プロメテウスの枷鎖

プロメテウスの枷鎖

ギリシア神話の不死の神、プロメテウスは、人間に炎を与えたことでゼウスの怒りに触れ、3万年ものあいだ、昼は生きたまま肝臓を食べられ、夜は人間たちの起こした未解決事件の真相を明かすという罰を受け続けることとなった。人間を愛するが故に人間の起こした醜悪な事件に心を痛めながらも、果敢に事件に挑むプロメテウスの姿を描いたファンタジーミステリー。「ASUKA」2019年7月号から2020年11月号にかけて掲載された作品。

正式名称
プロメテウスの枷鎖
ふりがな
ぷろめてうすのかさ
作者
ジャンル
ファンタジー
 
推理・ミステリー
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あらすじ

ジャック・ザ・リッパー連続殺人事件

ギリシア神話の不死の神、プロメテウスは、人間に炎を与えたことでゼウスの怒りに触れ、3万年ものあいだ大鷲の化身、アエトスに生きたまま肝臓を食われるという罰を受けていた。しかし夜になると、プロメテウスはゼウスと共に時間を跳躍し、人間の起こした未解決事件の真相を紐解いていく。1888年のイギリスを訪れたプロメテウスたちは、ジャック・ザ・リッパー連続殺人事件の真相を突き止めるため、娼婦たちに聞き込みを開始する。その最中、偶然出会った娼婦のリリィに、被害者について話を聞くことになった。かつては裕福で看護学校にも通っていたというリリィが知っているのは、どこでも入手できる程度の情報だったが、プロメテウスはリリィの自宅で、不可解なものを目にしていた。

マーシー・ブラウン吸血鬼事件

次にゼウスプロメテウスに提案したのは、1880年にアメリカで起こったマーシー・ブラウン吸血鬼事件の解明だった。この事件で死亡したマーシー・ブラウンと、その兄であるエドウィン・ブラウンは結核で死亡しているため、厳密には未解決事件とはいえないが、ゼウスはなぜマーシーの死後、マーシーの姿が目撃されていたのかの真相を突き止めてみろとプロメテウスにせまる。時間を跳躍し、マーシーと実際に出会った二人は、マーシーが病気療養のためにエドウィンと引き離されたことに対し、ひどく心を痛めている様子だったことに違和感を覚えていた。また、そんなマーシーたちの姿を見たプロメテウスは、かつて自分に仕えていた兄妹のことを思い出す。

ヒンターカイフェック事件

プロメテウスゼウスに連れられ、1922年のドイツを訪れていた。ケチで人付き合いも少なかったという農場主の家族と、メイドが殺害されたヒンターカイフェック事件の真相を突き止めるため、事件が起こる数日前の現場周辺を散策していた二人は、近隣の定食屋で農場主の家族に関する話を聞くことにする。しかし住人たちは、歯に衣着(きぬ)を着せたような言葉を繰り返すばかりで、要領を得ない。仕方なく外へ出た二人が出会ったのは、ヒンターカイフェック事件の被害者となる幼い少女、ツェツィーリア・ガブリエルだった。農場主であり、ツェツィーリアの祖父でもあるアンドレアス・グルーバーによって母親と共にぶたれたと涙ながらに語ったツェツィーリアは、いつか父親が帰って来て、母親や弟と共に助けてくれるはずだと話す。しかしプロメテウスたちは、その父親がすでに死亡していることに気づき、違和感を覚える。

リジー・ボーデン事件

1892年のアメリカで、銀行家のアンドリュー・ボーデンの一人娘であるリジー・ボーデンは、誰にも自分を理解してもらえない虚無感に苛まれていた。そんなリジーの自宅に、プロメテウスゼウスは偽名を使い、イギリスから来訪した投資家を装って入り込む。プロメテウスたちは未解決となっているリジー・ボーデン事件の真相を突き止めようとしていた。リジーの自宅で食事を振る舞われた二人は、ボーデン一家に漂う家族とは思えないぎこちない空気や、リジーとメイドのマギーが男性に興味のない女性であることを確認。事件の真相を紐解き始めたプロメテウスは、やはり当時疑われていたリジーが犯人のはずだと考える。そこでさらに、ではなぜリジーが無罪となり、この事件が未解決のままになっているのかに視点を切り替え、別の方向性からリジー・ボーデン事件の真相を明らかにしようとする。

ハーメルンの笛吹き男事件

絵本としても知られるハーメルンの笛吹き男事件の真相を説くために、プロメテウスたちは1284年のドイツ、ハーメルン市を訪れていた。市民戦争や派閥争いで治安の悪化が著しいハーメルン市で、プロメテウスたちはハーメルン市の実質の荘園領主である、エーベルヴァイン家の令息、ミヒャエル・エーベルヴァインと、笛吹きの楽師であるマルシュアスに出会う。プロメテウスたちは笛の音を使ってネズミを退治したマルシュアスが悪魔だと疑われて投獄・拷問されたのち、脱獄するという、伝承になかった出来事を目撃する。マルシュアスは脱獄後、再びハーメルン市で笛を吹いて市内の子供たちを連れ去っていくが、プロメテウスはその姿に違和感を覚えていた。しかし笛の音を聞いたゼウスまでが、マルシュアスと共に姿を消してしまったことに愕然とする。

登場人物・キャラクター

プロメテウス

ギリシア神話の神。暗い茶髪を後ろ一房だけ腰まで伸ばし、うなじでまとめた青年の姿をしており、不死の肉体を持っている。かつてゼウスをだまして人間を優遇した罪、そしてゼウスが人間に禁じていた炎を盗み出して与えた罪でゼウスの怒りに触れ、昼間は生きたまま大鷲の化身、アエトスに肝臓を食べられるという罰を、さらに肝臓が再生する夜中には、人間の起こした未解決事件を解くという罰を受け続けている。また、未解決事件の真相を一つ紐解くたびに刑期が100年減刑され、解けない場合は1000年刑期が増やされる。夜のあいだはゼウスによって未解決事件の現場に連れ出されるが、朝日が昇るとプロメテウス自身の影から紐のようなものが伸びて枷(かせ)と鎖に変化し、プロメテウスを拘束する。ゼウスからは「先見の明を持つ者」や「プーさん」と呼ばれており、リジー・ボーデン事件の調査の際には「アレックス・プロウライト」という偽名を使用した。

ゼウス

ギリシア神話の神。人間の姿の時は、外はねの癖のある金髪ショートカットの少年となるが、実際は髪を足首まで長く伸ばした長身の男性の姿をしている。年齢を問わずに女好きで、美少年も愛している。プロメテウスが人間に炎を与えた罰として、昼間は生きたまま大鷲の化身、アエトスに肝臓を食べられ、さらに肝臓が再生する夜中には、人間の起こした未解決事件を解くという罰を、プロメテウスに科している。人間の愚かさと非道さが生み出す事件をプロメテウスに突きつけることで、プロメテウスに人間の醜悪さと、残虐さを思い知らせようとしている。プロメテウスが未解決事件を調査する際にはつねに同行しており、リジー・ボーデン事件の際には「ジュリアス」という偽名を使用した。

アエトス

ギリシア神話の怪物。通常の姿は黒っぽい大鷲だが、プロメテウスのそばに来るとフード付きの黒いマントを身につけ、肩まで金髪を伸ばした男性の姿になる。目元にクチバシの付いた仮面をつけ、手には鋭い鉤爪(かぎづめ)の付いたグローブをはめている。人の言葉を話すこともできるが、ふだんは言葉に必要性を感じておらず、無言で過ごしている。昼間は拘束されたプロメテウスの肝臓を生きたまま抉(えぐ)って食べる役割を黙々とこなしており、陽が沈むとすぐさま物言わず去っていく。

リリィ

ウェーブがかった金髪をロングヘアにした若い女性。かつては看護学校に通えるほど裕福な暮らしをしていたが、家族を事故で亡くしてから詐欺などに遭って財産を失い、現在はお針子と娼婦の仕事をしながら貧民街で暮らしている。アルバートという恋人がいたが、アルバートがほかの女性とのあいだに子供を作って結婚したため、捨てられてしまう。それからは、あまり人付き合いを積極的に行なっていない。プロメテウスとゼウスが、ジャック・ザ・リッパー連続殺人事件についての調査を進めている際に偶然出会い、被害者についての簡単な説明と、ジャックについての噂話をプロメテウスたちに教えた。

ジャック

ジャック・ザ・リッパー連続殺人事件において犯人とされている架空の人物。娼婦ばかりを狙う殺人鬼の男性で、被害者の喉を切り裂いて殺害している。また五人の被害者のうち三人に対しては、殺害後に被害者の腹部を切開し、子宮などを持ち去っている。黒いコートを身につけ、帽子をかぶっているという噂が広まっている。

マーシー・ブラウン

赤毛のロングヘアを左側頭部だけ編み込んでいる若い女性。マーシー・ブラウン吸血鬼事件の関係者で、吸血鬼だったのではないかと噂されている。兄のエドウィン・ブラウンを非常に慕っているため、仕事終わりにはいつも彼を迎えに行く姿が目撃されていたが、周囲の人たちは仲がよすぎると訝(いぶか)しんでいた。実はエドウィンを一人の男性として見ており、好意を抱いているが、その気持ちを見透かしていた父親に引き離された。エドウィンが結核のための病気療養で遠方に行ってから元気がなくなり、どこか思い詰めたような仕草が多く見られる。また、エドウィンが結核を発症してしばらく経った頃、マーシー・ブラウン自身も結核を発症している。

ジョセフ

赤毛のショートヘアで、そばかすがある若い男性。マーシー・ブラウンに好意を寄せており、マーシーの実兄であるエドウィン・ブラウンが病気療養に出て以降、元気のなくなったマーシーを心配して、毎晩マーシーの父親の目を盗んで、マーシーを見守っている。

牧師 (ぼくし)

黒髪ショートヘアをオールバックにした若い男性。マーシー・ブラウンがよく訪れていた教会の牧師で、マーシーが実兄のエドウィン・ブラウンに恋していることを打ち明けられていた。マーシーに好意を抱いている様子が見られた。

ツェツィーリア・ガブリエル

ヴィクトリア・ガブリエルの娘。年齢は7歳。肩下までの金髪を2本の三つ編みにしている。ヒンターカイフェック事件の被害者で、犯人に襲撃されたあと数時間生きていたとされている。祖父であるアンドレアス・グルーバーの暴力的な行動をよく目にしており、ヒンターカイフェック事件の調査に訪れたプロメテウスとゼウスに出会った際に、7年前に死亡したはずの父親がいつか帰って来て、母親や弟と共に助けてくれるはずだと話していた。家族からは「ツィーリ」と呼ばれている。

ヴィクトリア・ガブリエル

ツェツィーリア・ガブリエルの母親。年齢は35歳。長い金髪をうなじでシニヨンにまとめている。ヒンターカイフェック事件の被害者で、さらに10代の頃から、実父であるアンドレアス・グルーバーによって性的暴行を受け続けていた。生前は聖歌隊のリーダーを務めており、ヒンターカイフェック事件の数日前に、教会の告解室に多額の寄付金を置いていった。

リジー・ボーデン

長い金髪を後頭部の高い位置でシニヨンにしている若い女性。父親と継母が殺害されたリジー・ボーデン事件の犯人と目されている。女性しか愛せないレズビアンで、マギーに好意を抱いている。実在の人物、リジー・ボーデンがモデル。

アンドリュー・ボーデン

金髪を七三で分け、顎ひげを蓄えた壮年男性。リジー・ボーデンの実父で、銀行家でもある。農場を含めて、いくつもの事業経営に携わっている。しかし、敵も多く吝嗇家(りんしょくか)で知られており、安いという理由から食事はつねに羊肉を使用している。なかなか結婚しないリジーを気にかけ、身分も高く財産のある男性をリジーに紹介している。

アビー・ボーデン

長い金髪を後頭部の低い位置でシニヨンにまとめた中年女性。アンドリュー・ボーデンの後妻で、リジー・ボーデンの継母にあたる。もともとは路上で物売りをするような人物だった。そのため、リジーからはアンドリューの財産に群がっているだけの人間だとされ、快く思われていない。

マギー

長い赤毛を後頭部の高い位置でシニヨンにまとめた若い女性。リジー・ボーデンの自宅でメイドとして働いている。リジーより年下だが精神的にはリジーよりも大人びており、子供のような仕草や行動を見せるリジーに優しく接しながらも、内心呆(あき)れている様子を見せる。「マギー」は愛称で、本名は「ブリジット・サリバン」。

ジョン

金髪をオールバックにして、顎ひげを蓄えた中年男性。リジー・ボーデンの実母の弟で、リジーからはアンドリュー・ボーデンの財産に群がっているだけの人間だと思われている。また、リジー・ボーデン事件の当日はアンドリューの財産名義が一部、ジョンの名義に書き換えられる予定だった。

ミヒャエル・エーベルヴァイン

ヘンリエッテの幼なじみの少年。年齢は16歳。長い金髪をうなじでまとめ、美人を好むゼウスが色目を使うほどに整った顔立ちをしている。ハーメルンの笛吹き男事件の舞台となったハーメルン市で実質的な荘園領主を務める貴族、エーベルヴァイン家の令息。誰にでも優しく接し、子供たちに字の読み書きを教えたり、貧民に食事を与えていたことで住民からは愛されていた。しかし曲がったことが大嫌いで、子供に性的虐待を加える司祭に反感を抱いている。

ヘンリエッテ

ミヒャエル・エーベルヴァインの幼なじみの少女。年齢は18歳。長い黒髪をカチューシャで留めている。ハーメルンの笛吹き男事件の舞台となったハーメルン市の、市長の娘。気の強い性格で向上心があり、納得のいかないことには誰に対しても一歩も引かない。

マルシュアス

精霊の男性。うねった黒髪をしている。派手な衣服に羽の付いた帽子、縦笛を身につけた人間の姿をしている。本来は下半身が黒ヤギで、頭部に2本の角がある半人半獣の姿をしている。かつてゼウスの息子であるアポロンに驕(おご)った態度を見せた罪で、首から下の皮膚が剝(む)かれており、体がまだら模様になっている。アポロンから受けた罰によって死んだことになっているため、人間のフリをして旅の楽師となり、ハーメルン市を訪れた。近隣の貴族でも着ていないような高価な衣服を身につけていることから、ミヒャエル・エーベルヴァインからは身分を隠した宮廷楽師ではないかと考えられている。エーベルヴァイン家からの要求でハーメルン市にあふれるネズミを退治したが、その所業が悪魔の力によるものだと教会に糾弾され、拷問を受けた。

その他キーワード

プロメテイア

プロメテウスの持つ能力。収集した情報や現在の状況、周囲の条件などをパズルのように組み立て、その先に起こるすべての可能性と、その中でもっともパーセンテージが高い可能性を予測する。そのことから、未来予知に限りなく近い未来予測と評されている。ふだんはゼウスによってプロメテイアは封印されており、ゼウスの許可なく使用することはできない。またプロメテイアを使用することができるのは一つの事件に対し、一度限りと制約が設けられている。

ジャック・ザ・リッパー連続殺人事件 (じゃっくざりっぱーれんぞくさつじんじけん)

1888年の8月末からイギリスで起こった連続殺人事件。娼婦ばかりが五人殺害された事件で、犯人はいまだ逮捕されていない。被害者は全員喉を切り裂かれて殺されており、そのうち三人は腹部を切開されて子宮などを持ち去られていた。犯人は黒いコートに帽子を身につけた男性だと噂され、「ジャック」と呼ばれている。

マーシー・ブラウン吸血鬼事件 (まーしーぶらうんきゅうけつきじけん)

1880年にアメリカで起こった事件。マーシー・ブラウンを含むブラウン一家が結核に感染して死亡した際、埋葬から3か月経っても遺体が瑞々(みずみず)しい状態で保たれていた。そのためマーシーが吸血鬼であり、家族に不幸をもたらしたのではないかと噂された。マーシーの遺体について現在は科学的な証明がされているが、プロメテウスたちはマーシーが死後、墓場を歩いていたり、同じく結核に冒され眠っている実兄のエドウィン・ブラウンの胸の上にのしかかっていたという噂に焦点を当てて調査している。

ヒンターカイフェック事件 (ひんたーかいふぇっくじけん)

1922年にドイツで起こった一家惨殺事件。ヒンターカイフェック農場において、農場主の家族とメイドが殺害された事件で、犯人はいまだ逮捕されていない。農場は集落から離れた場所にあり、一家は裕福な割にケチで人付き合いも少なかった。凶器がツルハシということや、屋根裏に何者かが滞在し、一家殺害後も寝泊まりして家畜の世話までしていたことが判明している。

リジー・ボーデン事件 (りじーぼーでんじけん)

1892年にアメリカで起こった殺人事件。銀行家のアンドリュー・ボーデンと、その後妻であるアビー・ボーデンが自宅で殺害されていた事件で、犯人はいまだ逮捕されていない。リジー・ボーデン事件が起こる数日前に青酸を購入しようとしていた次女のリジー・ボーデンが逮捕されて裁判にかけられたが、物的証拠がなかったために無罪となっている。

ハーメルンの笛吹き男事件 (はーめるんのふえふきおとこじけん)

1284年にドイツのハーメルン市で起こった集団誘拐事件。街を荒らすネズミたちを退治した笛吹き男に対し、住民たちが報酬を渡さなかったことで、130人もの子供たちが誘拐された。この時代、ドイツでは貧困の差が激しく、子供が奴隷商人に売られることも少なくなかった。さらに舞台となったハーメルン市近隣では領地を争う市民戦争が勃発しており、実質の荘園領主であるエーベルヴァイン家と、近隣のヴァルトミュラー家、さらに教会が三つ巴となった派閥争いも同時に起こっていたため、非常に治安が悪かった。

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