「音」で闘い「音」で脅す、異色のバトルアクション
夜間警備員・類我次郎は、ストレスを感じると異常な暴力を振るうゾンビマスクの男に豹変する。腕にICレコーダーを付け、相手の顔面がめり込むほどのすさまじいパンチを放ち、指向性スピーカーの音響攻撃で敵を倒していく。さらに大勢を相手にするときは、スピーカー、アンプ、エフェクターなど多数の音響機器を装備し、サンスクリット語の呪音(不協和音)で敵を制圧する。また、捕らえた敵には目隠しをし、磯の香りや波の音、段差などで崖の上にいると錯覚させて脅すといった、ヴァーチャルな拷問を行う。本作ではこうしたバトルシーンのほか、ストーリー上でも「音」が重要なキーワードとなっている。
原初的な破壊に癒やしを求める異形の男
類は不安とストレスに起因する破壊衝動を秘めている。弱者をいたぶったり、食いものにしたりするような連中がはびこる世の中が間違っており、そのせいで自分がおかしくなるというのが彼の理屈である。また、類がゾンビマスクの男になる最大のきっかけは、頻繁にかかってくる母からの電話である。認知症を患ってグループホームに入居している母は、自分の不幸は「パパ」のせいであり、動けない自分の代わりに殺せと催促してくるのだ。類は母のために世の中の不浄をなくすという名目で、暴力を振るう。そして、相手の肉を叩きその肉が踊るような、原初的な破壊の瞬間だけは不浄なものがなくなる気がして、その感覚に浸っているのである。
ソユンとの類のセッションを経て物語は大きく転換する
21歳のソユンは音楽が大好きな日韓ハーフである。ある日、バンド仲間のマンションのベランダから、ショッピングモールの屋上でマネキン人形と踊る類を目撃し、後に恋に落ちた。その後、ソユンたちのライブ会場が、偶然にも類の戦場となり、ソユンのベースが黒焦げになってしまう。それを見て音楽をあきらめかけるソユンの前に、音響機材を多数装備した類が現れ、シールドケーブルのプラグを差し出す。ソユンはプラグをベースにつなぎ、激しく音楽を奏で始め、類はエフェクターや音量を操作する。セッションの中、類は破壊行動でしか得られなかった、癒やしに似た感覚を味わう。こうしてソユンと巡り合った類は、孤独から解放されたかに見えたが、その後物語は意外な側面を見せ始める。
登場人物・キャラクター
類 我次郎 (るい がじろう)
栃木県足利市のショッピングモールで、夜間警備の仕事をしている青年。確認行為、不潔恐怖、配置のこだわり、音楽への依存といったさまざまな強迫性傷害の症状がある。また、強い不安やストレスを感じると強烈な破壊衝動に支配され、ゾンビマスクと音響機器を装備した怪人に変身。凄絶な拳と残虐な暴力で悪人を駆逐する。
初結音 (そゆん)
栃木県足利市在住の21歳の女性。韓国人の父と日本人の母を持つハーフ。ピンクのロングヘアーが特徴。「明洞ジャパン」というバンドのベーシストで、使用機器は白のヤマハBB。理論を学ばずに、ただ体が喜ぶことだけをやりたいと、感覚的に音楽を奏でる。ショッピングモールの屋上で、マネキンと踊る類我次郎に一目惚れする。
書誌情報
アタックシンドローム類 4巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2022-11-30発行、 978-4098614653)
第2巻
(2023-04-28発行、 978-4098616954)
第3巻
(2023-08-30発行、 978-4098625499)
第4巻
(2023-12-27発行、 978-4098626236)