あらすじ
第1巻
烏丸葬儀社で社長を務める烏丸枢には、生まれつき幽霊を見ることができる特殊な能力があった。彼のその力は、幽霊たちのあいだでも有名で、死者は自分の悲しみや後悔、最期の願いを枢に託そうとする。枢は残された遺族の心にそっと寄り添いながら、依頼を受け、死者から託された思いを伝えようと奔走する。皇光希は、25歳の若さでこの世を去った。死因は歩道橋の階段を踏み外したことによる事故だった。そんな光希には思い残したことがあり、このままでは死にきれないと、幽霊となって枢に自分の思いのすべてを託す。光希には18歳になる弟の皇灯がいたが、二人は早くに両親を亡くしたため、光希はまだ幼かった灯を養おうと、昼だけでなく夜の仕事にも就き、忙しい日々を送っていた。光希にとっては灯の幸せがすべてだったが、灯は自分が光希の重荷になっていることが辛かった。そんな中、灯はケンカ別れしたまま姉の訃報を聞くことになる。最後に見た姉の顔は泣き顔だったこともあって後悔も人一倍強く、灯は姉の幸せを奪ってしまった自分を責める。そんな灯に声をかけた枢は、光希の思いを代弁しようとするが、何も知らない葬儀屋のくせにと灯から強い反発を受けてしまう。自分の特殊な力を簡単には信じてもらえないことを理解しつつ、めげずに灯に寄り添おうとした枢は、灯をとある場所へと連れて行く。それは、灯と光希が幼い頃、家族で来た思い出の場所だった。
第2巻
烏丸葬儀社で働き始めた皇灯にとって、珍しく学校も仕事もお休みの日、灯が買い物に出かけようと外に出ると、偶然にも同じく休日を過ごしていた久遠寺色と遭遇。二人はいっしょに買い物に出かけることになり、駅へと向かう。しかしそこで、灯と色は電車に飛び込む女子中学生の如月響を目撃してしまう。目の前で起こった彼女の自殺を止めることができなかったことに、灯は心を痛めていたが、その後、響の葬儀を烏丸葬儀社で執り行うことになる。葬儀の準備のために会場へと向かうと、そこには娘の死を受け入れられずに取り乱す母親の如月鈴子と、感情を押し殺し冷静に対処しようとする響の父の姿があった。二人は響の死の原因を互いに擦り付け合い、ケンカを始めてしまう。そんな遺族の様子に複雑な感情を抱いた灯は、亡くなった響を哀れみ、自分たちでなんとかしてあげられないかと烏丸枢に打診するが、枢は本人が望んでいないことを理由に手を出すことをいっさい拒否。そんな枢の態度に怒り心頭の灯がその場をあとにすると、そこで響の友人の花咲琴音と知り合う。琴音は、響がいじめられていることを知りながら、助けてあげなかった自分の行動を後悔し、涙に暮れていた。二人の関係と、響が自死を選ぶまでのいきさつを聞いた灯は、響はきっと琴音を信じたかったはずだと、琴音に対する響の気持ちを証明するため、自殺現場となった駅へと向かう。そして、二人にとって親友の証となっていたおそろいのマスコットを見つけ出す。それにより、二人は確執を解消し、響は最後の願いを口にしようとするが、そこに枢の兄の烏丸燐が姿を現し、響の幽霊を一方的に消し去ってしまう。
登場人物・キャラクター
烏丸 枢 (からすま くるる)
烏丸葬儀社の社長を務めている男性。年齢は28歳。生まれつき、亡くなった人が幽霊となった姿を見ることができ、会話をすることもできるという特殊能力の持ち主。幼い頃は、それが生きている人か、亡くなった人かを判別することが難しかった。亡くなった人が思い残した願いを叶えるため、本人からの依頼を受け、それが叶うように奔走する。彼の特殊能力から、幽霊の最期の願いを叶える葬儀屋がいるらしいと、幽霊の世界ではかなり有名な存在となっている。これまで、幽霊の存在を口にしても、本気にされずに気味悪がられることもあり、誰も信じてくれる人はいなかった。しかし、自分の経験から烏丸枢の言葉を信じた皇灯が、烏丸葬儀社で働きたいと願い出たため、彼の心持ちに感動し、助手として雇って二人で死者の後悔を晴らす手伝いをしていくことを決めた。その後は久遠寺色も加わり、枢を信じる者が増えて周囲はにぎやかになっていく。ふだんは葬儀社が入っているビルの3階で暮らしているが、生活感はあまりなく、料理もしないためキッチンにも実用的なものが何も置いていない。兄の烏丸燐とは確執があり、死者に対する考え方が大きく違うため、相容れない関係。幼い頃は燐に付いて歩き、兄の後ろに隠れるような内気なところがあったが、14年前のとある事件をきっかけに、父親を失って兄弟関係は断裂した。
皇 灯 (すめらぎ あかり)
皇光希の弟。高校生で、年齢は18歳。幼い頃に両親を亡くして以来、光希と肩を寄せ合って生きてきた。だが、自分の存在が姉のお荷物になっていることを負い目に感じ、自分がいるせいで光希が夜の仕事に出なければならず、彼女を自由に生きられない不幸な身の上にしたと考えていた。それが原因でケンカをした直後、光希が歩道橋の階段から足を踏み外して亡くなってしまったため、皇灯が見た光希の最期の姿は泣き顔となってしまった。光希にはいつも笑っていて欲しいと心から願っていたこともあり、ショックは大きかった。その後、烏丸葬儀社に光希の葬儀を頼むことになったが、烏丸枢が亡くなった光希の気持ちを語り始めたため、憔悴(しょうすい)しきりの皇灯は最初かなり反発する。しかし、光希しか知らないはずの思い出の場所に連れていかれたり、枢が自分と姉との約束の内容を知っていたりと説明のつかないことが続き、最終的には亡くなった光希が幽霊となった姿を灯自身の目で見ることができたため、枢を信じざるを得ない状況となった。枢のおかげで後悔を残さず姉を送ることができたことに恩を感じ、烏丸葬儀社でアルバイトとして働かせて欲しいと打診。枢の助手として働くことになった。基本的には、自分の目で見えるものしか信じないという信念を持っている。幽霊を簡単に見ることはできないが、空気の変化を感じ、気配を感じることができる。頭で考えるよりも感情で動くタイプで、熱くなりやすく、すぐに腹を立てては口調が荒くなりがち。料理は人並みにでき、味もいい。
皇 光希 (すめらぎ みつき)
歩道橋の階段を踏み外して亡くなり、幽霊となった女性。年齢は25歳。子供の頃、両親を亡くして以来、弟の皇灯を心の支えとし、二人で暮らしてきた。そのため、昼間の仕事だけでなく、夜の仕事にも出なければならず生活はハードだったが、灯の日々の成長に楽しみを見出し、灯のためと考えるとそんな日常がまったく苦にはならなかった。だが、そんな彼女の姿は灯にとって重荷になっており、灯は自分の存在が姉の幸せを脅かしていると考えてしまっていた。彼女が亡くなる直前には、それが原因でケンカになり、自分の存在を否定するような言葉を発した灯に対して涙を流したのが、最後の別れとなってしまった。そのため、自分の葬儀が行われることになった際、烏丸葬儀社の烏丸枢に最後の願いを叶えて欲しいと頼んだ。その願いとは、幼い頃に家族で訪れた思い出の場所で満点の星空を見た時、流れ星に「灯がずっと笑顔でいられるように」と願っていたこともあり、「灯の笑顔が見たい」というものだった。
久遠寺 成実 (くおんじ なるみ)
久遠寺色の父親。小説家を生業としている。自宅の書斎で次回作の執筆中、亡くなっているところが発見された。昔なじみの医師の所見では、死因は心筋梗塞だった。代表作である小説「物語の在処」は、当時まだ生まれていなかった娘の色を主人公に描いたファンタジー冒険劇。それまでは、堅い話ばかりを執筆していたため、当時はかなり話題となった。色が生まれたあと、続編を執筆することに意欲的だったが、ほどなくして妻を亡くし、それ以来執筆活動は休業状態となっていた。久遠寺成実自身の葬儀が烏丸葬儀社によって執り行われることになり、烏丸枢と同席した皇灯に最後の願いを託すことにした。彼の願いは最期に執筆した小説の原稿を色に渡すこと。作品は「物語の在処」の続編だが、その内容は愛する妻を失い、娘との接し方がわからなくなった成実自身の物語だった。原稿は執筆途中だったが、枢の力を借りて完成させ、色に渡すことが叶った。これにより、本ばかりに捕らわれ、孤独になってしまった自分の娘に対する思いを、色に伝えることができた。
久遠寺 色 (くおんじ しき)
久遠寺成実の娘。高校生で、年齢は16歳。父親が亡くなり、烏丸葬儀社に葬儀を依頼することになった。成実に対しては、父親らしいことはしてもらっておらず、娘である自分よりも小説を書くことを大事にしていたことに思うところがある。そのため、成実に対する反発心は強く、成実亡きあと、小説の原稿はすべて処分すると宣言していた。しかしその後、烏丸枢から父親が最後に執筆した原稿を渡されて怒りが爆発。一度は怒りに身を任せて枢が手にした原稿を振り払うが、皇灯に諭されて原稿に目を通し、成実のありのままの思いを知ることになった。自分や母親を見ようとせず、本しか愛さない成実のことを嫌っていたが、その原稿で彼の本当の気持ちを知り、愛情を感じることができたため、素直になれなかった自分の気持ちに変化が生じ、葬儀では喪主として成実に対する率直な気持ちと、愛情を語った。これをきっかけに、烏丸葬儀社でアルバイトとして働くことになった。主には運営手伝いや花の手配を担当する。枢に思いを寄せている。
御堂 豪 (みどう ごう)
烏丸葬儀社の社員の男性。年齢は42歳で、部下を統括している。社長である烏丸枢の自由奔放な行動に手を焼き、日々翻弄されている。生真面目な性格で、ある時自殺を目撃してしまった皇灯が自分の無力さに落ち込んでいるのを見て、今の灯に必要なのはこれまで助けた人たちと、これから助けられる人を増やすことだと諭し、押し潰れないようにと励ました。
五十嵐 晴人 (いがらし はると)
洋食屋いがらしの店主を務める男性。皇灯と中学時代に友人だった五十嵐蒼の兄。長い髪を後ろで束ねており、蒼とは正反対に気弱な性格をしている。幼い頃から料理好きで、コンテストでは1位を獲得したこともあった。将来的には蒼と二人で店を支えていこうと約束していたが、先代である父親が5年前に亡くなり、当時修行中だった五十嵐晴人自身が店を継ぐことになった。その時まだ中学生だった蒼には、学生である内は友達との交流を大事にするように言い聞かせていた。蒼のことが大好きで、弟に胸を張れるような兄になろうと日々努力し、二人で店ができるようになる日が来るまで、自分が店の味を守ろうと心に決めていた。そんな中、くも膜下出血でこの世を去ることになり、烏丸葬儀社で葬儀を執り行うことから、烏丸枢と灯に、蒼に洋食屋を続けて欲しいという晴人自身の願いを託した。
五十嵐 蒼 (いがらし あおい)
五十嵐晴人の弟。皇灯とは中学時代からの友人。短く刈った髪は、両サイドに輪模様の刈り込みがあり、細い眉に口元にはピアスを付け迫力のある外見をしている。強気な性格ながら友人や家族思いなところがあり、心根は優しい。晴人を亡くしたことで、烏丸葬儀社に葬儀を依頼することになり、灯と久しぶりの再会を果たした。実家の洋食屋いがらしを大切に思っているが、自分は出来損ないだからと店を継がない決心をしている。幼い頃から料理が好きで、コンテストで入賞することもあり、もともと実家の洋食屋を継ぐことは、彼にとって幼い頃からの目標となっていた。しかし周囲の大人からは兄との実力の差を比べられ、ダメな子というレッテルを貼られ続けた。5年前、先代である父親が亡くなった時には、葬儀の場で叔父から「晴人や店にとって不要な存在でしかない」と暴言を吐かれてしまった。もともと兄が大好きで、晴人が料理コンテストで1位を獲得した話や、初めて二人でオムライスを作った話、兄が初めて父親に料理の腕を認められた話など、灯には晴人の話ばかりを語って聞かせていたが、葬儀での一件以来、店や晴人のことをいっさい話さなくなってしまった。だが、灯と烏丸枢からの話で兄の思いを知ることになり、再び洋食屋いがらしを継ぐ決意をする。
烏丸 燐 (からすま りん)
冠婚葬祭を扱う会社、楽園の社長を務めている男性。現役モデル「Rin」としても活躍しており、ちまたで話題となっている。実は烏丸枢の兄で、枢と同様に幽霊を見ることができる特殊能力を持っている。この力を利用し、テレビ番組に出演しては、死者の思いや真実を捻じ曲げ、人にとって聞こえのいいことだけを伝えている。そのため考え方が異なる枢とは、兄弟関係はうまくいっていない。その原因は、14年前のとある事件がきっかけで、それによって父親を亡くした。同様の能力を持つ枢の在り方を全否定するにもかかわらず、彼に対して異常なまでの執着心を抱き、自分の楽園に枢を引き入れようと画策しており、烏丸葬儀社を潰そうと考えている。基本的に目的のためには手段を選ばない。相手の意思は考えに入れず、自分の考えだけで動くタイプで、話し合いをしようとしても、話が通じない。自分なら、より多くの生きた人間を悲しみから救うことができると豪語。家族や友人、恋人すべてを幸せにすることができると言い放ち、枢ではみんなを幸せにすることができないだろうと揶揄(やゆ)する。楽園では、自分の力を利用し、死者と会話ができることを売りに会員を集め、高額な寄付金を集めている。死者の幽霊を一方的に消してしまう能力も持っており、新興宗教の教祖のような存在感がある。
天野 つばさ (あまの つばさ)
長期にわたり入院中の少女。八雲空とはお互いの手紙を紙飛行機にして届け合う形で文通を続けており、直接話したことは一度もないが、空の彼女であると主張している。近々大きな手術を控えており、そのまま目が覚めなかったらどうしようと不安な日々を送っていたが、空の手紙のおかげで勇気をもらっている。だが、ある時から手紙の返事が来なくなり、心配していた時、空の代理として烏丸枢と皇灯が病室を訪れた。しかし、代わりに手紙を届けに来た二人から渡されたものは、自分が望む内容のものではなかった。いくら待っても姿を見せない空に、寂しさのあまり怒りを覚えてしまうようになる。その後、空がもうこの世にいないことを察して、絶望のあまり病院を抜け出し、以前空が手紙に書いてくれていたデートコースへと足を運ぶ。
八雲 空 (やくも そら)
天野つばさに手紙を届けて欲しいと烏丸枢に依頼した少年。病室から顔を出したつばさに一目惚れし、病室の近くにある木に登って紙飛行機の手紙を飛ばし、文通を始めた。直接話したことは一度もないが、つばさの彼氏を自称している。ある時、手紙を飛ばそうと木に登ったが、つばさから飛ばされた紙飛行機を受け取ろうとして木から落下し、帰らぬ人となった。
如月 響 (きさらぎ ひびき)
ホームに入って来る電車に飛び込んで自殺した女子中学生。享年14歳。烏丸葬儀社が葬儀を執り行うことになった。放課後、校舎裏でよく一人で歌を歌っていたが、クラスメイトの花咲琴音から声をかけられたことをきっかけに、なかよくなった。元来孤独なことが多かったが、琴音の存在で希望を見出すことができた。しかし、母親の如月鈴子の宗教勧誘や、響の父の浮気が原因で友人からいじめを受けるようになる。だが、現場に居合わせた琴音に助けを求めても、一度も助けてもらえなかった。最終的に、琴音に裏切られた絶望感から、なるべく周囲に迷惑をかける死に方をしようと電車に飛び込むことを選択。そうすることで、琴音を傷つけようと考えたが、実際はそんな状況であっても琴音を友達として信じたい自分がおり、おそろいで買ったマスコットは最期の瞬間まで肌身離さず身につけていた。烏丸枢と皇灯を通じて、琴音の思いを知り、幽霊となった自分の思い残した気持ちを昇華させる機会を得るが、最後の願いを口にしようとした瞬間、楽園を名乗る烏丸燐に、強制的にかき消されてしまう。
如月 鈴子 (きさらぎ すずこ)
如月響の母親。最近新興宗教にはまり、家庭はないがしろになっていた。そんな折、娘の突然の訃報を受けて取り乱し、響の死を受け入れられないでいるため、葬儀場では式典を執り行うための準備に訪れた烏丸葬儀社の烏丸枢、皇灯、御堂豪を追い返そうとした。それにもかかわらず、響の父が冷静に手続きを進めようとするのに腹を立て、その場で罵り合いのケンカを開始。自分の子がいじめを苦に自殺したことで、教師である夫が自分の世間体や、教育者としての面目だけを気にしていることを激しく非難し、浮気相手の女性がいることにも言及した。紆余曲折の末、最終的に娘の葬儀は楽園にまかせることになり、楽園にいけばいつでも娘と会話をさせてくれるという言葉に惹かれ、烏丸燐について行ってしまう。
響の父 (ひびきのちち)
如月響の父親。教師を務めていて一見生真面目そうだが、妻の如月鈴子のほかに、親しくしている女性がおり、家庭内はぎくしゃくしていた。そんな折、響が自殺したことを知り、感情を押し殺して烏丸葬儀社に連絡した。葬儀を執り行うための手続きを冷静に進めていった。しかし鈴子が取り乱し、烏丸枢、皇灯、御堂豪を追い返そうとしたため、娘の死を受け入れるようにと鈴子を諭そうとする。だが、自分が気にしているのは世間体だけであることに加え、浮気に関しても言及され、その場で罵り合いのケンカを始めてしまう。そもそも鈴子が宗教にはまり、家庭をないがしろにして響に無関心だったことを非難し、鈴子に責任をなすりつける場面もあった。紆余曲折の末、最終的に娘の葬儀は楽園にまかせることになり、楽園にいけばいつでも娘と会話をさせてくれるという言葉に惹かれ、烏丸燐について行ってしまう。
雨宮 雅 (あまみや みやび)
遺体修復師を務める女性。遺体への防腐処置や消毒などを主に行うが、事故などで傷ついた遺体を生前の姿へと近づけることを仕事としている。特に彼女は高い修復技術を持っており、故人の顔を完全再現できる。現在はフリーランスとしてその能力をいかんなく発揮し、世界中を飛び回っている。ちょうどアメリカから帰国した際、如月響の葬儀にかかわることになり、遺体修復を手掛けることになった。顔の再現度はかなり高く、如月鈴子が娘は生きていると勘違いしたほど。その後はしばらく日本に滞在することになるが、古い知り合いである烏丸枢が住居スペースとして使用している烏丸葬儀社の3階をしばらく間借りさせてもらおうとした。しかし、ベッドではいつも裸で寝るため、特に久遠寺色からは、枢といっしょに暮らすことについて大反対されている。
花咲 琴音 (はなさき ことね)
如月響と同じ中学校に通うクラスメイトの女子。学校の校舎裏から歌声が聞こえてきたのがきっかけで、響となかよくなった。もともと人の顔色をうかがってばかりの性格だったが、響といっしょにいることで少しずつ変わっていった。そんなある日、同じクラスの女子グループが響の母親、如月鈴子の宗教勧誘や、響の父の浮気についての噂話をし、響自身をも否定しているところに遭遇。友人たちからのメッセージで同意を求められたため、自分に飛び火することを恐れ、適当に話を合わせておこうと、同調する返事を送ってしまう。それから、友人たちによる響への執拗ないじめが始まったが、その現場に居合わせても響を助けることができなかった。その後、響が帰らぬ人となったことで、何もできなかったことを後悔。自分は響の友達とは言えないと、涙に暮れていた。のちに、葬儀場で知り合った烏丸枢と皇灯を通じて、幽霊となった響と和解するチャンスが訪れるが、楽園を名乗る烏丸燐にそそのかされ、燐について行ってしまう。
鳩山 (はとやま)
烏丸葬儀社に勤めていたが、5年前に退職した老齢の男性。烏丸枢を赤ちゃんの頃から知っており、おむつを替えたこともあり、烏丸家の事情をよく知っている。自分がガンに侵されていることを知り、医者から余命1か月という宣告を受けた。家族もおらず天涯孤独のため、延命治療は受けずに、残された命で自分がやり残したことをしようと決めた。そして最後は長年勤めてきた烏丸葬儀社で自分の葬儀をあげてもらいたいと思い、枢のもとを訪れた。
草壁 久枝 (くさかべ ひさし)
草壁若葉の父親。妻の草壁美樹を亡くし、葬儀を烏丸葬儀社に依頼することにした。しかし妻を失い、息子を育てていかなければならない重圧から、仕事をしなければ生活していけないことや、息子の面倒をみなければいけないことの板挟みになって思考停止状態に陥っており、打ち合わせにやってきた御堂豪と皇灯に息子を預けて仕事に行ってしまう。
草壁 若葉 (くさかべ わかば)
草壁久枝の息子。母親の草壁美樹を亡くしたが、まだ幼いため、母親はいつか帰って来ると信じたい気持ちがある。だが、実際は母親の死を理解していて、もう戻ってこないこともわかっており、亡くなった母親の手前、必死に強くしていようとしている。戦隊ヒーロー「ミラクルスターズ」が大好きで、次の誕生日には買ってもらうことも決めていた。美樹のことは、強くて優しいヒーローのように感じており、母親のようになりたいと願っている。
草壁 美樹 (くさかべ みき)
草壁若葉の母親で、草壁久枝の妻。警察官を務めていたが、ナイフを持った暴漢から市民を守ろうとし、刺されて亡くなった。享年31歳。生前、自分は町のヒーローでもあるが、それ以前に若葉のヒーローでもあると語っていた。
集団・組織
楽園 (らくえん)
烏丸燐が代表を務める会社。冠婚葬祭業をメインとしているが、それだけでなく、介護や看護にも力を入れている。立派な施設も所有しており、最近ではまるで烏丸葬儀社を目の敵にするかのように、従業員を引き抜いたり、提携業者を横取りして経営を妨害している。大切な人を亡くした遺族の心情を逆手に取り、故人と会話をさせてあげると勧誘して会員を集め、高額の寄付金を募っている。