世界観
本作の舞台となるのは現実の歴史とは別の歴史をたどった20世紀末の世界で、ソ連が存続していたり、中国が南北に分断されていたりと、現実とは世界情勢が大きく異なる。また「ウィスパード」と呼ばれる謎の存在によって数々の存在するはずのない技術「ブラックテクノロジー」がもたらされており、人型兵器「AS」や常温核融合炉「パラジウムリアクター」など現実には存在しないオーバーテクノロジーが存在している。
あらすじ
戦うボーイ・ミーツ・ガール(第1巻~第2巻)
都立陣代高校に通う女子高校生の千鳥かなめは、騒がしく忙(せわ)しない日々を送っていた。1か月前に転校してきた男子高校生の相良宗介は海外の紛争地帯で育ってきたため、平和な日本に馴染めず日夜騒動を巻き起こしていた。さらに、なぜか宗介はかなめのボディーガードを買って出て、かなめは彼の起こした騒動に巻き込まれては、その後始末に追われていたのだ。かなめは宗介に手を焼かれつつも、悪い人間ではないと信頼していたが、ある日、ちょっとした勘違いから彼をストーカーと誤解し、二人の仲は決裂してしまう。そして二人は仲たがいしたまま、クラスメイトたちと共に修学旅行に旅立つこととなる。沖縄行きの飛行機に乗った二人だったが、その道中、飛行機はハイジャックされ、テロリストのガウルンに乗っ取られてしまう。何もできないままクラス全員は北朝鮮に拉致られ、かなめはたった一人彼らに連れ去られてしまう。実はかなめは「ウィスパード」と呼ばれる特殊な素質を持ち、彼女の身柄を欲した者たちによって、ハイジャックが引き起こされたのだった。宗介も極秘傭兵組織「ミスリル」に所属する本物の兵士で、かなめの護衛役として彼女に付きまとっていたのだ。かなめは飛行機から逃げ出してきた宗介に救われ、基地からの脱出を図る。途中、追撃に現れたガウルンによって危機に陥るも、クルツ・ウェーバーたちミスリルの傭兵の援護によってクラスメイトたちは脱出に成功する。しかし、ガウルンの予想外の反撃によってクルツは敗れ、宗介とかなめは敵地に取り残されてしまう。辛うじて生き残ることに成功したクルツと合流した二人は、孤立無援の中、一か八かの反撃を決意する。そして彼らの奮闘に気づいたミスリルの司令部は、宗介のもとに最新鋭の極秘AS「アーバレスト」を届ける。アーバレストに乗った宗介は激闘の果てにガウルンを打ち倒し、かなめとクルツを連れて敵地からの脱出に成功するのだった。
転校生は何者ナンゾ?(第3巻)
千鳥かなめは、ハイジャック事件から平和な日常を取り戻す。相良宗介もかなめの護衛として引き続き残り、二人は以前のように騒がしくも賑やかな日々を送っていた。そんなある日、二人のクラスにテレサ・テスタロッサが短期留学生として編入される。不思議な雰囲気を漂わせた美少女のテレサにクラスは騒然、宗介の様子もいつもと違ったため、かなめはテレサと宗介の関係に疑念を抱く。かなめは無自覚な嫉妬に苛(さいな)まれ、ハイジャック事件の時に感じたウィスパードとしての力を暴走させてしまう。孤独の中、苦しむかなめであったが、そこにテレサが現れて事情を話す。実はテレサはミスリルの人間で、宗介の上司にあたる人物だった。テレサはかなめの持つ力を確かめるため、正体を隠して都立陣代高校に潜入していたが、自分が彼女の力を刺激したことを謝罪し、かなめに力のことを助言して再会を約束して学校を去る。
疾るワン・ナイト・スタンド(第4巻~第5巻)
テレサ・テスタロッサはA-21というテロリストグループが、危険なASを入手したという情報を得て、その調査を行っていた。その一環で、日本の空港でテログループの一人、クガヤマ・タクマが逮捕されたとの報を受け、その確認に赴く。タクマを直接見たテレサは、彼が重要な存在と確信するも、その直後に敵の襲撃に遭い、仲間と離れ離れとなってしまう。混乱の中、タクマを確保したテレサは、近場にいる頼れる人物として相良宗介の存在に思い至る。宗介のセーフハウスで一息つき、彼と合流するも、タクマには発信機が仕掛けられており、テレサは再び敵の襲撃を受ける。宗介は咄嗟(とっさ)に千鳥かなめを頼り、彼女の機転によって発信機の無効化に成功するも、タクマが密かに情報を仲間に伝達する。宗介は新たな襲撃を受け、タクマを奪われると共に、テレサやかなめまでさらわれてしまう。窮地に陥るがそこにメリッサ・マオとクルツ・ウェーバーが合流して反撃を開始する。宗介は敵基地を襲撃し、かなめとテレサを救出するが、時すでに遅くタクマは巨大AS「ベヘモス」を起動してしまう。特殊な矯正を受けたタクマは物理法則を超越した力「ラムダ・ドライバ」を使いこなし、その圧倒的な力で周囲を破壊しまくる。宗介は同じくラムダ・ドライバを搭載しているアーバレストに搭乗。仲間たちの力を借りつつ、辛うじてベヘモスを打ち倒すのに成功するのだった。
戦場のメリークリスマス(第6巻)
ベヘモスの事件も解決し、相良宗介と千鳥かなめの二人はいつも通りの日々を送っていた。そして気が付けばクリスマスを迎え、かなめは友人たちとクリスマスパーティーを過ごしていた。宗介も参加していたが、銃の試射をしたいからと一人抜け出してしまう。かなめは宗介がまたしても問題を引き起こすのではないかと、街中を探しまわり始めるが、そこにテレサ・テスタロッサが再び来訪しているのを見つける。テレサは宗介に会いにきたと思ったかなめは、陰から彼女の行動をフォローし、テレサを宗介のもとに導く。宗介と無事に会えたテレサを見て安心するかなめであったが、二人の姿を見てもやもやした思いを抱え込む。そしてかなめは一人家に帰って思い悩み続けるが、そこに宗介が訪れて彼女にクリスマスプレゼントを渡すのだった。宗介からプレゼントをもらったかなめは、温かな気持ちでクリスマスの夜を過ごす。
交渉はこうしよう!?(第7巻)
相良宗介は千鳥かなめに誘われ、ゲームセンターに遊びにいくも、宗介はゲーム中に本気になって実銃を使いゲームを壊してしまう。かなめは相変わらずの宗介のズレっぷりに呆れるも、そこに不良が現れて二人に絡む。不良はあっさり宗介に返り討ちに遭うが、その不良の親玉、阿久津万理は二人の関係を見抜き、かなめを人質に取ることを考える。阿久津はかなめが一人の時に部下の不良を使い、彼女をさらうことに成功する。一方、宗介はかなめがいないことを不審に思いつつも、学校でゲームセンターの一件を林水敦信に報告していた。しかしその最中、阿久津の遣いが現れ、宗介はかなめが人質に取られたことを知るのだった。阿久津は大勢の不良を集め、やってきた宗介をリンチしようとするが、そこで宗介は阿久津の弟を人質に取っていると語り、交渉を始める。宗介は遣いの不良を拷問して背後関係を調べ、逆に阿久津を脅迫し返したのだ。テロリストには譲歩しないと冷酷に語る宗介に、不良たちは戦慄を覚え戦意喪失。阿久津も自分の負けを悟り、おとなしくかなめを解放するのだった。敗北後、阿久津は実は弟と宗介は結託しており、汚い手段を使った姉を改心させるべく演技をしていただけだと知る。そして自分の前で堂々とはったりをかました宗介を、阿久津は認めるのだった。
揺れるイントゥ・ザ・ブルー(第8巻~第9巻)
千鳥かなめは相変わらず相良宗介の騒動に巻き込まれ、目まぐるしい日々を送っていたが、そんなかなめを見かねて宗介は彼女を南の島でのバカンスに誘う。宗介の突然の誘いに期待するかなめだったが、島に到着直前に予定は急遽変更、二人はミスリルの揚陸強襲潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」へと赴くこととなる。一般人ながら勇敢に行動したかなめを、ミスリルの傭兵たちは歓迎し、彼らは和気あいあいとした気持ちで交流する。しかしそんな中、ミスリルは謎のASの目撃情報を得る。北朝鮮でガウルンが乗っていたものと同型の兵器と判断したミスリルは、宗介にASの撃破を命令する。宗介は得体の知れないラムダ・ドライバへの不信感と、周囲から寄せられる期待への重圧を感じながらも平常心となり、いつも通り戦うことを決意する。そして宗介は謎のASと対峙するが、そこにいたのは北朝鮮で死んだかと思われていたガウルンだった。どうにか平常心を保っていた宗介は、ガウルンした再会した驚きで動揺し、ラムダ・ドライバを使えなくなってしまう。仲間たちの奮闘でガウルンを倒すことに成功するも、宗介はラムダ・ドライバへの不信感をますます大きくするのだった。ガウルンは囚われの身となり、トゥアハー・デ・ダナンで尋問を受けることとなるが、実はミスリルの一部の者と内通していたガウルンはすぐさま脱出。トゥアハー・デ・ダナンの司令部を乗っ取る。テレサ・テスタロッサとかなめもガウルンに人質に取られるが、テレサは咄嗟の機転でかなめを逃がす。ウィスパードの力で希望を託されたかなめは、宗介と合流し、トゥアハー・デ・ダナンの制御を取り戻すことに成功する。形勢不利となったガウルンだったが、最後までミスリルを引っ搔き回すことを選び、ASに搭乗して自爆しようとする。自爆の時がせまる中、宗介とかなめは力を合わせて爆弾をガウルン諸共、船外に吹き飛ばすのだった。
関連作品
小説
本作『フルメタル・パニック!』は、賀東招二の小説『フルメタル・パニック!』を原作としており、原作小説の第1巻「戦うボーイ・ミーツ・ガール」から第3巻「揺れるイントゥ・ザ・ブルー」に、原作短編のエピソードを加えた内容となっている。
漫画
本作『フルメタル・パニック!』の続編に、上田宏の『フルメタル・パニック!Σ』がある。こちらは原作小説『フルメタル・パニック!』第4巻以降のコミカライズ作品であり、作者は違うものの物語は時系列的につながった、正統な続編となっている。
登場人物・キャラクター
相良 宗介 (さがら そうすけ)
ミスリルの西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」陸戦コマンドSRT所属の男性。階級は軍曹で、部隊内でのコールサインは「ウルズ7」。左頰に十字傷のある10代の少年で、あまり感情をあらわにせずにいつも仏頂面でいる。ストイックな忍耐強い性格で、ドが付くほどに生真面目ながら、それが一周まわって天然の域にまで到達しており、与えられた仕事を完璧にこなそうとするあまり暴走することが多い。SRT要員の中では日本人風の見た目と年の若さから千鳥かなめの護衛に選ばれ、都立陣代高校に転校する。しかし、幼い頃から紛争地帯で育ってきたため平和な日本での常識がなく、やる気だけが空回りして多くの騒動を巻き起こしている。2年4組に在籍し、クラスメイトからの評価は平和ボケならぬ「戦争ボケ」。林水敦信には気に入られており、生徒会に所属して「安全保障問題担当」という謎の役職に就いている。来歴などは不明な部分が多く、幼い頃から海外の激戦区を転々としながら育ったため、戦闘経験は非常に豊富。また、かつては別の名前を名乗っていたようで、ガウルンからは「カシム」の名で呼ばれている。ありとあらゆる火器を使いこなすスペシャリストで、年若いながらASの操縦も熟知している。また徹底的なリアリストで、必要とあらば人質を使った脅迫やブービートラップを使った戦法も駆使する。ただし、これらは被害を少なくするという、戦場育ちからくる価値観で、進んで非道な行いをすることはない。搭乗機体はM9だが、北朝鮮の戦いでガウルンのASに対抗すべくアーバレストに搭乗して以降は、アーバレストを愛機とする。しかし、精神という曖昧な概念を利用するラムダ・ドライバには懐疑的な考え方を持っており、信頼性に欠けると嫌っている。
千鳥 かなめ (ちどり かなめ)
都立陣代高校に通う女子生徒。2年4組に在籍している。青みがかった髪をロングヘアにした美少女で、成績優秀で生徒会に所属しており、副会長を務める。帰国子女で中学まではアメリカにいたため、日常会話程度なら英語も話せる。容姿にも才能にも恵まれているが、性格はよく言えばアグレッシブ、悪く言えばガサツで、周囲からの評価は微妙。男子にも人気があるが、同じくらい敬遠されており、女子扱いされないこともある。転校してきた相良宗介に付きまとわれるようになってからは、彼のボケにツッコミを入れるごとにガサツさは拍車を掛けており、女子っぽさが失われている。千鳥かなめ自身もそれを自覚しており、テレサ・テスタロッサと出会った際には彼女の女の子っぽさに静かなコンプレックスを感じていた。「ウィスパード」と呼ばれる世界に数人しかいない特殊な能力を持ち、それを狙った組織にクラスごとハイジャックされ、囚われてしまう。その際に受けた検査によってウィスパードの能力に目覚め、それ以降はブラックテクノロジーをもたらす「ささやき」を何度も耳にしている。ラムダ・ドライバなどの知識がささやきによってもたらされており、それによって宗介の窮地を何度も救っている。一方で、テレサからはその力の危険性を説かれ、無暗に使わないように忠告もされている。宗介のことは当初はただの変人としか思っていなかったが、北朝鮮の戦いで共に危機を乗り越えたことで絆のようなものを感じており、好意を抱き始めている。ただし、素直になれないツンデレ的な性格をしているため、その好意を表に出すことはなく、かなめ自身も悶々とした思いで過ごしている。
テレサ・テスタロッサ
ミスリル作戦部西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」の司令官を務める女性。アッシュブロンドを三つ編みにセットした美少女で、理知的な性格で凛(りん)とした雰囲気を漂わせている。「テッサ」の愛称で呼ばれることが多い。ミスリルに所属するウィスパードであるため、10代にもかかわらず類まれな知性を有し、その実力を買われ大佐の階級を与えられている。部隊内でのコールサインは「アンスズ」。部隊で運用されている強襲揚陸潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」の艦長も務めており、有事の際にはその指揮を執る。歴戦の勇士が集うミスリルの中でも、その才覚は異彩の輝きを放っており、部下たちから命を預けられる優秀な上官としてその才覚を認められている。一方で、運動面の才能は同年代と比較しても壊滅的で、何もない場所で転ぶほど不得意。また激務に追われているため、恋愛関係の経験は皆無で、同年代の相良宗介と交流を重ねるうちに少しずつ彼に好意を抱き、年相応の乙女な一面を見せるようになる。千鳥かなめに対してはウィスパードの先輩として力の危険性を警告すると共に、同年代の同性ということでよき友人関係を築く。
リチャード・ヘンリー・マデューカス
ミスリル作戦部西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」の副指令を務める老齢な男性。秩序を重んじる厳格にして生真面目な性格で、眼鏡をかけている。階級は中佐。テレサ・テスタロッサの横に佇(たたず)み、彼女の補佐に務めると共に、緩みがちな部隊の空気を引き締める説教役を担っている。テレサの功績が華々しく、あまり活躍の機会に恵まれないため影が薄いが、リチャード・ヘンリー・マデューカス自身もそれらを自覚し、敢えてテレサの引き立て役として立ち回っている。部隊内では小言がうるさい昼行燈(ひるあんどん)のように思われているが、彼も類まれな指揮能力と判断能力を持つ優秀な指揮官で、ふだんは杓子定規的な発言が多いが、戦場では臨機応変な判断をする柔軟な思考を見せる。ベヘモスでの戦いではテレサが行方不明となったため、処分を覚悟のうえで独断で部隊を動かし、アーバレストをテレサのもとに届けることで、彼女の危機を助ける大活躍をしている。
アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニン
ミスリル作戦部西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」の陸戦コマンド指揮官を務める老齢な男性。白い髪と白いヒゲを生やしており、目的を達成するためなら手段を選ばないストイックな性格をしている。階級は少佐で、部隊内でのコールサインは「パース1」。相良宗介とは古い付き合いで、彼を幼い頃から知っており、時に味方、時に敵として対峙し、それぞれ優秀な指揮官、優秀な兵士としてお互いを認め合っている。ミスリルで宗介と再会し、現在は上司と部下という関係になっている。ガウルンとは深い因縁で結ばれており、ふだんは冷静な人物だが、ガウルンに対しては憎しみの感情をあらわにする。
ゲイル・マッカラン
ミスリルの西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」陸戦コマンドSRT(特別対応班)の隊長を務める中年の男性。陽気な性格で、気さくな態度で部下たちにも接する。階級は大尉で、口ひげを生やしている。部隊内でのコールサインは「ウルズ1」。アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンの右腕的な存在で、指揮官として優秀な人物。メリッサ・マオ、相良宗介らSRT要員の直属の上司で、戦場では自らもM9を駆り、熟練の操縦技能と巧みな指揮で敵と戦う。トゥアハー・デ・ダナンの就航1周年記念パーティーで行われたビンゴ大会で1位を獲得して、景品としてテレサ・テスタロッサのキスを勝ち取る。その日を「人生最良の日」と陽気に笑っていたが、それから間もなく、グェン・ビェン・ボー、ジョン・ハワード・ダニガンの裏切りに遭い殺されてしまう。
メリッサ・マオ
ミスリルの西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」陸戦コマンドSRT(特別対応班)に所属する女性。黒い髪をショートカットに整えた若い兵士で、しなやかな体を持つ。階級は曹長で、部隊内でのコールサインは「ウルズ2」。性格は面倒見のよい姉御肌タイプで、部隊内では比較的若手に属するクルツ・ウェーバーや相良宗介の面倒を見ている。また歳が近く、同性ということからテレサ・テスタロッサとも仲がいい。電子戦のスペシャリストで、戦場では電子戦に特化した専用のM9に乗って戦う。実は技師としても優秀で、M9の開発にもかかわっていたため、M9には人一倍思い入れがある。肉弾戦もかなり鍛えており、ケガをして鎮静剤で意識が朦朧とした状態にもかかわらず、投げナイフの要領でメスを投げ、的確に敵の急所に打ち込むという離れ業を見せている。
クルツ・ウェーバー
ミスリルの西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」陸戦コマンドSRT(特別対応班)に所属する男性。金髪を長く伸ばした軟派な青年で、顔立ちは整っているが、そのチャラい性格から周囲の女性の反感を買うことが多い。特にメリッサ・マオからは問題児としてよく説教されている。階級は軍曹で、部隊内でのコールサインは「ウルズ6」。狙撃に関しては天才という表現すら超えた超人の域で、随所で神業的なスナイピングを見せる。一方で才能にあぐらをかき、訓練に不まじめな態度で臨んでいるため、メリッサから格闘技術に関しては「チンピラ」レベルと評されている。相良宗介とは性格が正反対だが、同期の同僚であるため何かと絡むことが多く、お互いを認め合っている。金髪碧眼のドイツ人だが、実は日本育ちということもあり日本語に堪能。そのため一時期は宗介のフォロー役として千鳥かなめの護衛を手助けしている。
ヤン・ジュンギュ
ミスリルの西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」陸戦コマンドSRT(特別対応班)に所属する男性。黒い髪を短く切りそろえた青年で、人の好さそうな雰囲気を漂わせている。階級は伍長で、部隊内でのコールサインは「ウルズ9」。SRT要員の中では唯一ASの搭乗資格を持たず、歩兵としての役割と車などでの運搬を業務とする。運転技術はかなりのもので、仲間たちからもその腕を信頼されている。
小野寺 孝太郎 (おのでら こうたろう)
都立陣代高校に通う男子生徒。2年4組に在籍している。明るめの髪をショートカットに切りそろえたスポーツマンで、男子バスケットボール部に所属している。クラスメイトからは「オノD」の愛称で呼ばれる。年相応に異性に興味があり、彼女が欲しいと思っている。陽気で人当りのよい性格をしており、相良宗介の起こす騒動に巻き込まれても、嫌な顔一つせず彼と付き合い続けるなど面倒見もいい。
風間 信二 (かざま しんじ)
都立陣代高校に通う男子生徒。2年4組に在籍している。眼鏡をかけた利発そうな少年で、おとなしい性格をしている。ミリタリーオタクで、その知識に関しては本職の相良宗介が感心するほど詳しい。宗介を同じミリタリーオタクと思っており、一方的に仲間意識を感じている。いじめられっ子で、いじめっ子に命令されて千鳥かなめの下着を盗むため、彼女の家に忍び込んだ。そこを宗介に取り押さえられるが、風間信二の事情を知った宗介に逃がされ、結果的に宗介が下着泥棒をしたとかなめに誤解を与える原因となってしまう。このことで宗介に強い友情を感じるようになり、騒動後、いっしょに行動することが多くなる。
常盤 恭子 (ときわ きょうこ)
都立陣代高校に通う女子生徒。2年4組に在籍している。茶色の髪をツインテールにしており、大きな丸眼鏡をかけている。好奇心旺盛で天真爛漫な性格の持ち主。千鳥かなめ、工藤詩織の友人で、よく三人で行動している。かなめとは特に仲がよく、親友として彼女からよく相談を持ち掛けられたりする。誰とでもなかよくなれるため、危険人物扱いされている相良宗介にも平然と物を言い、彼とかなめの仲を取り持つこともある。
工藤 詩織 (くどう しおり)
都立陣代高校に通う女子生徒。2年4組に在籍している。茶色の髪をショートボブに整えている。千鳥かなめ、常盤恭子の友人で、よく三人で行動している。三人の中では比較的おとなしい性格をしているため、いじられ役になることが多い。大学生の彼氏がいるため、かなめと恭子からは恋愛上手として尊敬されている。かわいいもの好きで、動物などが大好き。一方で泣き虫なところがあり、相良宗介の引き起こした騒動に巻き込まれて時々大泣きしている。
林水 敦信 (はやしみず あつのぶ)
都立陣代高校に通う3年生の男子。白金色の髪をオールバックにしている。ほかの生徒と違い、白い制服を着用し、手に扇子を携えていることが多い。眼鏡をかけた美丈夫で、つねに冷静沈着。また頭脳明晰で人心掌握術に優れており、都立陣代高校の生徒会長を務めている。一般人とは違う視点を持ち、学校内で相良宗介の行き過ぎた活動を評価している唯一の人物。教師ですら彼の言葉を無視できないため、宗介の奇行をよくフォローしている。他校の不良グループから情報を引き出したり、いかがわしい店に潜入調査を行ったりと明らかに通常の生徒会業務を逸脱した行為も行っている。また彼が生徒会入りしてから、生徒会の隠し予算が数倍に膨れ上がったなど、何かと噂の絶えない人物。
稲葉 瑞樹 (いなば みずき)
都立陣代高校に通う2年生の女子生徒。勝気な雰囲気を漂わせた少女で、同じクラスの「白井悟」と付き合っている。しかし、白井が千鳥かなめに好意を持っているのを知り嫉妬。かなめの根も葉もない誹謗中傷をあちこちに落書きし、彼女を困らせた。手段は間違っているものの、恋愛にひたむきな部分はかなめから見て好ましく見られ、彼女に許される。その後、口ではかなめをまだ嫌いと言いつつも、落書きの内容を訂正しまわっている。落書き事件では感情が行き過ぎて犯行に及んだが、基本的にひたむきに努力する一途な性格で、苦手なものからも逃げずに立ち向かう意思の強さを持つ。そのため事件後はかなめとも徐々に打ち解け、友人関係を築いていく。
東海林 未亜 (しょうじ みあ)
都立陣代高校に通う2年生の女子生徒。女子バスケットボール部に所属し、副部長を務める。負けず嫌いの努力家で、去年の球技大会で千鳥かなめのチームに負けたことを根に持ち再戦に気炎を上げる。自分にも他人にも厳しく、クラスメイトから反感を買っているのを承知のうえで、再戦に向けてクラスメイトたちを厳しく指導する。しかし、実はなんでもそつなくこなすかなめに強いコンプレックスを感じており、かなめに負けることで東海林未亜自身の努力を否定されるのを恐れ、球技大会を中止するために自殺をほのめかした脅迫状を送り付ける。球技大会に向けてまじめに練習することで容疑者から外れようとするが、かなめが冗談で当てずっぽうの推理をしたことで動揺し、自供してしまう。その後は犯行が明るみになるのを恐れ、本当に自殺しようとするが、相良宗介が自殺される前に射殺すると宣言したことに動揺。彼に脅されるかたちで自殺を思い留まる。
佐伯 恵那 (さえき えな)
都立陣代高校に通う女子生徒。2年1組に在籍している。明るめの茶色のボブヘアで、顔立ちが整っており、前年のミス陣校では2位に選ばれたほどの美少女。成績も優秀で、1年の学年末テストでは学年5位の成績を収めている。才色兼備で、ストイックな姿勢の相良宗介に好意を抱き、彼にラブレターを送る。しかし不審物と勘違いした宗介に、ラブレターを読む前に燃やされた挙句、脅迫者と誤解されてしまう。あまりな失恋具合に周囲から不憫(ふびん)に思われるほどで、宗介から脅迫者と勘違いされているのを知った際にはかなりショックを受けた。その後、イメージサロン「C&J」に出入りしているのをかなめたちに見つかったため、いかがわしいアルバイトに手を染めているのではないかと心配される。しかし、「C&J」は役割になりきってストレス発散するという健全なお店で、アルバイト内容も役割を演技するだけの内容だったため、安心される。
坪井 たか子 (つぼい たかこ)
都立陣代高校で校長を務める中年の女性。理知的な雰囲気を漂わせて、眼鏡をかけている。生徒会長の林水敦信の手腕を認めており、生徒の自主性を重んじた教育姿勢を見せる。相良宗介の起こす騒動で、ほかの教師から多くの苦情も寄せられるが、のらりくらりとその苦情をかわしている。小暮一郎からはその教育姿勢を批判されていたが、取りつく島もなく、基本的に相手にしていなかった。しかし、小暮が凶行に及んでいるのを目撃、休職処分を下している。
神楽坂 恵里 (かぐらざか えり)
都立陣代高校で教師を務める女性。担当教科は英語で、2年4組の担任でもある。まじめな責任感の強い性格で、毎回、相良宗介の起こす騒動の後始末で胃を痛めている苦労人。一方で問題児だが悪い子ではない宗介を、生徒として見捨てない教師らしい一面を持つ。ハイジャック事件では、千鳥かなめが連れ去られそうになる際にかばおうとするが、危うくガウルンに殺されかけてしまう。その後、ミスリルに救出されるが、かなめが取り残されたことをずっと案じており、再会した際には号泣している。
水星 庵 (みずほし いおり)
都立陣代高校で教師を務める壮年の男性。担当教科は美術。髪を長く伸ばしており、自分の興味のある事柄になると饒舌になるという、芸術家タイプ。芸術に関して妥協しない厳格な姿勢は、相良宗介のストイックな姿勢に通ずるものがあり、宗介とは気が合う。ただし宗介と水星庵の会話の実態は、お互いがお互いの言葉を都合よく解釈しているだけなため、実は会話は成立しているようで成立していない。そのため、彼の言葉を自分なりに解釈した宗介が新たな騒動を引き起こすこともままある。
吾妻 ミツル (あづま みつる)
シンクロナイスド・スイミングの講師を務める男性。すらっとした長身痩軀の体型をしている。ビキニパンツをつねに着用したオカマで、オネエ言葉でしゃべる。メディアに取り上げられるほど有名だが、講師としての腕よりも、そのキャラクター性が人気の理由となっている。シンクロに関してはストイックで、悪ふざけは許さず、非常に厳しい指導を行う。都立陣代高校にシンクロナイスドスイミングの講師としてやってきて、相良宗介たちに指導を行う。宗介にシンクロの才能を見出し、彼を気に入っているが、周囲が宗介の暴れっぷりに付いていけなかったため、結局シンクロはできずじまいとなる。ただ宗介の才能はあきらめておらず、彼を世界に羽ばたく人材に育てようと目論んでいる。
小暮 一郎 (こぐれ いちろう)
都立陣代高校で教師を務める中年の男性。担当教科は保健体育で、生活指導も担当している。気に入らない生徒に難癖をつけては叱りつけ、さらには連帯責任を負わせて、周囲の生徒にまで罰を強要する陰険な性格をしている。そのため生徒から嫌われており、評判はよくない。特に日本の常識に馴染めない相良宗介を目の敵にしており、彼を公然の場で罵倒するが、軍隊の指導に慣れ切っている宗介からは教育熱心な教師と思われ、逆に尊敬されている。罵倒されてもまったく堪(こら)えない宗介に怒り狂っており、彼らが臨時に校内でパン屋の代行をすると知った際にはその妨害に動く。当初はパンに異物を混入させて騒ぎを引き起こそうとするも、宗介の設置したトラップに引っ掛かってしまう。その後、身勝手な逆恨みの感情を爆発させ、今度は下剤を混入させようとするも、再びトラップで病院送りとなる。最後は完全防備で、パンに針を仕込もうとするが、坪井たか子にその姿を目撃され、休職処分を下される。周囲には病気による休職と思われているらしく、宗介からは激務がたたって体を壊したのだろう、と休職を惜しまれている。
小村 修二郎 (こむら しゅうじろう)
元帝国海軍中尉の小柄な体型の老爺。ソロモン諸島での戦いで全滅した第三〇二哨戒中隊に所属していた。かなりの高齢ながらかくしゃくとした人物で、若者相手に大立ち回りをしても息一つ乱さない力強さを見せる。引ったくりに手荷物を奪われ、偶然居合わせた相良宗介と共に、荷物を探し回る。実は千鳥かなめの母方の祖父で、駆け落ち同然に家を去った娘のことを気にかけている。その子供のかなめのことも気にかけており、娘の高校時代の日記を見つけたのをきっかけにして、謝罪のためにかなめのもとを訪れる。ひったくられたのもかなめの母親の日記で、かなめの傍に宗介がいたのを見て、彼に手伝いを申し出たのだった。宗介と行動を共にしたことで、実直な彼のことを気に入り、かなめの傍にいてくれたことを感謝している。
日向 柾民 (ひゅうが まさたみ)
豪邸に住む資産家の息子。小動物のような愛嬌のある顔立ちをした美少年で、病弱なこともあり、おとなしい性格をしている。体が弱く外出できないことで、海沿いの豪邸で静養していたが、たまたま近くを通りかかった千鳥かなめに一目ぼれし、彼女を家に招く。その際、不機嫌だったかなめが、追ってきた相良宗介をストーカーだと言ったことを真に受け、宗介を撃退するため、ボディーガードの鷲尾たちを差し向ける。実は子供の頃、6歳年上のいとこと結婚の約束をしていたが、そのいとこが2か月前、交通事故で知り合った男性と駆け落ちしてしまった。子供の頃の約束ながら本気にしていた日向柾民は激怒し、それ以降ウソをつかれることや、約束を破られることを極度に嫌うようになった。その経緯を知ったかなめが本当のことを言い出せなかったため、かなめが宗介に連れていかれた際には、彼女の奪還を決意する。
鷲尾 (わしお)
日向柾民に仕える運転手の男性。スキンヘッドで、恰幅のよい体型をしている。元フランス外人部隊に所属していた経験があり、鮫島や豹堂と共に日向のボディーガードも兼任している。見た目に似合わず、かなり俊敏かつ巧みに動きまわる体術の達人。侵入してきた相良宗介と戦い、彼の攻撃を紙一重で回避する神業を見せるが、宗介がうっかり訓練弾と実弾を間違えて撃ったので不意を突かれ敗北する。この敗北がよほどこたえたのか、鮫島、豹堂と共に日向家を出て、山ごもりの修行を始める。修行後は痩せて、若干スマートな体型となった。修行中に偶然、宗介たちが山を訪れたため再戦するが、再び敗北する。
鮫島 (さめじま)
日向柾民に仕えるコックの男性。目つきが鋭く、神経質そうな顔立ちをしている。元フランス外人部隊に所属していた経験があり、鷲尾や豹堂と共に日向のボディーガードも兼任している。ナイフ使いで、両手に持ったナイフを使いこなすことから「切り裂きサミー」の異名を持つ。侵入してきた相良宗介とナイフで戦うが、銃を一方的に撃たれて敗北する。この敗北がよほどこたえたのか、鷲尾、豹堂と共に日向家を出て、山ごもりの修行を始める。修行中に偶然、宗介たちが山を訪れたため再戦するが、再び敗北する。
豹堂 (ひょうどう)
日向柾民に仕える庭師の男性。険しい顔立ちをしている。元フランス外人部隊に所属していた経験があり、鮫島や鷲尾と共に日向のボディーガードも兼任している。武器はボウガンで、100メートル先の的も外さない射撃の腕を持つ。侵入してきた相良宗介と戦うが敗北する。この敗北がよほどこたえたのか、鷲尾、鮫島と共に日向家を出て、山ごもりの修行を始める。修行中に偶然、宗介たちが山を訪れたため再戦するが、再び敗北する。
阿久津 万理 (あくつ まり)
不良グループをまとめる女性。野性味のある風貌をした大柄な体型をしている。豪快で面倒見のよい性格と、その腕っぷしの強さから他校の不良にも顔が利く。女性とは思えない怪力の持ち主で、彼女を怒らせた不良は軽くこづかれただけで吹き飛ばされ、何人も歯を折るなどのケガをしている。成績は腕っぷしに反比例してかなり悪いらしく、特に歴史関係が苦手。そのため、歴史の話を目の前でされると不機嫌となる。家族関係は両親とは折り合いが悪いが、弟の芳樹との仲は良好で、きちんと面倒を見ている。自分の舎弟を倒した相良宗介を倒そうと考えるも、宗介が銃を持っているのを知り、千鳥かなめを人質にした襲撃作戦を立てる。作戦は途中までうまくいき、彼を丸腰状態で大勢の不良の中に放り込むことに成功するが、そこで宗介が芳樹を人質に取っていることを宣言。宗介が取り巻きの不良の弱みも一人一人暴いていったことで戦意喪失し、最終的に宗介の言葉を受け入れかなめを解放した。事件解決後、芳樹の言葉から、芳樹が姉の凶行を正すべく進んで宗介に協力していたこと、冷静に見えてかなめを助けるために必死だったことを知り、宗介を大した奴だと認める。
マウスケ
ケガを負ったところを相良宗介に拾われ、彼のもとで傷を癒やしていたネズミ。宗介に懐いており、彼といっしょにいたくてカバンに潜り込み、都立陣代高校に出入りしている。実はミスリルが特別な処置を施した実験体のマウスで、ネズミにしては恐ろしく頭がよく、かじる力も通常のネズミより強い。食べ物がいっぱいある都立陣代高校で、弁当盗難事件を引き起こしてしまう。ただし、マウスケは初めて来た場所ではしゃいでいただけで、悪気はない。宗介を困らせていたことを知り、彼に謝罪。ミスリルの人間が自分を捕獲しにきていたことを知り、自ら捕獲されにいき、宗介のもとを去った。
ガウルン
黒髪の中年男性。ハイジャック犯の一人で、額に傷があり、無精ひげを生やしている。本名は不明で、九つの国籍を持つことから「九龍」と呼ばれるようになった。ASの操縦から肉弾戦までこなす凄腕の傭兵で、相良宗介、アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンとは因縁があり、彼らが世話になっていた村をASで皆殺しにした過去がある。このほかにも、三〇人以上の要人を暗殺し、航空機の爆破も最低2回行っており、残虐非道なテロリストとして名が知れている。恐ろしく悪運の強い人物で、過去の戦いで宗介の撃った銃弾を額に受けるも、過去に手術でチタンを頭に埋め込んでいたため、奇跡的に助かっている。現在はなんらかの組織の後ろ盾を受け、装備などの支援を得て、騒乱を巻き起こしている。千鳥かなめをさらうため、沖縄行きの飛行機をハイジャックし、かなめの護衛役の宗介と激闘を繰り広げる。ヴェノムタイプのASに搭乗し、ラムダ・ドライバを使いこなして戦うなど、その実力は強烈無比。同じくラムダ・ドライバを搭載するアーバレストにも当初は優位に立つが、ラムダ・ドライバを発動した宗介に撃破される。機体が爆散するような状況だったが、実は生きており、その後にベリルダオブ島で再び宗介の前に立ちふさがる。裏切者を利用してトゥアハー・デ・ダナンを乗っ取るが、かなめの奮闘によって制御を奪い返される。最後の悪あがきでトゥアハー・デ・ダナンを道連れに自爆しようとするものの、カタパルトで外に放り出され、そのまま爆発で消えていった。宗介を「カシム」と呼んで執着しており、彼に呪いともいえる言葉を残している。
クガヤマ・タクマ
色素の薄い髪をした少年。A-21に所属するテロリストの一人で、ベヘモスのパイロットとして特殊な矯正を受けているが、そのせいで情緒が不安定になっており、突然発作のように激昂したりする。姉のセイナを慕っており、彼女の意のままに動くことを生きがいとしている。実はとうの昔に正気を失っており、実姉は自分が殺しているのにも気づいていない。セイナを姉と誤認し、彼女に言われるままテロリストとして活動しているが、空港で検査を受けている際に発作が起きたのをきっかけにして囚われの身となってしまう。囚われの身となった際に、テレサ・テスタロッサと行動を共にしたため、彼女に淡い思いを抱く。しかし、そのせいで「ベヘモスの部品」として必要とされる自分と、「頼れる仲間」に囲まれたテレサを比較してしまう。そしてほかならぬセレナからもベヘモスを使うことしか期待されていないことを知り絶望。すべてを破壊するため、ベヘモスに搭乗する。
セイナ
A-21を率いる女性。茶色の髪をセミロングにセットしている。クガヤマ・タクマの姉で、彼を取り戻すべく彼が囚われている研究所を襲撃する。タクマはテレサ・テスタロッサに連れ去られるが、アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンを捕らえる。過去に父親から虐待を受けており、反撃で殺した過去を持つ。それで前科がついたが、紆余曲折の末、A-21に入り更生した。しかし、マスコミによってA-21はテロリスト扱いされ、恩師であり、A-21の創設者でもある「武知征爾」は失意の中で獄中自殺した。社会に復讐するため仲間たちを率いて破壊活動を始める。カリーニンを武知に重ねて見ており、束の間だが彼と交流を育む。実はタクマとは実の姉弟ではなく、正気を失ったタクマが自分を姉と思い込んだのを利用しているだけ。薄々武知が復讐を望まないのではないかとも考えているが、今更復讐を止める気もない。しかし、カリーニンと言葉を交わしたことに思うところはあり、最期は自らも負傷した身でありながら、沈没した船から負傷したカリーニンを助け出し、彼に看取られながら死亡した。
グェン・ビェン・ボー
ミスリルの西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」陸戦コマンドSRTに所属する男性。褐色の肌で、痩せた体型をしている。階級は伍長で、部隊内でのコールサインは「ウルズ10」。傭兵らしく戦闘を完全にビジネスと割り切った性格をしており、500万ドルの大金を払ってきた敵組織に寝返る。ガウルンが脱走した現場に現れ、ゲイル・マッカランを不意を打って殺害。ガウルンと共にトゥアハー・デ・ダナンを乗っ取るが、異常に気づいたクルツ・ウェーバーと戦闘を繰り広げる。ベトナム出身の密林における戦闘のスペシャリストで、特にコンバットナイフを使った戦闘を得意とする。クルツの弱点が格闘戦だと知っており、得意のナイフを武器に戦うことでクルツを終始圧倒する。しかし、たまたま居合わせたメリッサ・マオから、投げナイフのようにメスを急所に打ち込まれて死亡する。
ジョン・ハワード・ダニガン
ミスリルの西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」陸戦コマンドSRTに所属する男性。頭を丸刈りにし、筋骨隆々としたたくましい体格をしている。階級は軍曹で、部隊内でのコールサインは「ウルズ12」。差別意識の強い人物で、相良宗介や千鳥かなめを「チャイニーズ」と呼び、蔑視している。実は敵組織と内通しており、ガウルンが捕まった際に、見張り中に同僚を殺害して、ガウルンを解放している。その後、異常をいち早く察したゲイル・マッカランに見とがめられるが、同じく裏切っていたグェン・ビェン・ボーがマッカランを不意打ちして殺している。ガウルンと共にトゥアハー・デ・ダナンを乗っ取る犯行を企て、逃げ出したかなめを追う。かなめに対しては終始優位な立場だったが、かなめの奮闘に予想以上に手こずり、駆け付けた宗介の手で殺害される。
集団・組織
ミスリル
平和維持活動を主とする対テロ極秘傭兵組織。国家の利害という枠組みを超えた平和維持活動を目的とした武装組織で、潤沢な資金と最新鋭の装備、熟練の人材を揃え、テロリストや独裁政権に対して攻撃を行っている。またブラックテクノロジーの源泉であるウィスパードの存在も把握しており、その保護も目的としている。ミスリルは「評議会」をトップとし、その下に「作戦部」「情報部」「研究部」「人事部」の四つの部署が存在する。作戦部は四つの部隊を運用しており、相良宗介の所属する西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」もその部隊の一つとなっている。高潔な理念を持って世界平和に貢献しているが、一部のテロリストや軍人からは皮肉を込めて「正義の味方」と揶揄されることもある。
A-21 (えーにじゅういち)
テロリストグループの一つ。リーダーはセイナが務めている。彼女の指揮のもと、日本を中心に破壊活動を行っている。いずこかの組織から支援を受けており、ブラックテクノロジーを利用した兵器、ベヘモスを所有している。創設者の「武知征爾」は各地の紛争に参加した元傭兵で、A-21もかつては非行少年の更生のための福祉事業組織だった。学ばなければ生きていけない過酷な環境に青少年を放り込むことで、その更生を目的とした組織で、武知は買い取った無人島に凶悪事件を起こした連中を放り込み、サバイバル技術や戦闘技術を徹底的に教え込んでいた。しかし、その情報を嗅ぎつけたマスコミが無断に島に上陸し、勝手に備品をいじったことで七人の人間が死ぬ爆発事故が引き起こされる。元傭兵と不良少年という色眼鏡で見られたA-21は世間からテロ組織のレッテルを張られ、武知は逮捕されて失意の中、獄中自殺したとされている。同時に、訓練所も解体された。現在のA-21は武知の復讐に燃える教え子たちで構成されている。
その他キーワード
M9 (えむないん)
ミスリルの保有する最新鋭AS。現行の第二世代型AS「M6」ブッシュネルを発展させた「第三世代型AS」で、従来の機体の10年先を行くといわれるほどの高性能機。動力源は常温核融合炉の「パラジウムリアクター」で、これによって爆発的な出力と静粛性の両立に成功している。また、それに伴って油圧式の排除を行い、電気供給で動く人工筋肉「マッスル・パッケージ」を採用することによって機体の徹底的な軽量化が行われ、従来の機体とは比べ物にならない機動力、運動性を確保している。人間のようなしなやかな動きが可能で、また脚部はバッタの構造を参考にした関節構造が取り入れられるため跳躍力も高い機体となっている。油圧式を排除したことで機体容量にも空きが生まれており、電子装備やECSなど最新鋭の装備も内蔵され、さまざまな状況に対応できる最強の機体となっている。その一方で、操作難易度が高いため、その性能を十全に発揮するためには熟練の技術が必要となる。また継続作戦行動時間は150時間あるが、この部分に関しては現行の第二世代型ASの方が勝っているとされる。M9は本来アメリカ軍向けに開発されている次期主力ASで、当のアメリカ軍ですら現在は運用実験中で正式配備されていない。しかしミスリルは極秘にこれらを入手し、部隊に配備している。
アーバレスト
ミスリルの保有する最新鋭の極秘AS。M9をベースに作られた実験機で、全体的なフォルムは似通っているが、頭部部分がヘルメットのようなM9に対し、巻物をくわえた忍者のような形をしている。カラーリングは白と濃紺を基調とする。「ARX-7」の形式番号が与えられており、運用が前提のM9と違い、試験・実験を目的とした機体で、その存在は限られた者しか知らない。M9との最大の違いは「ラムダ・ドライバ」を搭載している点で、その建造にはミスリル所属のウィスパードがかかわっているとされる。しかし現在は、そのウィスパードが死亡しているのもあり、ミスリル内でもこの機体の全貌を知る者はいない。北朝鮮での戦いでクルツ・ウェーバーのM9が撃破されたことを知り、テレサ・テスタロッサはその破壊跡から敵側にラムダ・ドライバ搭載機が存在することを確信。アーバレストを対抗手段として相良宗介のもとに送り届けた。彼が初搭乗した際に、機体の管制AI「アル」が起動し、宗介を搭乗者として登録したため、宗介以外の人間には動かせなくなっている。アルの初期化、改ざんは不可能なため、北朝鮮の事件以降も実質的に宗介の専用機として運用されている。
トゥアハー・デ・ダナン
ミスリルの保有する強襲揚陸潜水艦。全長218メートルにわたる巨大潜水艦でありながら、魚雷すら追い付けない速度を誇る超高性能艦で、独自の「電磁流体制御システム」を利用することで静粛性にも優れる。動力源はパラジウムリアクターで、これによって莫大な出力と静粛性の両立を行っている。ミサイル、魚雷などで武装しているため単艦の性能が高いのはもちろん、内部にはASを含む大量の機動兵器を搭載し、その運用から運搬までこなす母艦としての側面も存在する。型式番号は「TDD-1」で、部隊内では「ダナン」の略称でも呼ばれる。超高性能AI「ダーナ」によって管制されているため、艦の規模に反して運用人数は少なくて済む。また機密区画に存在するウィスパードが、「聖母礼拝堂(レディ・チャペル)」に存在するシステム「TAROS」を利用すればたった一人での操艦も可能となる。その静粛性の高さと、存在自体の秘匿性の高さから、アメリカ海軍では幽霊潜水艦「トイボックス」と呼ばれている。
ヴェノム
ガウルンが登場する謎のAS。外見は頭頂からポニーテールのように糸状の放熱索が伸びているのが特徴。製造元から保有組織まですべてが謎のASで、第三世代型ASのM9に匹敵するという驚異的な性能を持つ。北朝鮮で初めて確認されるが、正式名称などはいっさい不明なため、ミスリルではベリルダオブ島で2機目を確認して以降、便宜上「ヴェノム」のコードネームを付けている。ラムダ・ドライバを搭載しており、不可視の攻撃と防御を行うのが特徴で、搭乗者のガウルンの技量も相まってその性能は凶悪。ただし北朝鮮で使用したヴェノムはまだ未完成で、外見は未塗装の銀色、ラムダ・ドライバも使うたびにショートする可能性もあるという代物だった。ベリルダオブ島に投入されたヴェノムは改良され、赤い塗装で、ラムダ・ドライバも安定して発動できるものとなっている。ベリルダオブ島ではたった1機でアメリカ軍のAS12機を壊滅させており、その戦闘能力の高さからミスリルでは交戦禁止を言い渡されている。
ベヘモス
クガヤマ・タクマが搭乗する謎の巨大AS。通常のASが平均8メートルなのに対して、全長40メートルに及ぶ巨大ASで、ずんぐりむっくりとした第二世代型ASに近い外見をしている。ヴェノムと同じく、製造元などの情報はいっさい不明で、A-21で呼ばれていた「ベヘモス」の呼称のみが判明している。対AS用のガンポートをコンセプトとしており、その巨体を利用したパワーと制圧能力に優れる。燃料は40時間分搭載可能で、一度起動すればそのあいだ無補給で暴れまわることができる。ただし、その巨体を維持するためにラムダ・ドライバシステムの起動が必要不可欠で、さらに稼働中は常時ラムダ・ドライバを発動させ続ける必要がある。ラムダ・ドライバの発動が停止すると自重で自壊してしまうという弱点が存在する。
AS (あーむすれいぶ)
人型の機動兵器。正式名称は「armored mobile master-slave system(主従追随式機甲システム)」で、専ら「AS」の略称で呼ばれる。操作は「セミ・マスター・スレイブ」と呼ばれるシステムで、搭乗者の動きを増幅するというシステムを採用することで、狭いコクピット内でも複雑なマニピュレーターを操作できるようにしている。現在、各国で主に使用されているのは「第二世代型AS」と呼ばれるASで、操縦性、汎用性、信頼性をいずれも高い水準で確立した機体となっている。一方で、第二世代型ASはガスタービンエンジンを主導力として採用しているため、静粛性に欠き、隠密行動に向かないという側面も存在する。社会に深く浸透しているため、疑問を持つ人間はいないが、アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンはASも本来なら存在し得るはずがない技術の塊だと考えている。
ウィスパード
世界にも数人しかいない特殊能力者。この世の誰も知り得るはずのない、存在するはずの知識「ブラックテクノロジー」を知る力があり、その力に目覚めた人間は急速に知性が発達し、天才となる。この力に覚醒した者は、精神に直接語りかけてくる「ささやき」を聞くこととなるため、「ささやく声を聞く者」という意味を込めて「ウィスパード」と呼ばれる。ASやトゥアハー・デ・ダナンなどもウィスパードのもたらしたブラックテクノロジーで作られたとされ、中にはラムダ・ドライバのように物理法則を超越した巨大な力をもたらすものも存在する。ただし、ウィスパードにも個体差があり、得られる知識の得手不得手は存在する。ささやく声が強くなれば強くなるほど、知性や発想力は高くなり、得られるブラックテクノロジーもより複雑なものとなるが、その分、強くなったささやきに精神を浸食され、精神が不安定になっていく。アーバレストの製作者のウィスパードもささやきに乗っ取られて自殺している。またウィスパード同士であれば、その意思を共有する「共振」と呼ばれる現象を引き起こすことが可能。これによってテレパシーのように言葉を介さず意思を伝え合うことができるが、使いすぎるとお互いの自我が融け合ってしまうリスクのある能力となっている。ウィスパードの存在は一般には知られていないが、一握りの人間は知っており、各国の諜報員が血眼になってその存在を追っている。
ラムダ・ドライバ
一部のASに搭載されている特殊な装置。使用者の意思に応じて斥力場を発生するという物理法則を超越した機能を持つ。これによって発生した斥力場は攻撃、防御に転用ができる。防御に使われた斥力場は至近距離でAS用の銃弾が破裂しても決定打を与えることはできないほど強力な障壁となり、現行兵器でこの障壁を突破することは難しい。また、ラムダ・ドライバの斥力場を攻撃にまとわせれば威力を底上げすることも可能で、銃弾にまとわせれば遠距離攻撃することもできる。ラムダ・ドライバの力場は同質の力であれば突破は可能であるため、基本的にラムダ・ドライバ搭載機との戦いには同じラムダ・ドライバ搭載機が必要となる。ウィスパードのブラックテクロノジーによって生み出された装置であるため謎が多く、一部の者のみがその存在を知っている。
クレジット
- 原作
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賀東 招二