荒廃した世界が舞台のロボットと人間のバディアクション
本作は加藤拓弐が漫画連載の合間に息抜きで描き、SNSにアップした漫画が基になっている。加藤拓弐はもともとメカものが大好きで、巨大ロボットを主軸とする『ナイツ&マジック』のコミカライズも担当したほど、メカへの造詣が深い。その後、自分の好きなものを描き込んだ結果、本作が誕生した。SNS上でも同作は好評で、『ナイツ&マジック』の連載終了後、本作をまとめて本にしようと思い至るも、その時点で300ページを超えるボリュームだったため、正式に商業発刊することとなった。このため、本作にはSNSで掲載された分をまとめたいわゆる「無印」と呼ばれるバージョンが存在し、その後、商業連載した際には『メカニカル バディ ユニバース 1.0』のタイトルとなり、コミック版は「1巻」とナンバリングされている。なお、無印から正式版への変更点として、登場キャラクターの名前がほとんど設定されていなかったため、改めて設定し直されている。
バディを通して育まれるそれぞれの絆
本作では、赤ん坊を拾ったアンドロイドのブラウが、赤ん坊に「レイニー」と名付け、その成長を見守るストーリーが展開される。ロボットとメカの交流を荒廃した世界観と合わせて、時に温かく、時に激しく描写している。また、主人公となるのはレイニーとブラウのバディだが、それ以外にも老兵と巨大ロボット、正義の味方にあこがれる少女と放置された狙撃ユニット、人間の振りをするお嬢様ロボットとそのメイド、漫画を描き続けるロボットとその担当編集と、さまざまな人間とロボットのバディが登場し、同一の時間列でストーリーが展開される群像劇的な面白さがある。
MBU(メカニカル・バディ・ユニバース)を結成
アンドロイドのブラウとその息子のレイニーは、お嬢様アンドロイドのコーディリア・ハーシェルに雇われ、彼女の護衛をしていたが、ある日、暴走した大型ドローンに襲われ窮地に陥る。この世界では各地に過去の戦争の名残として、無人兵器が野生化して暴れ回っていた。しかしコーディリアはこれを好機としてとらえ、大型ドローンに手傷を負わせた上で放置することで、ドローンの救出にやってきた修復ユニットの破壊を目論む。そのため、人手を欲したコーディリアはさまざまな腕利きを呼び寄せ、即席チーム「MBU(メカニカル・バディ・ユニバース)」を結成する。「無印」の頃から登場したさまざまな人とロボットのバディが勢ぞろいし、チームを結成するという展開で、即席チームのMBUはその後のストーリーに深くかかわっていくことになる。
登場人物・キャラクター
ブラウ
人間の少年、レイニーの母親役を務めるアンドロイド。旧式のアンドロイドであるため、素体はかなり無骨だが、赤ん坊の頃のレイニーが怖がったため人間の女性っぽい見た目に偽装している。人間としての姿は金髪碧眼(へきがん)の美女。本来、顔のパーツは感情表現も再現できる高性能なものだが、バグのせいか機能しておらず、つねに無表情でいる。型番「M3-C227」で固有名称はなかったが、かつてバディを組んでいた男性から青空に由来する「ブラウ」の名とコートをもらい、以降はその名とコートを使い続けている。赤ん坊の頃から育てているレイニーのことを何より大事にしており、我が子の成長を何よりも願っている。一方でレイニーのためなら自分を顧みないところがあり、彼によく心配されている。現在は荒廃した世界を生き抜くため、傭兵(ようへい)業をしながらレイニーに戦い方を教えている。旧型に加えて人間体に偽装するため無理な軽量化を図っているので、よく故障するが長年戦い続けた経験は本物で、並の野盗ならば装備や機体の性能差をものともせず勝利することができる。
レイニー
人間の少年。薄い色素の髪を短く刈り込んでいる。両親は行方不明で、雨の日にブラウに拾われたため「レイニー」と名づけられた。明るく素直な性格で、現在はブラウに戦い方を教わりながら傭兵稼業で身を立てている。ブラウとの関係は良好で、「マザコン」とからかわれても気にすることなくブラウを家族の一員として大切にしている。しかし、戦闘に関しては未熟なところが多く、思春期特有の反抗期から無茶な行動をしがちで、そのたびにブラウに説教をされている。ブラウと似ているコーディリアに好意を抱いており、素直にそれを伝えた結果、彼女にツンデレな言動を取られてしまう。また、コーディリアの従者のシウとは相棒が似た者同士であるため、話がよく合う。
コーディリア・ハーシェル
ハーシェル家の令嬢。髪を長く伸ばした少女で、冷静沈着な性格ながら、言動がどこかズレた天然な一面を持つ。メイドのシウをつねに側に侍(はべ)らせている。実は本物の「コーディリア・ハーシェル」を模したアンドロイド。オリジナルのコーディリアはハーシェル家の令嬢で、超天才の科学者であったが、不治の病に冒され余命いくばくもない状態となっていた。コーディリアの名はハーシェル家が運営する企業の看板にもなっていたため、その死が大きな影響が及ぼすことを考え、オリジナルのコーディリアが自分の予備として彼女を作った。ハーシェル家は戦争以降も、「文明復興」を名目に各方面に多大な影響力を保有しており、その技術で作られた予備の「コーディリア・ハーシェル」は現存するアンドロイドとは隔絶した性能を持っている。しかし、その事実はトップシークレットとして扱われ、ふだんはあえてシウに護衛をさせ、人間として擬態している。オリジナルのコーディリアの妹からは、「姉の偽物」として憎悪され、たびたび刺客を送られている。ブラウとレイニーの親子を雇ってからはレイニーのことを気に入り、シウの恋人にしようと画策している。だが、レイニーから告白され、その言葉に右往左往している。オリジナルの「コーディリア・ハーシェル」が自らの製造データを破棄したため、その正体には自分自身ですら把握できていない謎があり、その身はオリジナルの「コーディリア・ハーシェル」の遺骸が使われている疑惑が存在する。
書誌情報
メカニカル バディ ユニバース 1.0 3巻 スクウェア・エニックス〈ヤングガンガンコミックス〉
第1巻
(2023-12-25発行、 978-4757589759)
第2巻
(2024-05-24発行、 978-4757592063)
第3巻
(2024-10-25発行、 978-4757594869)