あらすじ
第1巻
小学生以来の幼なじみの山森啓太、高瀬柊吾、小山小太郎は、週末のカフェでコーヒーを片手にくだらない話に花を咲かせていた。女性に非常に好かれる性質のため生活には困らないが、28歳で定職に就かずにブラブラしている啓太は、時間を持て余す苦痛に嘆く。外資系企業に勤めて多忙を極める柊吾は、信用できない人間ばかりの社会に嘆き、純真無垢な小太郎は、自身の好きな業界に身を置いていたものの、薄給かつ過酷な労働環境に嘆いていた。こうして互いに不幸自慢し合う三人だったが、そこに公益法人セカイのエージェントと名乗る怪しげな美女、ナナミが現れる。そしてナナミは三人に対し、そんなに自分が不幸だと思うのならば、一番不幸なのは誰なのかを決めるゲームをしないかと持ち掛ける。ナナミは、300日後の絶望指数測定で、一番絶望度の高かった者の願いを叶える、と言う。それを胡散臭く感じた三人は、当初は取り合わなかったものの、ナナミが組織の力を示すために周囲一帯の時間を止めた事で、公益法人セカイの力を知り、ゲームの参加を承諾する。毎日絶望指数を測定しに行く、と言うナナミと別れたあと、どう不幸になろうかと模索し始めた啓太は、やがて柊吾と小太郎を幸福な状態にして、彼らの絶望指数を下げてしまえば勝てるのではないかと思い至る。それから1週間後、週末のカフェで柊吾や小太郎と落ち合った啓太は、柊吾の変化に注目する。幼少期に通り魔に母親と弟を殺され、ついで父親を実家の火事で亡くした柊吾は他人を信用しておらず、啓太と小太郎以外に心を開くのを、啓太は見た事がなかった。その柊吾が、なんとナナミにコーヒーをごちそうしたのである。二人を恋愛関係に持ち込めば、柊吾は幸せになり、自分のライバルではなくなると確信した啓太は、柊吾とナナミをくっつけようと計画を立てはじめる。
第2巻
山森啓太は、ナナミとくっつける事で高瀬柊吾を幸せにしようと目論んでいたが、その思惑を柊吾に気づかれ、警戒されてしまう。そこで啓太は話題を変え、小山小太郎に、弁当屋で働くあこがれの女性、除村文香をデートに誘うよう促す。女性心理に詳しい啓太の助言で、小太郎は俄然やる気になるが、彼の絶望指数を下げる布石を打つ事に成功した啓太は、自身が勝者に近づいた事に笑いが止まらない。そんな中、啓太はカフェからの帰り道に、公益法人セカイのエージェント、ヨシヒトと出会う。啓太は、ゲーム終了後は、参加者全員のゲームに関する記憶が消える事を彼から知らされるのだった。一方、啓太に背中を押された小太郎は、文香と連絡先を交換する事に成功。デートの約束もし、順調に恋を育んでいく。仕事の関係で上司のホームパーティーに出席する事になった柊吾は、参加のためのパートナーとしてナナミを呼び出し、彼女とかかわりを持つうちに心を許していく。ナナミも柊吾の優しさに触れ、二人は距離を縮めていった。アイスを餌に、ヨシヒトを呼び出した啓太は、自身がゲームの勝者になるためのプランを考えたと言い、ナナミに動向を知られたくないのでうまい方法を教えてくれるよう頼む。啓太の悪だくみを楽しそうに見守るヨシヒトは、ナナミに居場所を特定されないよう、妨害電波を発生させる雨を降らせる能力を啓太に授ける。こうして、幼なじみ達との慣れ合いを破壊しようとする啓太は着々と準備を進めていくが、心中ではその計画に気が進まない事を明示するかのように、啓太の絶望指数はどんどん上がっていくのだった。
第3巻
小山小太郎は、除村文香との初デートの帰り道で、正式に付き合ってほしいと告白する。かつての職場でセクハラを受けて以来、男性不信がぬぐえない文香は、小太郎の素朴で優しい人柄に惹かれていたものの即答できず、少し考えさせてほしいと答えを保留する。後日、気の置けない女友達に小太郎との事を相談した文香は、自分の気持ちがはっきりと小太郎に向いている事を意識し、次回のデートで正式に付き合う事を了承しようと決意するのだった。そんな中、小太郎は次回のデートプランを練りながら、文香に選んでもらえる男になろうと仕事をがんばるようになり、結果的に小太郎の絶望指数は急激に下がる事となった。一方、ヨシヒトのサポートでナナミに悟られずに行動する能力を身につけた山森啓太は、不審な行動に出る。妨害電波を発生させる雨を降らせてナナミの目をごまかした啓太は、奥手だが、まじめで好感の持てる青年然とした姿で文香の前に現われ、彼女の警戒心を解いて、カフェに誘う。カフェで語らい、さらに文香との距離を縮めた啓太は、文香に交際を申し込むが、誠実な小太郎を裏切る事はできないと考えた文香に断られる事となる。だが、文香が自分に惹かれ始めている事を敏感に察知した啓太は、その場はあっさりと引き下がる事で彼女の関心を引き、結果、その唇を奪う事に成功する。
登場人物・キャラクター
山森 啓太 (やまもり けいた)
無職の男性で、年齢は28歳。遊び人のように振る舞っているが、酒はまったく飲めない。週末に、小学生以来の幼なじみである高瀬柊吾と小山小太郎とカフェに集まり、だらだら話すのを一番の至福の時間と感じている。非常に整った容姿で、口達者。仲間内では「アッシュ」という愛称で呼ばれているが、これは中学1年生の時に校則を破って染めた髪色がアッシュカラーだった事に由来する。 中学生の頃は、女子のほとんどに好かれていた自覚があるが、その輝いた状態を一生持続しなければならないとプレッシャーを感じていた。大学卒業後に、そこそこ名の知れた電機メーカーに就職したが、研修期間中に自分の居場所はここではないのではないかと感じ、退職。それ以来、何か職に就いても短期間でやめてしまう状態が続いている。 この事から、自らを「無職の吟遊詩人」であると評している。一番長く続いたのはカフェの店員で、半年間勤めたが、その時に覚えた女子受けするパンケーキなどのおしゃれメニューを作ってご機嫌を取る事で、商社勤めでバリバリ働いている姉に日常的に小遣いをもらっている。ほかに、美顔器の販売員をしている母親の実演用モデルをする事でも小遣いを稼いでいるが、時間を持て余す日々には焦りを感じている。 一方で、安易に職に就きたくないという葛藤も抱えている。初対面のナナミを口説こうとするほどの女好きであり、また女心にも詳しい。
高瀬 柊吾 (たかせ しゅうご)
外資系企業に勤めている男性で、年齢は28歳。頭脳明晰で、髪色は黒く、眼鏡をかけている。酒はまったく飲めない。週末に、小学生以来の幼なじみである山森啓太と小山小太郎とカフェに集まり、だらだら話すのを一番の至福の時間と感じている。金を多く稼ぐ事で身を守れると信じていたが、金を持つと却って敵が増え、他人を信用できなくなる事を知り、社会に絶望している。 家族も恋人もいない自分を不幸だと嘆いているが、それは口先だけで、実際は他人に触れられるのが苦手な潔癖症であり、一人で読書をしながら優雅にコーヒーを飲む時間に幸福を感じる性質である。6歳の時に母親と弟を通り魔に殺され、10歳の時に父親を実家の火事で亡くした。実家が全焼した件に関しては、当時、蒸発した叔父の多額の借金を肩代わりしていた父親が借金を苦に家に火を放ったのか、誰かに放火されたのか、真実を知りたいと思っている。 父親の死後に自分を引き取ってくれた祖母を世界で一番信頼しており、彼女が他界したあとも、世界で一番かつ唯一の味方であると思っている。その祖母が亡くなった22歳の時、悲しみに呑まれる前に家と土地を売り払い、その金でニューヨークに渡り、MBAを取得して現在の安定した生活を得た。 肉親を次々になくした事から、自分は不幸慣れしていると分析し、ナナミの持ち掛けたゲームには、自身の絶望しにくい性格は不利になると感じている。そのため、自宅のエスプレッソマシンを好きなだけ利用する事を条件にナナミと取り引きし、啓太と小太郎の絶望指数を毎日教えてもらう事で状況を分析し、そのデータをもとにゲームに勝利しようと画策する。
小山 小太郎 (こやま こたろう)
小規模なアニメ制作会社で動画マンを務める男性で、年齢は28歳。素朴な顔立ちの青年で、身長は160センチ。低身長である事を気にしていた小山小太郎のため、山森啓太達が「小太郎」から「小」をとり、「たろちゃん」と呼び始めた事から今の愛称が定着した。酒はまったく飲めず、実家の母親が作るメンチカツが大好物。週末に小学生以来の幼なじみである山森啓太と高瀬柊吾とカフェに集まり、だらだら話すのを一番の至福の時間と感じている。 絵がうまく、映画やアニメが好きだったために動画マンの仕事を選んだが、つねに人手の足りない過酷な現場に心が折れそうになっている。だが、自身が退職しようとするたびに誰かが先に退職し、そのせいでより過酷になる現場を鑑み、退職に踏み切れずに入社して3年が経過した。 いつも昼食を買いに行く弁当屋の除村文香の笑顔に癒されており、彼女と恋人同士になる事を望んでいる。だが、ナナミに、不幸になるには大事なものを失くせばいいと助言されて以来、恋人同士になったあとに文香を失えばゲームに勝てるのではないか、と考え始めるようになる。啓太と柊吾と共にゲームで絶望度を競ってはいるものの、二人には小山小太郎の純粋で人の好いところを高く評価されており、小太郎だけは不幸になってほしくないと心から願われている。
ナナミ
公益法人セカイでエージェントとして働く女性。コードナンバーは「773号」。対象者を選び、その人物が不幸になる様を見届ける事を任務としている。コーヒーが好きで、人懐こい性格の持ち主。その任務内容から、怪しげな宗教団体と間違われる事があり、そんな事態を防ぐため、名刺にはキラキラに装飾したプリクラを貼っている。現在進めている事業に反映させるために、人間の不幸について実例データを収集する目的で、山森啓太や高瀬柊吾、小山小太郎の三人に近づいた。 「光あれ!」と発しながら右手を振りかざす事で、時間を止めるなどの超常的な能力を使う事ができる。
ヨシヒト
公益法人セカイでエージェントとして働く男性。コードナンバーは「441号」。現在は、別の時代で誰が一番不幸になるか競わせるゲームを担当している。アイスが好きで、ナナミと違い、非常にクールな物言いをする。しかし大好きなアイスにつられ、ほかのエージェント受け持ちのゲーム参加者である山森啓太と接触し、ゲームの根幹にかかわる多大な情報を流すなど調子のいいところがある。 啓太達のゲームの成り行きを面白おかしく観察しており、その後も啓太と接触しては、悪知恵を与えてそそのかしている。
除村 文香 (よけむら ふみか)
叔父夫婦の経営する弁当屋「みつば」で働く女性で、年齢は25歳。「みつば」に勤めて2年になる。常連客である小山小太郎に思いを寄せられている事に薄々勘づいており、山森啓太に背中を押された小太郎に連絡先を渡された時は、顔に出さないまでも非常に喜んでいた。以前就職していた会社でセクハラを受けて以来、男性が苦手になったが、自分を性的な目で見ない、素朴で優しそうな小太郎に魅力を感じている。
小山 小雪 (こやま こゆき)
小山小太郎の妹で、身長160センチ。田辺という男性と婚約しており、彼に紹介しにくいという理由もあり、冗談のような薄給の仕事を続ける小太郎にきつく当たっている。だが、除村文香との初デートで行く場所に悩んでいた小太郎に、近所のおしゃれなカレー屋を提案し、土日は予約が取りづらいから気を付けるようにと助言するなど、兄思いの一面もある。
集団・組織
公益法人セカイ (こうえきほうじんせかい)
時間を止めるなど、超常的な現象を起こす力を持つ組織。ナナミやヨシヒトが所属している。現在進めている事業に反映させるために、世界各地にエージェントを派遣し、人間の不幸についてデータを収集している。その方法は、複数の対象者に詳細を伝えたうえで、300日間後の24時をもって、最終的な絶望指数を測定するというもの。 その報酬として、一番絶望指数の高かった対象者の願いを何でも叶えると豪語している。ただし、魔法のように無から有を生み出すような事はできず、厳密には組織の力で世の中の流れを対象者の願いに沿った方向に導いていくというもので、例えば魔女になりたいと言ったら美魔女になってしまうなど、思いがけない結果を招く恐れがある。エージェントはゲームに参加していない人間からは見えず、また、ゲームが終了すると参加者達の記憶からゲームに参加した記憶は消える。 そのためゲームの勝者は、身に覚えがないまま自身の望みが叶う道を進む事になる。
その他キーワード
絶望指数 (ぜつぼうしすう)
対象者がどの程度絶望感を抱いているのかを数値化したもの。絶望指数を英語に直した「DespairQuotient」を略して「dq」と称される事もある。公益法人セカイから派遣されたエージェントが、対象者に触れる事で測定する事が可能で、数値が高いほど絶望度が高い事を意味する。対象者の絶望度を計る、客観的かつ公正な測定基準であり、ゲーム中は1日に1回、エージェントが対象者の絶望指数を測定する決まりになっている。