あらすじ
中学時代、誰よりも熱心にソフトテニスの練習に明け暮れながらも結果が出なかった佐野一途は、高校進学を機に努力することをやめた。そして高校デビューを果たし、新しくできた友人たちとカラオケやゲームセンターで刹那的な楽しみを享受する、チャラチャラした日々を送るようになっていた。そんな一途の日課は、「歌ってみた動画」で乃木坂46の曲を歌う配信者「ふかさく」の動画を見ること。動画内で歌う彼女は心の底から楽しそうで、輝いて見えた。そんなある日、いつものようにふかさくの動画を見ていた一途は、動画が撮影された場所が、自分のよく知る神社であることに気づく。そして一途はその神社で、思いがけず動画で歌を歌っていたふかさくの少女と出会う。だが、興奮して話しかける一途に彼女は、もう一生私の動画は見なくていいと告げ、しつこくまとわりつく一途を近くの堤防に連れ出して、海へと蹴り落とすのだった。訳もわからずひどい目に遭わされた一途は彼女に反感を覚えるが、のちに知り合った同じくふかさくファンのひまりから、ふかさくがギター・ボーカル担当の少女、あおと、編曲・編集・撮影などを担当する相棒からなる二人組のユニットであることを教えられる。そして、おそらくあおは相棒に思いを寄せていたが、その思いが通じなかったのだろうという、ひまりの推測を聞かされるのだった。あおが歌を歌わなくなったのが失恋のためだと考えた一途は、彼女を慰めようと二枚目を気取り、いなくなった相棒のことなど忘れるようにと告げるが、あおは怒りに満ちた顔で一途の横っ面を張り飛ばし、彼のことを激しく拒絶。想定外の展開に動揺する一途はその後、あおは相棒の佐倉有聖にふられたわけではなく、有聖が交通事故に遭ったため死別していたことを知る。真相を知った一途は、自分のあおに対する物言いがあまりにも無神経であったことに愕然(がくぜん)とすると同時に、いつの間にかネット上から、ふかさくの動画がすべて消されていることに気づく。
作風
本作『乃木坂の詩 episode1 -きっかけ-』では、乃木坂46の楽曲が大きなテーマとなっている。作中には、登場人物たちが歌う曲として乃木坂46の楽曲が使われているほか、ナレーションや劇中挿入歌のような形でも乃木坂46の楽曲の歌詞が使われ、各エピソードタイトルも乃木坂46の楽曲タイトルと同一のものとなっている。またコミックス各巻には、乃木坂46のメンバーが一人につき1ページずつ、グラビア写真と共に自分の思い出の曲を紹介するコラム「私の好きな、乃木坂の詩」も収録されており、コミックス第1巻は齋藤飛鳥、堀未央奈、与田祐希、梅澤美波、北野日奈子、渡辺みり愛、久保史緒里、阪口珠美が担当している。
登場人物・キャラクター
佐野 一途 (さの かずと)
高校1年生の男子。友人からは「一途(いっと)」と呼ばれている。明るい色のナチュラルなショートヘアで、左耳にイヤリングを付けている。ちなみにこれは、本当は友人の真似をしてピアスを開けたかったものの、勇気が出せずにピアスのように見えるイヤリングでごまかしているというのが真相。中学時代の3年間は誰よりも熱心にソフトテニスに打ち込んできたが、結果が出なかったため何かに努力することをやめ、進学と同時に高校デビューを果たして、新しい友人とカラオケやゲームセンターに興じる日々を送っている。このような経緯から人の努力を蔑む傾向にあり、いつもいっしょにいる友人たちとはその価値観を共有している。また、自分がなく外面を気にしがちないわゆる「キョロ充」で、思い込みが激しく短慮なところがある。「歌ってみた動画」で活動する「ふかさく」のファンで、ふかさくの少女の心底楽しそうに歌うその姿に魅了され、彼女の動画を見るのが日課となっていた。ただしファンとしてはライト層で、特に深く情報収集することもなく、同じふかさくファンのひまりに会うまでは、ふかさくが二人組のユニットであることも、歌っている少女が「あお」という名前であることも知らなかった。のちにあおが歌うことをやめた理由を知り、さらに、あおに笑顔を取り戻して欲しいと自分を顧みず尽力するひまりの姿に触発され、少しずつ過去の熱い気持ちを取り戻していく。
あお
「歌ってみた動画」で活動する二人組ユニット「ふかさく」のメンバーの女性。ギター・ボーカルを担当している。金髪ストレートロングヘアの、物憂げな表情をした美少女。本名は「深見蒼生」。動画上で、心の底から楽しそうに歌うその姿は、高校デビューを果たして擦れてしまった佐野一途の心にも強い感銘を与えていた。ふかさくの相方にして思い人でもある佐倉有聖を事故で亡くしてからは当時の明るさは影をひそめ、新作動画も配信していないが、その後も有聖との思い出を懐かしむかのように、ギターを抱えてかつて動画を撮影していた神社をよく訪れている。有聖の死後は歌を歌うことはなくなり、のちに自分のファンだと公言する一途との最悪な出会いもあって、ネットに上げていた動画を全削除。だが、さまざまな事情を知って反省し、同時にあおに笑顔を取り戻してもらうためにひまりと共に尽力する一途の姿に、少しずつ前を向き始める。
ひまり
「歌ってみた動画」で活動する二人組ユニット「ふかさく」の大ファンの少女。黒髪のロングヘアをツインテールにしている。ふかさくが動画を撮影している神社が、母方の祖母の家の近くではないかと推測し、聖地巡礼に訪れた際、あおと佐野一途が話をしている場面を目撃。一途を同じふかさくファンと判断して話しかけ、知り合いになった。ふかさくの新作動画が配信されなくなったことを悲しんでおり、佐倉有聖が亡くなったのがその理由であることを知ると、なんとかあおに元気になってもらおうと行動を開始する。実は出っ歯でヌートリアに似ているからと学校で「ぬーちゃん」というあだ名を付けられ、それが嫌で返事をしなかったところいじめられるようになり、表情をなくして引きこもりになったという過去がある。そんな中、ふかさくの歌に出会って笑顔を取り戻せたことから、ふかさくは自分にとって「光」であると、感謝の念と共に神聖視している。そのため、ふかさくのためであれば、自分の身を顧みないところがある。
佐倉 有聖 (さくら ゆうせい)
「歌ってみた動画」で活動する二人組ユニット「ふかさく」のメンバーの男性。編曲・編集・撮影などを担当していた。あおの心のよりどころとなっていた存在だったが、ある日、交通事故に遭って他界。それ以来、ふかさくの新作動画が公開されることはなくなった。佐倉有聖自身も美声の持ち主で、生前はふかさくが動画を撮っていた神社で、よくあおといっしょに歌っていた。
集団・組織
ふかさく
「歌ってみた動画」で活動する二人組ユニット。「fukasaku」と表記されることもある。動画では主に乃木坂46の曲を歌っている。表に出ているのはギター・ボーカルを担当するあおのみであるため、佐野一途のように彼女個人を指して「ふかさく」だと思っているファンも少なくないが、ほかのメンバーに編曲・編集・撮影などを担当する佐倉有聖もいる。あおの美声と心から楽しそうに歌う姿にファンも多く、アップした動画の再生回数は実に1000万回超えという驚異の数字を叩き出しているが、ある時からぱったりと新作動画が公開されなくなっていた。その理由は有聖が交通事故で亡くなったためだが、ファンにはいっさい周知されていない。ちなみに動画の撮影は、一途がよく知っている神社で行われていた。
クレジット
- 企画
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秋元 康
書誌情報
乃木坂の詩 episode1 -きっかけ- 全2巻 講談社〈ヤンマガKCスペシャル〉
第1巻
(2019-11-20発行、 978-4065167793)
第2巻
(2020-04-06発行、 978-4065177280)