時代背景
主人公の朝倉光一や山岸エレンが美術大学や芸術大学を受験したのは1999年で、原作者のかっぴーは2005年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科に入学している。その当時の倍率は17倍もあり、美術大学は狭き門であった。美術大学は大きく「デザイン科」と「ファインアート科」に分かれており、光一が進学したのは「デザイン科」。1986年からのバブル景気でピークを迎えた広告業界では、大手広告代理店のクリエイターになるというのが王道であり、美術大学出身でなければ、大手広告代理店のクリエイターになれるチャンスがなかったという時代背景がある。90年代後半に高校生だった光一も、日本を代表するアートディレクターの佐藤可士和にあこがれていた。新聞や雑誌、ラジオ、テレビと共に繁栄した広告業界は91年のバブル崩壊後、インターネットの普及に伴って広告の形態が多様化していく。
第一章 横浜のバスキア編(第1巻~第2巻)
2008年、大手広告代理店の目黒広告社のデザイナーになって4年目の朝倉光一は、自分が担当して勝ち取った案件から外されてしまう。失意の中、光一は高校時代に出会った山岸エレンの事を思い出していた。当時、「横浜のバスキア」と話題になったグラフィティアートは、光一に強烈なライバル意識を植えつけた。一方、父親を亡くしたショックで絵をやめてしまったエレンは、アートに対して根拠のない自信を持つ光一に刺激され、心がざわめく。しかし、「横浜のバスキア」の挑戦状として描かれた光一の絵は、エレンを激怒させるに余りある駄作だった。正体を明かしたエレンに、完膚なきまでに罵倒された光一だったが、それでも「何者かになる」という熱い気持ちを吐き出さずにはいられなかった。当時の熱さを思い出し、気持ちを一新した光一は、新たなCM企画案に取り組み、クリエイティブな人間に嫌悪感を持つ営業の流川俊を納得させる働きを見せる。だが、無事案件を獲得したものの、独立を視野に入れていたアートディレクターの神谷雄介は、親心から光一を激しく叱責する。
第二章 アトリエのアテナ編(第2巻~第3巻)
1998年、類まれなる才能を持つ山岸エレンと出会い、朝倉光一は純粋なアートにあこがれるが、それを危惧した加藤さゆりは、彼を横浜のアトリエである馬車道美術学院に誘う。高校生ながらに光一との将来を見据えていたさゆりは、光一にデザイナーになってもらいたかったのだ。だが、そこには学長の海堂と親しいエレンが見学に通っており、日々、生徒たちの絵を見るともなく眺めていた。エレンにもう一度絵を描かせたい海堂は、エレンが光一に強い反応を示す事に気づき、光一を利用してエレンを刺激する。一方でエレンは、海堂からの期待の重さに耐えられなくなっていた。そんな中、エレンの父親の山岸が亡くなって10年目の命日、父親を偲んで事故現場にやって来たエレンは、偶然居合わせた光一の行動で、父親の死は自殺ではなかったとの確信を得る。さらに、光一の愚直なまでの姿がエレンを再び絵に向かわせる。
第三章 不夜城の残党編(第3巻~第4巻)
目黒広告社からの独立を決めた神谷雄介は、元上司であるクリエイティブディレクターの柳一から、朝倉光一の育て方をまちがえたと指摘される。雄介の退社後、柳の部下となった光一は、屈折した柳の横暴な態度に反発を覚えながらも、彼の実力を認めざるを得なかった。憔悴する光一を心配した三橋由利奈だったが、光一は次第に一人で制作に没頭するようになる。そんな中、数々の世界的な広告賞を受賞した雄介が2年ぶりに帰国する。一方の光一はアートディレクターとして成長を遂げ、チームでの仕事を全否定する孤高の存在となっており、雄介と再会する。同じ頃、営業の流川俊は変貌した光一を見て、社内の事まで気が回らなかった自分を不甲斐なく思うと同時に、クリエイティブディレクターだった沢村孝の事を思い出していた。定年を控え、遊んでいるだけのように見えた沢村だったが、かつては仕事の鬼と呼ばれた敏腕コピーライターだった。そんな彼は、流川が担当する園宮製薬とのトラブルを瞬時に解決してみせる。
第四章 対岸の女たち編(第4巻~第7巻)
2003年、東京芸術大学に入学した岸あかりは、教授の真城学から人と違う事を悩む天才、山岸エレンの話を聞かされる。俄然興味を持ったあかりは、自身が出演するファッションショーにエレンを招待する。最初は嫌がっていたエレンだったが、パンフレットに朝倉光一の名がある事に目を留めると、すぐさま承諾。光一はデザイナーの岸あやのに気に入られ、そのショーを企画していたのだ。実は、あやのもまたエレンの才能に目をつけ、彼女に接近するチャンスを狙っていた。ショーの当日、目を見張るパフォーマンスを発揮したあかりにエレンは魅せられ、あかりを自身の絵のモデルにする事を即決。エレンのモデルとなったあかりは、面白半分で光一に接近するが、素直な光一に心惹かれ、彼と関係を持つ。あかりに夢中になった光一は、半同棲中だった加藤さゆりに別れを告げ、一方のエレンはあかりの変化に傷つき、あかりをつき放す。真城は傷ついたエレンに、再起に必要なのは緻密に考えて大胆に行動する「知性」だと説く中、さゆりがエレンを訪ねてくる。
第五章 エレンの伝説編(第7巻~第8巻)
2010年、孤高のアートディレクターとなった朝倉光一は、柳一から担当を外され、天才になれない自分を嘆いていた。一方、2004年のニューヨークのブルックリンでは、山岸エレンのマネージャーとなった加藤さゆりが、筆の進まないエレンに刺激を与えるべく、今最もニューヨークで注目されているアーティストのトニー・ジェイコブスとの邂逅を画策。ガゴシアンギャラリーで、トニーの作品に息を飲むエレンだったが、連作の最後を飾る作品に憤慨し、トニーとグラフィティ対決をする事になる。エレンは彼との共同作業中、自分のとらわれていたバイアスを認識し、開眼する。一方、その騒動で、エレンは正体不明の「左きき(ザ・サウスポー)」として一躍有名人となる。そんな矢先、パトロンを探していたかおりは、映画監督を目指す情報屋のルーシー・ピグローから岸アンナがエレンを探しているとの情報を得る。アンナとのかかわりに嫌悪感を抱くかおりだったが、このチャンスを生かそうと、かおりは戦略を練ってエレン、ルーシーと共にアンナ邸へと足を踏み入れる。
実写ドラマ
登場人物・キャラクター
朝倉 光一 (あさくら こういち)
目黒広告社クリエイティブ局のデザイナーを務める男性。年齢は、2008年の時点で26歳。いつかキラキラした何者かになってやると、日々もがき続けている。虚栄心が強く、根拠のない自信を持っている事から「少年漫画脳」と揶揄される事も多いが、その素直さが人を惹きつけてやまない。横浜の集人高校に通っている頃は美術部に所属し、デザイナーになる夢を抱くが、「横浜のバスキア」こと山岸エレンの圧倒的な絵の才能に打ちのめされる。しかし、オレはオレがあきらめるまであきらめないという、熱い思いをエレンにぶつけ、頑ななエレンの心を絵に向かわせていく。その後もエレンをライバルと意識しながら、馬車道美術学院に通い、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科に進学する。在学中は、ファッションデザイナーの岸あやのに気に入られ、ファッションショーを企画。それをきっかけにファッションモデルの岸あかりから誘惑され、当時半同棲していた加藤さゆりに別れを告げる。目黒広告社に入社後は、神谷雄介のもとで仕事に励むが、雄介の独立後は柳一の部下になり、その激務から孤高のアートディレクターに変貌する。人生を変えた映画は『トレインスポッティング』。
山岸 エレン (やまぎし えれん)
未来の天才画家との呼び声が高い女性画家。山岸と山岸ミサトの娘で、年齢は2008年の時点で26歳。7歳の頃に売れない画家だった父親を亡くし、以降絵を描く事をやめた。集人高校時代は、美術館の壁にグラフィティアートを描いて「横浜のバスキア」と呼ばれるようになる。その後、根拠なき自信で自分に挑んでくる朝倉光一に心をざわつかせ、苛立ちながらも次第にアートへ心が傾き、東京芸術大学日本画科に進学する。他人の一瞬の表情から人の本質を察する事ができる「目」を持ち、非常に傷つきやすく繊細な性格の持ち主。それ故にコミュニケーション能力が非常に低い。魅せる才能に長けた天才モデルの岸あかりにシンパシーを感じ、彼女をモデルに絵を描こうとするが、あかりが光一に心を奪われた事を敏感に察知し、あかりを遠ざけるようになる。そして、光一を失った加藤さゆりに自身のマネージャーを要請し、卒業後は共にニューヨークへ旅立つ。さゆりとは幼なじみだが、高校時代は疎遠になっていた。ニューヨークのガゴシアンギャラリーでのトニー・ジェイコブスとの出会いにより、アーティストとして開眼する。
加藤 さゆり (かとう さゆり)
山岸エレンの幼なじみで、のちにエレンのマネージャーとなる女性。裕福な家庭のお嬢様で、アメリカから帰国後に集人高校に入学した。エレンと朝倉光一とは同じ学年で、光一と同じ美術部に所属していた。したたかな性格で計算高い。他人の長所を引き出す事は得意だが、自分のやりたい事で思い悩む不器用な一面がある。デザイナーになるという現実的な夢を持つ光一と共に将来設計を立て、夢の実現に向けて邁進する。一方で、つねにエレンを意識していたため、「横浜のバスキア」がエレンだと早々に気づいていた。武蔵野美術大学芸術文化科に進学し、大学時代は光一と半同棲していたが、光一が岸あかりに心変わりをしたため、別れを告げられる。その後、エレンのせいにして絵をあきらめたと彼女に告げた事から、エレンとの距離が一気に縮まり、卒業後は彼女のマネージャーとしてニューヨークに旅立った。今一つ才能の開花が見られないエレンを奮起させるために、トニー・ジェイコブスと邂逅(かいこう)させるなど、敏腕ぶりを発揮する。人生を変えた映画は『めぐりあう時間たち』。
岸 あかり (きし あかり)
モデル事務所「ムーンライト」に所属するファッションモデルの女性。有名デザイナーの岸アンナの娘で、岸あやのの妹。朝倉光一より2歳年下。切れ長の目をした美女で、モデルとして天賦の才がある。まれに見る自信家で、非常に自己中心的な考えの持ち主。高校生時代から有名モデルとして活躍し、東京芸術大学に進学した。教授の真城学から山岸エレンの話を聞き、彼女が自分と同じ「才能しかないクズ」とわかるや否や、岸あかり自身の出演するファッションショーに招待した。超没入と名付けられた圧倒的なパフォーマンスでエレンを釘付けにし、エレンの絵のモデルを務める事になる。エレンの気を引こうと光一に面白半分で接近するも、駄犬のような光一のかわいらしさに惹かれ、男女の関係になる。その事を知られ、エレンからつき放されてしまうが、以降もエレンだけが世界でただ一人自分と釣り合う女性だとして、彼女と会える日を心待ちにしている。魅せる才能に秀でているが、27歳で自分が死ぬという漠然としたイメージを抱いている。人生を変えた映画は『ヴァージン・スーサイズ』。
岸 あやの (きし あやの)
高校時代に自分のブランドを立ち上げたファッションデザイナーの女性。山岸エレンとは同い歳。有名デザイナーの岸アンナの娘で、岸あかりの姉。前髪を一直線に切りそろえたロングヘアで、切れ長の目をした美女。東京芸術大学日本画科に進学した。受験会場で、その才能に目をつけていたエレンと創作を通じて友達になりたいと思い、エレンにつきまとい、岸あやの自身のデザインした服を披露するなどしている。しかし、洋服にまったく興味のないエレンには効果はなく、ファッションショーをエレンに接近するチャンスととらえ、朝倉光一と共にファッションショーを開催する。同年代の友人は少ないが、神谷真里とはアトリエ時代からの友人で、真里の紹介で知り合った素直で無知な光一とは相性がいい。「あやの節」と呼ばれる独特の口調で話し、毒舌家。超高解像度ペルソナという思考術で、着ている服から相手のライフスタイルなどをすべて見抜く事ができる。妹のあかりの才能を賛美し、あやの自身は努力でステータスを手に入れたと自負している。大学を中退して、パリコレクションに進出を果たす。人生を変えた映画は『チャイニーズ・ディナー』。
岸 アンナ
有名デザイナーで「アンナ・キシ」の代表兼クリエイティブディレクターを務める女性。岸あやのと岸あかりの母親。前髪が一直線のボブヘアをしており、顔つきは魔女のように怖い。東京芸術大学を卒業後、ニューヨークでブランドを創業させた。圧倒的な商才を持ち、一代で岸アンナ帝国を築き上げた。自己中心的な性格で、あやのを自身の会社に入れたがっている。「アンナ・キシ」にはデザイン部門があり、広告代理店に頼らずに広告を自社で制作しており、入社試験は狭き門で特にグラフィックデザイナーへの道は険しい。洋服に限らずポスターや店舗設計に至るまでアンナ自身が統括しており、SPにもドレスアップを義務付けるほど、美意識が高い。フォトグラファーの佐久間威風とは特別なつながりがある。あかりが生まれ、急激に老けた事から「五番街の女王(ヘラ)」と呼ばれるようになった。2004年にはガゴシアンギャラリーの事件を聞きつけ、エレンを探すようにと情報屋のルーシー・ピグローに頼んだ。
真城 学 (ましろ まなぶ)
東京芸術大学で教授を務める男性。権威ある立場にいるが、温厚で優しい人格者。山岸エレンの絵を見て、その才能に衝撃を受けると同時に、その感受性の強さを懸念してエレンを気に掛けるようになる。岸あかりと決別して落ち込むエレンに再起をうながすべく、「感性」と共に必要な性質は未来を見据えて大胆に行動できる「知性」だと教え、加藤さゆりとパートナーを組むきっかけを作るなど、エレンに生きるヒントを与えたキーパーソン的な存在。才能とは集中力の質であり、そのタイプを分析した「才能の正体」という著書を2004年に出版している。著書では教え子であるエレンやあかり、岸あやのを引き合いに出して回想している。また、若い頃は岸アンナも教えていた。エレンの才能は「目」にあり、エレンほど繊細に世界を見ている人間を知らないとあかりに語った事から、あかりがエレンに興味を持つようになる。妻とは死別して娘夫婦と暮らしている。
神谷 真里 (かみや まり)
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科に通う女子大学生。朝倉光一とは同じ学年で同じ学科の友達。神谷雄介の妹で、母子家庭で育った。父親はデザイナーで、絵に描いたような仕事人間だったため、家庭を顧みない父親に嫌悪感を持ち、神谷真里自身の就職先としては広告代理店を敬遠している。就職先は女性の働く環境に関して真剣に考えている会社を希望しており、「アンナ・キシ」を第一志望にしていた。しかし採用されず、「園宮製薬」に入社して宣伝部に配属された。のちに、阿藤豊から園宮千晶の世話係を頼まれるなど、上司からの信頼は厚い。正義感が強く、勇ましい性格ながら、父親の事を許せない自分に苦悩していた時期もある。岸あやのとは同じアトリエに通っていた友人であり、光一をあやのに紹介した。学生時代はいつもニット帽をかぶっていたため、あやのからは「イケメンニット帽」と呼ばれていた。2010年に結婚して名字が「高橋」となっている。人生を変えた映画は『めぐりあう時間たち』。
神谷 雄介 (かみや ゆうすけ)
目黒広告社クリエイティブ局でアートディレクターを務める男性。朝倉光一の上司で、神谷真里の兄。光一と真里より7歳年上。柳一、寺田慎之助と共に「目黒広告社の御三家」と呼ばれ、大事な客には神谷をつけろと言われるほど、クリエイターとしての腕を評価されている。ニット帽をかぶった塩顔のイケメンで、ここぞという時にチームをグイグイ引っ張る体育会系の頼もしさがある。最悪の状況でもいいものを作るのがプロだと、光一に教えた。個人よりもチームでこそいいものが作れるという信条を持つ。元上司の柳からは、光一の育て方をまちがえたと指摘され、独立を決めた際には営業の流川俊に光一を気に掛けてやってほしいと頼んでいる。退社から2年後、クリエイティブ・ブティック「アントレーズ」の中心メンバーとして上海で広告賞を受賞し、名実共に一流のクリエイターとして帰国を果たす。孤高のアートディレクターとなり、容姿が変貌した光一と再会する。人生を変えた映画は『シザーハンズ』。
三橋 由利奈 (みつはし ゆりな)
目黒広告社クリエイティブ局でコピーライターを務める若い女性。朝倉光一より2歳年下で、語尾に「っス」と付けて話し、光一の事をやや見下している。ツインテールを下の方でお団子にした独特のヘアスタイルをしている。マーケティング局から転局試験を受けてクリエイティブ局に来た経緯があり、コピーライターとしての実力を評価されている。仕事のスタイルは企画を粗組みして、一旦は質より量で案を出し、使えるかどうかはあとで決めるというもの。広告賞はくだらないものだと考えているが、評価されるためには賞も必要だと、柳一の部下になった光一を鼓舞した。クールな性格の現実主義者だが、雄介が退社してから孤独に耐えている光一を心配している。上司には恵まれており、雄介の部下だったあとは、寺田慎之助の部下となった。営業部長を務める冬月慎太郎だけは、生理的に受け付けない。人生を変えた映画は『魔女の宅急便』。
流川 俊 (るかわ しゅん)
目黒広告社の営業部に所属する男性。目は切れ長で顎が細く、クールな雰囲気を漂わせている。慶応大学卒で朝倉光一より3歳年上。まじめな性格で、営業として組織の中で苦悩し、葛藤する事が多い。入社してからずっとコピーライターを志望していたが、神谷雄介と組んだ仕事で、コピーを書かなくても「伝える仕事」ができるのではないかと考えるようになる。しかし、心無いクリエイティブ局の人たちの言葉に傷つき、クリエイティブに対して悪感情を抱く事になった。そのため、当初は光一と対立するが、光一の熱い企画案に圧倒されて、葛藤しながらも営業としての充実感を感じるようになる。雄介が独立を決めた際には、光一を気に掛けてやってほしいと頼まれていたが、2年後にチームを否定する孤高のアートディレクターとなった光一を見て、営業として社内を全然見ていなかった事を自省。クリエイティブディレクターだった沢村孝を師と仰いでいる。人生を変えた映画は『ショーシャンクの空に』。
朱音 優子 (あかね ゆうこ)
目黒広告社営業部に所属する女性。流川俊の部下で、朝倉光一とは同期。穏やかな性格で、あまり感情を爆発させる事はなく、芯が強い。光一がアートディレクターに昇進した際には、自分にもそろそろ頼ってほしいと光一に打ち明けている。お気に入りのお酒はモヒート。人生を変えた映画は『ノッティングヒルの恋人』。
冬月 慎太郎 (ふゆつき しんたろう)
目黒広告社営業部の部長を務める中年男性。顔が大きくアゴが割れている。仕事がうまくいくと営業の手柄にし、ダメだったらクリエイターのせいにしようとする狸親父。部下からの人望はあまりなく、いつも適当だがクライアントにすり寄る手段は心得ており、謝罪慣れしている。人生を変えた映画は『私をスキーに連れてって』。
五十嵐 (いがらし)
目黒広告社営業部に所属する男性。流川俊の入社当時の先輩にあたり、神谷雄介とは同期。根っからの営業マンで、顎ヒゲを生やしている。クリエイターと営業は思考回路が別だと考えているが、コピーライター志望の流川には、営業も勉強するようにと檄(げき)を飛ばしていた。
柳 一 (やなぎ はじめ)
目黒広告社クリエイティブ局でクリエイティブディレクターを務める男性。朝倉光一より10歳年上。関西弁で話し、細面で目が細くて目付きが悪い。屈折した性格で、部下の扱いが非常に横柄。神谷雄介の元上司でもある。山下優作と同じ下請けの制作会社出身で、専門学校卒という根深いコンプレックスを抱えているが、クリエイターとしては一流。雄介、寺田慎之助と共に目黒広告社の御三家と呼ばれており、相手をねじ伏せて話を通す強引さがあるため、難しい客には柳をつけろと言われている。制作会社からクレームも多く、仕事のやり方が時代にそぐわないと上層部から苦言を呈されているものの、デザインの賞の受賞回数は社内一多い。自分と雄介の本質は同じで、いいものを作る以外はまったく興味がないと独立する雄介に、柳一特有のはなむけの言葉を贈った。前にいた制作会社では、美術大学卒の山下の部下だったが、実力でポストを奪い取り、現在は付き人のように山下を扱っている。光一を自分に都合よく使おうとし、自分の部署に入れた。人生を変えた映画は『ハート・ロッカー』。
古谷 (ふるや)
目黒広告社クリエイティブ局の局長を務める初老の男性。口ヒゲと顎ヒゲを生やしている。神谷雄介が退社後、社内競争をあおるためにクリエイターを一軍、二軍、三軍に分けた。制作会社からクレームが多い柳一を三軍に位置付け、柳が朝倉光一を自分の思いのままに使い倒すという状況を作った。社内では「えぐい事を考える古狸」と評されている。
寺田 慎之助 (てらだ しんのすけ)
目黒広告社クリエイティブ局でクリエイティブディレクターを務める男性で、コピーライター出身。肩までの髪をカチューシャで留め、物静かな雰囲気を醸し出している。どんな無理難題なリクエストにも応えるため、面倒な客には寺田をつけろと言われており、神谷雄介、柳一と共に「目黒広告社の御三家」と呼ばれている。雄介が退社したあと、三橋由利奈の上司となった。柳の部下となって変貌してしまった光一を心配する由利奈に、真城学の著書『才能の正体』を勧めた。コーヒー好き。
山下 優作
目黒広告社クリエイティブ局に所属する男性。無精ひげを生やし、いつも覇気がない。柳と同じ下請けの制作会社出身で、柳一の部下。柳が引き抜かれた時に行動を共にした。元は柳の上司だったが、母親の急死で休暇を取った際にポストを奪われた経緯がある。美術大学卒である事を専門学校卒の柳に妬まれ、結果、実力を見せつけられた格好となる。しかし現在は柳の実力を認めており、サポート役を務めている。人生を変えた映画は『アメリ』。
沢村 孝 (さわむら たかし)
目黒広告社クリエイティブ局で、クリエイティブディレクターを務める初老の男性。定年を間近に控えている。口ヒゲと顎ヒゲを生やし、ノリが軽くて適当さが目立つが、実は経験豊かな奥深い世界観を持つ人物。かつては業界で名を馳せた敏腕コピーライターでもあり、おっさんは若者がドタバタしている時のためにヒマしているという持論を有する。若い頃に宣伝部に所属していた「園宮製薬」の現社長の園宮とは朝まで飲み明かした仲間で、園宮千晶が巻き起こしたトラブルを迅速に解決した。不夜城の番人のように、朝まで仕事をしていた時代に郷愁を感じているものの、いまや時代は変化しており、仕事人間である必要はないと考えている。だが「不夜城の残党」というべき流川俊の働き方を暖かく見守り、支えている。人生を変えた映画は『菊次郎の夏』。
鹿島 恭子 (かしま きょうこ)
目黒広告社クリエイティブ局でコピーライターを務める色気のある女性。独自の感性の持ち主で、社内では「美人の鹿島さん」と呼ばれている。目黒広告社の女子会で、社内でイチオシ男性に選ばれた神谷雄介の事を、具体的に何がとは言ってはいないが、「上手そう」と評価している。また、朝倉光一については「下手そう」だとつぶやき、周囲を凍りつかせた。
佐久間 威風 (さくま いふう)
フォトグラファーの男性。ピッタリしたニット帽をかぶった強面で眼光が鋭く、口ヒゲと顎ヒゲを生やしている。朝倉光一より10歳年上。当時はニューヨークを拠点に活動していた。岸アンナから、世界一の写真家を目指すなら、娘の岸あかりを撮る必要があると言われ、朝倉光一が企画したファッションショーを見に行った。本物には本物しかない「圧」があるという持論を有する。付き人的な存在の氏田からは、少年漫画脳な性格を指摘されており、天才でなければ相当イタい人物だと思われている。柳一が佐久間威風の才能に畏怖の念を抱いている。
園宮 千晶 (そのみや ちあき)
目黒広告社のライバルである大日本広告社に入社した「園宮製薬」の社長令嬢。おっとりとした性格の巨乳の持ち主で、少々天然気味。コネ入社であるために周りから陰口を叩かれているのではないかと、内心穏やかではなく、仕事で成果を出そうと焦っている。「園宮製薬」の社内で流川俊の打ち合わせ書類を持ち帰ってしまうが、仕事欲しさに相手のミスを願って黙っていたため、トラブルに発展してしまう。のちに、将来の社長候補として園宮製薬に入社した。
山岸 (やまぎし)
売れない男性画家で、日本人とイギリス人のハーフ。山岸エレンの父親で、山岸ミサトの夫。命を懸けて絵を描いていたが、エレンが7歳の時に交通事故で亡くなる。自分が天才ではなかった事に苦しんでいたため、自殺も疑われたが詳細は不明。10年後、高校生のエレンが弔いのために明け方の事故現場へ行くと、朝焼けが一番キレイに見える場所で写真を撮っていた朝倉光一が、車とあやうくぶつかりそうになった場面を目撃し、山岸が自殺ではなかったという結論に至った。東京芸術大学時代は海堂の先輩であり、ミサトとは学生時代から付き合っていた事から、海堂とは家族ぐるみの付き合いをしていた。当時は「オレはオレがあきらめるまであきらめない」と海堂に語っていた。娘に「絵恋」という意味でエレンと名付けた。
山岸 ミサト (やまぎし みさと)
山岸エレンの母親で、山岸の妻。夫が車の事故で亡くなった日、感情にまかせてエレンに絵を描くのをやめてほしいと訴えた。しかし、その事を後悔しており、夫の死後に絵を描かなくなったエレンを心配している。美術大学へ進学する事をエレンに勧めるが、エレンのその気のない態度に半ばあきらめていた。だが、その後エレンが進学を決めた事で、海堂に礼を言うべく馬車道美術学院を訪れた。
海堂 (かいどう)
馬車道美術学院の学長を務める男性。スキンヘッドで、サングラスをかけている。頼りがいのある性格で、面倒見がいい。山岸は東京芸術大学時代の後輩で、小さい山岸エレンを家族のように気に掛けている。絵は人を表すと、絵で性格を分析する事に長けており、エレンの才能は技術ではなく、「目」だと気づいている。山岸が亡くなって以来、絵を描かなくなったエレンに、もう一度絵を描いてほしいという思いが強い。そんな中、光一に対してのみ拒否反応を示すエレンを見て、エレンを変えるのは強烈な反応だと、朝倉光一の少年漫画脳を利用し、エレンと張り合わせようとした。海堂自身は若い頃から目の病気を患っており、才能ある若者を成長させる仕事が自分には合っていると、アトリエの講師になる事を決意した。
斉藤 咲千代 (さいとう さちよ)
モデル事務所「ムーンライト」の女性社員。岸あかりのマネージャーを務めている。背が低く、地味な印象の働き者で苦労人。朝倉光一より2歳年上。わがままなあかりの世話に明け暮れ、27歳で漠然と自分の死を予感しているあかりを本気で心配している。そんなあかりが光一と会っていた頃は、ふつうの女の子のような表情を見せていた事から、顔も知らない光一に対して、あかりを助けてほしいと願っていた。のちに、光一の写真を見せられた際には、男の趣味が悪いと驚愕する事になる。人生を変えた映画は『ミリオンダラー・ベイビー』。
ルーシー・ピグロー
映画監督志望の若い女性。ニューヨークガイドや情報屋のサイドビジネスで生計を立てている。山岸エレンより2歳年下。背格好はエレンとよく似ている。明るく快活な性格で、顔にそばかすがある。映画監督を志望していた20歳の頃にニューヨークのチェルシーで起きたガゴシアンギャラリーの事件の目撃者で、ドキュメンタリー映画を撮るため、エレンに接触を図る。パルクール(体一つでいかに効率よく移動するかを目的とする技術)が得意で、「飛ぶ三脚(フライングトライポット)」と呼ばれている。またコミュニケーション能力が高く、数か国語をあやつる語学力を持ち、日本語も堪能。自分の事を「ぼく」と呼ぶ。2040年には映画監督として、山岸エレンのノンフィクション映画を撮影している。
マリーン
ルーシー・ピグローのアシスタントを務める女性。小柄で子供のような容姿で、黒い肌を持つ。山岸エレンをビルの上から盗み撮りしていた際に、その事に気づいていたエレンに驚愕し、アーティストというより宇宙人みたいな女性だと、強烈な印象を持っている。
アンディ・トンプソン
口ヒゲを生やした紳士然とした美術商の男性。「ニューヨーク1の審美眼を持つ男」と呼ばれる。目をつけた作品は数年以内に必ず高騰すると言われており、山岸エレンの作品をすべて買いたいと、人を通して加藤さゆりに連絡を入れてきた。極貧だったトニー・ジェイコブスの才能を見いだし、以降は彼のマネージャーとして手腕を発揮している。彼を「母親と再会するまで絵を描き続ける孤高のアーティスト」として売り出し、プロデュースした。岸アンナがニューヨークに来た頃からの知り合いで、日本人のフォトグラファーを紹介した事があると語っている。人生を変えた映画は『バスキア』。
トニー・ジェイコブス
2004年のニューヨークで最も才能のあるアーティストといわれている若い男性。「バスキアの再来」と呼ばれており、山岸エレンより3歳年上。エレンと同じく左きき。背が高く、奥目で顎が割れている。男手一つで育てられたものの、父親から愛されていないという孤独感をつねに感じていた。極貧だった頃に、トンプソンからその才能を見いだされ、アーティストとして開花した。母親との再会を切望するが故に、有名になりたいと願っており、トンプソンを本当の父親のように慕っている。エレンから連作の最後を飾る作品の出来について、ケンカを売られたため、ガゴシアンギャラリーの壁でグラフィティアートで対決する事になる。エレンとの共作中、彼女と異次元で会話する神秘体験をした事から、エレンに求婚した。人生を変えた映画は『A.I.』。
ポーカー
濃い顔をしたずんぐりむっくりの不動産王の男性。気に入ったアート作品を、金に糸目をつけずに買い漁っている。トニー・ジェイコブスと山岸エレンがガゴシアンギャラリーの壁に描いたグラフィティアートをいち早く購入すると名乗りを挙げるが、観衆に殴られて拳銃を発砲する。その時、エレンに体当たりされ、銃弾が絵画の鳥の目に当たる部分に命中した事で、アートが完成した。
山中書店の店主 (やまなかしょてんのてんしゅ)
山中書店の店主を務める男性。丸い眼鏡をかけた温和な性格の持ち主。12歳年下の妻と店を切り盛りしていたが、妻が産休に入るタイミングで、高校生だった山岸エレンをアルバイトとして雇う事になった。書店はエレンの自宅にほど近い距離にある。アート関連本の取り扱いが豊富であり、アルバイトの最中に画集に見入ってしまうエレンにも寛容な態度で接していた。
竹山 (たけやま)
集人高校に通う男子高校生。朝倉光一とは同学年で、美術部に所属していた。気のいい性格で、丸い眼鏡をかけたお調子者。光一とは仲がよく、光一と付き合っていた加藤さゆりに好意を寄せるようになる。さゆりを追って美術大学を志望し、馬車道美術学院に通うものの、海堂から美術大学には向いていないと諭されて断念。逃げてばかりの自分を変えようと努力し、2008年に光一と再会した際にはシステムエンジニアとして活躍していた。人生を変えた映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
琴美 (ことみ)
東京芸術大学に通う女子大学生。三浪して入学し、キャバ嬢の仕事をしながら、弟の学費も自分が捻出している苦労人。入学して早々に山岸エレンの圧倒的な才能に打ちのめされるが、以降は友達としてエレンのアパートを訪ねるほどの仲になる。店の常連のお偉いさんから、大手飲料メーカー「サニートライ」の社長室秘書として誘われ、大学を中退した。言葉づかいが男っぽいが、化粧をするとかなりの美人に変身する。
上條 芽依 (かみじょう めい)
園宮製薬宣伝部に所属する若い女性。童顔で背が低く、調子のいい性格で世渡り上手。神谷真里の後輩で、真里をイケメンな先輩だと思い慕っている。
阿藤 豊 (あとう ゆたか)
園宮製薬宣伝部の部長を務める中年女性。細身の体形で、上品な雰囲気を漂わせた穏やかな性格をしている。自社のポスターにファションモデルとして有名な岸あかりを起用できた事を神谷真里に感謝している。また、社長令嬢の園宮千晶の教育係を頼むなど、真里への信頼は厚い。
場所
集人高校 (はやとこうこう)
横浜にある市立高校。朝倉光一、山岸エレン、加藤さゆり、竹山たちが通っていた。進学校ではないが偏差値はそこそこ高く、英語教育に力を入れており、英語教師の半数以上が外国人。成績のよかったさゆりは、もっと高い偏差値の高校へ進学する事も可能だったが、得意の英語を生かすために、入学を決めた。学食の一番人気は「スペシャル横浜カレー」。
目黒広告社 (めぐろこうこくしゃ)
目黒区にある広告代理店。社員数は2008年時点で、1090名。うちクリエイティブ局は100名前後。会社全体の高齢化に伴ってクリエイティブディレクターの割合が増え、アートディレクターが人手不足となっている。そのため、比較的若い年齢のデザイナーがアートディレクターに昇格させられる事が多く、経験不足が課題視されている。主な取り引き先は「サニートライ」「園宮製薬」「ポテトヤ」「ポルライツ」「大和カラー」など。ちなみに広告代理店には、営業、メディア、クリエイティブ、セールスプロモーション、マーケティングなどの部署があり、朝倉光一が所属するクリエイティブ部門では、部の全責任を持つクリエイティブディレクター、制作のクオリティを監修するアートディレクター、実制作のデザイナーの順に絶対的な格差がある。
園宮製薬 (そのみやせいやく)
目黒広告社の取り引き先である大手製薬会社。社長を務める園宮は、若い頃に目黒広告社の宣伝部に在籍していた事があり、当時駆け出しのコピーライターだった沢村孝とは戦友のような間柄。広告に理解のない経営者はダメだと、娘の園宮千晶を日本広告社にコネで入社させた。しかし、営業職となった千晶がトラブルの発端となり、園宮製薬が目黒広告社に発注した仕事で誤植騒動を巻き起こした。2010年には、宣伝部に配属された神谷真里の口利きで、化粧品モデルに岸あかりを起用したが、商品の実売にはつながらなかった。会社の歴史は古いが、化粧品事業へ参入したばかりで、宣伝部の部長の阿藤豊はあかりを生かしきれなかった会社の基盤の弱さを痛感する事になる。その頃、千晶が将来の後継者として大日本広告社を退社し、園宮製薬への入社が決まる。
馬車道美術学院 (ばしゃみちびじゅつがくいん)
横浜にあるアトリエで、海堂が学長を務めている。「美術大学合格をゴールとしない、クリエイター人生の礎となる教育」をモットーとしている。個々に合わせた指導を徹底しており、生徒数は50名を超える事はなく、有名美術大学への高い進学率を誇る。山岸の死をきっかけに絵を描かなくなった高校時代の山岸エレンは、馬車道美術学院に連日のように見学に通っており、石膏像のように動かない事から「アトリエのアテナ(女神様)」と呼ばれていた。美術大学の受験を念頭に置いた加藤さゆりが朝倉光一を誘い、馬車道美術学院に通う事となった。エレンは自分をライバル視する光一に苛立ちながらも、背中を押されるように再び絵筆を手にする事になる。光一と仲のいい竹山も光一を追う格好で入学したが、途中で挫折した。
ガゴシアンギャラリー
ニューヨークのチェルシーに数多あるギャラリーの中で、最も権威を持つ現代美術の画廊。ガゴシアンギャラリーで個展を開くという事は「100年後に残るアーティスト」の仲間入りをしたと言っても過言ではない。トニー・ジェイコブスが個展を開催し、山岸エレンとの衝撃的な出会いを果たした。トニーとエレンがここの壁を使ってグラフィティアートで対決し、その共作が話題となり、その場から逃げ出したエレンを「左きき(ザ・サウスポー)」として、マスコミや岸アンナが行方を追う事になる。その一連の出来事が「ガゴシアン」と呼ばれる事もある。
その他キーワード
横浜のバスキア (よこはまのばすきあ)
父親の山岸の死で、絵を描かなくなった山岸エレンが、横浜の美術館で開催される新人アーティストの絵の下手さに怒りを覚え、突発的に美術館の壁にスプレーでグラフィティアートを描いた。その完成度の高さから横浜のバスキアが出現したと噂されるようになる。壁の前に集人高校の校章が落ちていた事から、朝倉光一が激しくライバル心を燃やす事となった。
絶対視覚 (ぜったいしかく)
絶対音感のように視覚的な差異や違和感を見極める能力。色や形、文字組みなど、見極める対象はさまざま。先天的な能力ではなく、その習得には長い鍛錬を要する。デザイナーなど几帳面な性格の人に多い傾向があり、山岸エレンや柳一が、この絶対視覚の能力を有する。
超没入 (すーぱーだいぶ)
瞬く間に深い集中に入る能力。それによって、一部の感覚が鋭く研ぎ澄まされ、パフォーマンスが爆発的に向上する。周りの景色がスローモーションに見えたり、まるで走馬灯のように知覚された事例もある。ただし極めてまれな現象であり、アスリートなどが偶発的に体験する事はあっても、自らの意思で再現する事はできない。岸あかりが魅せる、光のように疾(はや)く、闇のように深く、極度に短い集中力を特殊な能力として、姉の岸あやのが超没入と命名した。
超高解像度ペルソナ (ちょうこうかいぞうどぺるそな)
その人物の趣味嗜好や生活習慣、金銭感覚などのわずかなヒントからイメージを増幅させ、キャラクター像を頭の中に構築する思考術。ペルソナとは、マーケティングで「企業が提供する製品やサービスにとって、最も象徴的なユーザーモデル」という意味で使われている。超高解像度ペルソナとは、論理思考で行われるペルソナ構築とは違い、直感によるところが大きいが、解像度が遙かに高いユーザーモデルを導き出す事ができる。しかし手品のように的中する場合もあれば、的はずれな時もある。そのため、本来のマーケティング領域よりクリエイター領域で効果を発揮する場合が多く、漫画家や小説家などに、超高解像度ペルソナを構築できる人は多い。日頃からマーケティング感覚を磨く訓練をしている岸あやのが、朝倉光一のジャケットから詳細なライフスタイルを的中させ、少しでもよく見せたいという虚栄心を見抜いた。
27クラブ (とぅえんてぃせぶんくらぶ)
多くのアーティストが奇しくも同じ27歳でこの世を去った事から生まれた言葉。ブライアン・ジョーンズやジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、カート・コバーンなどがそれにあたる。天才モデルの岸あかりも自分の人生のピークは27歳くらいに来ると予測し、それまでには死ぬという漠然としたイメージを抱いている。それを心配したマネージャーの斉藤咲千代が、あかりが所属するモデル事務所「ムーンライト」の月島社長から27クラブについての説明を受けた。
クレジット
- 原作
-
かっぴー
書誌情報
左ききのエレン 24巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2017-12-04発行、 978-4088812984)
第2巻
(2018-03-02発行、 978-4088813455)
第3巻
(2018-05-02発行、 978-4088814179)
第21巻
(2022-08-04発行、 978-4088832111)
第22巻
(2022-11-04発行、 978-4088832999)
第23巻
(2022-12-02発行、 978-4088833491)
第24巻
(2022-12-02発行、 978-4088834047)