれた穏やかな日々の中でも、自分の居場所を見つけられず、生きる実感を持てずにいた。そんなある日、海辺で傷ついた人魚、おねえさんを助けたことをきっかけに、彼女の神秘的な魅力に強く惹かれていく。やがておねえさんが海へ帰ってしまうと、三夏猫の胸には「再会したい」という強い願望が芽生え、初めて自らの意志で行動を起こすようになる。実はおねえさんを救った際、彼女の血を浴びており、その影響で人魚の力と深海へ到達する能力を得ていた。海洋生物学者の明里の協力を得て、三夏猫は人間の立ち入ることのできない深海「トワイライトゾーン」へと向かう。そこでおねえさんと再会し、恋と喪失を経験する中で、三夏猫は自分が生きる意味を見出していく。
おねえさん
三夏猫が海辺で出会った謎めいた美女。長い髪と深い瞳を持ち、この世のものとは思えない独特の雰囲気を漂わせているが、包容力に満ちたおおらかな性格の持ち主。その正体は、深海の異界「トワイライトゾーン」に棲む人魚である。人間の「寂しさ」から生まれた存在で、ふだんは人間と同じ姿をしているが、水に濡れると髪の色がウミウシを思わせる艶やかな色彩に変化する。負傷していたところを三夏猫に助けられ、一時的に心を通わせるが、やがて海へと帰っていく。人魚として本能的に人間の血肉を求めており、三夏猫と過ごすあいだも「食べたい」という衝動と「共にいたい」という感情の狭間で揺れ動いていた。さらに、深海で孤独に苛(さいな)まれるだけでなく、仲間であるはずの人魚、スカベンジャーからの異常な執着と、それに伴う精神的な虐待にも苦しんでいる。トワイライトゾーンまで追ってきた三夏猫との再会を経て、二人の関係は恐れやあこがれ、そして愛へと少しずつ変化していく。
書誌情報
ぼくと海彼女 5巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2023-11-02発行、978-4088837161)
第2巻
(2024-03-04発行、978-4088838564)
第3巻
(2024-08-02発行、978-4088841489)
第4巻
(2025-01-04発行、978-4088843421)
第5巻
(2025-04-04発行、978-4088844725)







