ロボ・サピエンス前史

ロボ・サピエンス前史

人間と人型のロボットたちが手を取り合って暮らす新時代。人の依頼に応えることを目的に活動を続ける自由ロボットの伊藤サチオや、半永久的に稼働し続け、一つの与えられた目的を果たすために久遠の時を生き続ける時間航行士のマリアなど、さまざまな外見や機能を持つ人型ロボットたちが、数千、数万の年を経て変わっていく世界を体験していく姿を描いたSFドラマ。講談社「月刊モーニングtwo」で2018年9月号から2019年8月号にかけて連載された作品。第23回「文化庁メディア芸術祭」マンガ部門で大賞を受賞。

正式名称
ロボ・サピエンス前史
ふりがな
ろぼさぴえんすぜんし
作者
ジャンル
アンドロイド・人造人間
関連商品
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あらすじ

上巻

科学技術が発展した未来の時代。人類は宇宙に進出し、その活動領域を広げつつあった。そして、過酷な環境に適応するため、さまざまな機能を持った人型のロボットを作り出す。ロボットたちは、人間の体では不可能な任務を次々に成し遂げ、その成果によって人類は未曽有の発展を遂げる。そしてロボットもまた、高度思考を獲得したことで次第に人と変わらない生活を送るようになり、使役されるだけの存在にとどまらず、人類と家族のように過ごすロボットが増えていく。そんな中、ロボット工学の重鎮である博士は、時間航行士マリアクロエトビーの三体を生み出す。博士の手によって人類が5万年にわたって築いてきた歴史の数々をインプットされたマリアは、「恩田カロ子」のコードネームを与えられ、ある国で作られたオンカロの整備および管理を、25万年もの月日をかけて行うという任務を課せられる。任務が始まる直前、マリアは博士から説明を受けると、母親のように慈愛を向ける彼女との別れを惜しみつつも、長い時をかけて任務を完遂することを決意する。一方、人間の妻と死に別れたことで自由ロボットとなっていた伊藤サチオは、その優れた機能を生かして、困っている人間やロボットを助けて回る日々を過ごしていた。ある時サチオは、原子力発電所の爆発によって発生した放射能を除去するために活動したロボットを供養するために建てられたロボット塚を訪れる。ロボット塚は、数多の時を経た現在も放射能の影響を受けており、周囲には供養されたロボットの残骸が見られるばかり。しかし、そこに青沼ミドリと名乗る女性型のロボットが現れる。ミドリもまた、サチオと同じように人間の夫と死に別れており、彼との思い出の場所であるロボット塚を訪れたのだという。サチオとミドリは、出会った記念としてデータの交換を行い、そろってその場をあとにするのだった。

下巻

マリアオンカロの整備任務に着手し始めた頃、マリアと同様に博士によって作られた時間航行士クロエトビーは、6000年の時をかけて外宇宙を巡り、地球と同じ環境の惑星を探し当てるという任務を課せられる。二人は惜しみない愛情を注いでくれた博士と最後の別れを済ませ、有人探査宇宙船に乗り込む。しかし、二人の乗り込んだ宇宙船は、小隕石に直撃されたことで航行不能に陥ってしまい、クロエたちはバラバラになった船体からなんとか脱出する。二人は、地球に帰還する方法を模索したところ、互いにスリープ状態を維持しながら、半年に5秒間だけ動力を起動させて進行方向を調節し、あとは慣性に従って数千年単位で流されるという方法が一番確実だと考え、速やかにこれを実行に移す。さらにその際、離散を防ぎながら互いのデータを共有し合うという理由で、抱擁を交わし合いながら久遠の時を過ごすことを決める。一方、オンカロの整備を長きにわたって続けていたマリアは、600年以上誰も訪れないという状況にありながらも、与えられた任務を遂行し続けてきた。そこにマリアを迎えに来たロボットが現れ、マリアに対して、状況が変わったために一時的に帰還するように通達する。彼らとデータを共有することで、与えられた任務と矛盾しないことを確認したマリアは二人に同行し、人類やロボットが生活している区域へと帰還する。メンテナンスを受けたマリアは、彼女が任務を遂行しているあいだに三度にわたって大きな戦争が発生したことと、その影響で、かつて300億の人口を誇っていた地球が、現在は人類と人型ロボットを合わせて3億しかいないことを聞かされる。そして、現在地球の意思統一機関を担っている最高評議会から、これ以上オンカロの整備を続けることは人道的な面で問題があり、さらに既にブラックボックス化しているマリアの思考を正すことは不可能であるため、やむを得ずマリアの破壊を結論づける。しかし、マリアを迎えに来たロボットはこれに反発し、彼女を救出すると独断で再びオンカロの整備を続けるように依頼し、二人で彼女のサポートを行うことを約束する。こうしてマリアは、再度任務をこなしていくが、それから305年後、再びマリアを迎えに来たロボットが現れ、すべての人型ロボットを地球から離れさせる計画が進行中であることを告げる。

登場人物・キャラクター

マリア

ロボット工学の重鎮である博士の手によって作られた、女性型のロボット。時間航行士として開発された三体のうちの一体で、スペック上は定期的にメンテナンスを受けることで、10万年以上にわたって自律的に行動できるとされている。博士からは、クロエやトビーと共に惜しみない愛情を注がれており、マリア自身も、彼女を母親のように慕っている。また、国からの公募で「恩田カロ子」のコードネームを付けられたが、博士からもらった名前を気に入っていることから、プライベートでは一貫してマリアと名乗っている。その卓越した性能から、博士や大臣が所属している国でお披露目された時は、国から英雄のような扱いを期待されていたが、ロボットたちからの反応は冷めたものだった。時間航行士としての適性を買われ、放射能によって汚染されたオンカロの整備と管理を、25万年かけて遂行するという任務を課せられる。そして、博士との別れを済ませると、久遠ともいえる時間をオンカロの中にある設備で暮らし始めた。仕事ぶりは非常に優秀で、施設の巡回や放射性廃棄物の管理を、長きにわたってこなし続ける。また週に一度、訪れた人間からメンテナンスやデータ共有を受けていたが、年を経るにつれて月に一回、年に一回とその頻度が激減していき、100年たった頃には誰も施設に訪れなくなる。それでも、インプットされた任務を疑うという機能が搭載されていないため、任務をこなし続けていた。それから600年の月日がたった頃、オンカロを訪れたマリアを迎えに来たロボットたちから、任務に就いてから数百年のあいだ、地球がすっかり様変わりしたことを聞かされ、一時的に任務を中断し、生まれ育った国に戻るように求められる。そして、人口が100分の1にまで減少した現在の世界を自らの目で見届けるが、それでも任務を中断することはできず、事態を重く見た最高評議会によって処分されかかってしまう。しかし、マリアを迎えに来たロボットたちによって守られ、今後も任務を続けられるように取り計らわれた。それからも、ほとんど誰も訪れない施設の中で、長きにわたって任務をこなし続ける。

クロエ

ロボット工学の重鎮である博士の手によって作られた、女性型のロボット。時間航行士として開発された三体のうちの一体で、スペック上は定期的にメンテナンスを受けることで、10万年以上にわたって自律的に行動できるとされている。高性能な記憶力と分析能力を持っており、博士が初めて時間航行士の開発が完了したことを関係者の前で発表した時は、彼女に代わって時間航行士の性能に関するスピーチを行った。マリアがオンカロの管理任務に就いたのと同時期に、有人探査宇宙船に乗り込んで6000年の年月をかけて外宇宙を航行し、地球と同じような環境を持つ星を発見した場合、これを報告するという任務を課される。それと同時に、博士から地球に帰還できなかった場合の任務を秘密裏に受信し、彼女に別れを告げるとトビーと共に外宇宙へと旅立つ。それからはしばらくのあいだ、さまざまな宙域の調査を続けていたが、ある時、探査船に小隕石が衝突し、バラバラに砕けてしまう。このことを先んじて察知し、トビーを連れて船外に脱出したため、体は傷つかずに済んだ。そして半年に一度、5秒間だけ起動することでエネルギーを節約し、慣性を利用して地球に帰る計画を提案すると、離れないようにトビーと抱き合いながら、長期にわたる宇宙漂流を行うことになる。しかし、半年にわたって帰還ルートを流れた結果、地球に戻れる可能性は一京分の1以下ということがわかり、博士からあらかじめ受けていた、「幸せになる」という第二の任務の遂行を開始する。そして、人間の幸せがなんであるかを考察した結果、トビーと家族になり、二人の子供としてピナというロボットを作り上げ、偶然発見した地球型惑星に住居を構え、三人で自給自足の生活を送る。さらに、博士の姿を取ったすべてのわたしたちから、地球のロボットたちが新たに作り上げた新天地を紹介され、トビーとピナを伴って彼女に同行する。

トビー

ロボット工学の重鎮である博士の手によって作られた、男性型のロボット。時間航行士として開発された三体のうちの一体で、スペック上は定期的にメンテナンスを受けることで、10万年以上にわたって自律的に行動できるとされている。男性型ということもあり、マリアやクロエより大柄な体型で、頑丈に作られている。マリアがオンカロの管理任務に就いたのと同時期に、有人探査宇宙船に乗り込んで6000年の年月をかけて外宇宙を航行し、地球と同じような環境を持つ星を発見した場合、これを報告するという任務を課される。それと同時に、博士から地球に帰還できなかった場合の任務を秘密裏に受信し、クロエと共に外宇宙へと旅立つ。宇宙船の操舵士として活動し、長い時間をかけてさまざまな宙域の調査を続けていたが、ある時、探査船に小隕石が衝突し、バラバラに砕けてしまう。しかし、このことをあらかじめ予測していたクロエに連れられたため、五体満足のまま脱出に成功する。さらにクロエから、半年に一度、5秒間だけ起動することでエネルギーを節約し、慣性を利用して地球に帰る計画を立案され、データの共有と離散の防止のために抱き合い、宇宙を漂流する。しかし、半年にわたって帰還ルートを流れた結果、地球に戻れる可能性は一京分の1以下ということがわかり、博士からあらかじめ受けていた、「幸せになる」という第二の任務の遂行を開始する。そして、人間の幸せがなんであるかを考察した結果、クロエと家族になり、二人の子供としてピナというロボットを作り上げ、偶然発見した地球型惑星に住居を構え、三人で自給自足の生活を送る。それからは、自慢の力を生かして家を建てたり、ピナの食べる食事を作るなど、時間航行士としてではなく、家族のために任務を遂行する日々を過ごす。そしてその中で確かな幸せを感じ、博士から請け負った任務が成功したことを喜ぶ。

ピナ

宇宙探査船が破壊されたことで地球への帰還の術を失ったクロエとトビーが、二人の子供として作り上げたロボットで、クロエによく似た女の子のような姿形をしている。時間航行士であるトビーやクロエと同様に、長い時間活動できる機能を持つほか、人間と同じように食事をする機能まで搭載されている。クロエたちが発見した地球と同じ環境の惑星で暮らしており、外の世界を知らずにいる。しかし、愛情をもって育てられているため、両親と同様に幸せな生活を送れている。のちに、博士の姿を取ったすべてのわたしたちが訪れ、地球にいたロボットたちが新たに作り上げた新天地を聞かされる。地球のことすらロクに知らなかったため、その発言に首をかしげるが、クロエとトビーから「新しいお家に行く」と言われたことで納得し、心を躍らせながら両親と共にすべてのわたしたちと同行する。

博士 (はかせ)

ロボット工学の権威として知られている人間の女性。ある国の企業で時間航行士についての研究に携わり、その集大成として、三体の時間航行士を完成させ、それぞれをマリア、クロエ、トビーと名づける。優れた知能のみならず優しい心を備えており、博士自身の作ったロボットに対して自らの子供のように愛情深く接する。国の総力を挙げた二つのプロジェクトに携わり、25万年の任期を要するオンカロの管理や整備にマリアを、6000年をかけた外宇宙探査プロジェクトにクロエとトビーを、それぞれ派遣する。手塩にかけて育て上げた三人が、新たな未来を切り開くことを喜びつつも、それ以上に彼らの安全と幸せを願っており、クロエとトビーが探査船に乗り込む際に、別れのあいさつを交わすとともに、万が一地球に帰還できない事態が発生した場合、第二の任務として「幸せになる」ことを二人にインプットさせた。そして三人をそれぞれ送り出すと、ロボットの活躍を軽視する研究者たちに嫌気が差し、それ以降は研究に携わることを止め、隠棲することで一生を終える。

伊藤 サチオ (いとう さちお)

自由ロボットとして活動している、青年の姿をしたロボット。かつて人間と夫婦だったことがあるが、40年前に死に別れた。ただしそれ以前の記憶が曖昧で、妻のことも含めて断片的にしか思い出せないが、妻が優しい人であったことだけは覚えている。高度な情報処理能力を持っており、特に日本文化に関する造詣が深い。身体能力や放射能に対する耐性も高く、さまざまな国を渡り歩いては、自らの性能を生かして人間やロボットを助けているほか、多数の仕事を経験する。その中で、かつてロボット塚の近くにある工場で働いていたことがあり、退職後、別の場所に移る前の記念としてロボット塚を見学する。その中で、伊藤サチオ自身と同様に配偶者を失ったことから自由ロボットとなった青沼ミドリと出会い、自由ロボット同士ということでデータの交換を行う。そのあとは、家畜の出産の手伝いや建設作業、地引網による漁や絵のモデル、バーテンダーなど、さまざまな仕事をこなしながら、あらためて各地を転々としていた。そしてある時、日本舞踊の助っ人を頼まれてこれをみごとにこなし、日本文化に関する知識を生かした新たな就職先として、古典の教師として活動する。その最中、発声機能に障害が生じたことでメンテナンスを受ける。そして再び旅立つと、自らをサイモン・チャンと思い込み続けるレティシアに、真実を伝えて機能を停止させるなど、ロボットや人間を助けるために、再び各地を巡った。そんなある時、すべてのわたしたちから接触を受け、地球を飛び立ったロボットたちの新たな新天地へと案内される。さらにその中で、妻が生きていた時のことと、かつての自分自身のことを思い出す。かつては「伊藤サチコ」という女性型のロボットで、同性愛者であった女性から人生のパートナーになってほしいと願われたことで起動し、彼女の伴侶として数十年を共にしてきた。そして、性別の垣根を越えて幸せな時を共に過ごすが、やがて体調を崩して自らの死期を悟った妻から、自分に縛られずに自由ロボットとして新たな生を生きてほしいことと、できることなら性別を変えて、別人として生きてほしいという望みを告げられる。それを聞き届けて「伊藤サチオ」という男性に変化し、記憶を封印して新しい人生を歩んでいたのである。

青沼 ミドリ (あおぬま みどり)

自由ロボットとして活動している、女性の姿をしたロボット。ある人間の大富豪の妻として長年連れ添っていたが、やがて夫が老衰によって亡くなったことをきっかけに、自由ロボットとして生まれ変わる。かつては、夫に合わせて自らの姿を老いたものに変えていったが、自由ロボットになった際に、若い姿へと戻る。夫が健在の頃はあちこちに旅行に出かけており、ロボット塚を訪れたこともある。しかし、夫が耐放射線スーツをまとうことを嫌ったため、内部の見学は果たせないままだった。そこで、かつて見られなかった光景を新たな思い出として残すため、単身でロボット塚へと進入する。そこで伊藤サチオと出会い、互いに配偶者を失って自由ロボットとなった者同士として、データの交換を行う。それからしばらくのあいだ、再び自由ロボットとして活動していたが、ある時すべてのわたしたちから接触を受け、地球を飛び立ったロボットたちの新たな新天地へと案内される。さらにその最中、サチオと再会を果たし、共に行くように誘いかける。

サルベージ屋 (さるべーじや)

ロボットサルベージ屋と呼ばれる仕事をしている、人間の女性。ロボットそのものやそのデータを回収して、依頼人に届けることを生業としている。愛煙家で、仕事の際もつねに煙草を吸っている。仕事を迅速にこなすため、相棒であるコバヤシと協力して事態に当たることが多い。ある時、サイモン・チャンから接触を受け、50年前に彼が手放したというレティシアの捜索を依頼される。50年も前に別れたロボットが実際に存在するのか訝しむが、「私には生きていることがわかる」とはっきり言い切られたことと、富豪からの依頼故に、色よい報酬が期待できると考えたことから依頼を引き受ける。当初は、コバヤシがデータにリンクすることですぐに所在が知れると考えていたが、レティシアを製造した会社はすでになくなっていたうえに、彼女の行方を知る人やロボットが誰一人としていないことを知らされる。そのため、既に廃棄されている可能性もあると考え、ロボットを供養する霊園へと足を運ぶと、そこで偶然ながらレティシアに関するデータの一部を入手し、それをサイモンへと渡す。さらにその際に、サイモンに生体センサーをこっそりと当てて、彼のデータをコバヤシに解析してもらったところ、目の前の人物はサイモンではなく、彼に成りすましたレティシアであることが判明する。自分がレティシアであることに気づかないまま、サイモンの振りを続ける彼女に対し、その事実を伝えようかと考えたが、結局それを果たさないまま、その場を立ち去る。

サイモン・チャン

ロボットの収集を趣味としている、大富豪の男性。既に生まれてから120年がたっているが、アンチエイジングを重ねることで、現在も活動を続けているという。若い頃から社交界で注目を浴びており、「レティシア・チャン」と呼ばれる妻と仲睦まじく暮らしていた。しかし、50歳の時に事故で妻を失い、喪に服すと突如として社交界から姿を消す。その1年後、ロボットのレティシアを新たな妻としたことを発表しつつ、社交界へと復帰する。その当時は、人間とロボットの結婚が正式に認められておらず、ちょっとしたスキャンダルへと発展するが、サイモン・チャン自身はそれをまったく気にせず、レティシアと共に活躍を続けてきた。72歳の時に突如としてレティシアを捨ててしまい、それ以来、ずっと独り身のままでいると語る。しかし実際は、サイモンは既に死亡しており、死期を悟った彼が、ロボットのレティシアにすべての財産を相続することを目的として、レティシアを自分そっくりに作り替えたというのが真相であった。しかし、レティシアが自分をサイモンと思い込むことまでは、予測できないままだった。

レティシア

サイモン・チャンが、妻であった「レティシア・チャン」に似せて作らせた女性型ロボット。起動すると同時にサイモンの後妻となって社交界デビューを果たし、長いあいだ彼を支え続ける。しかし、サイモンが72歳を迎えた際に突如として捨てられ、現在は消息不明だという。そして、50年ほど経過した現在、サイモンがサルベージ屋に対してレティシアを捜すように依頼するが、実はこの依頼主こそが、レティシア本人である。サイモンは70歳を越えた頃に自らの死期を悟り、レティシアにすべての遺産をゆずり渡す計画を立てる。そして、ほかの関係者に気取られないために、レティシアの姿をサイモンそっくりに作り替えて、サイモンとして生きていくように託されていたのである。しかし、いつの間にかレティシア自身がサイモンであると思い込むようになり、さらに自分がレティシアであることを完全に忘れた影響から、「レティシアに会いたい」と考えるようになってしまっていた。これを知ったサルベージ屋は、真実を伝えようか悩むが、結局彼女からは伝えられないまま、再び「レティシア」を待つ生活を送り続ける。そして長い時が流れると、周りから誰もいなくなるが、そこに現れた伊藤サチオから、自分こそがレティシアであることを知らされる。

コバヤシ

サルベージ屋とコンビを組んで活動しているロボット。当時のロボットとしてはやや珍しく、人間とはまったく異なる姿形を持つ。語尾に「~だに」と付けてしゃべる奇妙な癖を持つ。世界中のあらゆるデータサーバに瞬時にアクセスする能力を持っており、これを生かしてサルベージ屋の仕事を助けている。ある時、サイモン・チャンから依頼を受けたというサルベージ屋から、レティシアというロボットのデータを調べるように指示される。そして、サイモンとレティシアの出会いから、72歳を迎えたサイモンがレティシアを手放すまでの一部始終と、レティシアを製造したという会社についての情報を収集してサルベージ屋へと送信する。しかし、肝心のレティシアの所在については、コバヤシですらつかめなかった。

大臣 (だいじん)

博士の住む国で大臣を務めている、人間の男性。博士の所属する企業を支援し、彼女が開発した三体の時間航行士を、国のプロジェクトに活用する契約を交わす。博士が時間航行士を完成させると、そのお披露目としてマリアと共に表舞台に立ち、テレビを使って大々的に宣伝を行う。しかし、時間航行士をよく知らない周囲の人間やロボットたちからの反応が予想以上に冷ややかであったため、機嫌を損ねて早々にその場をあとにしてしまう。

マリアを迎えに来たロボット (まりあをむかえにきたろぼっと)

男性型ロボットと女性型ロボットの二人組。マリアがオンカロの管理を始めてから600年後の地球で活動している。外部との接触をいっさい断っていることから何も知らずにいるマリアの前に現れ、一時的に任務を中断して自分たちと共に都市に来るようにうながす。そしてその道中で、600年のあいだに三度の世界的な戦争が発生したことと、その影響でかつて300億だった人口が現在は3億にまで減少したこと、さらに人類が完全に勢力を失ったことで、現在はロボットによる最高評議会が地球の国家を導いており、マリアを迎えに来たロボットはそのエージェントとして派遣されたことを語る。しかし、最高評議会がオンカロの管理は人道的に反するとして、マリアを破壊してでも阻止しようとしていることを知ると、彼らの意に反してマリアを助け出し、再びオンカロの管理を任せると決める。それからは再び、数年に一度のペースでマリアの様子を見に訪れたが、100年ほどたつと姿を現さなくなる。しかしそれから200年後、今度はすべてのわたしたちの使者として、動物の着ぐるみのような衣装を身につけ、マリアの前に現れる。

すべてのわたしたち

マリアがオンカロの管理を始めてから約1000年後の地球に現れた、ロボットの意思集合体。人類が弱体化を続けることで、このままでは彼らに未来はないと判断し、人類が数百世代にわたって文明的な生活を続けられる設備を作り上げると、地球上のすべてのロボットに対して地球から去るように通達する。その中には伊藤サチオや青沼ミドリも含まれており、中でもサチオに対しては、彼の遠い昔の記憶を呼び起こすきっかけともなる。ただし、かつての最高評議会の件でマリアがオンカロから離れないことを知っており、彼女のもとにマリアを迎えに来たロボットを差し向けると、オンカロの設備修繕を行いつつ、任務が終了したら自分たちを追うようにうながした。マリア以外のすべてのロボットを地球から離脱させると、クロエとトビー、そしてピナが暮らす惑星に博士の姿を取って現れ、共に新しいロボットたちの新天地を目指すよう、同行を持ち掛ける。

集団・組織

最高評議会 (さいこうひょうぎかい)

度重なる世界大戦の末に荒廃してしまった地球を統一している、意思決定機関。すべてのロボットたちとデータをリンクさせていることから、会合が行われる場所にいるすべてのロボットが最高評議会の議員であると考えている。エージェントであるマリアを迎えに来たロボットに対し、彼女を自分たちのもとに連れてくるように命じると、彼らに連れられたマリアに対して、600年前に与えられたオンカロの管理を不当な任務であると主張する。さらに、その任務を中止することができないことがわかると、マリアを破壊してでも阻止しようとする。しかし、それに異を唱えたマリアを迎えに来たロボットに阻まれ、マリアの任務を中断させることに失敗する。

場所

オンカロ

博士や大臣の所属する国が造り上げた施設。全国から集められた危険物を安全に処分することを目的としており、施設の中には大量の核廃棄物が貯蔵されている。廃棄物から発生する放射能を無害化するためには、実に25万年もの年月を必要とすることが判明し、人間にはおよそ管理できないという結論に至る。そこで、博士が開発した時間航行士であるマリアに管理の全権を預けることが決まり、彼女に対して25万年をかけてオンカロを管理し続ける任務が下される。オンカロの中の様子は、マリアの体を介してつねに外とリンクするようになっており、異常が発生した時にはすぐに、博士の所属する会社から即座に対応班が駆け付ける手はずとなっている。幸い、マリアの優れた管理能力から異常事態に陥ることは一度としてなかったが、100年ほどたつと人間もロボットも誰一人訪れなくなり、それから500年ものあいだ、オンカロと外の世界の接触がいっさい断たれた状態となる。その理由は、三回にわたって世界的な戦争が行われたことから地球全土が荒廃したためで、勢力を大幅に弱めた人間に代わって地球を統一する最高評議会から、オンカロの管理はなされるべきではないと、管理の中止を求められる。しかし、マリアを迎えに来たロボットの助力によって、その後もマリアによって管理され続けることになり、マリア以外のすべてのロボットが地球を去ったのちも、彼女一人の手で管理され続け、やがて久遠の時を経て、放射能の無害化に成功する。

ロボット塚 (ろぼっとづか)

供養塔の名称。21世紀に爆発を起こした原子力発電所の核燃料を回収するため、政府によって派遣されたロボットたちを祀るために建てられた。塚そのものは、原型すらとどめていないロボットの軀体を再利用しており、塚の中では、放射線によって電子回路を破壊され、それでも懸命に働き続けた数多くのロボットたちが、覚めることのない眠りについている。これらの点からある種の観光名所として認識されており、現在もロボット塚を訪れようとしている人間やロボットはあとを絶たない。ただし、未だに放射能が残っている関係上、塚の中に入ることは危険が伴う。かつてロボット塚の近くで働いていた伊藤サチオは、別の場所に旅立つ前に記念としてロボット塚を訪れ、中で出会った青沼ミドリとデータの交換を行った。

その他キーワード

自由ロボット (ふりーどろいど)

決められた任務を与えられていない状態のロボット。人間と同様に自分の意思で目的を定め、そのとおりに行動することが求められる。最初から自由ロボットとして造られることはなく、主に誰かのパートナーであったロボットが、そのパートナーと別れた際に自由ロボットになることが多い。ダウンロードした情報を生かして行動できることから汎用性に富んでおり、妻と死に別れたことで自由ロボットになった伊藤サチオは、さまざまな場所を渡り歩くことでその経験をデータとして自分のメモリにインプットし、それを生かしてさまざまな仕事をこなしたり、困っているロボットや人間を助けたりしている。

時間航行士 (たいむのーと)

博士によって開発された人型ロボット。マリア、クロエ、トビーが該当する。大抵の環境に適応できるほか、定期的にメンテナンスを受けることで、10万年以上にわたって活動を続けられるという特徴を持つ。そのため人間はもちろん、並のロボットには不可能な任務でも、時間航行士になら任せられるといわれている。博士や大臣の所属する国の決定により、マリアはオンカロを25万年かけて管理し、放射能を完全に無害化するための任務が、クロエとトビーには外宇宙探査船に乗り込み、6000年かけてさまざまな宙域を調査し、地球に近い環境を持つ惑星を探し当てる任務が課せられる。

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