謎めいた転入生は聡明な少年
時は19世紀、華やかなヴィクトリア朝時代。イギリスの対岸に位置するタルニナ=ウラニボルク王国は、「山しかない田舎国家」と辛辣な評価を受けていた。だが、王国にあるタルニナ=ウラニボルク王立高等学院は貴族も庶民も関係なく、自由七学芸と呼ばれる学問を身につけることで出世への道が開かれる。しかも身分を問わず入学可能なことから、多くの少年少女たちが通っている。だが、王立学院では教師陣同士の派閥争いが激しく、横暴な貴族が好き勝手に振る舞っていた。そんな中、王立学院に高額な学費を免除される代わりに、学内の雑用をこなす給費生として、ニコラが転入してくる。ニコラは身体が弱いが頭脳明晰で、同級生から人気と共に注目を集めることとなる。だがニコラは実は、ある人物を追って王立学院にやってきたのである。しかもその人物は、本作の重要な鍵を握っていた。
伝統あるタルニナ=ウラニボルク王立高等学院に通う仲間たち
ニコラは、転入早々に起こったトラブルを解決したことから、天文地学科Bクラス主席のユリウス=光太夫・イェジェクや、お調子者ながら義理堅いアステル・バウアースフェルトと親しくなる。二人はニコラの造詣の深さや立ち振る舞いに感心しながらも、彼の虚弱体質を懸念し、なにかと世話を焼きたがったり、かかわりを持とうとする。ニコラは彼らの過干渉を鬱陶しく思いながらも、自らの目的を遂行するためには都合のいい存在だと考え、積極的にかかわることを避けながらも、状況に応じて彼らに協力するふりをして利用するようになる。
憎むべき相手はテル・セルに潜む
ニコラがタルニナ=ウラニボルク王立高等学院に転入した真の目的は、自らの出自にも関係している。少年時代のニコラは、育ての親であるミスルトゥから虐待同然の扱いを受けており、暴力から解放された現在も彼を許せずにいた。王立学院にミスルトゥの痕跡が残っていることを感じ取ったニコラは、彼との決着をつけるために給費生として入学を果たす。そして予想どおり、ニコラは王立学院にある研究エリア「テル・セル」にミトゥが潜んでいることを突き止める。そして危険を承知のうえでテル・セルに潜り込み、ミスルトゥを倒すチャンスを窺う。
登場人物・キャラクター
アステル・パスカリス
タルニナ=ウラニボルク王立高等学院の天文地学科Bクラスに転入してきた男子。タルニナ=ウラニボルク王国は、ギリシャ語で星を意味する「アステル」のいう姓名が多い。アステル・バウアースフェルト(バウ)やアステル・ラフィオなど同じ名前の同級生が多く、彼らと区別するために「ニコラ」のあだ名で呼ばれている。表向きは人当たりのよさに加えて礼儀正しいことから、男女問わず大人からの受けがいい。王立学院での生活にはまったく興味がなく、ほかの生徒たちとは一定の距離を取っている。また、心の中では他者を見下し、面倒事をあからさまに嫌うなど、偏屈な一面を持つ。傷がなかなか治らなかったり、すぐ体力が消耗したりと、同年代の男子と比較しても虚弱体質だが、その欠点を柔軟な発想力と豊富な知識で補っている。当初は、クラスメイトのイェジェクや、バウのことを自分の時間を奪う邪魔な存在だと考えていたが、彼らが自らの損得を顧みず協力してくれることに、感謝しつつ心を開いていく。
ユリウス=光太夫・イェジェク (ゆりうす こうだゆう いぇじぇく)
タルニナ=ウラニボルク王立高等学院の天文地学科Bクラスに通っている男子。母親が東洋人で、王立学院では極めて珍しい黒髪の持ち主。頭脳明晰に加えて運動神経抜群で、平民が在籍するBクラスの首席として学内でも一目置かれている。不愛想ながら正義感が強く面倒見もいいが、ニコラに対してお節介ともいえる行動を繰り返している。また、貴族相手にも毅然と立ち向かう勇敢さと行動力で、クラスメイトたちからも信頼されている。当初、二コラのことを得体の知れない人物と警戒しつつも、交流を深めるうちに信頼関係を築いていく。
書誌情報
テル・セル 全3巻 一迅社〈ZERO-SUMコミックス〉
第1巻
(2014-08-25発行、 978-4758059503)
第2巻
(2015-05-25発行、 978-4758030465)
第3巻
(2016-02-25発行、 978-4758031677)