それでも僕らはヤってない

それでも僕らはヤってない

村山渉の代表作の一つ。充実した社会人生活を送りながら、29歳にして女性経験がない事にコンプレックスを抱く時田晃介と、彼の周囲の訳ありな女性陣。そんな仕事に打ち込むアラサー男女の、性と恋愛を描く日常系漫画。芳文社「週刊漫画TIMES」2014年12月5日号から2018年8月3日号まで連載。

正式名称
それでも僕らはヤってない
ふりがな
それでもぼくらはやってない
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
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あらすじ

第1巻

大手住宅メーカー「カドヤホーム」に勤めている29歳の時田晃介は、好きな仕事に就き、安定した収入を得ているものの、彼女がおらず、未だに女性経験がない事がコンプレックスだった。そんなある日、晃介は高校時代の同級生・藤野陶子と再会する。屈託のない笑顔で笑いかけてくる陶子を前にして、互いに淡い恋心を抱き合った当時を振り返り、彼女もまだ処女なのではないかと期待する晃介だが、陶子はバツイチで実家に戻って来たところだった。自分だけ大人になり切れていない現実を直視せざるを得なくなった晃介は、しり込みするが、上司の小林雅臣に背中を押されて、陶子を食事に誘う事に成功。処女でなくても、バツイチだとわかっても、陶子を思う気持ちは変わらないと確信した晃介は、陶子に自身が童貞である事を告白し、そのうえで交際してくれるよう願い出る。離婚を経て恋愛に臆病になっていた陶子は、晃介のひたむきさに心打たれ、二人は徐々に距離を縮めていく。

第2巻

勇気を振り絞って藤野陶子との距離を縮めようと奮闘する時田晃介だが、非喫煙者の彼女の鞄から煙草が出てきて動揺してしまう。元旦那・佐伯隆弘のために煙草を持ち歩く癖が未だに抜けない陶子は、隆弘とは趣味も合わない居心地の悪い関係だったと晃介に告白。そして陶子は、向かいのライバル会社のパート社員・八重坂紫乃が、かつて隆弘を誘惑してくれたために、彼とのぎくしゃくした結婚生活を終わらせる決意ができたと回想するのだった。紫乃は、その妖艶な見た目から勤め先の上司に無理やり体の関係を迫られたが、勇気を出して当時の上司を告発して破滅に導き、自身も企業を退職し、新たに住宅展示場の客引き係としての生き方を見つけた女性だった。不思議な縁でつながる住宅展示場に、新たな来場者が訪れる。フリーカメラマン東雲蓮介は、女好きで不特定多数の女性と関係を持つ日々を謳歌し、結婚を束縛地獄だと考えていた。結婚予定の夏目一花とは仮面夫婦になるつもりであり、余計な情が湧かないようにと夫婦別寝室を希望。しかし、一花がそれに異議を唱えたため、接客する晃介と小林雅臣は困惑する。

第3巻

東雲蓮介は大手不動産会社の御曹司だが、これまで好き放題に生きて来た事が仇となり、親族と揉め、次期社長の座を逃がしてしまう。しかし夏目一花は、落ち込む蓮介と支え合って生きていく人生を希望する。将来安泰でなくなった自分を結婚相手に選んでくれる一花を前に改心した蓮介は、一花を生涯守る事を誓い、彼女の唯一の身寄りである病床の父親に、その決意を伝えに行く。そんな蓮介と一花を見て、夫婦それぞれの絆と愛の形があるのだと改めて知った時田晃介は、かつて藤野陶子が送っていた結婚生活をも受け入れ、共に歩んでいく覚悟を新たにする。そんなある日、陶子の前にかつての結婚相手・佐伯隆弘が現れる。うだつの上がらなかった過去を払拭し、政治家秘書として成功した隆弘は、陶子に執拗に付きまとい、復縁を迫る。陶子は、威圧的な態度で迫って来る隆弘を撃退した晃介に感動し、深い信頼を寄せる。晃介への思いを抑えられなくなった陶子は、晃介をホテルへと誘う。

第4巻

藤野陶子にホテルに誘われた時田晃介は、ついに童貞を捨てる機会が訪れたと歓喜するが、子供を作りたがる陶子を前に、勇気を出せず行為に至る事ができなかった。その代わりに、より仲が深まった二人は婚約を決意。晃介は、間近に迫る結婚に胸を躍らせるが、晃介は以前、小林雅臣と行ったキャバクラで、大学生と偽って働いていた芹沢亜矢奈と、体の関係こそ持たなかったものの気持ちが完全に通じ合った経験があった。現在はキャバクラを辞め建築事務所に勤めている亜矢奈とは、仕事を通じて顔を合わせるたびに、晃介は婚約者の陶子にも、亜矢奈にも思いに応えてやれない事を申し訳なく思う気持ちになっていた。亜矢奈に親心のような、恋愛感情のような複雑な愛情を注ぐ雅臣が、二人の気まずい雰囲気を見かねて、晃介の結婚祝いという名目で居酒屋パーティーを主宰。顔を合わせた晃介と亜矢奈は互いに緊張するが、意を決した亜矢奈が晃介の唇を奪う。

第5巻

芹沢亜矢奈は、強引に時田晃介を居酒屋から連れ出し、昔自分が住んでいた一軒家に向かう。亜矢奈は、小学生の時に父親が交通事故で死亡してから、母親がその家を手放して以降、いつか自分がお金を稼いで、その家を買い戻す事を目標に生きて来た事を語る。自分は自分で目標に向かい、きちんとやっていくから大丈夫だと告げる亜矢奈に安堵する晃介だが、それと同時に、亜矢奈の気持ちの強さに惹かれる。晃介は藤野陶子と亜矢奈、二人のあいだで気持ちが揺れるのを自覚し、気持ちを整理して地に足をつけるために、陶子にいったん別れる事を提案。陶子は晃介の提案を受け入れ、二人の関係は白紙に戻る。そして晃介と別れたあと、陶子はウェブ小説の月間ランキング一位を獲得し、デビュー作「恋染めし」は出版される運びとなる。陶子の担当編集者である鈴木美佳は、偶然出会った晃介が陶子の小説のモデルと知り、言動一つで陶子の作品の完成度を左右する晃介に興味を持ち始めた。

第6巻

学生時代の報われない恋愛経験から現実の恋愛に関心を持てない鈴木美佳は、藤野陶子の作品理解のためと称し、時田晃介に付きまとうようになる。しかし、晃介の不器用ながらもまっすぐな性格を知るにつれて、晃介への恋愛感情が募り、美佳は困惑する。そして、これまで安易に愛のないセックスを重ねて来た事を後悔するのだった。一方、晃介を通じて美佳と知り合った芹沢亜矢奈は、美佳が晃介に好意を寄せている事に気づき、彼女の積極性にたじろぐ。自身が処女である事で卑屈になる亜矢奈は、自らの事を棚にあげて晃介をなじるが、婚約破棄した陶子の事を引きずり、そのうえで美佳にも自分にも煮え切らない態度を繰り返す晃介に不信感を抱くようになっていく。それぞれに複雑な感情を抱えて疲労感の漂う中、晃介達は、小林雅臣が提案した温泉旅行に、みんなで行く事になる。

第7巻

小林雅臣の提案でやって来た温泉旅行で、時田晃介は大胆にも鈴木美佳にプロポーズした。バツイチで男性を信用できず、何かと情緒不安定なところのある藤野陶子をしっかり支えてやれず、自分の都合で婚約破棄した事で意気消沈している晃介にとって、自分と同じく異性経験のない芹沢亜矢奈は荷が重すぎた。女性経験のない自分が付き合うには、うまくリードしてくれる美佳が一番だろう、と考えての告白だったが、その気持ちを美佳に見透かされて、晃介は公衆の面前でふられてしまう。一方、交際すらしていないのに、突然プロポーズして来た晃介に内心とまどっていた美佳は、学生時代に、好きな異性に告白した事をきっかけに、交際もせずに強引に体の関係を持たされた過去を思い出していた。苦い学生時代の思い出から、一度ふってしまった晃介に再告白できないでいた美佳は、陶子からの電話に気づいた晃介が、陶子を思い出し、陶子が自分の一番大事な人だという事を自覚する瞬間を目撃。陶子の小説「恋染めし」同様、未だに晃介と陶子が思い合っている事を知った美佳は、晃介をあきらめる事を決意する。

第8巻

時田晃介が未だに藤野陶子に恋しており、彼女を一番大事に思っている事を知った鈴木美佳は、晃介をあきらめ、担当編集者として陶子の作品「恋染めし」を盛り立てていく事を決意。その後、順調に「恋染めし」は売り上げを伸ばし、ついにコミカライズされる事になる。喜ぶ美佳だが、「恋染めし」の漫画版を描く事になった売れない漫画家・安堂寺捺がなにやら悩んでいる様子。主人公の相手役の男性像がイメージできないために作画がうまくいっていない事を知った美佳は、モデルとなった晃介を捺に引き合わせる。捺は、鋭い観察眼で晃介の愚直な人柄のよさを見抜き、晃介と恋愛したいと考えるようになる。学生の頃から、ひたすらに漫画家になるために描き続けて来た捺は、まったく恋愛を経験しておらず、晃介を使って、自分に足りない恋愛経験値を積もうと考えたのだ。「恋染めし」同様、未だに晃介が陶子に思いを寄せている事を知りながら、捺は晃介を自宅に連れ込む。そして捺は、睡眠薬入りのコーヒーを飲ませて眠っている晃介の服を脱がせ、無理やり体の関係を持とうとする。

第9巻

時田晃介に襲いかかった安堂寺捺は、自分が本当に好きなのは10年間寄り添ってくれた担当編集者・石渡護だという事を自覚する。護は捺が漫画家をあきらめたら恋愛できると持ちかけるが、捺は護をあきらめて一人前の漫画家を目指す道を選ぶと宣言。去っていく護の姿を見て、「恋染めし」のアンハッピーな結末同様の失恋気分を学んだ捺は、大好きな小説である「恋染めし」がハッピーエンドで終わってほしいと晃介に訴える。「恋染めし」の主人公である藤野陶子と相手役の晃介は未だに思い合っているのだから、結ばれなければおかしいと主張する捺の迫力に負けた晃介は、陶子に連絡を取る。鈴木美佳の協力も得て、晃介は陶子と捺を引き合わせる事に成功。あこがれの小説を書いた陶子を目の前にして緊張する捺だが、陶子に興味のない恋愛漫画ではなく、自分の本当に好きなものを形にするように助言を受け、漫画版「恋染めし」の作画を断る事を決めるのだった。「恋染めし」の仕事を断り、他社で作画の仕事を受ける事にした捺は、護と仕事上の接点がなくなったが、おかげで護は捺に告白し、二人は無事交際を開始する事となる。

第10巻

時田晃介藤野陶子は、高校時代の同窓会に参加する事になった。同窓生達との呑みの席で、晃介は、陶子と互いに初恋相手同士だった事を知る。そして同窓会も終盤に差しかかり、呑み過ぎた女子をお持ち帰りしようとする既婚男性を目撃した晃介だが、彼を強く諫める事ができずに落ち込む。当時、陶子にきちんと告白できていれば、もう少し頼りがいのある男になっていただろうか、と肩を落とす晃介に、晃介の倫理観は間違っていないと陶子は励ます。そして陶子は、最近小説が書けなくなってしまった事を晃介に打ち明ける。晃介との不器用な恋愛をベースに綴った「恋染めし」を執筆して以降、何も発想できなくなってしまったという陶子に、晃介は頭をひねる。高校時代に、陶子がノートに話を書いていた事を思い出した晃介は、ノートパソコンに向かうのではなく、机の上にノートを広げて作業をするのはどうかと提案。陶子は納得するものの、高校時代に手書きで話を書いていた事を知られていた事に赤面する。婚約破棄して以来、二人は久しぶりに穏やかな気持ちで笑い合う。

第11巻

時田晃介は久しぶりに藤野陶子と笑い合った事で、関係をやり直したいと悩んでいた。しかし、自分の優柔不断さで一方的に婚約破棄した過去を思い出し、晃介は陶子に再告白する一歩を踏み出せない。一方、小説家としてスランプに突入した陶子は、執筆が難航する中、母親の再婚により実家に居づらくなり、居場所を探し始めていた。未だに晃介に好意を持ち続ける芹沢亜矢奈は、自分の気持ちに素直になれずにすれ違い続ける晃介と陶子にしびれを切らし、陶子を自分の家に招き入れた。そして亜矢奈は、創作活動に没頭し始めた陶子の相手は自分では務まらないのではないかとしり込みする晃介を、叱咤激励するのだった。亜矢奈に背中を押されて、晃介と陶子は互いに真摯に向き合うようになる。高校生時代からの恋愛感情が呼び起されて、二人はついに一線を越える。童貞を卒業したら世界が変わるかと期待していた晃介だが、日常は何も変わらなかった。しかし、互いの気持ちを確かめ合った事で、晃介は陶子と安定した互いの居場所を見つけるのだった。

登場人物・キャラクター

時田 晃介 (ときた こうすけ)

大手住宅メーカー「カドヤホーム」に勤める男性。年齢は29歳。好きな仕事に就き、充実した日々を送っているが、童貞である事にコンプレックスを抱いている。高校の同級生・藤野陶子への片想いを社会人になっても引きずっており、非常に一途な一面を持つ。陶子への思い入れが強く、後ろ姿が似ているというだけで違う女性に胸をときめかせるほど。 住宅展示会を訪れた陶子と再会した際、彼女がバツイチである事を知り、衝撃を受けるものの、陶子に告白して交際する事となった。しかし、のちに体の関係こそ持たなかったものの、お互いに異性経験がないという事で親近感を持った芹沢亜矢奈と心が通じ合う。その事を申し訳なく思い、陶子との婚約を破棄する事を決意する。その後、やはり陶子への愛情が不変のものである事を再認識し、再告白の末、陶子と心も体もつながった安定した関係を築いた。

藤野 陶子 (ふじの とうこ)

時田晃介の高校の同級生の女性。年齢は29歳。バツイチで実家に戻り、年老いた母親との同居のために、家の建て替えの相談に訪れた住宅展示会場で晃介と再会した。離婚した事で人を好きになる事に消極的になっていたが、童貞である事をカミングアウトした晃介のひたむきさに触れて、晃介と交際する事を決める。しかし晃介のひたむきさは、童貞を捨てていない事から来るものであると確信しており、時が来るまで、晃介に童貞で居続けるように強要した。 高校時代は美術部と漫画研究部を兼部しており、アニメにもそれなりに造詣が深い。オタクな一面を持ち、学生時代からの趣味が高じてスマホでアダルト小説を執筆していた。ペンネームは「封字ことの」で、周りで起きたさまざまな恋愛をネタに創作する事が多い。 内容が過激である事と、晃介を相手に妄想して描いたものであるため、晃介に対して罪悪感を抱いている。別れた元旦那・佐伯隆弘が、煙草が切れると凶暴な性格になるため、別れたあとも鞄に煙草を常備する癖が抜けない。

藤野陶子の母 (ふじのとうこのはは)

藤野陶子の母親。出戻って来た陶子を温かく見守る女性。離婚して以来、男性とかかわる事に消極的な陶子を心配している。陶子がバツイチだと知っても好意を寄せてくれる時田晃介を応援し、陶子と二人きりになれるように世話を焼く。

小林 雅臣 (こばやし まさおみ)

大手住宅メーカー「カドヤホーム」に勤めている男性。妻の湯浅沙智とは死別しており、一人娘の高校生・小林理沙がいる。時田晃介の上司で、晃介が童貞である事を知っている。仕事面では非常に頼りになるが、キャバクラ好きで女性を口説いてばかりいる。女性にだらしなそうに振る舞っているが、実際は亡くなった沙智を一途に愛し続けているため、なかよくなった女性と体の関係を持つ事はない。 芹沢亜矢奈を気に入っており、彼女の勤め先のキャバクラに連日顔を出している。亜矢奈と居る事に心地よさを感じており、彼女のまじめさと建築に対する情熱を知ってからは、瀬戸内孝子への橋渡しをしたほか、彼女を支えている。のちに亜矢奈に恋愛感情を持たれるようになってからは、亡き妻への思いを大事にしながらも亜矢奈へと気持ちが傾いていく。 しかし年齢差や結婚歴を気にして、亜矢奈に近付き過ぎないように自分を律した。25歳の時に家庭教師として指導した孝子が初体験の相手。

芹沢 亜矢奈 (せりざわ あやな)

芳文大学建築学科に在籍中の女性。年齢は29歳。学費を稼ぐために、年齢をごまかしてキャバクラで働いている。小林雅臣に連れられてお店に来た時田晃介が、童貞である事を見抜き、以後興味を持って勤め先まで押しかけた。晃介に近づいたのは収入的に安定しているからで、ラブホテルに連れ込み、裸で結婚を迫るものの断られてしまう。 歯に衣着せない物言いをするが、まじめな性格で、本心では勉学に専念したいと思っている。大学は学費を納めていないため休学中。雅臣の口利きで瀬戸内孝子と知り合い、瀬戸内設計事務所でアルバイトする事になる。何かと気にかけてくれる雅臣への感謝が恋愛感情に変わってからは、亡くした愛妻への思いを断ち切れない雅臣を振り向かせるべく、仕事に邁進するようになる。 年齢差や結婚歴を気にする雅臣に一線を引かれるものの、雅臣を大事に思い続ける。幼い頃に交通事故で父親を亡くし、母子家庭で育った。母親が手放した一軒家を、いつか買い戻す事を目標に貯金している。一部の人に「アヤちゃん」と呼ばれている。

春木 透之介 (はるき とうのすけ)

瀬戸内設計事務所に勤めている男性。年齢は29歳。一級建築士の資格を持っている。瀬戸内考子の助手をしており、仕事には真摯に向き合っているが、コミュニケーションを取る事が苦手。顧客との商談はメールのやりとりで十分と思っているため、顧客とのコミュニケーションを何よりも大事にする孝子とよく衝突している。その言い争いでは、独立して事務所を辞めると発言するのが通例となっている。 しかし実際には、片想いをしている孝子の事務所を離れる気持ちはない。事務所に入社してから3年以上も孝子を一途に思い続けていたが、孝子へのあこがれが強すぎるために告白すらできない。一方で、自らの人生には恋愛やセックスは必要なく、仕事で評価される事で満たされたいと考えている節もある。 実家は温泉旅館桃幻荘を営んでいる。

瀬戸内 孝子 (せとうち こうこ)

瀬戸内設計事務所で建築デザイナーおよび代表を務める女性。講演会を頻繁に開催する売れっ子でもある。顧客と対面しながらデザインを決めていく事に何よりも重きを置いており、明朗快活でその場にいるだけで周りを明るくする事ができる。小林雅臣の紹介で出会った芹沢亜矢奈の純粋さを感じ取り、元キャバ嬢である素性を知りながらも、面接もせずにアルバイトとして採用する事を決めた。 姉御肌で、愛想のない春木透之介を叱咤しつつ、育てようとしている。透之介が童貞である事を知っており、彼が思いを寄せている事にも気づいている。雅臣の口利きで透之介を雇うようになってから、彼を弟子と称し、自分の事を「先生」と呼ばせている。雅臣とは以前、家庭教師として個別指導をしてもらった縁があり、互いに初経験の相手である。 当時の雅臣は独身で、孝子は学生だった。現在は雅臣とはよき仕事仲間で、親友でもある。童顔を気にしているため、つねに伊達眼鏡をかけている。

桐島 都 (きりしま みやこ)

時田晃介の会社のライバル会社「カイトーハウジング」に勤務している女性。年齢は29歳。ショートヘアでパンツスーツを着用し、つねに凛々しい立ち居振る舞いを崩さない。営業成績は同期の中でトップに立っている。住宅展示場で、向かいのモデルハウスで営業している晃介に一目ぼれをした。晃介が藤野陶子と話すのを見て、晃介が陶子に惹かれている事に気づいたが、自分の気持ちを伝えたいと思い、晃介に告白して玉砕した。 男性経験がなく、理想の王子様は自分よりも仕事ができて収入もよく、ハンサムでユーモアのある男性だと公言している。同郷の幼なじみである平倖人を弟分としてかわいがっていたが、酔っぱらった倖人に押し倒された際に、自分の倖人への恋愛感情を自覚した。 のちに、うだつのあがらない倖人に見切りをつけて、自分とよく似た価値観を持っている春木透之介と体の関係を持ち、妊娠して結婚した。

平 倖人 (たいら ゆきと)

絵描きを目指して上京して来た男性。年齢は28歳。桐島都とは同郷の腐れ縁で、彼女の事を「ミヤちゃん」と呼んでいる。週に一回程度、都の家にやって来て食事を作ったり風呂を借りたりしている。子供の頃から都に惹かれているが、姉御肌の都を前にして自分の気持ちを打ち明けられずにいた。上京後、キャリアウーマンとして活躍する都に告白するために、収入を安定させようと、絵を描きながらギャラリーカフェの店長として奮闘中。

八重坂 紫乃 (やえさか しの)

カイトーハウジングにパートで勤務している女性。左目の下に泣きぼくろがある。モデルハウスの前に立ち、客を呼び込むのを仕事としているが、既婚男性を誘惑して住宅展示会場の死角で、相手と身体の関係を持つ悪癖がある。既婚男性にしか興味がないのは、相手の家庭を壊す事を目的としているため。子供の頃から、妖艶な雰囲気を漂わせており、異性に性的な目で見られる事が多かった。 社会人になってからは、職場の上司に強引に関係を迫られ泣き寝入りをする日々を送っていた。しかし通勤時の満員電車の中で、まっすぐ朝陽を見つめる真木田正純に勇気をもらい、自分を犯した上司を告発する事を決意。結果、自分も失職する事になってしまうが、新しい人生を歩み始める事ができた。再就職先の住宅展示場で真木田と再会し、互いに頑張る姿を認め合っていた事を知り、真木田に心を許すようになる。

真木田 正純 (まきた まさずみ)

かつてシステムエンジニアをしていたが、現在は無職の男性。年齢は29歳。妹とその娘二人には「まさにぃ」と呼ばれ懐かれている。姪二人の影響で、アニメ「魔法少女ぷるるん」が大好きなオタク気質。「魔法少女ぷるるん」にハマったきっかけは、企業勤めをしていた時に電車の中で毎朝見かけていた八重坂紫乃がぷるるんに似ていたから。住宅展示場で紫乃と再会した際、紫乃への好意を再確認し、告白した。

美沙 (みさ)

真木田正純の妹。既婚者で、二人の女の子の母親だが、夫は出張と偽り不倫をしているため家に帰って来ない。非常に世話好きな性格で、真木田が会社を辞めて引きこもるようになってから、外に連れ出そうと躍起になっている。おしゃべりが大好きで、住宅展示場で訪れたモデルハウスで接客してくれた桐島都に、いつまでも再就職しない兄の愚痴を延々と聞いてもらう。

夏目 一花 (なつめ いちか)

カドヤホームを訪れた女性客。年齢は29歳。父親の介護をするためにアルバイトで塾講師を務めている。柔らかい物腰ながら、芯の強い性格の持ち主。余命いくばくもない父親に心配させないようにと、東雲蓮介との結婚に踏み切った。蓮介との出会いは出会い系サイトへの登録がきっかけで、結婚相談所と間違えて出会い系サイトに登録した。学生時代から父親の監視が厳しく、異性との交際経験がなかったが、一番早く会ってくれる人を条件に相手を探し、蓮介と知り合った。 父親に花嫁姿を見せて安心させる事が目的のため、蓮介からの夫婦になっても性交渉しない事、形だけの仮面夫婦になるという条件を飲んだ。

東雲 蓮介 (しののめ れんすけ)

東雲不動産の次期社長になる予定の男性。年齢は32歳。フリーカメラマンをしており、非常に女遊びが激しく、キャバクラ好き。夏目一花との結婚が決まっても、女性にだらしなく、夫婦別寝室を希望して住宅展示場を訪れた。結婚は束縛されるだけの地獄だと公言し、結婚相談所と間違えて出会い系サイトに登録した一花と知り合った際、形だけの夫婦となり性交渉をしない事を条件に、結婚する事を決めた。 東雲不動産はカドヤホームのお得意様であるため、小林雅臣も蓮介には頭があがらない。雅臣とは、よくキャバクラにいっしょに行く仲。

小林 理沙 (こばやし りさ)

小林雅臣の一人娘で、16歳の高校生。母親の湯浅沙智は物心つく前に他界しており、現在は母方の祖母の家で暮らしている。近所に住んでいる幼なじみの若槻圭吾にファーストキスを奪われ、気が動転して雅臣の勤める住宅展示場に家出して来た。クラスメイト達が恋愛や異性に興味津々である事に嫌悪感を抱いている。ボーイズラブ漫画を愛読しており、作中の登場人物が自身の恋愛の本命だと公言し、芹沢亜矢奈を困惑させた。 物怖じしない性格で、家出中に一泊した縁で亜矢奈によく懐いている。亜矢奈と時田晃介が恋仲だと勘違いし、圭吾に告白されて交際を始めてからは、仕事場の住宅展示場に押しかけて亜矢奈と晃介とダブルデートをしようと画策した。沙智の死を、体が弱いのに無理をして妊娠し、自分を出産したせいだと重く捉えている。

若槻 圭吾 (わかつき けいご)

小林理沙に恋している少年で、理沙のファーストキスを奪った。理沙が家出した事に責任を感じて、家出先まで迎えに行った。ロマンチストの熱血漢で、自転車で30分の距離の家出先までやって来て、いきなり告白して理沙とカップルになった。

佐伯 隆弘 (さえき たかひろ)

民自党所属の政治家・芳文太郎の事務所に勤めている男性。芳文太郎の秘書を務めており、藤野陶子の元夫。陶子への思いが強すぎて、威圧的な態度を取ってしまう自分を抑える事ができない不器用な一面を持つ。陶子がアダルト小説を書く事に難色を示しており、つねに執筆をやめるように口うるさく言っていたが、その事で陶子の気持ちが離れていった事には気づいていない。 陶子と離婚前はブラック企業に勤務し、収入的に不安定だった。しかし政治家秘書となってからは、自分に自信がついた事で、陶子とやり直そうと執拗につきまとう。陶子が時田晃介と交際している事を知ってもあきらめず、200万円の手切れ金で晃介に陶子をあきらめてくれるよう願い出るが、陶子との復縁は叶わなかった。

額田 (ぬかた)

カイトーハウジングに勤めている男性。桐島都の上司にあたる。楽観主義者で、利己的なところがあり美人に目がない。つねにパンツスーツの都に、色気がないと事あるごとに文句を言っている。そして口ごたえをしようものなら、嫁のもらい手がなくなるぞと暴言を吐いている。都にはセクハラ上司として認識されている。瀬戸内考子の悪口を言った際、春木透之介に殴られてからは発言を随分気にするようになった。

春木 芽衣子 (はるき めいこ)

温泉旅館桃幻荘の女将を務めている女性。春木透之介の母親で、年齢は55歳。長男である透之介が、夢である建築デザイナーになるために上京する際、勘当すると言い放ったが、最終的には気が済むまで建築の勉強をしてくるよう背中を押した。

春木 六花 (はるき りっか)

春木芽衣子の三女で、年齢は25歳。温泉旅館桃幻荘の手伝いをしている。非常にしっかりした性格で、優柔不断な性格の兄・春木透之介を呼び捨てするなど、気の強い一面がある。

春木 月花 (はるき つきか)

春木芽衣子の次女で、年齢は32歳。温泉旅館桃幻荘の手伝いをしている。非常に気の強い性格で、口は悪いが、姉弟思いである。

春木 風花 (はるき ふうか)

春木芽衣子の長女で、年齢は36歳。芽衣子と共に温泉旅館桃幻荘を切り盛りしている。立ち居振る舞いがきちんとしており、大和撫子然としている。春木透之介の姉で、透之介を完全にコントロールしている。

春木源之助 (はるき げんのすけ)

温泉旅館桃幻荘を経営している男性。妻で女将の春木芽衣子には尻に敷かれ、春木家の中では非常に影が薄い存在である。春木透之介の事は、気の強い母親や姉に囲まれ、建築デザイナーになりたいという夢を叶えようとしている事を評価している。透之介には旅館の事は考えずに、自分のやりたい事をして生きていけ、と理解を示している。

鈴木 美佳 (すずき みか)

宝永社のウェブ小説出版部で編集者をしている女性で、年齢は29歳。藤野陶子のウェブ小説を担当しており、陶子とざっくばらんに世間話ができる数少ない人物。ウェブ上に掲載されていた陶子の作品に目をつけ、デビューのきっかけを作った。前職は芸能記事を執筆する仕事をしており、芸能関係者の知人が多い。異性との交際経験はないが、セックスはただの交渉術としか考えておらず、星原邦治など、体の関係を持つだけの相手がいる。 理想の王子様がこの世には存在しない事を知ってからは、女の子向けの絵本を作る事が夢となった。ぬいぐるみであふれさせた部屋に寝ころび、陶子の描くあり得ない純愛小説に浸るのが最高の楽しみである。時田晃介に初めて会った時は、非常に凡庸な顔立ちをしていると評していたが、陶子の小説を読み込むうちに、晃介を愛おしく思うようになっていく。

星原 邦治 (ほしはら くにはる)

歌手の星原香織を妻に持つ人気俳優。世間には愛妻家のイメージを持たれているが、実際は自意識が強く、いつも自分を立ててくれないと気が済まない性格をしている。芸能記者だった鈴木美佳とは頻繁に体の関係を持つなど、セックスフレンドとして付き合っている。美佳が時田晃介に恋愛感情を抱いた事で、関係を解消した。趣味は車やバイクで、家を建てる際は、ガレージにもっとも心を砕いた設計を希望した。 しかし、自身の原点である実家の狭いガレージが頭から離れず、その頃に立ち戻りたいという思いも同時にある。そして、売れない俳優時代に励ましてくれた美佳に好意を持っている自分に気づく。

星原 香織 (ほしはら かおり)

俳優の星原邦治を夫に持つ人気歌手。邦治と共通の知人である鈴木美佳には心を許しており、よく邦治の愚痴を電話で延々と話していた。非常に華やかな性格で、家を建てる際に最も重視したのは、パーティーが開催できる広いリビングを持つ事だった。

湯浅 沙智 (ゆあさ さち)

小林雅臣の愛妻で、娘の小林理沙を産んですぐに他界した。もともと体が弱く、妊娠に耐えられる状態ではなかったが、雅臣の気持ちをつなぎとめるために妊娠する事を決意するなど、命がけで雅臣を愛していた。雅臣とは学生時代からの付き合いで、結婚後に卒業しようと話し合っていた。しかし沙智は体調が思わしくなく、入退院を繰り返したために留年。 一方、雅臣も当時勤めていた学習教材の営業職が肌に合わず退職し、家庭教師のアルバイトで食いつなぐ生活を送っていたため、収入面の不安定さから結婚を延期した。その後、25歳の時に入籍した。

石渡 護 (いしわたり まもる)

漫画編集者を務めている男性。新人編集者だった頃に漫画家志望の学生・安堂寺捺と出会い、彼女のためにアシスタント先を探したり世話を焼くようになった。捺との付き合いは、もう10年になる。捺が他社と仕事の契約をした事を契機に、捺に告白して交際する事になった。

安堂寺 捺 (あんどうじ なつ)

自称漫画家の女性で、年齢は29歳。藤野陶子の小説「恋染めし」を原作とした漫画を描く事になった。学生の頃から漫画を描き、持ち込んだ先で当時新人編集者だった石渡護の目に留り、以来、ずっと原稿を見てもらっている。うだつの上がらない自分を10年も見守り続けてくれた護には感謝しているが、尊敬する陶子に、恋愛漫画に関心がない事を見透かされてからは、本当に自分の描きたい漫画を描こうと考えるようになる。 悩んだ末、「恋染めし」の漫画作画の仕事を断り、他社に依頼されていた読み切り作に注力する事を決める。それに伴い、護の勤める出版社と契約解除したため、護と交際をスタートさせた。

その他キーワード

恋染めし (こいそめし)

「封字ことの」こと藤野陶子の初出版作品となった小説。もともと宝永社でWEB連載されており、月間ランキング一位を獲得しため書籍化された。担当編集者は鈴木美佳。物語の主人公は陶子自身で、相手役は時田晃介がモデルとなっている。登場人物の外見描写をしないのが作風で、読者が理想の男女の容姿を思い描けるのが特徴となっている。 主人公の女性と相手役の男性は、互いに惹かれ合いながらも結ばれる事はない、アンハッピーエンドで物語は完結する。

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