概要・あらすじ
東京のショッピングセンターで夜間警備員の仕事をしていた富岡ゆうじは、平穏ながらも友達も恋人もいない生活にひしひしと寂しさを感じていた。そんなある日、富岡ゆうじの勤務先や自宅に彼宛の脅迫状が届くようになる。ストーカーに脅える富岡ゆうじは、今まで関心のなかったアパートの隣室の女性羽田や、近所のアパートの一室を不法に占拠していたホームレス風の男らと知り合う。
それからというもの平穏だったはずの富岡ゆううじの生活は、ストーカーの少年と対峙したり、警備員の同僚たちと共に殺人事件に巻き込まれたり、羽田からのアプローチを受けるようになったり、にわかにあわただしいものへと変貌していく。
登場人物・キャラクター
富岡 ゆうじ (とみおか ゆうじ)
巨大スーパーで夜間警備をしている山梨県出身の32歳独身。肩まであるロングヘアだが、額が広くなってきている。今までの人生で困難や面倒をなるべく避け、家ではほとんど寝て過ごした結果、恋人はおろか友人と呼べる存在がいないことに焦り出し、友人ができることを心から願うようになる。アパートの隣に越してきた羽田に気に入られ、半信半疑ながらも後に付き合うようになる。 基本的には常識人で孤独な境遇にいながら変に屈折もせず、飄々としている。同僚のことを気にかけたり、助けてあげられなかったことを後悔する良心も持ち合わせている。
羽田 (はだ)
富岡ゆうじが住むアパートの隣室の住人で24歳。スタイルの良い、黒髪ロングヘアの美女。アルバイトをしながら作品の執筆を続けている小説家志望の女性。生まれて初めて好きになった異性がトランプのジョーカーであるなど男性の趣味は少々変わっている。一度だけ過去に男性と交際したことがあるが、その男性に4股をかけた浮気をされ、更に家中にカメラを仕掛けられて盗撮されていたことを知り、恋愛というものを諦めるようになる。 隣人の富岡のことを「超然としていてかっこいい」と感じ、猛烈に好きになり付き合うようになる。感性豊かで、富岡が冷静な分、天真爛漫な行動がしばしば見られる。
宝クジオジさん (たからくじおじさん)
ショッピングセンターの屋上で仕事をサボっていた富岡ゆうじを、とあるアパートの一室から監視していた中年男性。脅迫状を送りつけてくるストーカーに悩まされていた富岡ゆうじに犯人かと疑われるが、彼は空き部屋だったアパートの一室に不法侵入して生活しているだけだった。働かず、18歳のときから宝クジを買い続けていたが、闇金業者に200万円超の借金を作ったまま逃走中。 闇金業者たちに捕まり殺されそうになるが、富岡ゆうじに借金を肩代わりしてもらって一命を取り止める。
雨川 勇 (あめかわ いさむ)
メガネをかけた小心者の高校生男子。ショッピングセンターの警備員である富岡ゆうじに脅迫状を送り続けていた。見るからに楽そうなショッピングセンターの警備員の仕事に憧れ、富岡ゆうじを脅迫して追い出し自分がその職を得ようとしていた。後にショッピングセンターが夜間警備員の人員を増やしたことで、富岡ゆうじの後輩となる。 駅で見かけて一目惚れしたヤクザの情婦を助けるため、ヤクザの家から金庫を盗み出すことを画策。富岡ゆうじと花林雄大に協力を求めたが、それがきっかけで殺人事件に巻き込まれる。
花林 雄大 (はなばやし ゆうだい)
富岡ゆうじの勤めるショッピングセンターが夜間警備員を人員増したさいに、雨川勇と共に警備員に採用された男。実家は青森で、夢によく出てくる美人でグラマーな女を捜し求めている。頭の悪い巨漢。雨川勇ががヤクザの家から金庫を盗むことを決意したさいに、150万円の報酬を目当てに協力を承諾するが、その事件がきっかけで殺人事件に巻き込まれる。
ヤクザの情婦 (やくざのじょうふ)
21歳女性。富岡ゆうじの夜間警備員の後輩である雨川勇が一目ぼれした女性。闇金業のかたわらパチンコ屋を経営する、亀梨会所属のヤクザと一緒に暮らしている。ヤクザにレイプされたさいに写真やDVDを撮られ弱みを握られたため、彼に逆らうことができなくなっている。写真やDVDが入った金庫をヤクザの家から盗み出すことを雨川勇に依頼。 金庫を盗み出すことに成功した雨川勇たちと合流したが、金庫の中の金に目がくらんでいたところを、偶然居合わせた上原に見つかり銃で射殺される。
上原 (うえはら)
とある山中に住む男。アルコール中毒の父親によってライフル銃で殺されそうになったが、逆に父親を殺害する。ヤクザから金庫を奪って逃走中の雨川勇、花林雄大、ヤクザの情婦と出くわし、銃でヤクザの情婦を殺害する。さらに銃で脅迫して雨川勇を縛り上げたのち、花林雄大に命令して自宅に金と雨川勇を運び込む。
斉藤 (さいとう)
市民体育館の総合スポーツ場で夜間警備員を11年間つとめている男。雨川勇らが関与した金庫盗難および殺人事件の後、ショッピングセンターをクビになった富岡ゆうじが再就職した職場の先輩。孤独を好む男で、警備員の後輩が採用されるたびにおばけの恰好をして驚かせるなどして、職場から追い出していた。 富岡ゆうじについては自分と同類と判断したため、職場から追いだそうとはしなかった。ある日、道で財布をひろったのをきかっけに若井と知り合い、彼女にニセの恋人役を演じるよう依頼される。
若井 (わかい)
サイフを落としたことがきっかけで、富岡ゆうじの職場の先輩である夜間警備員斉藤と知り合った。かつては太っていたが現在はダイエットに成功したため、免許証の写真とは別人にしか見えないほどの美人となっている。職場の上司である池田という男にストーキングされていて、肉体関係も持っている。 池田を諦めさせるため、斉藤に恋人のフリをしてほしいと依頼する。斉藤は好きなタイプの男性。
池田 (いけだ)
職場の部下である若井につきまとう男性上司。休みの日に朝から何十回も別人のふりをしてイタズラ電話するなどして若井を怖がらせ、彼女を保護するように見せかけて近づいた。若井の家に強引に上がり込むようになり、何度か彼女に肉体関係を強要している。斉藤が若井の恋人となったと聞かされて逆上するも、斉藤に首を絞められてしまう。
車ドロボーの少年 (くるまどろぼーのしょうねん)
富岡ゆうじが夜間警備員として勤務する総合スポーツ場をたびたび訪れ、仲間と共に総合スポーツ場をたまり場にしてしまった少年。ある日、盗んだ車(ベンツ)のトランクに外国人女性が拉致されているのを発見。いったん総合スポーツ場に車を隠し、外国人女性をヤクザの元へ連れ戻そうとするが、富岡ゆうじのせいで彼女に逃げられてしまう。
外国人女性 (がいこくじんじょせい)
褐色の肌を持つ外国人女性。車ドロボーの少年が盗んだ車のトランクに幽閉されていた。ポン引きの金を持ち逃げしようとして捕まり、ヤクザによって拉致された。車ドロボーの少年によってヤクザのもとに連れて行こうとするが、富岡ゆうじの助力で逃走に成功する。
吉岡 (よしおか)
ヤクザと同棲している女。雨川勇に猛烈な好意を抱かれている。その好意を利用し、自らのあられもない姿が映った写真などが入っているという金庫(本当はそのヤクザの所属する組の金が入っていた)を、ヤクザのマンションから運び出す仕事を手伝わせる。山梨県の山中で金庫を開けている際に上原と遭遇。 上原に暴言を吐き、散弾銃で撃たれ死亡する。
場所
ショッピングセンター
『わにとかげぎす』に登場するショッピングセンター。東京都の住宅街にある。富岡ゆうじが夜間警備員として働いていた。看板には「FS★」というロゴマークが記されており、ホームセンターと生鮮食品売り場がある。屋上は駐車場になっており、富岡ゆうじは深夜にここでジョギングしたり筋トレをしたりしている。夜間警備は1人体制で、富岡ゆうじがメインで1週間勤務した後、2日間は通常社員が担当するという変則ローテーションを採用していた。 しかし夜警を嫌った従業員たちが反発し警備員を2人増員することになり、雨川勇と花林雄大が採用された。
総合スポーツ場 (そうごうすぽーつじょう)
『わにとかげぎす』に登場する総合スポーツ場。野球場やサッカーグラウンド、総合体育館などを有する。敷地の一角に警備員の詰め所がある。夜間警備員として富岡ゆうじを雇用する。富岡ゆうじのほかには斉藤が勤務。夜におばけが出るという噂があったがそれは斉藤のしわざだった。斉藤の辞職後、車ドロボーの少年とその仲間たちが目をつけたまり場として使用する。
その他キーワード
わにとかげぎす
『わにとかげぎす』のタイトル。意味は魚類の分類で「わにとかげぎす目」に由来する。深海魚の代表的な種類である。7年間の深夜勤務で陽の光を浴びることなく、なんとなく社会の底っぽい場所に身体が適応してしまった富岡ゆうじを指している。