宮城県石巻市にある不思議なカフェ
本作の舞台となる「リバーエンド・カフェ」にやってくるのは、個性豊かな人物ばかり。マスターは強面(こわもて)で口数が少ない割に偏屈な乱暴者で、客としてやってくるのは心霊商法で生計を立てている女性や、戦前戦後のブルーフィルムの保管に情熱を燃やす老人、近くの教会に隠れ住む妖精「小さいおっさん」など、一般社会と距離を置いた怪しげな客が集まってくる。しかし両親を亡くし、家にも学校にも居場所がないサキにとって、そんなカフェが心の拠り所となっていく。
無愛想なマスターとの出会い
サキは震災後の復興でみんなが一丸となって頑張っている時に、「絆という文字が嫌い」と発言したことで、学年中から酷いいじめを受けるようになる。そんな中、北上川で行われる川開きの祭に出かけたサキは、同級生たちによって「頼めばヤラせてくれる女」という噂を広められ、不良たちに追い回されてレイプされそうになるが、通りすがりのマスターに助けられる。翌日、サキは北上川の中瀬に立つ「リバーエンド・カフェ」に導かれるように辿り着き、マスターと再会する。そしてサキはカフェに通うようになり、マスターとそこで出会う人々との交流によって、心の安らぎを見出すようになる。
サキの秘められた才能
まったく救いのない生活に耐えていたサキは、叔母が失踪したのをきっかけに自暴自棄になるものの、マスターから「ブルースの女帝」と評されるベッシー・スミスのLPレコードを聞かされる。その歌声に感動したサキが曲を口ずさんだところ、マスターをはじめ周囲の人々から歌の才能を絶賛される。最初は自分の才能に自信が持てなかったサキだが、やがて歌の魅力に取り憑(ひ)かれていく。
登場人物・キャラクター
入江 サキ (いりえ さき)
けやき坂高校に通う2年生の女子。東日本大震災で両親を亡くし、叔母の家に引き取られた。中学1年生の時に、「絆という文字が嫌い」と思わず漏らしたことでSNSで学校中に拡散され、4年半ものあいだ酷いいじめを受けている。震災がトラウマとなっており、警報サイレンを聞くたびに悲鳴をあげて意識を失うほどのPTSDを患っている。そんなある日、北上川の中瀬に灯る明かりに誘われ、サキは不思議なカフェへと辿りつく。そこでマスターから半ば強引にカフェの看板づくりを手伝わされ、「リバーエンド・カフェ」に通うようになる。カフェの看板犬のコタローに懐かれており、当初はその不細工な顔に辟易としていたが、コタローの壮絶な生い立ちを知り、かわいがるようになる。チンピラと共に後見人の叔母が保険金を持ち逃げした際には自暴自棄になるが、カフェでベッシー・スミスのレコードを聞いたことで吹っ切ることができた。のちに演歌歌手の永巌寺ひろこに歌の才能を見出され、歌手を志すようになる。
マスター
「リバーエンド・カフェ」のマスターを務める男性。強面の顔に無精髭を生やし、ウェーブのかかった長髪をうなじで纏めている。毒舌家で人の話をまったく聞かないが、人助けに奔走したり常連客が悪い男にいいように扱われているのを見て激怒したりと、優しさと熱い心を併せ持つ。サキとの出会いも、サキが不良たちに絡まれていた際に助けたことがきっかけだった。マスターが淹(い)れるコーヒーは絶品で、昔からのファンも多い。信心深い一面があり、カフェには火の神である釜神様の面が柱に祀(まつり)られている。また、大量のジャズのレコードやCDが陳列され、客の求めに応じて流してくれる。出会った当初は、サキから「暴力おっさん」と呼ばれていた。
書誌情報
リバーエンド・カフェ 全9巻 双葉社〈アクションコミックス〉
第1巻
(2018-09-28発行、 978-4575852110)
第9巻
(2021-12-27発行、 978-4575856743)