アンドロイド技術の光と影
本作は、人の魂を機械に転送する技術の発明によって、誰でもアンドロイドを操作できるようになり、工業や医療の分野でそれらの技術が大きな成果をもたらした近未来の世界を舞台にしている。そんな世界において、次第に武装を施された戦闘に特化したアンドロイドが製造され、通称「刀」が生まれた。刀の登場によって治安は一気に悪化し、この惨状を見かねた政府は警察に「対刀犯罪課」を設立させ、刀の犯罪を刀をもって取り締まり始める。本作はアンドロイド同士の戦いを描きつつ、人間社会にとってアンドロイドの存在とは何かを問いかけている。
半人半刀の青年
「対刀犯罪課」の八班に所属する雨宮十種は、半分が刀で半分が人の稀有な存在だった。とある事情で半人半刀となった十種は、人に操作されるアンドロイドよりも自律稼働する「オートマトン」に近しい存在で、ほかに類を見ないことから、警察上層部からもその存在を危険視されている。十種は人であり続けたいと思いながらも、周囲からは「化物」扱いされることに思い悩み、彼が人と機械の狭間で揺れ動く葛藤が、本作のテーマと深くかかわっている。そして、十種は自分とよく似た境遇の少女・天羽々斬との出会いにより、その運命を加速させていくのだった。
刀をモデルにしたアンドロイド
本作に登場するアンドロイド「刀」は、実在する有名な刀や、神話や伝承に登場する刀がモデルとなっており、その名称が使われている。刀にはそれぞれ特殊能力があり、刀同士の迫力満点のバトルアクションが展開される。また、刀のデザインもそれぞれ独特で、中には刀の姿は男性だが、操縦しているのは女性という組み合わせも存在する。
登場人物・キャラクター
雨宮 十種 (まみや とぐさ)
「対刀犯罪課」の八班に所属する青年。数年前にとある実験により、人でも刀でもない「半人半刀」の存在となった。刀としての銘は「八握剣」で、それを縮めた「ヤツカ」の通称で呼ばれている。ただし、雨宮十種自身はこの名を人間扱いされていないと気に入っておらず、「ヤツカ」の名前で呼ばれると非常に不機嫌になる。現在はかなり性格が丸くなっているが、実験から保護された直後は、誰彼構わず嚙み付く凶暴性を放ち、周囲から危険視されていた。その後、八班に所属することになり、八千代芹たちとの交流を経て、現在の庶民的で生真面目な性格へと変わっていった。「雨宮十種」の名前も八班のメンバーによって考えられたもの。人でも刀でもない存在であるためにアイデンティティが揺らいでいるが、刀を凶器として使う犯罪者を倒すことに使命感を抱き、八班の仕事に真摯に取り組んでいる。また、天羽々斬と出会ってからは、自分と似た境遇の彼女を何かと気にかけている。
八千代 芹 (やちよ せり)
「対刀犯罪課」の八班に所属する女性。黒髪をショートカットにしている。面倒見のよい姉御肌タイプで、雨宮十種に対して姉のように接する。天羽々斬を保護したあとは、彼女の姉を名乗って妹のようにかわいがっている。所有する刀は「鶴丸(つるまる)」で、大柄で長髪の男性のような姿をしている。鶴丸は全身に刃のついたワイヤーを仕込んだ刀で、斬撃のみならず拘束も行える変幻自在の攻撃を得意とする。ワイヤーによる攻撃は汎用性が高いため、八班の連携の要として戦う。また酒好きであるため、オフは酒を楽しんでいるが、飲酒している際に緊急出動があった場合は著しく戦闘能力が低下する。
天 羽々斬 (あまの ははぎり)
少女の姿をした謎のオートマトン。自分で考えて行動する自律型刀「オートマトン」で、人間が遠隔操作する「アンドロイド」とも、単純な命令を遂行する「ロボット」とも違う存在。人と遜色ない存在として「父」と呼ばれる人物に生み出されたが、結局のところ「大切な作品」扱いしかされておらず、自らの存在意義に悩んでいた。その後、父の助手である刀コレクターであった友満に誘拐される。友満が刀盗難の常習犯であったため、対刀犯罪課にアジトを突き止められた際に雨宮十種たち八班に発見され、保護される。オートマトンの存在は、過去に深刻な暴走事件を起こした前例があるために危険視されており、八班は天羽々斬の人となりを確認後、彼女を守るために匿うことを決める。当初は何も知らない人間の少女そのもので、感情も薄かったが、十種たちとの生活を心から楽しみ、確固たる意思を持つようになる。父の放った追っ手に捕まり、父のもとに帰るが、自らの意思で十種たちとの生活を選択して父と決別する。境遇が似ているため、十種から何かと気遣われており、彼に対して特別な感情を抱きつつある。のちに調査の結果、開発コンセプトが「人間に限りなく近いオートマトン」であるため、武装などは一切なく、危険度も高くないと判断された。そのため、刀のメンテナンスを行う「刀匠」見習いとして、正式に八班に所属するようになる。
書誌情報
-ヒトガタナ- 全11巻 マッグガーデン〈BLADEコミックス〉
第1巻
(2009-10-10発行、 978-4861276637)
第11巻
(2020-08-07発行、 978-4800010032)