超訳マンガ×オチがすごい文豪ミステリー

超訳マンガ×オチがすごい文豪ミステリー

「文豪」と評される江戸川乱歩や太宰治などの名作小説のコミカライズ作品。各小説を一話完結の短編集として10作品収録している。コミカライズにあたり、朝霧カフカが作品を厳選し、各エピソードの最後に原作小説の紹介として冒頭の抜粋と、朝霧カフカからのコメントが記されている。

正式名称
超訳マンガ×オチがすごい文豪ミステリー
ふりがな
ちょうやくまんが おちがすごいぶんごうみすてりー
作者
ジャンル
その他サスペンス・ミステリー・ギャンブル
関連商品
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あらすじ

ある日、小説家の女性は自宅の自分宛に送られてきた手紙に目を留め、作家志望の人から送られてきた原稿だろうと思って開封する。しかし作品タイトルは記載されておらず、原稿は冒頭から「奥様」という自分への呼びかけから始まる。妙な気味悪さを抱きながら、手紙を読み進めていく。送り主は椅子職人の男性で、この数か月のあいだに体験した悪魔のような生活について告白したいという内容だった。椅子職人を自称する送り主は、自らの作った椅子を改造し、自分がその椅子の中に入り込み、盗みを働くために帝国ホテルのラウンジに搬入されたのだという。しかし、告白したいことは盗みのことでなく、椅子職人が隠れている椅子に誰かが座った時の椅子の皮一枚挟んで伝わってくる声、匂い、息づかい、肉体の感触からまったく別の生き物として感じていたという話についてだった。さらにそれが女性であれば、まるで網の中でピチピチとはねる魚のようだと感想を綴り、これまで女性の顔を見ることすら遠慮していた男にとって非常に刺激的な体験だった。椅子の中から女性を抱きしめたり、首筋に接吻をしたりと至福の時間を送っていた男は、この感情を「椅子の中の恋」と表現し、男の不思議な恋人たちの記憶はそれぞれの肉体の特徴をもって心に刻み付けられていった。ところが数か月経ったある日、妙な物足りなさを感じるようになっていた。椅子職人の椅子に座るのは外国人ばかりで、同じ日本人でなければ本当の恋を感じることはできないのではないかと考えるようになっていた。そんな中、外国人向けのホテルが営業方針を変えたことで、男が潜む椅子は競売にかけられることになり、椅子は日本人の役人に買い取られることとなった。男と椅子が搬入された屋敷の書斎は若く美しい婦人が使用しており、それから1か月ものあいだ、食事と就寝の時間を除いては夫人のしなやかな体をいつも独り占めにしていた。書斎にこもって執筆に没頭していた夫人を男がどれほど愛していたかの告白が続く。夫人に愛着をもって座ってもらえるようにできるだけフワリと優しく受け止めることを心掛け、うとうとと居眠りを始めた時は、かすかに膝をゆすってゆりかごの役割を担っていた。男は夫人に恋愛感情を抱いており、もし言葉を交わすことができたならそのまま死んでもいいとまで思いつめているという。そして、「もしお逢いしていただけるなら、書斎の窓の鉢植えにハンカチをお掛けください」と締め括られていた。小説家はあまりの不気味さに手紙を床へ投げ捨て恐怖する。すぐに椅子を調べようとするが、そんな気味の悪いことはできないと自問し、どう対応すべきかうろたえる小説家は、使用人から声をかけられ我に返る。使用人は今しがた自宅に届いた手紙を小説家に渡す。その手紙の筆跡は、たった今読み終えた不気味な手紙とまったく同じだった。(エピソード「人間椅子」)

関連作品

小説

本作『超訳マンガ×オチがすごい文豪ミステリー』は、さまざまな日本の文豪の小説を原作としている。収録作品は江戸川乱歩の『人間椅子』、太宰治の『犯人』『畜犬談』、芥川龍之介の『藪の中』『おぎん』、大倉燁子の『妖影』、泉鏡花の『外科室』、谷崎潤一郎の『白昼鬼語』、夢野久作の『瓶詰地獄』、森鴎外の『高瀬舟』の10作品となっている。

登場人物・キャラクター

椅子職人 (いすしょくにん)

エピソード「人間椅子」に登場する。椅子職人を生業とする男性で、生まれつき醜い自らの容姿にコンプレックスを抱いている。椅子作りの腕は一流ながら生活はいつも貧しい。椅子職人自身が手がけた椅子ばかりが注目され、誰も自分自身に関心を持ってくれないことを気に病み、自殺を考えるほど自己承認欲求が強い。そのため、裕福層の外国人が泊まるホテルからの注文を受けた椅子に入り込み、納品された部屋で盗みを働いていた。しかし、入り込んだ椅子に女性が座ることで、今まで顔すらまともに見られなかった女性の体に革一枚を隔てて触れる快感に自分よがりな恋に目覚め、日本人の女性に触れたいという思いを抱くようになる。その後、椅子は古道具屋に売却され、小説家の女性が所有する椅子となって願いを叶える。自制心が乏しく、小説家に自分の存在を知らせたい欲望を抑えきれず、ついに手紙を送ってしまう。

(つる)

エピソード「犯人」に登場する。「森」という名の恋人と婚約している青年。ミハイル・レールモントフの「帆」という詩が好き。過去に「二人でいっしょに帰れる部屋があったら幸せ」という森の言葉が胸に刺さり、それ以来「二人の部屋」にこだわっている。しかし年収が低く、結婚を控えているにもかかわらず自分が食べていく分すら賄えていない状態だった。世間の一般認識では、共働きは男として情けないとされているが、鶴は結婚しても森に働いてもらうつもりでいる。肉屋を営む姉に、部屋を貸してくれるように頼むものの、断られたうえに共働きの予定を激しく咎められたことに激昂して姉を刺してしまう。動かなくなった姉を見て動揺し、姉の店の現金を持ち出して逃亡を図る。

多襄丸 (たじょうまる)

エピソード「藪の中」に登場する。顔の傷が特徴的な男性。盗人として悪名高く、女好きで知られている。藪で夫と妻を見かけ、妻に一目惚れする。そして夫の口に落ち葉を詰めて拘束し、妻を手ごめにしたのち、妻から「夫か多襄丸のどちらかに死んでもらい、生き残った一人と連れ添う」と言われ、妻と結婚したい衝動に任せて夫を殺したと自白している。殺したあとに妻がいないことに気づき、夫の武器や馬を盗むものの夫の殺人容疑で捕まる。

スパイの男 (すぱいのおとこ)

エピソード「妖影」に登場する。「暗号」を届ける極秘任務に就いている青年。上司の言いつけを守って暗号を肌身離さず身につけている。ふだんは旅行を楽しんでいるが、今回の船旅は任務中のため、スパイの男自身が身につけている暗号の存在に気を取られて楽しめずにいる。一方で暗号をつねに身につけているため、誰にも奪われないという安心感を持っている。観察力に秀でており、周囲の不自然な動きを見逃さない。そのため、不自然な動きを見せる支那の大富豪の男と娘に目が留まり、興味本位で接触する。

高峰 (たかみね)

エピソード「外科室」に登場する。清潔感のある容姿と何事にも動じない精神力を持つ青年。外科科長を務めており、身分が高い人物の手術の執刀を任されている。本作の語り手である画家の男性とは学生時代からの親友で、貴船伯爵夫人の手術の見学に招いた。9年前の学生時代、小石川の植物園で患者である貴船伯爵夫人と一度すれ違った際に、そのあまりの美しさに心を奪われて恋に落ち、今まで独身を貫いている。しかし、貴船伯爵夫人への自らの思いを、親友である画家にも明かさず、ひたすら生真面目に厳格に過ごしていた。実は貴船伯爵夫人も高峰に思いを寄せており、手術の際に麻酔で意識をなくした状態で「うわごと」として自分の思いを口にすることを恐れていた。高峰は惚れた弱みから貴船伯爵夫人の意思を汲み取り、麻酔なしの執刀を敢行する。

犬嫌いの男

エピソード「畜犬談」に登場する。芸術家として活動する既婚男性。犬の多い甲府の街に居を構えているが、東京に家を建てて移り住む予定である。犬を毛嫌いしており、特に犬の牙に恐怖を抱いている。また、犬は日に一度や二度の残飯をもらうために媚びるため、まさに「犬畜生」と称するにふさわしい生物だと考えている。しかし、犬嫌いの男自身の憎悪とは裏腹に小心な性格から、犬に対して卑しい追従笑いを浮かべ、敵意のない優しい人間であるとアピールを欠かさない。その度に自己嫌悪に陥るが、そうしないと犬に嚙まれてしまうという強迫観念に駆られている。そのため不本意ながら犬に好かれてしまい、尻尾を振って自分に親愛を示す犬に一層の嫌悪感を抱くこととなる。日課の散歩の途中から自分について来た、汚れたダックスフントの子犬を追い払おうとするものの、いつもの「軟弱外交」を行ってお菓子を与えて機嫌を取ったため、家に居つかれてしまい、「ポチ」と名づけて仕方なく生活を共にするようになる。

園村 (そのむら)

エピソード「白昼鬼語」に登場する。資産家の一人息子であるが、既に家族もおらず、語り手の男性が唯一の友人である。天涯孤独の身の上であることから、金とヒマを持て余し、宝石の収集や活動写真、探偵小説にのめり込んでいる。人付き合いが少ないことから非常にわがままな性格で、他人の都合をまったく考えていないため、突然語り手の友人を呼び出しても悪びれる様子はない。一度興味を持ったら追求しないと気が済まない気質で、映画館で拾ったメモから暗号を解読した。そして、纓子の殺人現場を目撃し、纓子の美しさに心を奪われ、「恐ろしいものに潜む美しさ」を追求することとなる。のちに纓子と同棲することとなるが、財産目当てであることを承知したうえでの同棲であった。また、最終的には纓子に園村自身を殺してほしいと頼むようになるなど、語り手の友人からは「どうかしている」と評されている。

市川 太郎 (いちかわ たろう)

エピソード「瓶詰地獄」に登場する。故人の男性。10年前に妹の市川アヤ子と共に無人島に漂着した。漂着した時の所持品は、少しの日用品と三本のビール瓶、聖書一冊のみであった。漂着当初はアヤ子と救助を待っていた。幸いにも漂着した島は景観がよく、気候にも恵まれて食料も豊富だったため、生きるには不足のない環境だった。アヤ子と共に朝と晩に神に祈りを捧げ、聖書から文字を学び、聖書の教えを何よりも重んじていた。しかし時間が経つにつれ、成長したアヤ子の肉体に魅せられ、聖書の教えに背く思いを持つ自分に思い悩むようになる。日が経つにつれ悩みは罪悪感となり、葛藤の末に聖書を燃やし、救助の目印として建てた旗を壊し、雷に打たれて死ぬことを神に祈る。だが祈りは届かず、神はなんの示しも与えてくれないことに絶望し、アヤ子と同じ空間で寝ることさえできない気持ちになっていく。その気持ちは聖書を焼いた罰だと考え、夜になると島の動物たちが聖書の言葉を囁きながら自分とアヤ子の様子をうががっている妄想に取り憑かれる。一枚目は漂着して救助を待っていた様子を、二枚目は聖書に反く感情を持ってしまった懺悔と、自分たちを殺してくれるように神に祈る思いをビール瓶に詰めて海の潮流に流す。

喜助 (きすけ)

エピソード「高瀬舟」に登場する。住所不定の男性で、年齢は30歳。弟殺しの罪人として裁かれ、島流しにされるために高瀬舟に乗せられた。幼い頃に両親を亡くし、弟と二人で助け合いながら京都で暮らしていた。これまで非常に貧しい暮らしをしており、仕事を見つけることに苦労し、仕事を見つけると骨を惜しまず働いていたが、そのお金はすべて借金の返済に充てていた。しかし仕事がなくなると、また借りるというギリギリの状態であった。牢に入ってからは今まで得難かった食事を働かずに食べられることに驚き、生まれて初めて満足感を得た。そんな生活をしていたために欲がまったくなく、島流しになると決まっても、一つの場所に落ち着けることに感謝し、島での生活がどんなに過酷でもやっていけると考えていた。また島流しの掟として、罪人に与えられる200文という端金すら今まで持ったことがなく、お上の慈悲に感謝している。そのため島に流される通常の罪人のような、悔やんだり権力に媚びたりする様子はなく、晴れやかな表情をしている。病気で働けなくなった弟が首を切って自殺を図るものの失敗し、死にきれなかった弟に頼まれ、首に刺さった剃刀を抜いて死に至らしめた。

おぎん

エピソード「おぎん」に登場する。江戸時代の大阪出身の少女。両親は大阪から長崎に流浪してすぐに亡くなってしまう。両親は仏教徒だったが、おぎんは仏教の教えを継いでおらず、隠れキリシタンの孫七とおすみの養女となる。そこでキリスト教を信仰するようになり、「まりあ」という洗礼名をもらう。善人は天国へ行き、悪人は地獄へ堕ちるということを頑なに信じている。キリスト教の教えを妨害するものはすべて「悪魔」であるという認識で、キリスト教を取り締まる役人や、投獄された屋敷の代官も悪魔という認識である。頭の回転が速く、物事の優先順位を確立しており、おぎんや孫七、おすみ共々キリシタンの弾圧で火炙りで処刑されそうな状況でも、絶体にあきらめない強さを持っている。

小説家 (しょうせつか)

エピソード「人間椅子」に登場する。小説家を生業とする既婚者の女性で、容姿端麗で知識も豊富。裕福な生活を送っており、家には使用人を雇っている。小説家としてもそれなりに有名なようで、小説家志望の若い人たちから原稿が送られてくることも珍しくない。職業柄から起きているほとんどの時間を、小説家自身が愛用している書斎の椅子の上で過ごしている。ある日、椅子職人からの不気味な告白の手紙を読み、これまで自身が座っていた椅子の秘密を知るものの、そんなことがあるわけがないと、自らの常識と椅子職人の狂気との狭間で葛藤する。

(つま)

エピソード「藪の中」に登場する。夫の妻で、非常に美しい容姿をしている。その見た目から多襄丸には「女菩薩」と評されている。夫婦で藪を通りがかった際に多襄丸に目をつけられ、手ごめにされて気を失う。気づいた時には多襄丸は立ち去ったあとで、辱めを受けた自分とその光景を見た夫と共に死ぬ覚悟を決める。そして、拘束されていた夫を刺し殺すが、自分は自殺する勇気が持てなかったと供述している。のちに役人により清水寺で発見された。

(おっと)

エピソード「藪の中」に登場する。妻の夫で故人。夫婦で藪を通りがかった際に妻が多襄丸に目をつけられ、手ごめにされた。巫女によって降霊した夫は、藪の中での状況を語り出す。多襄丸に手ごめにされた妻はそのまま口説かれ、妻は夫を殺すように多襄丸に命じるが、多襄丸はこの申し出を拒否する。逆に多襄丸から夫に「女を殺すか助けてやるか?」という二択を問いかけられ、その言葉を聞いた妻は逃げてしまう。多襄丸によって拘束を解かれるものの、妻の豹変ぶりに絶望し、自ら命を絶ったと語っている。

(むすめ)

エピソード「妖影」に登場する。支那の大富豪の娘で、容姿端麗で魅力的な瞳の持ち主。父親は空中で英字を書くような仕草をする癖がある。娘自身は神経からくる病気で虚弱体質となっているが、もともと心臓を患っており、幼い頃からよく発作を起こしていた。そんなある日、庭で転んだ拍子に一度心臓が止まって死んでしまうが、身につけていた指輪を狙った墓荒らしに墓を暴かれ、左の薬指を切り落とされて息を吹き返したという過去がある。それ以来、左手につねに手袋を着用している。しかし、それらの経歴はすべてスパイの男を欺くための設定で、敵対する国に仕えており、スパイの男が持つ暗号を狙っている。

纓子 (えいこ)

エピソード「白昼鬼語」に登場する。過去に劇団女優として活動していた女性。現在は金持ちを騙してお金を稼いで生活している。容姿端麗で従兄弟と共に殺人を犯し、その死体の顔を写真に撮っていた。エドガー・アラン・ポーの作品と同じ暗号で纓子自身の殺害計画をメモしていた。そのメモを映画館で落としたことで、園村に殺害現場を目撃され、惚れられてしまう。しかし、その行動は園村の噂を聞きつけ、彼に近づくための策略で、殺人も死人役の男と従兄弟と組んだ演技であった。その思惑どおりに園村と付き合うようになり、同棲を始める。のちに従兄弟も同居することとなるが、最終的に園村から本気で「自分を殺してその死に顔を撮影して欲しい」と懇願され、恐れをなす。

市川 アヤ子 (いちかわ あやこ)

エピソード「瓶詰地獄」に登場する。故人の女性。10年前に兄の市川太郎と共に無人島に漂着した。漂着した時はまだ幼い少女だったが、年月が経って成熟した女性に成長する。その体は、太郎から「奇跡のように美しく艶やかに育った」と評されている。理性で抑えていたが、太郎が市川アヤ子の体を求めるように、アヤ子自身も太郎の体を求めて止まなかった。太郎の影響から、朝晩は神に祈りを捧げるほど敬虔(けいけん)なクリスチャンだったアヤ子は、実の兄に劣情を抱く自分の思いを畏怖し、海へ入水自殺を図るが太郎に助けられて一命を取り留める。お互いの苦悩を知ってからは同じ場所で寝ることができなくなる。死を願うものの、気候にも恵まれて食料も豊富だったため、病気一つせずに健やかに育っていく。しかしそんな状況は苦痛でしかなく、太郎と共に自殺する道を選ぶ。

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