あらすじ
第1巻
初恋の相手であるアラン・ド・サン・ジェロームをド・リュクセ伯爵に殺害されたマリー-ジョセフ・サンソンは、一度は処刑台に上りながらもデュ・バリー夫人の口添えで無罪になったド・リュクセ伯爵を改めて処刑台に送るため一計を案じ、密かに貴族皆殺しを心に誓う。しかしこの二転三転する判決が、法律家のマクシミリアン-ロベスピエールの中で、一つの思いを芽吹かせる事になる。
第2巻
シャルル-アンリ・サンソンは、初代「ムッシュー・ド・パリ」であるシャルル・サンソン・ド・ロンヴァルの回想録を読んでいた。軍人だったシャルル-アンリは処刑人の娘で孤独な運命を持つマルグリット・ジュアンヌに惚れ込み、家族や職を捨てて処刑人となる。だが、それが自らの運命に男を巻き込もうと考えたマルグリットの企てと知ったシャルル-アンリは激昂し、結核で臥せている彼女を心底憎む事となる。
第3巻
ついにルイ16世が戴冠し、新国王となった。デュ・バリー夫人をベルサイユから追い出したマリー-アントワネットは、平民のデザイナーであるローズ・ベルタンを重用し、これまでの重臣を解雇するなど、好き勝手な振る舞いを始める。そんな中、アントワネットは、かつてあこがれ、そして現在では疎ましく思っているマリー-ジョセフ・サンソンに恥をかかせようと、夫婦同伴が条件の舞踏会に彼女を招待する。
第4巻
フランス国内では貧富格差が拡大した影響で、第三身分の若者達が結成した強盗団のアンラジェによってベルサイユ宮殿の食糧物資が強奪される事件が頻発していた。マリー-ジョセフ・サンソンはこの討伐、逮捕の任務を命じられ、そこでアンラジェのリーダーのジャックと出会う。互いに剣を交えるうちに、二人は互いがサンソン家の娘である事と、シャルル-アンリ・サンソンに八つ裂き刑に処されたロベール-フランソワ・ダミアンの息子であるという因縁を知り、再戦を誓う。
第5巻
給料未払いの件を問いただすため、シャルル-アンリ・サンソンがルイ16世との謁見の機会を得た。しかし、二人が謁見する扉1枚挟んだ廊下ではマリー-ジョセフ・サンソンとジャックが、ルイ16世の命とフランスの命運を懸けて戦いを繰り広げていた。そんな中、シャルル-アンリはルイ16世に人道的な処刑具、すなわちギロチンを考案中である事を伝え、一刻も早い完成を条件に、未払い分を含めた給料の支払いを約束させる。
第6巻
マリー-アントワネットの評判を地に落とした首飾り事件の首謀者であるジャンヌ・ド・ヴァロア・サン-レミの刑が、シャルル-アンリ・サンソンとマリー-ジョセフ・サンソンの手で執行される事になった。ジャンヌに課されたのは、死に至らぬ焼鏝(やきごて)刑だが、根も葉もないアントワネットの醜聞が広まるのを忌避したシャルル-アンリは、偶然に見せかけて刑の最中にジャンヌの殺害を計画する。
第7巻
民衆から人気の高い死刑囚であるオリビエ・ルシャールの死刑が、アンラジェをはじめとする多くの民衆によって阻止された。その勢いに、これこそがフランスを変え貴族を皆殺しにできる「新しい力」だと確信したマリー-ジョセフ・サンソンは、子のゼロを連れてサンソン家を出奔する。そんなマリー-ジョセフの姿に静かに憤怒を燃やしたシャルル-アンリ・サンソンは、今後マリー-ジョセフを目にした時には殺害するよう、サンソン一族全員に指示を出す。
第8巻
ルイ16世から助言を受けたシャルル-アンリ・サンソンは、ようやく念願だったギロチンを完成させる。フランス革命後、ついに日の目を見たギロチンは、やがてシャルル-アンリが敬愛するルイ16世の首までをも斬る運命になる。さらにルイ16世の処刑から1年前、シャルル-アンリは次男のガブリエル・サンソンを亡くし、人の命の重さと自らの罪深さに改めて向き合い、処刑人を退職したいと考えるようになっていた。
関連作品
坂本眞一の『イノサン』が、本作『イノサンRouge』の前作にあたる。『イノサン』では、マリー-ジョセフ・サンソンの兄、シャルル-アンリ・サンソンが主人公となっている。物語は『イノサン』単体で完結しないまま直接本作につながっているため、本作『イノサンRouge』で解説されておらず、『イノサン』を参照しなければ理解しにくい部分も多々ある。
登場人物・キャラクター
マリー-ジョセフ・サンソン
サンソン家の長女であり、シャルル-アンリ・サンソンの妹。ベルサイユの処刑人である「プロヴォテ・ド・ロテル」の称号を持つ女性。金色の長い巻き毛だが、側頭部だけ刈り上げた特徴的な髪型をしている。傀儡の夫であるジャン-ルイ・サンソンとのあいだに、子のゼロをもうけている。アラン・ド・サン・ジェロームが理不尽な殺され方をした時から、貴族の皆殺しを密かに画策しており、国家転覆のために暗躍する。 そのため、オリビエ・ルシャールの処刑を阻まれて以降はアンラジェと共に行動し、一度はサンソン家と離別した。だが、フランス革命後は革命政府側の人間として処刑人に舞い戻っている。実在の人物、マリー=ジョゼフがモデルとなっている。
ゼロ
マリー-ジョセフ・サンソンの子。性別、容姿、身分から解き放たれた存在になるように「ゼロ」と名付けられた。生まれた時から頭に麻袋をかぶせられ、幼児になってからは太陽と麦の意匠が入った鉄仮面を身につけている。そのため成長してからもドレスをまとい、髪をリボンで結ってはいるが、男女どちらか判明していない。恐怖心を教えられておらず、鉄仮面を斧や剣の盾にされても怯えた様子を見せない。
シャルル-アンリ・サンソン
サンソン家の長男であり、アンリ・サンソンとガブリエル・サンソンの父親。フランス全土の処刑人頭領である4代目の「ムッシュー・ド・パリ」。かつては罪人達を哀れんで処刑を拒む心優しい少年だったが、家督を継いでからは冷酷な処刑人として一族を率いている。そのため、自由奔放なマリー-ジョセフ・サンソンとは対立する事も多く、一時は一族の恥さらしとしてマリー-ジョセフを殺害しようとした。 フランス革命後も処刑人を続けているが、ガブリエルの死後再び処刑人という仕事に疑問を持ち、革命政府に退職願を出すが、人手不足を理由に却下されている。実在の人物、シャルル=アンリ・サンソンがモデルとなっている。
マリー-アンヌ
シャルル-アンリ・サンソンの妻。農家の娘だったが、シャルル-アンリを愛したため、過酷な運命を覚悟のうえでサンソン家に嫁いで来た気丈な女性。サンソン家の女に自由はいらないと考えていながらも、自由に生きるマリー-ジョセフ・サンソンを内心羨み、独自に殺害を企てる。実在の人物、マリー=アンヌ・ジュジェがモデルとなっている。
ルイ-シャルル-マルタン・サンソン
サンソン家の次男であり、トゥールとオーセールで処刑人を務める青年。シャルル-アンリ・サンソンの腹違いの弟。シャルル-アンリに依頼され、エレーヌ・ヴィルヌーブの帝王切開手術に使う全身麻酔薬のダチュラを入手して手術に駆けつけた。幼少時から医学の才能に長けており、エレーヌの手術においても縫合を任された。実在の人物、ルイ=シャルル=マルタン・サンソンがモデルとなっている。
ニコラ-シャルル-ガブリエル・サンソン
サンソン家の三男であり、ブロアで処刑人を務める青年。シャルル-アンリ・サンソンの指示で、アンラジェと合流してサンソン家の家名に泥を塗ったマリー-ジョセフ・サンソンを処刑するため、長尺の斧を持ってマリー-ジョセフの殺害を目論む。実在の人物、ニコラ=シャルル=ガブリエル・サンソンがモデルとなっている。
ルイ-シル-シャルルマーニュ・サンソン
サンソン家の四男であり、プロヴァンで処刑人を務める青年。シャルル-アンリ・サンソンの指示で、アンラジェと合流してサンソン家の家名に泥を塗ったマリー-ジョセフ・サンソンを処刑するため、長尺の斧を持ってマリー-ジョセフの殺害を目論む。その際、マリー-ジョセフによって右腕を切り落とされる事となった。 実在の人物、ルイ=シル=シャルルマーニュ・サンソンがモデルとなっている。
シャルル・サンソン・ド・ロンヴァル (しゃるるさんそんどろんゔぁる)
ノルマンディー地方アブヴィル出身の軍人だった男性。初代の「ムッシュー・ド・パリ」。マルグリット・ジュアンヌに一目惚れし、純粋に愛を育もうと考えていたが、意識を失ったふりをしていたマルグリットの豊満な肉体を前に誘惑に負け、マルグリットが処刑人の娘である事を知らずに肉体関係を持ってしまう。その後もすべてマルグリットが仕組んだ事とは知らず、家族も職も捨てて処刑人となり、サンソン家を興した。 実在の人物、シャルル・サンソン・ド・ロンヴァルがモデルとなっている。
マルグリット・ジュアンヌ (まるぐりっとじゅあんぬ)
シャルル・サンソン・ド・ロンヴァルの妻で、処刑人の娘。町一番の美女といわれていた。幼少時、恋人と駆け落ちをする予定だった姉が森の中で惨殺されているのを目にして以降、処刑人の娘として生まれたからには、自由を謳歌する事などできないと諦観していた。そんな折、落雷に打たれて気を失っていたシャルルを発見し、必ず夫にして自分の孤独な運命の道連れにしようと誘惑した。 実在の人物、マルグリット・ジュアンヌがモデルとなっている。
アンドレ・ルグリ (あんどれるぐり)
元サンソン家の助手だった男性。マリー-ジョセフ・サンソンに心酔しており、マリー-ジョセフとつねに行動を共にし、少々の無理難題にもすべて応えている。
アンリ・サンソン (あんりさんそん)
シャルル-アンリ・サンソンの長男。幼少期はサンソン家の家業である処刑人という仕事を忌み嫌っていたが、シャルル-アンリと叔父のルイ-シャルル-マルタン・サンソンがエレーヌ・ヴィルヌーブの出産において帝王切開手術を無事完遂するため必死になる背中を見て、サンソン家の手は人を殺すばかりではないと気づき、立派な処刑人になる事を決意した。 実在の人物、アンリ・サンソンがモデルとなっている。
ガブリエル・サンソン (がぶりえるさんそん)
シャルル-アンリ・サンソンの次男。心優しいため処刑人に向かない性格で、密かにマクシミリアン-ロベスピエールの弁論に心酔しており、平等な世界を夢見ている。処刑人一族としての重責に潰されそうになっていた際、ピエールからすみれの香り袋をプレゼントされ、友情を交わした。ピエールの処刑に立ち会った直後、人殺しだらけの世界に絶望して自ら処刑台から銃剣の上に転落し、絶命した。 実在の人物、ガブリエル・サンソンがモデルとなっている。
ジャン-ルイ・サンソン
マリー-ジョセフ・サンソンの夫。都合のいい傀儡として存在している男性。極度の肥満体で、立つ事も歩く事もできず、つねにベッド上で食べ物を貪り続けている。マリー-ジョセフの思惑により、ゼロを設けている。またマリー-ジョセフがアンラジェと行動を共にするようになってからは縁を切られている。実在の人物、ジャン=ルイ・サンソンがモデルとなっている。
マリー-アントワネット
ルイ16世の妻で、フランスの王妃を務めている。奔放な性格で快楽主義なところがあり、自分の楽しみを第一に考えている。かつてあこがれたマリー-ジョセフ・サンソンの事を疎ましく考えており、恥をかかせようとしたが、返り討ちに遭った。またローアン枢機卿の事も嫌っており、贈り物をすべて送り返していたため首飾り事件とはいっさい関係がない。 日々の浪費が国民感情を荒立てており、ジャンヌ・ド・ヴァロア・サン-レミのでまかせを信じた民衆から批判の的となった。実在の人物、マリー・アントワネットがモデルとなっている。
ルイ16世
マリー-アントワネットの夫で、フランス国王を務めている。戴冠前は「ルイ-オーギュスト」と呼ばれており、フランス革命後は「ルイ・カペー」と呼ばれるようになる。拷問や死刑執行の廃止を考え、特権階級からの徴税を考えるなど、根本からフランスを変えようと考えていた。戴冠後、サンソン家への給料を滞納しており、処刑人という職業の廃止も考えていたが、シャルル-アンリ・サンソンがギロチンの製作を考案している事を知り、一刻も早いギロチンの完成を条件に、サンソン家の相続と給料支払いを約束した。 実在の人物、ルイ16世がモデルとなっている。
ローズ・ベルタン (ろーずべるたん)
マリー-アントワネットお抱えの服飾デザイナーの女性。デュ・バリー夫人とはお針子時代の同僚だったが、男性に依存して権力を得たデュ・バリー夫人を嫌っており、自分の服飾センス等でだけで上り詰めると決意している。先進的なデザインをいくつも考案し、アントワネットが宣伝塔となった事で、貴族からドレスの注文が殺到した。実在の人物、ローザ・ベルタンがモデルとなっている。
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン (はんすあくせるふぉんふぇるぜん)
マリー-アントワネットの愛人。スウェーデンの名門貴族の男性。アントワネットとは仮面舞踏会をきっかけに知り合い、プチ・トリアノンなどで逢瀬を重ねている。実在の人物、ハンス・アクセル・フォン・フェルセンがモデルとなっている。
ジャンヌ・ド・ヴァロア・サン-レミ
ヴァロア朝の王族の末裔を自称している女性。娼婦の女王として貧民窟に君臨し、過激なSMプレイで特殊性癖を持つ貴族達にも崇められている。窃盗や暴行、横領などの罪で絞首刑になるところだったが、ヴァロア朝王家の末裔である事を承認した事で免罪され、「ド・ラ・モット夫人」を名乗り貴族となった。その後、マリー-アントワネットと親密な関係であると詐称し、ローアン枢機卿を騙してアントワネット宛の多くの品物を詐取した。 首飾り事件の首謀者。焼鏝(やきごて)刑を言い渡された際、アントワネットとレズビアンの関係であると吹聴し、中傷した。実在の人物、ジャンヌ・ド・ラ・モット・ヴァロアがモデルとなっている。
ローアン枢機卿 (ろーあんすうききょう)
聖職者である枢機卿でありながらマリー-アントワネットに執拗に言い寄っている男性。ジャンヌ・ド・ヴァロア・サン-レミをアントワネットの親友と信じ込み、アントワネット宛の贈り物をすべてジャンヌに送っていた。首飾り事件の関係者の一人。実在の人物、ルイ=ルネ=エドゥアール・ド・ロアン=ゲメネーがモデルとなっている。
マリー-ニコル-ルゲイ・デシニー
マリー-アントワネットに瓜二つの容姿を持つ娼婦。ジャンヌ・ド・ヴァロア・サン-レミがアントワネットの親友である事をローアン枢機卿に信じ込ませるために、アントワネットの替え玉として利用された。首飾り事件の関係者の一人。実在の人物、マリー・ニコル・ルゲイ・デニシーがモデルとなっている。
ルイ15世 (るいじゅうごせい)
ルイ16世の父親で、ブルボン朝の第4代国王を務めている。デュ・バリー夫人を溺愛しており、デュ・バリー夫人の願いならどんな事でも叶える。デュ・バリー夫人に贈る愛の証として、200万リーブルの首飾り製作をベーマー、バッサンジュに依頼していた。ルイ16世の戴冠後、天然痘で死亡する。実在の人物、ルイ15世がモデルとなっている。
デュ・バリー夫人 (でゅばりーふじん)
ルイ15世の公妾の女性。「マダム・デュ・バリー」と呼ばれ、ルイ15世からは「オッパイちゃん」とも呼ばれていた。本名は「マリージャンヌ・ペキュー」という。もともとは修道女だったが、お針子や娼婦活動を経て公妾に成り上がった。シャルル-アンリ・サンソンとも交流があり、かつては肉体関係もあった。ルイ15世の死後、ベルサイユを追われている。 実在の人物、デュ・バリー夫人がモデルとなっている。
ベーマー
ベルサイユ宮殿に出入りする宝石商の男性。女性のような口調で話す。ルイ15世から依頼を受け、200万リーブルの首飾り製作に着手するが、本当に国王に支払いが可能なのか疑問を抱いていた。ルイ15世の死後、首飾り事件の被害者となる。実在の人物、シャルル・ベーマーがモデルとなっている。
バッサンジュ
ベルサイユ宮殿に出入りする宝石工の男性。女性のような口調で話す。ルイ15世から依頼を受け、200万リーブルの首飾り製作に着手するが、中央にあしらう巨大ダイヤを入手できずに苦悩していた。ルイ15世の死後、首飾り事件の被害者となる。実在の人物、ポール・バッサンジュがモデルとなっている。
マクシミリアン-ロベスピエール
法律家の青年。デュ・バリー夫人の口添えで一度は無罪となったド・リュクセ伯爵が斬首刑になった事をきっかけに、現在の法律が絶対ではない事を知り、自分にも新しい法律が作れるのではないかと希望を抱いた。パレ・ロワイヤルという屋敷で、平等な世界に焦がれる青年達を煽動し、フランス革命へとひた走らせる。実在の人物、マクシミリアン・ロベスピエールがモデルとなっている。
ド・リュクセ伯爵 (どりゅくせはくしゃく)
アラン・ド・サン・ジェロームが作った学校の生徒達を焼き殺し、アランをも惨殺した青年貴族。アランを国家転覆を企てた悪漢だったと偽証し、一度は無罪になった。しかし、ルイ15世との晩餐直前にマリー-ジョセフ・サンソンによって幻覚薬を盛られた事で、晩餐時に真実を暴露。これにより、再度斬首刑を言い渡された。
アラン・ド・サン・ジェローム (あらんどさんじぇろーむ)
マリー-ジョセフ・サンソンの初恋の相手。平民の子供達に勉強を教える学校を作ろうとしていた混血の青年。肌が浅黒い事から、ド・リュクセ伯爵からは蔑称として「カフェオレ」と呼ばれていた。子供達を焼き殺したド・リュクセ伯爵を追跡したが、返り討ちに遭って惨殺された。
エレーヌ・ヴィルヌーブ (えれーぬゔぃるぬーぶ)
夫殺しの罪で絞首刑を命じられた少女。年齢は12歳。没落貴族の出身であるため、金持ちの平民に嫁がされ、臨まぬ妊娠をした。胎児を自力で堕胎しようとしていたところを夫に咎められ、突き飛ばした拍子に事故死させてしまった。帝王切開によって男児を出産後、絞首刑に処される。
ポール・ベルトード (ぽーるべるとーど)
シャルル・サンソン・ド・ロンヴァルのいとこ。戦地を巡る毛皮商を営んでいた男性。マルグリット・ジュアンヌに薬を盛り、数人の仲間と共に強姦しようと目論んでいたが、シャルルによって阻止された。
ジャン-ポール・マラー
医師としてベルサイユに出入りしている男性。皮膚病のため、つねに左半分を仮面で隠している。またこの皮膚病を忌み嫌って嘲笑った貴族達に復讐するため、アンラジェに情報を流している。実在の人物、ジャン=ポール・マラーがモデルとなっている。
ジャック
アンラジェのリーダーを務める男性。かつてシャルル-アンリ・サンソンに八つ裂き刑を執行された、ロベール-フランソワ・ダミアンの息子。父親を惨たらしく殺害したという事で、フランス王家やサンソン家を憎んでいる。
オリビエ・ルシャール (おりびえるしゃーる)
マクシミリアン-ロベスピエールの弁舌に心打たれた鍛冶職の青年。父親に恋人を寝取られた事で激昂し、揉み合った末に父親を殺してしまい、車裂きの刑に処される事になった。しかし、無償で質のいい農具を配っていた事から民衆の人気が高く、アンラジェとそれに共感する民衆の手によって奪還された。
ピエール
ドイツからフランスに修行にやって来た手袋香水職人の青年。ガブリエル・サンソンの友人となるが、王家御用達の香水職人だった師匠が革命政府に目をつけられないようにと、スケープゴートにされてギロチンに掛けられた。
ノアイユ伯夫人 (のあいゆはくふじん)
マリー・アントワネットのフランス宮廷での教育係を務めていた女性。フランスに嫁いだばかりの頃、その口うるささからアントワネットが一番恐れた存在で、「マダム・エチケット」というあだ名で呼ばれていた。ローズ・ベルタンを重用するアントワネットに苦言を呈した結果、教育係を解任された。実在の人物、ノアイユ伯爵夫人がモデルとなっている。
シャルル-ジャン-バチスト・サンソン
マリー-ジョセフ・サンソンやシャルル-アンリ・サンソンの父親。先代の「ムッシュー・ド・パリ」。半身不随となったため別居、作中においてはのちに死去する。しかし肖像画がサンソン家のダイニングに掲げられており、霊体となってサンソン家の子孫達を見守っている様子がある。実在の人物、シャルル=ジャン・バチスト・サンソンがモデルとなっている。
アンヌ-マルト・サンソン
マリー-ジョセフ・サンソンやシャルル-アンリ・サンソンの祖母。マリーの少女時代は存在自体が「サンソン家の鉄の掟」として機能していた。かつてマリー-ジョセフに顔面を切りつけられた事をきっかけに、現在は別居している。作中においてはのちに死去する。しかし肖像画がサンソン家のダイニングに掲げられており、霊体となってサンソン家の子孫達を見守っている様子がある。 実在の人物、アンヌ=マルト・デュピュがモデルとなっている。
ロベール-フランソワ・ダミアン
かつてルイ15世を殺害しようとした罪で、シャルル-アンリ・サンソンによって八つ裂き刑を執行された罪人。ジャックの父親。実在の人物、ロベール=フランソワ・ダミアンがモデルとなっている。
ブランカ
マリー-ジョセフ・サンソンが連れている白い小さな猿。元はアラン・ド・サン・ジェロームのペットだったが、マリーがアランの仇であるド・リュクセ伯爵の罪状を白日の下に晒すと決意した瞬間から行動を共にしており、ド・リュクセ伯爵の処刑完了後、正式にマリーの友として共に暮らすようになった。
集団・組織
アンラジェ
私有財産と階級制度の廃止を訴え、富豪や貴族、王族への襲撃を繰り返している盗賊団。パリ4区にある死体売り場をアジトにして活動していた。旗印として第3身分の上衣であるジャケットを掲げる。「怒れる狂者」という意味を持つ。実在の同名組織がモチーフとなっている。
場所
プチ・トリアノン (ぷちとりあのん)
ルイ16世からマリー-アントワネットに与えられた、ベルサイユ宮殿の離宮。庭には家畜などが飼われ、農村が再現されている。アントワネットの許可なしにはルイ16世も立ち入る事はできず、アントワネットは仲のいい貴族とだけで昼食会を行うなどして、大貴族達から反感を買っていた。また、ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンの逢い引きもプチ・トリアノンで行っていた。
イベント・出来事
首飾り事件 (くびかざりじけん)
ジャンヌ・ド・ヴァロア・サン-レミが引き起こした、200万リーブルという巨額の首飾りの詐欺事件。マリー-アントワネットに想いを寄せるローアン枢機卿に「アントワネットの親友」を騙って近づいたジャンヌが、アントワネットと瓜二つの容姿を持つマリー-ニコル-ルゲイ・デシニーを替え玉にして信用を得て、アントワネットがほしがっている首飾りを代理購入すれば気を引けると唆(そそのか)し、アントワネットに渡すと騙(かた)って詐取した。 その後、首飾りの製作者であるベーマーとバッサンジュが、支払いが滞っている事をアントワネットに直談判した事で事件が発覚した。この首飾り事件をきっかけにアントワネットの評判が急落した。
その他キーワード
ダチュラ
鎮痛作用のある麻薬。非常に貴重で高額だが、シャルル-アンリ・サンソンは全身麻酔薬としてエレーヌ・ヴィルヌーブの帝王切開手術の際に使用した。しかし、血圧が低下して妊婦が危険な状況に陥る危険性があるため、シャルル-アンリはダチュラの使用の事実を隠匿した。
ギロチン
シャルル-アンリ・サンソンが数名の協力者と共に「人道的な処刑具」として考案および開発した処刑用の道具。当初は刃が半月型にデザインされていたが、ルイ16世の助言により、斜め刃が採用されている。
サンソン家 (さんそんけ)
フランス全土の処刑人頭領「ムッシュー・ド・パリ」の称号を持つ一族。死刑執行後、引き取り手のない死体を解剖する事で人体の構造を知悉するようになったため、代々医業を副職にしている。屋敷には診察室や待合室、薬剤調合室や実験室も完備されており、医療での収入は年間6万リーブルにも上る。しかし、貴族をはじめとする富裕層からは高額な報酬を受け取る半面、貧しい人々からは一銭も受け取っていない。 パリの治安が悪化の一途を辿る中、娼婦達に避妊具の配布をしたり、貧民街に赴いて毎週行うパンの配布を予告するなどの慈善事業も行っている。