スライム聖女

本作の舞台は、魔法や魔物が存在するファンタジーの世界。主人公は「最弱の魔物」として知られるスライムで、この世界のスライムは人間と同等の知性と意思を持ち、独自の社会を築いている。しかし、その生活は決して豊かとは言えず、衣食住に困らない人間の暮らしに強いあこがれを抱いていた。そのため、スライムの中には人間の遺体と一体化して成り代わり、新たな人生を謳歌する者もいる。ただし、一度人間になると二度とスライムには戻れないため、誰の身体を得るかは彼らにとって一生を左右する重大な選択となる。

人間の暮らしにあこがれていたスライムは、先に人間になった同族のルミルから、死体に擬態する方法を教わる。早速、新鮮な死体を探し始めるが、見つかるのは白骨化したものや腐敗したものばかりだった。あきらめて寝床を探そうとしたその時、空から少女の遺体が降ってくるという奇跡に遭遇する。スライムは渡りに船とばかりにジェリィ・アスピックの身体を手に入れる。しかし、彼女の記憶をたどるうちに、その正体が面白半分に人を殺す人格破綻者であることを知り、戦慄する。このままでは、たとえ正体がバレなくても、ジェリィを恨む誰かに命を狙われると考えたスライムは、自らの身を守るため、ジェリィの悪評を覆して「品行方正な聖女」として生きることを決意する。

ジェリィ・アスピックの悪辣な振る舞いにより、アスピック家の従者たちはつねに死の恐怖に怯え、明日の保証もない日々を送っていた。そんなある日、中身がスライムに入れ替わったジェリィが屋敷に戻ると、従者たちはいつものように、決して彼女の機嫌を損ねまいと固唾をのんで見守っていた。しかし、新しいジェリィはかつての理不尽な言動をいっさいせず、穏やかに貴族としての生活を楽しみ始める。主人の変貌に戸惑いながらも、身の危険がなくなったことに従者たちは心から安堵し、やがてスライムのジェリィを深く慕うようになっていく。しかしスライム自身は、彼らとの信頼が芽生えてもなお、正体が露見する恐怖をつねに抱え、細心の注意を払って日々を過ごしている。