あらすじ
第1巻
朝日河神社書店のアルバイト募集に応募した大学生の中河泰弥は、書店が神社の敷地内にあることもあってか、面接官から神を信じるかどうかを尋ねられる。その問いにふざけた答えを返した泰弥は、相手の表情から不合格を覚悟するが、なぜか採用されて朝日河神社書店の一員となることが決定する。そして迎えた初出勤の日、泰弥は朝日河神社で鳥居に向かってお辞儀をする一人の少女を見かける。「神様に挨拶していた」というその少女にウザ絡みして怒りを買った泰弥は、罰当たりと彼女の鉄拳制裁を受けるのだった。その後、書店での初めての仕事に臨んだ泰弥は、必要なブックカバーがどこからともなく落ちてきたり、手からこぼした客のペンが空中で止まったりと、不思議な現象に見舞われる。自分が超能力に目覚めたか、あるいはまさか本当に神がいるのかと泰弥が考え始める中、先ほど泰弥に鉄拳制裁を下した少女が客として書店に姿を現す。彼女は泰弥の姿を見てその場を立ち去ろうとするが、泰弥は自分が接客するとゆずらない。そこで彼女は泰弥に対し、一つの試練を課す。(第1話「神のおわす本屋さん」。ほか、5エピソード収録)
登場人物・キャラクター
中河 泰弥 (なかがわ たいや)
大学入学を機に、朝日河神社書店で新しくアルバイトを始めることになった男子。年齢は18歳。眼鏡を掛け、ぼさぼさのショートヘアの前髪を髪留めで上げている。まったく空気が読めないうえに誰にでも気安く振る舞い、礼儀知らずでつねにうっとうしいほどテンションが高いため、初対面の相手には基本的に怒られるかあきれられるかの二択。また、下痢止め薬「赤玉」を常備しており、体調が悪そうな人を見かけると誰彼構わず赤玉を勧める妙な癖がある。一方で客が見つけられずにいる本があれば、わずかな手がかりからでもあきらめず、さまざまな方向からアプローチをかけて調査するなど、仕事に対しては非常にまじめで誠実。また、朝日河神社書店にいる神様に気に入られており、客が探している本が光って見えたり、客の欲している本の内容がわかったりと、特異な現象に見舞われている。ただしほかの店員にはそのような事象は起こらず、彼らから中河泰弥がうさん臭く見られる要因の一つとなっている。趣味はリアル脱出ゲームと人間観察で、射的はプロ級の腕前を誇る。ローカル覆面アイドル「Juicy7」のファンで推しはMOMOだが、MOMOの正体が白倉桃華であることは知らない。
白倉 桃華 (しらくら ももか)
朝日河神社書店の常連客の女性で、年齢は15歳。実はローカル覆面アイドル「Juicy7」のメンバーで、芸名は「MOMO」。ふだんは黒髪のストレートロングだが、MOMOのときはツインテールにしている。本好きな文学少女で、アイドルとしては歌唱力と表現力に定評がある。朝日河神社に足しげく通ってお参りしているほど信心深く、無礼なうえに神を軽んじる中河泰弥とは折り合いが悪い。一方で、書店員と客として何度も泰弥と顔を合わせるうちに、自分が何も言わなくても望んだ本を言い当てたりする彼が気になり、腐れ縁のようなものを感じるようになっていく。のちに朝日河神社書店でアルバイトを始める。
大谷地 隆司 (おおやち たかし)
朝日河神社書店の店長を務める男性で、年齢は54歳。担当はビジネス、学習参考書。眼鏡を掛け、白髪交じりの髪をソフトバックにしている。ひょうひょうとしたキャラで、どこか底の知れないところがある。朝日河神社書店の秘密を知る人物で、店でのアルバイトを希望する中河泰弥を面接し、その言動にあきれて一度は不採用を決めたものの、神様の意向を受けて彼を雇うこととなった。
匂坂 千夏 (さぎさか ちなつ)
朝日河神社書店で働く女性で、年齢は25歳。担当は文庫。ロングヘアで、眼鏡を掛けている。勤続10年のベテラン書店員で、文庫小説のことであれば、書き出しを聞いただけで作者名とタイトルが瞬時に出てくるほどに造詣が深い。素直で謙虚、世話好きな性格で、新人店員の教育係を担当している。その言動により、ほかの店員にあきれた目で見られている中河泰弥に対しても優しく接することから、彼にあこがれられている。
石屋 幸 (いしや さち)
朝日河神社書店で働く女性で、年齢は22歳。担当はコミック。眼鏡を掛け、黒髪のセミロングヘアをツインテールにしている。三白眼で目つきが悪く、少々陰気で毒舌家。BL好きで、石屋幸がコミック担当になって以来、朝日河神社書店のBL漫画コーナーはそれまでの5倍に拡張された。
冨井 彩 (とみい ひかり)
朝日河神社書店で働く女性で、年齢は32歳。担当は雑誌、定期購読。ウエーブのかかった金髪ショートヘアで、口が悪くケンカっ早いなど、言動の端々にヤンキーっぽさをかいま見せる。姉御肌なことから、店員たちを束ねるリーダー的存在となっている。また、二児の母でもある。
中東 梨奈 (なかひがし りな)
朝日河神社書店で働く高校2年生の女子で、年齢は17歳。艶やかな黒髪をツインテールにした、頰の赤い素朴な少女。明るく元気だが、どこかマイペースなところがある。漫画と恋愛小説が好き。
内村 龍之介 (うちむら りゅうのすけ)
朝日河神社書店で働く高校2年生の男子で、年齢は17歳。非常に背が高いが、存在感は薄め。日々どれだけ楽に仕事を終えられるかだけを考えており、楽をするためならば労を惜しまないという本末転倒な事態を招くこともある。何かと言葉を略して、小さな声でしゃべるが、これらはすべて体力の消耗を避けるためである。
坪井 観音 (つぼい かのん)
朝日河神社書店で働く女性で、年齢は38歳。ふんわりとしたセミロングヘアで眼鏡を掛けており、左目の下に泣きぼくろがある。非常におっとりとした口調でつねに穏やかな笑みを浮かべており、どんなクレーマーも彼女の前では牙を抜かれてしまう。一方、仕事においてはその動作が目に見えないほどに素早く的確で、「朝日河神社書店のビッグマザー」の異名を取る。
後藤 千久万 (ごとう ちくま)
朝日河神社書店で副店長を務める男性で、年齢は45歳。担当は児童書、専門書。角刈りに筋骨隆々とした大柄な体型の肉体派で、書店ならではの力仕事も軽々とやってのける。
秋葉 (あきば)
白髪に豊かな口髭とあご髭を蓄えた老人。「山崎博重」なる人物の著書を求め、半年にわたって朝日河神社書店に通い詰めている常連客。だが、秋葉の求める本は著者名以外に情報がなく、店員たちが手を尽くして調べても該当する本が見つかっていない。そのため、冨井彩をはじめとする店員たちには嫌がらせと受け止められている。実は亡くなった将棋友達の山崎の痕跡をたどるため、彼が書いたという本を探していた。
山崎 (やまざき)
眼鏡を掛けた白髪頭の老人で、本名は「山崎博重」。秋葉とは互角の腕を持つ将棋友達だったが、互いに家庭のことなどは詳しく知らず、ある日「本を書く仕事で忙しい」という言葉を残して秋葉の前から姿を消した。のちに、亡くなったことが判明する。実はその筋では高名な動吻(どうふん)動物の研究家で、萩野拓泉の「動吻動物殺人事件」というミステリー小説に解説文を寄稿していた。
凛子 (りんこ)
ローカル覆面アイドル「Juicy7」のメンバーの若い女性で、芸名は「RINGO」。明るい色の髪をショートカットにしている。天真爛漫な性格で、グループのムードメーカー的な存在。住んでいるはぼろ町が田舎なことから、グループがステップアップして東京進出することを望んでおり、そのための努力も惜しまない強いプロ根性の持ち主。おばあちゃん仕込みの折り紙が得意。
岡崎 靖典 (おかざき やすのり)
ヘアサロンPureに勤めるスタイリストの青年。アシスタントを2年、その後スタイリストとなって1年経つが、技術的には十分な腕を持ちながら、なかなか指名が取れずに伸び悩んでいる。店に置く雑誌を買いに朝日河神社書店を訪れた際、中河泰弥に「お兄さんに必要な本だ」と強く勧められ、たけざわまゆの絵本「ナンデくんとせかいのヒミツ」を購入する。
航 (わたる)
高校2年生の男子。中東梨奈のクラスメートで、梨奈に思いを寄せている。朝日河神社の宮司の孫という立場に加え、父親が「朝日河神楽会」の発起人となったことから、松前神楽を学んでいる。特に興味がない風を装ってはいるものの、実際は神楽が好きで、その姿を梨奈にも見てもらいたいと考えていた。
集団・組織
Juicy7 (じゅーしーせぶん)
北海道で活躍する七人組のローカル覆面アイドルグループ。略称は「じゅーなな」。メンバーは全員フルーツを元ネタにした芸名を持つが、アイドル活動中は覆面をつけており、その素性を明かしていない。実は白倉桃華や凛子も所属している。楽曲のタイトルや歌詞には北海道弁がふんだんに盛り込まれており、2019年5月15日発売の5th singleは表題曲が「好きだからってちょさないで」。カップリング曲は通常版が「めんこいSummer」「道産子言えるかな」、なまら限定版が「蝦夷梅雨と晴れ男」「わや恋Weekend」となっている。ちなみに、Juicy7のファンのことは「ジューサー」という。
場所
朝日河神社書店
朝日河神社の敷地内にある本屋で、拝殿と資料館のあいだに位置している。非常に繁盛しており、時には開店待ちの行列ができるほど。また、入学式需要が高まる春先は、レジが客でごった返してまるで戦争のような様相を呈する。実は朝日河神社書店には神様がおり、客として訪れる人々のために大小さまざまな奇跡を起こしている。その真実を知るのは、店長である大谷地隆司ただ一人。ただし大谷地以外で唯一、中河泰弥の前でだけ奇跡が起こっており、次第に泰弥も神様の存在を信じるようになっていく。