生け花の全国大会を目指して奮闘する青春ドラマ
主人公の深草九十九は、花をモチーフとした擬人化アニメ「ブーケの花園」が大好きなオタク。九十九は華道部の部長の上巻白玉に華道部へ誘われ、「全国高校生生け花選手権大会」(通称・六花杯)を目指して奮闘するようになる。六花杯はペアで一つの作品を仕上げるコンテストで、花鋏(はなばさみ)をバトンに見立てたリレー形式で行われ、持ち時間は一人10分と定められている。作品のみならず、花材や道具の扱い、礼儀作法、二人の連携も審査対象となる。また、完成後にプレゼンテーションの時間が設けられている点も特徴で、実在の大会である池坊華道会「Ikenobo花の甲子園」と全国高校生花いけバトル実行委員会「全国高校生花いけバトル」のレギュレーションを足して二で割ったような内容になっている。九十九の所属する華道部は、六花杯の決勝大会に東海代表として進出したこともある強豪だが、前年度の決勝大会では最下位だった。
華道界を牽引(けんいん)する「六花仙」と後継者たち
本作の華道界では特に歴史の長い六つの流派が特別視されており、それぞれに特色がある。たとえば岐阜県の「出羽の国流」は「お花と話す流派」で、花の特徴や歴史と向き合い、どのように自己表現と掛け合わせるかが重要視されている。同じく東海の雄である愛知県の「金星流(がねほしりゅう)」は「生け花で日常に煌(きら)めきを」が標語の流派で、人目を引く華やかさを特徴としている。六流派の家元は「六花仙」と呼ばれ、コンテストの審査員を務めるなど、華道界を牽引する立場にある。「次期六花仙」と呼ばれる後継者たちは奇(く)しくも全員が主人公の深草九十九と同じ高校2年生で、人付き合いの苦手な出羽国燕、ギャル華道家の金星御園(がねほしみその)など個性派がそろっている。彼らとの戦い、そして生け花を通じて描かれる若者たちの成長も見どころとなっている。なお、登場する流派はすべて架空のものである。
プロフェッショナル監修の生け花が登場
本作に登場する生け花は華道家元池坊、いけばな草月流などのプロフェッショナルが監修を務めている。その工程の一部は幕間(まくあい)のオマケコーナー「登場お花小話」で語られ、花を生けるキャラクターの性格や技量、コンテストに出品する作品であれば順位まで考慮して監修されていることが明かされている。また、作品コンセプトや使用している花材についても解説されているため、『もえばな』という作品の理解度を高めたい読者にも、生け花の知識が乏しい読者にも興味深い内容となっている。
登場人物・キャラクター
深草 九十九 (ふかくさ つくも)
岐阜県立甘柿高等学校2年A組に在籍する男子。淡いピンク色の目と髪を持つ。底抜けに明るい性格で、いっしょにいると元気がもらえるとクラスでも好評ながら、中にはその騒がしさをいとう者もいる。花を擬人化したアニメ「ブーケの花園(通称・ぶけぞの)」が大好きで、芍薬の美少女キャラクター・ピオーネに惚れ込んでいる。グッズ収集に飽き足らず、痛Tシャツを着て街に出かけるほどオープンにオタク活動を楽しんでおり、作品の魅力を熱弁して友達を困惑させることも少なくない。牡丹と芍薬の違いを見抜いたことで、華道部の上巻(あげまき)白玉から入部を勧められるが、病弱な妹・小町の見舞いを優先しているため、一度は断った。しかし、白玉の助言で創作したぶけぞのモチーフの生け花を生けて、塞ぎ込んでいた小町の笑顔を取り戻すことに成功。小町の後押しもあって華道部に入部して、花への愛情と好きなものに対する底なしの没入力を武器に、「全国高校生生け花選手権大会(通称・六花杯)」を目指して奮闘することになる。
出羽国 燕 (でわくに つばめ)
岐阜県立甘柿高等学校2年C組に在籍する男子。長い歴史を持つ六つの流派「六花仙」に数えられる「出羽の国流」の次期家元で、学校でも華道部に所属している。実力は部内随一で、呼吸するように花を生けると評されている。流派の特色である花との対話にも熱心だが、周囲からは奇異の目を向けられることも多く、幼少期から変人として扱われていた。花の声が聞こえなくなるからと、騒音を嫌っている。幼なじみで部長の上巻(あげまき)白玉から人間とも交流するように指導されているが、出羽国燕自身はどこ吹く風で、花にしか興味を持っていない。東海代表として「全国高校生生け花選手権大会(通称・六花杯)」に出場した経験があるが、次期家元としてのプレッシャーから最下位になってしまい、現在は競技から距離を置いている。期待の新入部員・深草九十九とは水と油のような関係だったが、衝突を経て彼の花に対する愛情を認めるようになった。やがて、九十九とペアを組んで六花杯を目指すことになり、自らの過去と向き合うようになる。
クレジット
- 監修
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華道家元池坊(近藤 聡光・加藤 香藍・一般財団法人 池坊華道会) , いけばな草月流(森 彩琳・一般財団法人 草月会)
- 取材協力
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いけばな小原流, いけばな龍生派, NHK文化センター青山教室・東 重甫(未生流家元派遣講師) , 茨城県立土浦第一高等学校 華道部(関 聖・元島 ゆう) , 岐阜県立岐阜商業高等学校 茶華道部
書誌情報
もえばな 4巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2022-09-02発行、 978-4088832425)
第2巻
(2022-11-04発行、 978-4088833026)
第3巻
(2023-01-04発行、 978-4088833965)
第4巻
(2023-05-02発行、 978-4088835235)