技術革新が人類に齎(もたら)した光と闇
本作の舞台となる未来の世界は宇宙開発が著しく進んでおり、反重力装置や亜光速航法、「食べる宇宙服」の異名で重宝される酸素カプセルなど、SF作品でお馴染(なじ)みの技術や便利アイテムが数多く登場する。惑星間の交流も盛んに行われているが、他星人や高性能ロボットの存在によって働き口は減少し、宇宙へ出稼ぎに出る地球人も少なくない。主人公の星乃サザンも、そんな出稼ぎ労働者の一人である。また、過去に発生した事件の影響で人工知能の製造が禁止されているが、その事件は闇に葬られており、一般人は禁止されている理由を知らない。
素朴な地球人と孤独な彗星(すいせい)人の恋と冒険
地球人の青年、星乃サザンが、彗星人の少女、ミーナに惚(ほ)れ込んだことをきっかけに物語は始まる。行く先々で疫病神のように扱われていたミーナもサザンに惹(ひ)かれるが、初めての友達を危険な目に遭わせたくないと、サザンの前から姿を消してしまう。しかし、ミーナが「破滅を呼ぶ生命体」と忌み嫌われている彗星人であることを知っても、サザンの気持ちは変わらない。やがてミーナを追って広大な宇宙へ旅立ったサザンは、地球の命運を左右する戦いに巻き込まれることになる。
水彩絵の具を駆使して描かれる温かいSF
本作は上下巻500ページに渡ってアナログオールカラーで描かれている。水彩絵の具ならではの濃淡や、グラデーションの美しさは目を見張るものがあり、SFという硬質なジャンルを取り扱っているにもかかわらず、どこか温かみを感じさせる作品に仕上がっている。80年代を彷彿(ほうふつ)とさせる画風については、意図したものではなく、自分が素晴らしいと感じた数々のアニメーション作品から得たものが滲(にじ)み出た結果だ、と作者の赤瀬由里子は語っている。また、SFへの憧憬に関しては『ドラえもん』に代表される、藤子・F・不二雄の作品から感銘を受けた結果だとしている。
登場人物・キャラクター
星乃 サザン (ほしの さざん)
極小惑星の整備員を務める地球人の青年。青みを帯びた黒髪で、つねに作業用のツナギを着ている。年齢は不明だが、恋愛経験がないまま10代を過ごし、友人からは奥手でシャイと評されている。機械の修理に長けており、勤務態度もまじめで、ユニークな発想を持つことから社長の信頼も厚い。ある日、地球へ戻る船に乗り遅れて困っていたところをミーナに助けられ、彼女に好意を抱くようになる。やがてミーナにとって初めての友人となるものの、いきなり別れを告げられてしまう。しかし、ミーナが別れ際に泣いていたことが気になり、彼女と再会するためにピクニック盗賊団のファットレジャー号に密航し、宇宙へ旅立つ。のちに巨大宇宙船に連れ去られたミーナを救出するため、ロボット兵を率いる謎の人物「アグルダ」と対峙する。
ミーナ
賞金稼ぎとして宇宙を旅する彗星人の少女。燃え上がる炎のような赤髪で、耳が尖っている。ホットパンツにビキニスタイルで、空飛ぶバイクが収納されたハート型のペンダントをしている。天真爛漫な性格で気さくながら、スピード狂なのが玉にきず。体内に莫大なエネルギーを秘めており、力を解放すると髪が虹色に輝き、戦闘用の機械に生身で立ち向かえるほどの身体能力を発揮する。幼少期は触れたものを無意識に傷付けることもあったが、現在は自分の意思で力を制御できる。その気になればエネルギーを飛ばして宇宙船を撃墜することも可能だが、むらっ気が強く、精神状態によって出力が乱高下する。その正体は彗星の核から抽出された有機物を生殖細胞に埋め込んで造り出された人工生命体。予想を超えるミーナのエネルギーを恐れた創造主によって宇宙へ放逐され、当て所なく旅をするようになった。現在はエネルギーを欲する者たちに狙われており、行く先々で争いを招くことから「破滅を呼ぶ生命体」と忌み嫌われている。