あらすじ
出会い、轢死(れきし)編
女子にモテることしか興味のない高校1年生の男子、五六冴郎は登校中、溺れて気を失っていた女子高校生の藤宮しちはを介抱する。気がついたしちはは「自分にキスしていないか」と確認し、「キスすればただでは済まなかった」との謎の言葉を残してその場から立ち去る。その言動に不気味なものを感じた冴郎だが、今度は下校中に崖から転落しそうになっているしちはを助け、その拍子にキスを交わしてしまう。再びしちはと別れた冴郎だが、その直後、何者かによって電車が通過する踏切へと蹴り出され、轢死してしまう。薄れゆく意識の中で姿を現したしちはは、冴郎の身代わりとなることを宣言し、自らの意思で瀕死の冴郎とキスを交わし、彼の代わりに轢死体となる。おぼろげな記憶の中で「犯人を見つけて」と遺言されたことを思い出した冴郎は、半信半疑な思いを抱きながらも犯人捜しを開始する。
焼死編
五六冴郎は、自分を踏切へ突き飛ばした犯人を特定し、藤宮しちはを生き返らせることに成功した。翌日、冴郎のクラスに転校してきたしちはは、自らが七本足の山羊に呪われていることや冴郎がそのパートナー役に選ばれたこと、他人の殺意を集める体質に変化していることを告げる。さらに冴郎が合計七度殺され、そのたびに生き返っては犯人を捜さなければならない運命にあることを伝える。そのことを知った冴郎は、二度目の死亡時刻がせまった際におじけづいて逃げ出し、犯人の手がかりを探すことなく焼死させられてしまう。しちはが身代わりとなって死んだことで生き返った冴郎だが、トリックや犯人の動機も思いあたらず、犯人捜しに苦戦することになる。そんな折、冴郎は「ふたりおうえんだん」を名乗る先輩の天王寺唯一と畩ヶ山無二に出会う。常人離れした身体能力を持つ唯一と、天才発明家を自負する頭脳を持った無二にアドバイスを受けた冴郎は、自分が気づかなかった犯人の手がかりを探すため、周囲の人間に聞き込みを開始する。
しちはの過去と銃殺編
焼死事件収束後、五六冴郎は藤宮しちはの素性について何も聞かされていないことに気づき、しちはのことをもっと知りたいと願い始める。その思いをしちはに伝えた直後、冴郎はしちはの精神世界に招かれ、二人を呪っている七本足の山羊と面会することになった。七本足の山羊によってしちはの幼少期の記憶を見せられた冴郎は、しちはの両親を殺害した「ハエの王」と呼ばれる因縁の相手がいることを知る。しちは自らも母親の藤宮くくの身代わりによって生き返った存在であり、常人では考えられない不幸に見舞われているしちはの生い立ちを知った冴郎は、しちはを絶対に幸せにすることを心に誓った。その第一歩として遊園地へと出かけた二人だが、そこで冴郎は幾原那由多による無差別殺人の最初の標的にされ、銃殺されてしまう。さらに那由多の使用した拳銃は、しちはの因縁の相手であるハエの王が改造を施し、那由多に与えた物だった。
登場人物・キャラクター
五六 冴郎 (ふのぼり ごろう)
奥床高校に通う1年生の男子。年齢は16歳。金髪のショートヘアで、両足首に届くほど長いマフラーを身につけている。下校中に崖から転落しそうになっている藤宮しちはを助けた際にうっかりキスしてしまったことで、しちはを呪っている七本足の山羊に五六冴郎もまた呪われてしまう。こうして、しちはのパートナー役となった冴郎は、他人の殺意を集める体質になってしまい、つねに死の危険が付きまとうようになる。呪われているあいだは死んでも、しちはとキスを交わすことで、しちはを身代わりとして生き返ることができる。ただし、しちはを生き返らせるためには、犯人である蹄の紋章の保持者を捜して紋章に触れ、呪文を唱える必要がある。呪いが解けるまで喉に蹄の紋章が浮かび上がり、しちはから一定距離以上離れると呼吸困難を起こしてしまう。
藤宮 しちは (ふじみや しちは)
奥床高校に転校してきた1年生の女子で、五六冴郎のクラスメート。年齢は16歳。黒髪ロングヘアで、白いワンピースの上からブルゾンを羽織っている。表情が乏しく、ほとんど笑顔を浮かべることはない。七本足の山羊に呪われており、鎖骨下に蹄の紋章が刻印されている。不可抗力とはいえ冴郎とキスを交わしたことで、冴郎が七本足の山羊の呪いを解くためのパートナー役となり、冴郎と行動を共にするようになる。冴郎が何者かに殺害された場合、冴郎にキスをすることで、過去に遡って冴郎の受けた被害の身代わりになることができる。そのため、冴郎が死亡するたびに身代わりとして死亡するが、冴郎が犯人の額に浮かんだ蹄の紋章に触れて呪文を唱えることで、生き返ることができる。藤宮しちは自身も母親の藤宮くくが身代わりとなって生き返ったため、両親を殺害したハエの王を見つけて蹄の紋章に触れ、くくを生き返らせようとしている。
大橋 歩美 (おおはし あゆみ)
奥床高校に通う1年生の女子。年齢は15歳。黒髪のミディアムボブで、カチューシャをつけている。五六冴郎とは幼なじみで、ヤンキーのような乱暴な口調でしゃべる。冴郎に対してなかなか素直になれないが、ひそかに恋心を抱いている。冴郎としちはの距離が近づくにつれて焦燥感を覚えているものの、しちはを邪険にすることなく、むしろ友人としていい関係を築いている。
安東 一寿 (あんどう かずとし)
奥床高校に通う1年生の男子。ミステリー研究会の会長を務めている。年齢は15歳。肩の上まで伸ばしたボサボサの黒髪で、ゴーグルをつけてキャスケット帽をかぶっている。好奇心旺盛で、大橋歩美が五六冴郎に思いを寄せていることを察知してからかったり、藤宮しちはの素性について興味を持ったりしている。周囲からは「UNDO」というあだ名で呼ばれている。
天野司 (あまの つかさ)
奥床高校に通う1年生の男子。金髪を肩の上まで伸ばしている。年齢は15歳。天邪鬼なところがあり、視力が非常にいいにもかかわらず、つねに教室の一番前の席を陣取っている。周囲からは「JACK」というあだ名で呼ばれている。
西村 九十九 (にしむら つくも)
奥床高校で養護教諭を務める女性。アシンメトリーにカットした前髪に、前下がりボブの髪型をしている。藤宮しちはの母親である藤宮くくの後輩で、五六冴郎が最初に生き返って保健室に担ぎ込まれた時から、何かを察知している様子を見せる。自らを「一を聞き万を知る九十九先生」と自称している。
天王寺 唯一 (てんのうじ ゆいいつ)
奥床高校に通う2年生の女子。年齢は16歳。長い赤髪を二つの三つ編みにし、赤い鉢巻を巻いている。畩ヶ山無二と「ふたりおうえんだん」を結成しており、フィジカルを担当している。片手で人間一人を軽々と持ち上げたり、学校の壁を3階の高さまで駆けのぼったりするなど、身体能力が非常に高い。ふたりおうえんだんとしての名乗りのセリフは、「我は人の形をした“情熱”! 天王寺唯一!」。
畩ヶ山 無二 (けさがやま むに)
奥床高校に通う2年生の男子。年齢は17歳。背中までの白髪で、横髪の一部に紫色のメッシュを入れている。天王寺唯一と「ふたりおうえんだん」を結成しており、ブレインを担当している。将来は世界一の発明家になって、世界一の大金持ちになる夢を持っている。かつて日向萬が経営していた発明教室に通っていた。ふたりおうえんだんとしての名乗りのセリフは「我は人の形をした“冷静”…畩ヶ山無二!」。
日向 萬 (ひゅうが まん)
奥床高校で物理学を教えている教師の男性。年齢は43歳。巨大なアフロヘアで、丸眼鏡を掛けている。NASAに勤務していたほど優秀な研究者だが、思いついた仮説をすべて実験しないと気が済まないため、「実験狂いのマン」と呼ばれている。ミステリー研究会の顧問も務めているが、変人だという理由から安東一寿からは避けられている。かつて発明教室を経営しており、畩ヶ山無二をはじめとする三人の優秀な少女を見いだしていたが、一人は事故で死亡し、発明教室自体も火事で焼失している。
七本足の山羊 (ななほんあしのやぎ)
藤宮しちはの精神世界に住んでいる巨大な山羊。一番大きな一本の足で地面に立ち、残りの小さな六本の足で砂時計を抱えている。ゲームが大好きで、特に日本のRPGを愛好している。「七本足の山羊」と呼ばれているがフルネームは「七死に値する呪い」で、愛称として「ナナシニア」を名乗っている。他人が七転八倒する姿を愛でており、しちはや五六冴郎が殺されたり犯人捜しをしたりすることもゲームとして認識している。
藤宮 くく (ふじみや くく)
藤宮しちはの母親で、故人。享年29歳。内巻き癖のある黒髪のショートヘアで、関西弁をしゃべる。しちはに対してストレートな愛情表現をすることはなかったが、幼少期のしちはがハエの王に殺害された際には、藤宮くく自身が絶命したあともしちはの身代わりになり続け、しちはが何度殺害されてもいっさいの傷を残さなかった。しちはに対し、16歳の誕生日を過ぎるまで身代わりを禁じること、身代わりを請け負う相手は初めてキスした相手にすることなどを遺言している。
藤宮 条 (ふじみや じょー)
藤宮しちはの父親で、故人。享年31歳。長い黒髪をうなじで一つにまとめている。明るく快活な性格で、つねに笑顔を浮かべ、しちはに対してもストレートに愛情表現していた。しちはの花嫁姿を楽しみにしており、ハエの王によって殺害される直前も、その姿を見られないことを心残りにしていた。
ハエの王 (はえのおう)
藤宮くくと藤宮条を殺害した謎の人物。ハエの頭部を持ち、その頭部から体温や脈も感じることから本物の顔であると推察されている。また、幾原那由多に対して800年以上生きていることを仄(ほの)めかすなど、非常に謎が多い。日本刀を武器としており、人間の首を一撃ではね飛ばすほどの剣技を極める。かつてくくが身代わりとなったことで、藤宮しちはを殺害できなかったことに感動し、しちはに対して歪んだ愛情を傾けている。
幾原 那由多 (いくばら なゆた)
飛行機事故の生き残りで、自らを世界一ラッキーな「ラッキーマン」だと自称する医学生の青年。年齢は19歳。黒髪ショートヘアで、眼鏡を首にかけている。五六冴郎と藤宮しちはがデートで訪れた遊園地で、ハエの王から与えられた改造銃を無差別殺人に使用しようとした。
集団・組織
ふたりおうえんだん
天王寺唯一と畩ヶ山無二が結成した組織。唯一がフィジカル、無二がブレインを担当している。学校内から周辺地域までを活動範囲として、掃除やパトロール、探偵などの依頼を遂行している。依頼を達成したときの依頼者の笑顔が何よりの報酬だとうそぶいているが、依頼には3000円、応援には1000円の料金がかかる。
その他キーワード
蹄の紋章 (ひづめのもんしょう)
七本足の山羊によって行われるゲームの駒となった者の肉体に現れる紋章。歪な二つの輪が一部重なって、となり合わせに並んでいる。タトゥーのように見えるが、ふつうの人間には見ることができない。七本足の山羊の呪いを受けている藤宮しちはとキスを交わしたことで、五六冴郎もまたしちはのパートナー役としてゲームの駒にされた。また、犯人役の額にも蹄の紋章が浮かぶ。しちはを生き返らせるためには、冴郎が犯人役の額の紋章に触れ、「ウルフ、リンクス、スケープゴート」と唱える必要がある。
狼の福音 (ごすぺる)
五六冴郎と藤宮しちはだけに聞こえる、火災警報ベルに似た音。この音を聞くと3日以内に冴郎が死亡するという予告でもあり、もう一度この狼の福音が鳴ると、直後に冴郎が死亡する。そのため狼の福音が聞こえたら、犯人捜しのヒント集めを開始する必要がある。
クレジット
- 原作
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工藤 哲孝
書誌情報
シチハゴジュウロク 4巻 講談社〈講談社コミックス〉
第1巻
(2019-02-15発行、 978-4065144244)
第2巻
(2019-04-17発行、 978-4065148884)
第3巻
(2019-06-17発行、 978-4065153123)
第4巻
(2019-08-16発行、 978-4065166642)