概要・あらすじ
雪の日、シュロッターベッツ高等中学の生徒トーマ・ヴェルナーが陸橋から転落死した。悲しむ生徒たちに、事故であったという発表が告げられるが、クラス委員で舎監のユリスモール・バイハンの元に届いた、生前のトーマが出したと思われる手紙は、その事実を否定していた。トーマの死は自殺によるものだった。
それを知ったユリスモールはトーマの死という影から逃れたいと考え、彼の墓の前でその手紙を破るが、そこにトーマとそっくりな顔の少年エーリク・フリューリンクが通りかかる。
登場人物・キャラクター
ユリスモール・バイハン
『トーマの心臓』の主人公のひとり。シュロッターベッツ高等中学高等部一年の生徒。14歳。クラス委員で図書委員、成績トップ。寮で同室のオスカー・ライザーと共に、中等部四年と一年の寮であるヨハネ館で舎監を務めている。品行方正で真面目な性格。身体能力も高い模様。父親は既に亡くなっており、家族は母方の祖母と共にウィースバーデンで暮らしている。 ギリシャ系ドイツ人の父親の血を引いた黒髪で、南方系の容姿と形容されることが多い。鎖骨の下の火傷痕と背中の裂傷は、サイフリート・ガストにつけられたもので、寮でオスカーに代わり同室となったエーリク・フリューリンクにはそれらの傷を見せないよう気をつけている。 トーマ・ヴェルナーとアンテ・ローエに賭けの対象とされたことに関しては、普段には見せないような冷たい怒りを表していた。トーマに顔のよく似たエーリクに対して、明確な殺意を見せる。
エーリク・フォン・フリューリンク
『トーマの心臓』の主人公のひとり。シュロッターベッツ高等中学高等部一年の生徒。14歳。トーマ・ヴェルナーの死の半月後、ケルンから入学してきた。それまではずっと家庭教師に勉強を習っていたため、学校生活の経験がない。トーマによく似た面差しを持つ。特技はフェンシング。いわゆるマザー・コンプレックス的な傾向が強く、母マリエは自分がいなくてはいけないと思い込んでいる。 傍若無人に振舞うが、内面は繊細。寮は初め6人部屋だったが、オスカー・ライザーと入れ替えでユリスモール・バイハンと同室になり、同時に舎監の役も務めることになった。
トーマ・ヴェルナー
シュロッターベッツ高等中学中等科四年の生徒。13歳。可愛らしい顔立ちと穏やかで優しい性格で、誰からも無条件に愛されるような存在だった。上級生に気に入られており、ヤコブ館のお茶会にも呼ばれていた。雪の日にレーム駅近くの陸橋の金網の破れ目から転落死した。事故死と判断されたが、真相は自殺。 その半年前に、仲の良いアンテ・ローエと共にどちらが先にユリスモール・バイハンを口説けるかという賭けをしていた。トーマは本心からユリスモールを愛していたが、茶番劇でからかわれたと思ったユリスモールは手酷くトーマを振った。飛び降りる前にユリスモール宛ての遺書を投函していた。
オスカー・ライザー
シュロッターベッツ高等中学高等部一年の生徒。15歳。父グスタフ・ライザーと共に一年間旅行をした後に入学したため、周囲の生徒よりも一歳年上となった。シュロッターベッツ高等中学の校長ルドルフ・ミュラーが実父であることに気付いている。大人びた性格で、同年代からはやや浮いた形となっていたが、落ち着いた性格の委員長ユリスモール・バイハンと仲良くなり、彼に惹かれるようになった。 に寮ではユリスモールと同室であり、共に舎監を務めている。教師たちの目に隠れて喫煙をしている。上級生のバッカスとも仲が良い。同作者萩尾望都の『訪問者』で、オスカーがシュロッターベッツ高等中学に入学するまでの前日譚が描かれている。 また、オスカーの名前とデザインを同一とするキャラクターは、『花嫁をひろった男』を初めとする萩尾望都初期作品群にゲストとして多く登場している。
サイフリート・ガスト
シュロッターベッツ高等中学高等部四年の元生徒。現在は放校処分となっている。特徴的な八角系のメガネをかけている。頭が良く、悪魔的な思想の持ち主で、放校以前も不良として知られていた。大変な読書家で、図書室によく通っていたことから図書委員のユリスモール・バイハンと知り合う。 「ルネッサンスとヒューマニズム」という本を長く借り、それについてのレポートを書いていた。ヤコブ館の2階をたまり場にしており、イースターの休暇中学校に残ったユリスモールを誘って、遊び半分で彼をリンチにかけた。放校後、ギーゼンの駅でユリスモールとエーリク・フリューリンクとすれ違う。
アンテ・ローエ
シュロッターベッツ高等中学中等科四年の生徒。13歳。トーマ・ヴェルナーと仲がよく、二人揃って上級生のお気に入りだった。トーマの死の半年前に、どちらが先にユリスモール・バイハンを落とせるかという賭けをしていた。アンテ本人はオスカー・ライザーに好意を寄せており、ユリスモールからオスカーを引き離すため、元々ユリスモールに好意を持っていたトーマをけしかけた形の賭けだった。 トーマが死んで以来、上級生が行うヤコブ館のお茶会に呼ばれるようになった。
レドヴィ
。シュロッターベッツ高等中学中等科四年の生徒。13歳。元々盗癖があるため、上級生ホセから自分の時計を盗ったと疑われている。トーマ・ヴェルナーに好意を寄せており、彼の行動を追っているうち、トーマがユリスモール・バイハンにいかなる想いを抱いていたのかを知る。図書室の本「ルネッサンスとヒューマニズム」に挟まれた、トーマの決意が書かれた紙片を発見した。
ルドルフ・ミュラー
シュロッターベッツ高等中学の校長。オスカー・ライザーの父グスタフ・ライザーの大学時代の友人で、オスカーの実父でもある。落ち着いた性格で、周囲の人々に尊敬されている。
アルット
シュロッターベッツ高等中学の保健医。サイフリートに暴行を受けた傷痕の残るユリスモール・バイハンを心配し、彼の寮の部屋を6人部屋からホーマン先生の舎監室に変えさせた。アルットはドイツ語で医師の意味であり、名前は不明。
ブッシュ
シュロッターベッツ高等中学の教師。学校教育を受けたことのない奔放なエーリク・フリューリンクに手を焼く。妻は既に死去しているが、孫が大勢いる。
ホーマン
シュロッターベッツ高等中学の化学教師。トーマ・ヴェルナーが死んで以来、様子のおかしいユリスモール・バイハンを心配している。ユリスモールとオスカー・ライザーが使っている舎監室は元々彼の部屋だった。
マリエ
エーリク・フリューリンクの母親。エーリクの父親であるロジェ・ブラウンと離婚した後、出身地であるケルンに戻り、エーリクと暮らしていた。プレイガールで、常に恋人とは長続きしていなかったが、バーデン湖畔への旅行で出会ったユーリ・シド・シュバルツだけは彼女を追いかけてきたため、婚約に至る。 エーリクをシュロッターベッツ高等中学に入学させた後、ユーリ・シド・シュヴァルツと共に交通事故に遭い、死亡する。
ユーリ・シド・シュヴァルツ
マリエの婚約者である男性。オーストリア貴族の末裔。ボーデン湖畔にある古いホテルのオーナー。マリエと共に交通事故に遭い、左足を切断した。
アルフォンヌ・キンブルグ
長年マリエの弁護士をやっている男性。マリエとユーリ・シド・シュヴァルツが事故に遭い、マリエが亡くなったという報せの手紙をエーリク・フリューリンクとルドルフ・ミュラーに送った。
マクス・ドッドー
ユーリ・シド・シュバルツの友人で医師。鼻の赤い男性。左足を失ったユーリ・シド・シュバルツの頼みを聞き、彼をシュロッターベッツ高等中学まで連れてきた。
ロジェ・ブラウン
エーリク・フリューリンクの父親。ハンブルグに住んでおり、マリエと離婚した後、現在は再婚している。マリエはエーリクに父親の話をしていなかったため、エーリクはマリエの死後彼の存在を知った。
グスタフ・ライザー
オスカー・ライザーの父親。プロカメラマン。五年前にオスカーをシュロッターベッツ高等中学に入れたきり、南米に写真を撮りに行ってしまい、一度も会いにきていない。オスカーは彼がもう死んでいるのではないかと考えている。ルドルフ・ミュラーとは大学時代の旧友。
ヘレーネ・ライザー
オスカー・ライザーの母親。オスカーがシュロッターベッツ高等中学に入学する一年半前に拳銃の暴発事故で死んだとされている。夫グスタフ・ライザーを愛していたが、彼が子供を作ることができないとわかり、大学時代の友人であるルドルフ・ミュラーの協力によってオスカーを産んだ。
シェリー・バイハン
ユリスモール・バイハンの母親。ドイツ人以外の民族に偏見を持つ母親の反対を押し切って、ギリシャ系ドイツ人である夫と結婚。夫の死後は、母親と共にウィースバーデンで暮らしている。
エリザベート・バイハン
ユリスモール・バイハンの妹。8歳。ユリスモールと同じ両親の子供だが、彼女は金髪。病弱。
ベルンハルト・ヴェルナー
トーマ・ヴェルナーの父親。かつてシュロッターベッツ高等中学で数学教師をしていたが、肺を悪くして退官した。牧師の資格も持っている。
アデール・ヴェルナー
トーマ・ヴェルナーの母親。トーマによく似た面差しを持つ女性。エーリク・フリューリンクの実父ロジェ・ブラウンのいとこにあたる。
ヘルベルト
シュロッターベッツ高等中学高等部一年の生徒。ユリスモール・バイハンのクラスメイト。お堅いユリスモールに反発を覚えており、入学してきたエーリク・フリューリンクを仲間に入れたいと考えている。班長を務めている。
アーダム
シュロッターベッツ高等中学高等部一年の生徒。ユリスモール・バイハンのクラスメイト。「ユリスモール親衛隊」を名乗る一人で、ユーリを尊敬している。軸のゆるいメガネをかけている。
リーベ
シュロッターベッツ高等中学高等部一年の生徒。ユリスモール・バイハンのクラスメイト。「ユリスモール親衛隊」を名乗る一人で、ユーリを尊敬している。
ホセ
シュロッターベッツ高等中学高等部三年の生徒。窃盗癖のあるレドヴィを吊るし上げようとしていた。
バッカス
シュロッターベッツ高等中学高等部五年の生徒。四年時はサイフリート・ガストと同じクラスだった。ヤコブ館の2階で、その週に功労のあった生徒を呼ぶお茶会を開いているメンバーの一人。該当者が居ない週は、いつもトーマ・ヴェルナーを呼んでいた。オスカー・ライザーとは友人づきあいをしており、彼を心配している。
シャール
シュロッターベッツ高等中学高等部の上級生。ヤコブ館の2階で、その週に功労のあった生徒を呼ぶお茶会を開いているメンバーの一人。ややナルシスト的な言動。左目の下に泣きぼくろがある。
ヘニング
シュロッターベッツ高等中学高等部の上級生。ヤコブ館の2階で、その週に功労のあった生徒を呼ぶお茶会を開いているメンバーの一人。ユリスモール・バイハンを強引にお茶会に誘おうと、図書館の本を大量に借りた。
集団・組織
シュロッターベッツ高等中学 (しゅろったーべっつぎむなじうむ)
西ドイツノルトバーデン地方の中高一貫の全寮制男子校。