あらすじ
故郷の岡山からバスに乗って一条聖也と村上は、ついにあこがれの東京へとたどり着いた。岡山とは比較にならない人の多さに困惑しながらも、二人は駅前の不動産屋で即断即決した六畳一間のボロアパートに即日入居する。そこで一条は村上に、少しでも家賃や光熱費を抑えて貯金することが最優先だと説き、半年で貯金を貯めて、ハイエンドのマンションへ引っ越すと宣言するのだった。こうして希望に満ちた二人の上京生活が始まるが、9か月後になっても、同じボロアパートのこたつでくつろぎながら、スマホでだらだらとゲームをする二人の姿があった。そんな二人は、「お年玉フェスガチャ」に金額をいくら使うかや、ゲームパーティの編成やキャラクターの話ばかりしていた。そんな中、お得なガチャについて力説していた一条は、上京して9か月が過ぎても何も成し遂げていないことに、今更ながら気づく。ゲームに膨大な時間と金をむしり取られていたことを後悔し、一条は深く落ち込みながらも、ゲームアプリを削除することを決意。一方、今の状況の中で一条には何を言っても無駄だと知っている村上は、洗い物などの家事を始める。それからほどなく、村上は大家にもらった餅を使った創作料理を作って一条に差し出す。一通り食べ終わり、村上の料理で元気をもらった一条は、村上と連れ立って初詣に向かうのだった。(エピソード「来歴」)
ある日、一条は唐突に村上の垢抜けなさが気になってしまう。一条自身は上京した当時に比べ、服装が垢抜けてきているのに対し、村上にはまったく変化が見られない。一条はモテるためというよりも、成功につながる運命的な人との出会いが、見た目の第一印象のせいでなくなっているかもしれないことを危惧していた。そこで、一条は村上をコーディネートするために、表参道ヒルズへと誘う。しかし、今の村上の服装では表参道を歩くことすらできないと考えた一条は、村上のファッションレベルに合わせて、まずは池袋を経由する作戦を取る。一条は村上を無難にコーディネートしたついでに自らも伊達眼鏡を購入。村上の高校時代から使っているショルダーバッグも肩紐の長さを調節し、たすき掛けにすることで家を出た時より垢抜けて見えるようになる。こうして表参道の雰囲気にも耐えうるであろう水準までレベルを上げたと自信を得た二人は、ついにあこがれの表参道の地に立つ。村上はおしゃれな人ばかりの街並みにうろたえるが、一条は手近なカフェでソイラテをテイクアウトする。カバンの中に飲み物を持っていた村上は遠慮するが、一条に一喝されてソイラテを手に表参道を散策する。すると、カフェラテでなくソイラテを持つことで「こなれ感」が増し、二人は街になじんだという自信を持つ。調子に乗った二人は一気に本日のゴールである表参道ヒルズへ向かう。しかし、その圧倒的なおしゃれ感を醸し出すさまは、まさに「魔城」と表現するに値する佇まいであった。緊張感に包まれる田舎者二人は意を決して魔城「表参道ヒルズ」に足を踏み入れる。(エピソード「表参」)
『賭博破戒録カイジ』での一条聖也
本作『上京生活録イチジョウ』は、福本伸行の『賭博破戒録カイジ』のスピンオフ作品。『賭博破戒録カイジ』は、自らの借金を労働で返済するために、帝愛グループの地下労働施設に強制収容された伊藤開司が、自身と仲間の解放のためにチンチロリンやパチンコで勝負するさまを描いたギャンブル作品。本作の主人公である一条聖也は作中で帝愛の裏カジノの店長として登場する。
登場人物・キャラクター
一条 聖也 (いちじょう せいや) 主人公
高校卒業後、すぐに岡山から東京にやって来た青年。上京当時の年齢は18歳。黒の長髪と端正な顔立ちで、一条聖也自身が勉強家であることから「インテリ美形」と評されることがある。のちに帝愛グループの裏カジノで... 関連ページ:一条 聖也
村上 (むらかみ)
一条聖也と共に上京してきた青年。つねに一条を立てた言動で、「っス」という若者言葉を使う。成功を夢見る一条とは対照的に高校を中退し、なんとなく一条について東京にやって来た。板橋区大山のボロアパートに一条と同居し、アルバイトで生計を立てている。のちに帝愛の裏カジノで主任を務め、一条の右腕として働くことになる。大柄でがっしりした体格ながら服装がダサく、愛用のショルダーバッグは高校時代から使っている。物語途中で突然髪の毛を赤色に染めるが、赤毛になった村上は謎の自信を持つようになり、表参道ヒルズで服を買ったりサイファーのバトルにも参加したりするなど、チャレンジスピリットにあふれるようになる。しかし、ふだんは優しく純朴な性格をしている。知り合いからもらったハムスターを「モモ太」と名づけてかわいがっている。一条と共にいつも金欠状態で、よく貧乏料理を作っているが、栄養や彩りを考えてピーマンよりも高額なパプリカを買って一条に咎められることがある。洗い物は主に村上が担当している。努力することや勉強は得意ではなく、向上心もないために一条が引っ張っていかないと、どんどん現状に流されがち。村上自身の中では他人を「好き」「嫌い」「どちらでもない」という認識で区別しており、絡みづらい一条とは反対に非常にフレンドリーで人付き合いがいい。
美沢 (みさわ)
一条聖也がアルバイトしているファミレスで、調理を担当している青年。茶髪短髪で、一条よりも年上。大阪出身で大阪弁をかたくなに直そうとせず、遅刻の常習犯でもある。遅刻の言い訳でオチをつけようとして一条にツッコミを強要したことで、一条の逆鱗に触れて嫌われている。一条だけでなく、ほかのアルバイト仲間にも会話にオチを要求し、みんなの口数が減ったことで、一条から強く注意されて非難された。それからはおとなしくなり、一条との関係も良好となる。他人に自らの軽いノリを強要する割に精神的に打たれ弱く、注意を受けたあとに送ったラインは反省と謝罪の言葉が満載の長文だった。
三好 (みよし)
一条聖也と村上が、現在のアルバイトが決まる前の短期のアルバイトで知り合った一条らと同世代の青年。時折、一条と村上のアパートに遊びにやって来るが、約束の時間に寝坊して遅れたり、Tシャツを裏表で着ていたりと、垢抜けない印象の人物。親からの少ない仕送りをいつもパチスロで溶かしてはヘラヘラしているような典型的なダメ男である。しかし、のちに一条が店長を務める帝愛の裏カジノで勝負することになる 伊藤開司の仲間になる。一条から思いっきり見下されており、他人をランク付けする悪癖がある一条の中では最下層に位置付けられている。ゲーム実況のYouTuberになろうとしているが、機材を購入しなければならないことを理由に行動に移さず、一条からは「三好の夢や目標は飾り」と評されている。これまで三回もアルバイトを無断で辞めた過去があり、世間的な評価も「クズ」である。自転車で転けて足を挫いた一条に、自分の飲み物をあげたりと優しい一面もあるが、三好自身も他人をランク付けする癖があり、三好の中では一条、村上、三好は僅差でほぼ同ランクと認識している。
クレジット
ベース
賭博黙示録カイジ (とばくもくしろくかいじ)
福本伸行の代表作で、のちにシリーズ化される「カイジ」シリーズ1作目。カイジこと伊藤開司は、友人の保証人になったことで多額の借金を抱え、返済のために様々なギャンブルに挑んで行く。講談社「ヤングマガジン」... 関連ページ:賭博黙示録カイジ
関連
賭博破戒録カイジ (とばくはかいろくかいじ)
『賭博黙示録カイジ』の続編で「カイジ」シリーズ2作目。カイジこと伊藤開司は、スターサイドホテルの勝負で兵藤に敗れ、さらに借金を1,000万円に増やすことになり、再びギャンブルの世界へ身を落として行く。... 関連ページ:賭博破戒録カイジ
書誌情報
上京生活録イチジョウ 6巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(2021-07-20発行、 978-4065237793)
第2巻
(2021-09-22発行、 978-4065245767)
第3巻
(2022-03-04発行、 978-4065266892)
第4巻
(2022-05-23発行、 978-4065278611)
第5巻
(2022-10-06発行、 978-4065291481)
第6巻
(2023-03-06発行、 978-4065310243)