あらすじ
第1巻
バウムクーヘンを焼く仕事一筋で生きてきた中年男・大西たつみは、公園でいつも見かける女性に恋をする。アルバイト店員の倉内ゆう子に相談するものの、その女性の姿は、大西にしか見えないことが判明する。自分の頭がおかしくなってしまったのではないかと不安に怯える大西だったが、後日、勇気を振り絞ってその女性に声をかけるのだった。すると、突然その女性の顔が1メートルほどの巨大な卵のような醜い顔に変貌し、さらに体に触れると、大西の顔も巨大な尻のようなものに変貌。同時に倉内の目には大西の姿が見えなくなってしまう。巨大な卵と尻の頭を持つ2人の姿は誰からも見えず、その場から動くこともできなかった。さらには卵のほうの頭がもげ、そのもげ落ちた頭から小さな体が生えてくる。ほどなくして大西の頭ももげ落ち、やはり小さな体が生えてくる。こうして奇妙な二頭身の謎の生物となって動けるようになった2人は、公園の外にいつの間にか茂る森の中へと足を踏み入れていくのだった。
第2巻
森の中で3人目の謎の生物・正気と出会った大西たつみは、モウソウと名付けた謎の生物とともに森を進み、廃屋を発見する。その廃屋には、4人目の謎の生物がいた。3人とは違って全身が毛で覆われたそれは、純平と丁寧に名乗るのだった。純平によると、この姿になったものは、人間に見られると数日後に死ぬという。
登場人物・キャラクター
大西 たつみ (おおにし たつみ)
バウムクーヘン屋の店長を務める40歳の男性。眼鏡をかけ、目が細く、口髭を生やし、顎のあたりまで髪を伸ばしている。アルバイト店員の倉内ゆう子に言わせれば「カニのお腹みたいな顔の中年」。母親とは幼少期に死別し、唯一の肉親だった父親が大借金をして突然バウムクーヘン屋「バウムクーヘンのオオニシ」を始め、16歳の時から父親と2人で店をきりもりしてきた。 バウムクーヘン一筋で、それ以外のことはろくに知らないが、焼くバウムクーヘンは一級品。3年前に父親を亡くして店と借金を引き継ぎ、その借金の返済も終えた。家族や友人、恋人はおらず、独身。話相手はアルバイト店員の倉内のみで、その倉内からは「店長」と呼ばれつつもからかい半分で馬鹿にされている。公園に佇む名前も顔も知らない女性に恋し、声をかけたところ、その女性の顔が巨大な卵のような奇怪なものに変化し、さらに触れることで大西たつみの顔もお尻のようなものに変化してしまう。 変化した大西の姿は倉内には見えず、さらには顔だけが胴体からもげ、顔から体が生えて二頭身の姿に変化。「モウソウ」と名付けた元女性の謎の卵型の生物とともに、もとの姿へ戻るための方法を探す。
倉内 ゆう子 (くらうち ゆうこ)
大西たつみが経営するバウムクーヘン屋「バウムクーヘンのオオニシ」でアルバイトをしている23歳の女性。店長の大西と2人でバウムクーヘンを焼いている。非常に毒舌で、いつも冗談で大西をからかっており、ずっとふざけていられるからという理由で、いまの職場を深く愛している。40歳の誕生日を迎えた大西から、とある女性に恋をしたという相談をもちかけられ、その女性がいるという公園へ大西とともに行くが、その女性の姿は大西にしか見えなかった。 その後、大西が女性との接触によって謎の生物に変異したことをきっかけに大西の姿が見えなくなる。
モウソウ
大西たつみが恋した女性の姿から変貌した謎の生物。1メートルほどもある巨大な卵型の頭部に大きな鼻、垂れた目をしており、眉毛と頭髪はない。真っ暗闇の中でふと目を開けるとその姿になっていて、それ以来、大西から話しかけられるまで、誰からも見られず、誰とも話すこともなく、自分が何者かもわからないまま、独りぼっちで23年もの間、動くこともできずに立ち尽くしていたという。 大西に話しかけられて、初めて人とコミュニケーションをとることができ、嬉しさのあまり涙するが、大西に触れたことで、はからずも大西の姿を自分と似たような奇妙な生物に変化させてしまう。同じような境遇になった大西からは「先輩」と呼ばれたり、大西の妄想による存在だということから「モウソウ」と呼ばれる。 腹も減らず喉も乾かず、尿意も便意もなく、暑さや寒さも感じない。疲れることもなく、眠くもならない存在で、呼吸もしておらず、心臓があるかどうかさえ怪しいという。大西と出会った後、頭部が胴体からもげ落ち、その頭部から新たな体が生えたことで二頭身の姿となり、自由に動くことができるようになった。なお、大西が見た女性の姿は、モウソウが20年以上前に公園で見かけた女性に化けていたもの。
正気 (しょうき)
謎の生物に変貌した大西たつみとモウソウの2人が森で遭遇した3人目の謎の生物。縦に長いジャガイモのような巨大な頭部を持つ、二頭身の男。「オレと死ぬまで一生 親友になるか?」といきなり声をかけてきた。さらに大西にキスをし、勝手に一生親友だと決めてかかる。8年間、知らない土地の田んぼの片端に立っていたが、急に首がもげて、今朝森にやって来たという。 自分は正気だと強く主張するため、「正気」と呼ばれる。
純平 (じゅんぺい)
大西たつみ、モウソウ、正気が遭遇した4人目の謎の生物。森に近い民家の中に住んでいた。大西たちと同じく頭部の大きな二頭身の姿が、頭を含めて全身が黒い毛でびっしりと覆われており、顔も見えない。大西たちに「初めまして 僕は純平です」と挨拶した礼儀正しい性格。自分たちのような生物は、人間に姿を見られると、その数日後に死ぬと、大西たちに警告する。 最初は一緒にいた仲間も、人に見られて死んでいったという。土や雑草を食べて、1年半に渡って廃屋で暮らしている。
木 (き)
正気に話しかけてきたという木。正気たちのような謎の生物になる状態を「ゲレクシス」と呼ぶと説明する。この世にいてもいなくてもいい比率が完全に完璧に半々になった人間が稀にゲレクシスになるという。元に戻りたければ、山の中の木のいる場所で待てと忠告する。また、純平は数日後に死ぬと予言した。