概要・あらすじ
幼い頃母親に捨てられた中丸タケヒコと妹の中丸愛は、祖父の下で育つ。愛は長じて小学校教師になったが、タケヒコは14歳から引きこもりとなる。タケヒコは妹が健康で立派な大人になることが唯一の願いであり、それが叶って「“人生” という摩訶不思議な化け物に勝った」と確信していた。だが祖父から自分のせいで愛が一生結婚できないと聞かされ、妹のために自立すべく東京へ向かう。
東京ではホームレスの谷川俊平、大学生の河合タイチらと出会うが、のちに祖父の下へ連れ戻された。戻ってきた彼と口論になった愛は、タケヒコが幸せになることが自分の夢だと告げる。やがてタケヒコは、自分の人生を取り戻すために歩み始めた。
登場人物・キャラクター
中丸 タケヒコ (なかまる たけひこ)
31歳。中丸愛の兄。出生と同時に施設に入れられるが、5歳の時に母親が迎えに現れる。そこで初めて2歳半の妹・愛と出会う。しかしわずか3日で母親が失踪。タケヒコが盗みを働くことで兄妹は生きながらえ、のちに山梨県の郊外に住む祖父に預けられた。やがて14歳から17年間引きこもるように。 その間は「どんな状況下でも平常心でいられる修行」と称して、地面に埋まったまま3カ月過ごすなどの奇行に明け暮れる。だが本心は、事故死に見せかけて自殺するつもりだった。発想や行動は常軌を逸しており、態度は不遜でしばしば横暴。しかし外に出て出会った谷川俊平、河合タイチ、松下 “サイキック” 健二郎、ゴルフ練習場の社長らとの間には、奇妙な信頼関係が芽生えていく。
中丸 愛 (なかまる あい)
中丸タケヒコの妹で、年齢は28歳。小学校の教師として4年生の担任を受け持つ。両親は事故で死んだと教えられていたが、実は捨てられたことを知っていた。兄・タケヒコの幸せをずっと願っている。常識外れなタケヒコの扱いを心得ており、口論でも言い負かすことが可能。家出の後に愛のためとして奇行を繰り返すタケヒコに苛立ち、「妹をいろいろな物ごとをサボる」言い訳にしていると言い放った。 やがて岡崎太郎と相思相愛になり、東京へ。後に結婚を控えて子供を身ごもる。
じいさん
中丸タケヒコと中丸愛の祖父で、佳子の父親。山梨県の郊外で中丸兄妹と3人で暮らす。夢は3人で旅行すること。温和な性格でタケヒコの奇行にも理解を示そうと努める。娘の佳子については「望んであんな人間になったワケじゃないはずだ」とタケヒコに言い聞かせた。タケヒコと谷川俊平にゴルフ練習場での仕事を見つけてくる。
佳子 (よしこ)
中丸タケヒコ、中丸愛の母親で、じいさんの娘。タケヒコが5歳の時に施設から引き取るが、3日後に男の後を追って失踪する。その際、ごみだらけの安アパートに、タケヒコと2歳半の愛を置き去りに。タケヒコが故郷に戻ってゴルフ練習場で働き始めた頃、じいさんに金を無心するため戻ってくる。 その道すがら偶然出会った谷川俊平に、つき合っているプロサーファーの男がオーストラリアでの大会に出場する渡航費が足りないと説明した。
岡崎 太郎 (おかざき たろう)
じいさん宅近隣の出身で、中丸愛の幼なじみ。優秀な大学を出て一流企業に就職する。だが3年前に山中で裸の中丸タケヒコを目撃し、その姿に感化された。後に会社を辞めて故郷に戻り、父親の古ぼけたガソリンスタンドを継ぐ。だが父親が店をたたむことになり、太郎も東京ヘ戻ることを考えるように。 やがて中丸愛と結ばれ、東京へ居を移した。
戸野辺 トモ子 (とのべ ともこ)
31歳。じいさん宅近隣のログハウスに住む。人気女流作家らしい。2年前から人ごみで激しい動悸に襲われるようになり、最近は不眠、耳鳴り、金縛りに悩まされる。1年半かけて1文字も原稿が書けず、自殺するつもりだった。噂に聞いた中丸タケヒコを自分と同じ「小心者のニヒリスト崩れ」だと察して、懲らしめてやろうと干渉する。 だが馬鹿にされて恥をかき、見返すために自殺を思いとどまった。その後、2人の間には奇妙な信頼と共感が芽生える。
社長 (しゃちょう)
中丸タケヒコと谷川俊平が就職したゴルフ練習場・ SUNNY GOLF の社長。ボール集めや清掃などの作業に加えて、まともに会話しなくなった甥の相手をするよう2人に指示する。変人のタケヒコなら心を開かせられるかもしれないと期待していた。パンチパーマで態度が悪いが、徐々に2人と打ち解ける。
片山 洋一 (かたやま よういち)
社長の弟夫婦の息子で29歳。1年前から他人から話しかけられると見当外れな受け答えをするようになり、手を焼いた弟夫婦が社長に預けた。だが社長も匙を投げ、変人の中丸タケヒコに相手をさせてみる。実は他人との会話から逃げることで、自分が一番賢い人間だと思い込もうとしていた。ただしタケヒコは自分より劣っていると考えたため、普通に会話する。 だがタケヒコに感化され、社長の語りかけにも正常に応じるようになった。
谷川 俊平 (たにがわ しゅんぺい)
家出した中丸タケヒコが東京で出会った。37歳。運送会社に勤めていたが、だまされて借金地獄に。住所不定無職となって5日目、友だちになってほしいとタケヒコに声をかけた。下品でわがままな性格だが極度にメンタルが弱く、1人ではいられない。タケヒコの奇行に堪えかねて故郷に送り返すよう画策するが、なりゆきで自分もじいさん宅に居着いた。 横暴なタケヒコを憎んでいたが、やがて不思議な友情で結ばれる。その後、タケヒコとともにゴルフ練習場に就職。金を無心しに戻ってきた佳子を中丸兄妹に会わせるべきでないと察し、自分の給料28万円を与えて追い返した。
河合 タイチ
家出した中丸タケヒコが東京で出会った。M大生で、実家は長野県、病弱な妹と母子家庭で育った苦学生である。バイト先のコンビニ店長に言われてしぶしぶ下着泥棒をしていたところを、タケヒコと谷川俊平に見つかってしまう。警察に突き出さない代わりに、2人をアパートに居候させるハメになった。 また、仕事を求めるタケヒコに便利屋を提案するが、タケヒコは連絡手段を有していなかったため、タイチの携帯電話を使われてしまう。タケヒコに強要される形で、大学の知り合い・松本ユリと告白し合った。
松本 ユリ (まつもと ゆり)
家出した中丸タケヒコが東京で出会った。M大生で、同じ大学に通う苦学生の河合タイチを気にかけており、中丸タケヒコらのせいで言動が怪しくなったのを心配する。タクシー代が払えず窮していた谷川俊平を助け、タイチの近況を聞き出した。タケヒコ、谷川、タイチらと大型バンでドライブに出かけた際、タイチに告白する。
美加 (みか)
M大生で、松本ユリとは高校時代からの知り合い。家は金持ちだが、人肉に興味を示すなど変態的な性癖を持つ。河合タイチが中丸タケヒコらと便利屋を始めたのを知り、20万円払ってタイチに紙コップが精液でいっぱいになるまでオナニーをさせ、自分はその前で全裸でゴハンを食べるというプレイを思いついた。
仲村 (なかむら)
家出した中丸タケヒコが東京で出会った。便利屋に電話してきた老人で、ゴミ屋敷に住む。CIAに監視されている、右腕にはチップを埋め込まれているなどの妄想の持ち主。米政府を転覆させるという書類の発送などを依頼し、手書きのにせ紙幣で代金を支払った。
寿司屋 (すしや)
家出した中丸タケヒコが東京で出会った。寿司屋の3代目だが、他人の車の上に排便して快感を覚える性癖の持ち主。被害者が犯人を突き止めようと、便利屋をしていた中丸タケヒコらに監視を依頼した結果、排便に来たところをタケヒコと谷川俊平に押さえられた。見逃してもらう代わりに大型バンを手配させられる。
松下 “サイキック” 健二郎 (まつしたさいっきっくけんじろう)
家出した中丸タケヒコが東京で出会った。便利屋に電話して来た客。18歳から母親以外と言葉を交わしたことがない。22年間催眠術を独学し、世界トップレベルの実力と自称する。ただし母親以外に催眠術をかけたことがなく、実力を試すための実験台を便利屋に依頼した。だがタケヒコには効かず、サイキックは催眠術を諦めてチーズ作りで世界一になると宣言。 だが動物嫌いでウシに近づけず、これも諦めることに。人から尊敬されたい、必要とされたいという欲求に固執している。家は大金持ち。
おじいちゃん
名前は不明。中丸タケヒコの母佳子の父。年金暮らしの世代。山梨県のとある田舎町の一軒家で暮らしている。幼い頃の中丸タケヒコと中丸愛を引き取り育て、現在にいたる。とても優しく穏やかな性格で、いつも2人の孫を心配している。
松下 健二郎 (まつした けんじろう)
自称「サイキック」の40歳。18歳から22年間、催眠術を学ぶ。大豪邸に住んでいて、今まで母親に35回催眠をかけ33回成功したので、他人にもかかるかどうか試したいと中丸タケヒコと出会う。河合タイチにはかかったが、タケヒコには全くかからなかった。しかし、タケヒコから「自分の記憶を妹から消してほしい」と頼まれる。 本当は「誰かに必要とされたい」と思っているさびしがり屋。容姿は醜く、長髪だが、それはカツラである。