あらすじ
西暦2100年の東京。幼い頃の医療事故の影響で、電子回路に触るだけでアクセスできる特殊能力を得た女子高校生の結衣坂梓は、平穏な学園生活を送る傍らで、失踪した父親、結衣坂司を探していた。そんなある日、校内の図書館で父親の情報を求めて端末にアクセスしていた梓は、謎のテロリストが送り込んだロボットの襲撃を受ける。間一髪のところで梓をひそかに監視していた警視庁の特務警官、ワイズに救われ、一人逃がされた梓だったが、逃走中にM-66と呼ばれる、自律思考できるロボットによって追い詰められてしまう。逃げ場を失った梓は一計を案じ、冷却コイルの制御盤にアクセスし、液体窒素を浴びせてM-66の機能を停止に追い込むことに成功する。そこで梓は、自らが持つ特殊能力が「フルハーモニイ」と呼ばれており、謎のテロリストに狙われていることを知る。一連の騒動が収まり、再び平穏な学生生活を送ることになった梓のクラスに、館野マリアという少女が転校して来る。授業中、マリアが強化外骨格を装備したM-66であることに気づいた梓は、連絡を取ったワイズから、マリアの正体は警視庁がボディガードとして送り込んだ自律思考型アンドロイドで、先日倒したM-66のAIユニットを組み込んでいることを知らされる。ロボットとは到底思えないほど人間っぽく、甘えん坊な性格のマリアとなかよくなった梓は、マリアといっしょに失踪した司の手がかりを求め、廃港に隠されていた謎の研究所へと向かう。しかし、研究所周辺には先日戦ったテロリストの一団が待ち受けており、梓とマリアはまんまとトラップに引っ掛かり、大ピンチに陥ってしまう。マリアの活躍とワイズの救援で事なきを得た一行は、警視庁情報研究部のタマキの助力を得て研究所の調査を開始。近くの海底に設置され、厳重に守られたルータを捜査するため、梓とマリアは危険を承知で海中へと身を投じる。海底ルータにたどり着き、フルハーモニイによるアクセスに成功した梓とマリアは、病魔から逃れるため意識のみの存在となっていた海神財団の代表、カイザー=ミラーに遭遇する。梓は、かつて司の研究を支援していたミラーから、司が今もどこかで生存していることを聞かされるのだった。その直後、テロリストによる海上からの激しい攻撃によって、海底ルータが破壊される危機へと陥る。梓を逃して一人残ったマリアは死を覚悟するが、そこで謎の傍観者に出会い、傍観者から「要」のもとに帰って使命を果たせという命令を受けたあとにフルハーモニイから覚醒、無事に帰還を果たす。命の危機を経て互いの絆を深めた梓とマリアは、テロリストの攻撃から身を守るため、半身をサイボーグ化した刑事の須藤の指導のもと、警視庁で射撃の特訓に励んでいた。しかし、突如としてテロリストの一団が警視庁への侵攻を開始。ミサイルまで投入した巧みな攻撃で鉄壁の防御を突破し、警視庁の内部へと侵入を果たしたM-66の一群を迎撃しようとする梓とマリアだったが、逆にテロリストの一員によるイブのハッキング能力で須藤の体が支配され、窮地に陥ってしまう。イブの支配に抵抗して自らを銃で撃ち、瀕死(ひんし)の重傷を負った須藤を見たマリアは、梓を守るために最後まで戦い抜くことを決意。その後、イブのフルハーモニイで複数のM-66を結合した怪物と死闘を繰り広げたマリアは、怪物と相打ちして力尽きる。一人残された梓は、現場に現れたイブと直接対峙(たいじ)するのだった。
登場人物・キャラクター
結衣坂 梓 (ゆいさか あずさ)
女子高校生。黒髪をツインテールにした小柄な少女。明るく朗らかな性格だが、少々ドジっ子なところがある。脳神経科学の高名な博士である結衣坂司の愛娘(なまむすめ)。脳が委縮する先天性の疾患を持って生まれ、10歳まで生きることはできないとされていたが、3歳の時に司の執刀のもと、脳に医療用ナノマシンを寄生させる世界初の手術を受け、疾患を完全に克服した。その際に発生していた医療事故の影響で、触るだけで電子回路に瞬時にアクセスできるフルハーモニイという特殊能力を獲得している。ごく平凡な女子高校生として平穏な学園生活を送るかたわら、フルハーモニイを駆使して各種端末にアクセスし、失踪した司の行方を探す日々の中、ある日フルハーモニイの能力を狙う謎のテロリストによって襲撃されてしまう。秘密裏に結衣坂梓の周辺を警護していた警視庁特務課の支援を得た梓は、フルハーモニイを駆使してテロリストが送り込んだロボットのM-66を撃退。梓自身の身に重大な危険が及んでいることを知ったあとは、警視庁がボディガードとして送り込んだ自律思考型アンドロイドの館野マリアといっしょに行動するようになる。マリアと共に司の行方を探り、テロリストの攻撃に抗(あらが)う中で、マリアとは単なる守る守られるの関係を超えた友情を育んでいく。
館野 マリア (たての まりあ)
警視庁に所属する自律思考型アンドロイド。金髪ロングヘアの美少女の姿をしている。身長が低く、一見すると小学生にしか見えない。テロリストの魔手から結衣坂梓を守るため、警視庁がボディガードとして彼女のもとに派遣した。テロリストが所有していた最新の試作人型兵器であるM-66のAIユニットを組み込んでおり、人間とほとんど変わらない思考や受け答えができる。戦闘力は人間を遥(はる)かに凌駕(りょうが)しており、単独でテロリストの一団とも互角以上に戦うことが可能。AIユニットがもともと装着されていたM-66は、軍が所有していた試作品の自律人型戦車で、テロリストに盗まれたあとに梓の襲撃の現場に投入されたが、梓のフルハーモニイに触れ、AIの制御を取り戻した。そのため、命の恩人である梓には恩義を感じている。素直で人懐っこい性格をしており、梓と出会ってすぐになかよくなった。梓を守るという強い意志を持ち、彼女を守るためならどのような危険でも顧みることはない。その意気込みが行き過ぎて、梓を怒らせてしまうこともあった。
ワイズ
警視庁に所属する特務警官の男性。スーツ姿でつねにサングラスをかけ、目元を隠している。少々融通が利かないところがあるが、実直に職務をこなす有能な人物。結衣坂梓が持つフルハーモニイの能力を狙うテロリストの動向を探っており、梓をテロリストから守るため、ひそかに彼女の周辺を警護していた。テロリストが梓を襲撃したあとに自ら正体を明かし、館野マリアと共に梓のボディガードとなる。梓の友達のように振る舞うマリアに対し、お前は公安の備品であり兵器であると断言し、ボディガードとしての自覚をうながしたことがあるが、そのせいでマリアからは嫌われている。本名は「長野光二」。
結衣坂 司 (ゆいさか つかさ)
脳神経科学の権威で、高名な博士の男性。結衣坂梓の父親で、先天性の脳疾患を持って生まれた梓に対し、脳に医療用ナノマシンを寄生させる世界初の手術を施した。その際に医療事故が発生し、梓がフルハーモニイを獲得する原因を作った。幼い梓に対して「きっと僕が助ける」という言葉を残して、失踪してしまう。そのため、梓はフルハーモニイを使い、司の行方をずっと追っていた。警察による捜索は、とうの昔に打ち切られているが、司が本当は生存していることを警視庁は把握していた。失踪の理由はフルハーモニイにあるとされているが、真相は未だに不明のまま。
タマキ
警視庁情報研究部の部長を務める特務警官の女性。眼鏡をかけたスレンダーな体型をしている。結衣坂梓を狙うテロリストを追っており、自ら現場に出向いて関連する各種施設を調査している。廃港そばの海底に隠されたルータを調査する際に、部下を引き連れて現場へとやって来た。
カイザー=ミラー
廃港の研究所の近くにある海底ルータに結衣坂梓がフルハーモニイした際に出会ったAI。もともとは「鏡一」という海神財団の代表を務めていた老齢の男性だった。しかし、病魔に侵されて死を待つばかりとなったため、電磁波マッピングでカイザー=ミラー自身の意識を量子的にコピーし、衛星軌道上のAIに移植して現在の状態となった。人間だった頃に結衣坂司の研究を支援しており、「脳のデータ化と人格移転」の最初の実験台になる予定の人物でもあった。梓に対し、司が今も生きているという事実を明かしていた。
傍観者 (ぼうかんしゃ)
電子の世界を徘徊している正体不明の人物。しゃれこうべから無数の触手が飛び出たような形をした、不気味な仮面をかぶっている。「傍観者」という名前は自称で、本名と性別は不明。結衣坂梓と館野マリアが海底ルータを調査していた際、本体との接続が切れて死を覚悟したマリアの前に姿を現した。マリアに対し己の使命を果たすようにうながしたうえで彼女の意識を本体へと戻し、その命を救った。
須藤 (すどう)
警視庁に所属している刑事の男性。短髪の強面(こわもて)で、顔の左側に大きな傷跡がある。半身をサイボーグ化しており、左腕は完全に義手になっている。半分サイボーグなため、人間と自律思考型アンドロイドである館野マリアの両方の弱点をよく理解している。テロリストの襲撃からその身を守らせるため、結衣坂梓に銃器の扱い方を叩(たた)き込んでいた。のちに警視庁を襲撃したイブのハッキングを受けて全身を支配され、梓を殺害するように仕向けられるが、頑強に抵抗して須藤自身の顔を銃で撃ち抜いた。
イブ
フルハーモニイを扱うことができる戦闘員の女性。テロリストの一員で、口調は穏やかだが、冷酷非情な性格をしている。電子機器にアクセスして、対象を意のままにあやつることができる。同じ力を持つ結衣坂梓を確保するため、テロリストが警視庁を襲撃した際に、現場のリーダーとしてM-66を指揮していた。強化外骨格を装備し、館野マリアとも互角以上に戦える高い戦闘力を誇る。
その他キーワード
フルハーモニイ
あらゆる電子機器に触るだけで瞬時にアクセスし、その詳細を知ることができる特殊能力。幼い頃の医療事故により脳が医療用ナノマシンに汚染された結衣坂梓がこの能力を持っており、工事現場の構造を調べたり、図書館の端末にアクセスして父親である結衣坂司の情報を得るのに活用していた。使い方次第で社会に甚大な影影響力を及ぼせることから、梓はひそかに警視庁の特務課によって監視されていた。謎のテロリストもこの能力に着目しており、白昼に学校を襲撃して梓の身柄の確保を狙うなど、その力を手中に収めようとしている。
M-66 (えむろくじゅうろく)
強大な戦闘力を秘めた人型兵器。高い機動性を備え、思考力と判断力に優れたAIを搭載している。もともとは軍のラボで開発された兵器だがテロリストによって盗まれ、結衣坂梓を襲撃する際に利用されていた。殺人リミッターが存在しないため、対人間には絶大な力を発揮する。梓を襲ったM-66は新型の試作品であり、AIのコードが特殊で思考がより人間的になっている。それに着目した警視庁がAIユニットのみを取り出し、自律思考型アンドロイドに取り付けて梓のボディガード、館野マリアを作った。