北の大地を舞台に命懸けの狩猟劇
本作は「日本最強の生物」といわれているエゾヒグマの脅威と、自然と対峙しながら命懸けで狩猟に臨む小坂チアキの日常生活が描かれている。チアキはエゾヒグマを狩るためなら、ありとあらゆるものを駆使する豪胆さと、わずかなチャンスを見逃さない冷静さを併せ持ち、取材に同行したフリーライターの伊藤カズキを驚愕させる。伊藤は当初、取材を成功させたい一心でチアキに同行していたものの、彼女がのぞかせる狩猟への執念にやがて心動かされ、今回の取材を「現代における最高の冒険ルポルタージュ」と考えるようになり、取材に真摯に向き合うようになる。
並外れた体軀と凶暴さを誇るエゾヒグマ
小坂チアキが狙っているエゾヒグマは、並外れた体軀と怪力を誇り、地元の人々に畏怖される存在。また、エゾヒグマは人間をえたいの知れない存在としてつねに警戒する狡猾さを持ち、臆病とすらいえる習性で危険を察知すると全力で目の前の敵に襲いかかる。そのため、仕留めることができなかった場合は高確率で返り討ちに遭うという、まさに「食うか食われるか」のギリギリの命の奪い合いを強いられる。チアキはその危険性を十分承知しながらも、過去に背負わされたトラウマを払拭すべく、一流の猟師を目指してエゾヒグマを追い続ける。
ハンターの心理や心得を解説
北海道で狩猟するハンターは、装備を整える、体調を管理する、動物の生態を知る、危険への対応など、さまざまな心得が必要不可欠。凶暴さと狡猾さを併せ持つエゾヒグマを仕留めるためには、はるから見ればやりすぎと言われるほどの万全の準備が必要で、たとえ使う確率が1%を切るような道具でも必ず持ち込むという。また、猟師は動物を駆除するだけではなく、その肉を食糧として調達する目的もあるため、撃つ際には獲物の可食部をできるだけ傷つけないことも重要となる。本作はフリーライターの伊藤目線で物語が展開されるが、チアキの行動をとおしてリアルな狩猟生活や野生動物の知識を得ることができる。単行本のおまけページには、猟師の心得や自然に関する豆知識が掲載されている。
登場人物・キャラクター
伊藤 カズキ (いとう かずき)
フリーライターを生業にしている男性。以前は出版社「珍重社」に勤務していたが、自分の好きなテーマを書きたい欲求が高まり、退職した。しかし独立後は順調とは言えず、読者受けするネタを書けずにいる。そんな中、北海道に住む祖父が所属している猟友会に、単独でエゾヒグマを仕留めた狩りガール、小坂チアキが所属していることを知る。そして興味本位でネタになると考え、チアキに取材を申し込んで彼女の狩猟に同行することとなる。最初はチアキのことを取材対象としてしか見ていなかったが、狩猟と向き合う彼女を目の当たりにして、現代における究極のルポタージュだと考えを新たにして、真剣に取り組むようになる。東京生まれの都会育ちで、これまで自然とは無縁の人生を送ってきたため、何もかもが驚きの連続で密着取材を続けている。
小坂 チアキ (こさか ちあき)
北海道を拠点に活動する女性の兼業猟師。年齢は31歳。過去に大切な人が目の前でエゾヒグマに襲われたことをきっかけに、猟師を志すようになった。伊藤カズキの祖父と同じ地元の猟友会に所属しており、それが縁で伊藤に取材を申し込まれる。伊藤から同行取材を求められ、「山では自分の言葉を絶対に聞くこと」「獲物を運ぶのを手伝うこと」を条件に快く応じる。猟師としての知識もあり、高い技術も持ち合わせているが、エゾヒグマに対する執念から判断を誤ることもあり、同じ猟友会のメンバーからはいつか死ぬぞと警告を受けている。つねにマイペースな飄々(ひょうひょう)とした佇(たたず)まいで、伊藤に対しても煙に巻くような発言で本心を見せることはない。獲物は自ら解体し、ジビエ料理も大好き。
書誌情報
クマ撃ちの女 13巻 新潮社〈バンチコミックス〉
第1巻
(2019-07-09発行、 978-4107721952)
第2巻
(2020-01-09発行、 978-4107722478)
第3巻
(2020-05-09発行、 978-4107722829)
第4巻
(2020-09-09発行、 978-4107723154)
第5巻
(2021-02-09発行、 978-4107723628)
第6巻
(2021-08-06発行、 978-4107724151)
第9巻
(2022-09-08発行、 978-4107725318)
第10巻
(2023-02-09発行、 978-4107725721)
第11巻
(2023-07-07発行、 978-4107726186)
第12巻
(2023-11-09発行、 978-4107726643)
第13巻
(2024-05-09発行、 978-4107727138)