概要・あらすじ
瓜二つだった金持ちの友人に成り代わった売れない小説家・人見広介が、その財を投じて自身の美意識を体現する飽食と享楽の地上の楽園を現実に造り出す。離島に手を加えた人工のユートピアで、浮世離れした楽園生活に耽る人見。最期は探偵の明智小五郎に正体を暴かれ、盛大に花火の打ち上がるなか、そのパノラマ島と名づけた理想郷で自殺する。
登場人物・キャラクター
人見 広介 (ひとみ ひろすけ)
遊郭の近所に住む下宿代も滞りがちな貧乏文士で、エドガー・アラン・ポーに心酔している。大学の学友の菰田が三重県随一の富豪の若旦那で双子のように似ていたことから、その死を利用することを思いつき、土葬の墓を暴いて生き返ったふりをし、なり代わる。蔵書は神保町の兎月書房に譲り渡すとの遺書を残して自殺を装い、自身の存在は社会的に抹殺する。 元は貧しい漁師の島に過ぎなかった沖の島を遊園地に造り変える事業を立ち上げ、自身の小説『RAの話』の世界を体現しようとする。新聞では紀州のルートウィヒ2世と称される。探偵の明智小五郎に正体を暴かれた際に、莫大な浪費を決算したいと告げて、パノラマ島で爆死する。
菰田 源三郎 (こもだ げんざぶろう)
人見広介と双生児と見まがうばかりにそっくりな大学時代の学友。紀州一の富豪の御曹司だったが、喘息の発作で38歳で急逝する。菰田家はレンガの大量生産で富を築き、また広大な森林・田畑・漁場や工場・ホテルを所有している。
千代子 (ちよこ)
『パノラマ島綺譚』の登場人物で、死んだ菰田源三郎の妻。人見広介の登場に、当初夫が生き返ったと喜ぶが、後に別人だと勘づく。それを不安に思った人見にパノラマ島に招待されて絞殺された。その遺体は、人見があらかじめ彼女の墓として用意していた、アルノルト・ベックリンの絵「死の島」を模した一角に埋葬される。 生前に探偵の明智小五郎に人見の身元調査を依頼していたことで、人見のなり代わりが露見する。
兎月書房の編集長 (うげつしょぼうのへんちゅうしょう)
人見広介のよき理解者。『RAの話』を読んで、エドガー・アラン・ポーの『アルンハイムの地所』の影響や、趣味思考に走り過ぎていることを指摘。ユートピア小説よりも、身の回りのことを書いてみるよう助言する。人見が自殺を装って姿を消した後、遺稿として同作を出版。 大学の学友だった人見と菰田源三郎が瓜二つの容姿であったことを、明智小五郎探偵に証言する。
角田さん
さまざまな地元の利権が絡む菰田家の金庫番の親爺。生き返った菰田源三郎のふりをした人見広介に、夭逝の家系であることを引き合いに自分が生きた証しを残したいと説得され、パノラマ島の建設事業に協力する。
明智 小五郎 (あけち こごろう)
千代子に生き返った夫の調査を依頼された探偵。人見が残した遺書や、兎月書房の編集長の証言、なにより遺稿として出版された『RAの話』と、同時期に建設されたパノラマ島が酷似していることから、菰田源三郎に成り代わった人見広介の正体を見破る。
場所
パノラマ島 (ぱのらまとう)
の人見広介が菰田家の全財産を投じて、ひなびた離島に造り出した地上の楽園で、シュールな美の国。水中回廊を備え、随所にアペニンの巨人などのレプリカをはじめとする彫刻を設えている。中には人が彫刻のふりをしているものもある。自然の地形や物の配置を利用したパノラマ効果を要所々に施しているため、美しく広大だが奇異に感じられる風景に仕上がっている。 南国の珍しい花を植え込み、大量の美男美女や曲芸師を雇い入れている。女神に扮した女たちが半裸で泳ぎ戯れ、夜毎派手な花火が打ち上げられ、男女がところかまわずセックスに耽る大人の遊園地。
ベース
パノラマ島綺譚