フリーターの青年×エリート女子
本作の主人公、渡辺は、食品工場に勤務する19歳の非正規社員。小学生の時、小テストで作成した「ロジックツリー」が優秀賞に選ばれたことから、論理的思考が得意だと思い込んでいる青年である。「人生が始まっている気がしない」と感じている渡辺は、成功を目指してあるセミナーに参加するが、悪徳商法に騙されてしまう。自分の無能さに落ち込んでいた矢先、渡辺は飯田栞という女性と出会う。彼女は社会福祉やボランティア活動を行っているW大学の学生である。飯田のフィールドワークに協力した渡辺は、自分の話を真剣に聞いてくれる飯田に恋をする。得意の論理的思考で「もしかしたら両想いなのでは」と都合の良い考えに至る渡辺だったが、飯田は裕福な家庭に育った高学歴女子である。自分とは正反対の彼女になかなか告白できずにいた。
陰謀論にハマっていく渡辺
ある日渡辺は、飯田が所属するボランティアサークルのSNSにしつこく絡む「FACT 東京S区第二支部」というアカウントを目にする。飯田を守るため、渡辺はFACTと接触し「先生」と名乗る人物と、あるマンションの一室で面会する。変な帽子と服、サングラスをかけた、見るからに怪しい先生は、世界を操作し人々を不当に苦しめる「ディープステート」という黒幕について語りだす。この世はごく少数の者により秘密裏に支配されているが、ほとんどの人間はそれに気づいていない。そこで、覚醒して己を取り戻し人生を始めるよう、渡辺に告げるのだった。陰謀論を否定していた渡辺だったが、FACTの定期集会に参加するうちに、次第に彼らの主張に染まっていく。
陰謀論と恋をテーマにした本作誕生の経緯
「ダ・ヴィンチWeb」に掲載された作者インタビュー(2024年3月13日)によると、本作の構想を練り始めたのは、前作『チ。―地球の運動について―』完結の少し前。これまでの作品は「現代の社会で受け入れられているものに熱中していく人たちの物語」だったため、「今回は、社会的にあまり受け入れられていないものに熱中する人の物語に挑戦したい」と考えたという。もともと陰謀論には興味があったという作者は、「現代思想2021年5月号」(青土社)で、石戸諭の『陰謀論者の「不安」』という論考に出会う。そこに書かれていた「陰謀論に陥っている人たちは“認知バイアスの根本的帰属の誤り”というものにはまっている」というのは、「深読みしすぎてしまう」ということであり、「恋愛に置き換えると誰でも起こり得ることなんじゃないかと思った」という。そして「個人的な感情である恋愛と、政治的な姿勢である陰謀論。この二つが直線的に繋がりそうだという直感」を得て、陰謀論と恋をテーマにした本作が誕生することになった。
登場人物・キャラクター
渡辺 拓也 (わたなべ たくや)
食品工場に勤務する非正規社員の青年。年齢は19歳。小学4年生のときの小テストで作成した「ロジックツリー」が優秀賞を受賞したことが自慢。それ以来「論理的思考」に長けていると思い込んでいる。小さい頃から母親しかいない環境で育つ。親友もおらず、いじめられもせず、部活もしない学生生活を過ごす。何かを変えたいと思い上京して働く。「人生を始めたい」という思いで自己啓発セミナーに参加するが騙され、落ち込んでいるときに、高学歴女子の飯山と出会い恋に落ちる。しかし、その後「FACT 東京S区第二支部」の「先生」と出会い、陰謀論に巻き込まれていく。
飯山 栞 (いいやま しおり)
W大学社会学部に通う19歳の女性。父は作家や大学客員教授もしているテレビディレクターで、高級マンションに暮らしている。社会福祉サークルに所属し、積極的にボランティア活動を行う。また、社会的影響を持った私企業を増やして、世界を良くするために投資家を目指す。渡辺との出会いは、とある公園。病人に吐瀉物をかけられそうになっていた渡辺を、バッグを使って助けたことがきっかけになった。
書誌情報
ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ 4巻 小学館〈裏少年サンデーコミックス〉
第1巻
(2023-12-12発行、978-4098530618)
第2巻
(2024-03-12発行、978-4098531578)
第3巻
(2024-06-11発行、978-4098533879)
第4巻
(2024-09-19発行、978-4098535965)







