あらすじ
第1巻
大財閥の九条グループが、街に食の一大テーマパークを造るという噂が駆け巡る中、九条グループの御曹司である九条流が、飯田春馬らの通う高校に転入してきた。流は、自らが日々口にする美食の数々の味は認めながらも、それらに心躍るものを感じられず、庶民の食生活を視察するために一般の高校へやって来たのだ。そんな彼の異様な存在に違和感を覚えながら、その日の学校生活を終えた春馬は、帰宅途中、買い食いのためにコンビニに立ち寄る。だが、春馬のお目当てのホットスナック「やみつき!チキン(やみチキ)」は売り切れで、意気消沈する。コンビニ視察中だった流に何事かと声を掛けられた春馬は、同じくやみチキを求めて現れた佐藤ゆずると共に、やみチキの魅力をとうとうと語って聞かせる。あまたの男子高校生をそれほどまでに魅了するやみチキなるものに興味を覚えた流は、彼らと共に、やみチキを求めてコンビニのハシゴを開始する。(1食目「コンビニで買えるチキン」。ほか、7エピソード収録)
第2巻
ある日の放課後、周囲に必要以上に「忙しいアピール」をしながら、飯田春馬が帰宅した。春馬が忙しいことなど珍しいと素直な感想を口にする九条流を見て、佐藤ゆずるはちょっとしたイタズラを思いつく。「面白いものを見せてあげる」というゆずるに連れられて流が訪れたのは、「正美軒」という中華料理屋だった。そこで流は、出前帰りの春馬に遭遇する。「正美軒」は春馬の実家で、彼はカゼを引いてしまった母親に代わり、家業の手伝いをしていたのである。そんな状況をひとしきり茶化されたあと、春馬は流とゆずるを店に招き入れる。そこでゆずるお薦めのチャーハンを口にした流はその味に愕然とするが、彼がシェフを呼ぶ前に、春馬は自慢のチャーハンについてうんちくを語り始める。話を聞きながらチャーハンを食べていた流は、珍しく料理を完食したあとにシェフを呼ぶように求める。(12食目「愛情いっぱいチャーハン」。ほか、9エピソード収録)
登場人物・キャラクター
九条 流 (くじょう ながれ)
飯田春馬らの通う高校に転入してきた男子。大財閥の九条グループの御曹司で、街に食の一大テーマパークを造るにあたり、その下調べのために庶民の生活を体験しにやって来た。淡いグレーの髪を肩にかかるほどまで伸ばしたイケメンだが、感情をいっさい表に出すことなくつねに無表情。また口調も冷静で、どこか上から目線の物言いをする。ほかの生徒と同様に制服を着ているが、そでを通さずマントのように肩に羽織っている。いかなる時も身の回りの世話をする黒子をそばに侍らせ、移動は彼らによる人力車で行う。授業中は教科書を開くこともなくただ腕組みをして座っているだけだが、幼い頃からの英才教育で高校レベルの学習課程はすでに修めており、テストの成績は非常にいい。また、なんでもそつなくこなし、動揺する姿を見せることもない。その浮いた言動から、当初は春馬をはじめとするクラスメートたちに警戒されていたものの、九条流自身は特に気にすることもなく、視察と称して彼らと行動を共にするうちに友人として受け入れられるようになる。もともとハイクラスな生活をしていたが意外に思考は柔軟で、春馬たちが楽しんでいる男子高校生ならではの「安くてうまい食」についても偏見なく受け入れ、冷静にその価値を見いだしていく。また、立ち食いそばや牛丼は誰よりも豪快にかっ込んで早食いするなど、庶民的な食文化におけるマナーの違いも尊重し、すんなり受け入れる器の大きさを持つ。おいしいものを一口食べると、その料理を作ったシェフをすぐに呼びつけ、感想を伝えたがる癖がある。これは、幼い頃に兄の九条涼におにぎりを作ってもらった思い出に起因している。学校ではクラブ活動が必須のため、春馬らと同じ映画研究会に所属する。
飯田 春馬 (いいだ はるま)
九条流のクラスメートの男子高校生で、佐藤ゆずると仲がいい。少々テンションが高いお調子者だが、基本的には無芸大食を地で行く、ごくごくふつうの少年。典型的な庶民ということもあり、視察と称して何かと流につきまとわれるようになる。流と付き合うようになってからもぶれずにそれまでの庶民的な生活を貫き、それが結果的に流に新鮮な驚きを与え続けている。なお、飯田春馬自身は流の特異な生い立ちを極力気にせずに、あくまで友人として付き合おうと意識しているが、流の世間知らずなところは心配している。学校では映画研究会に所属しており、その活動内容は基本的に兄から拝借してきたAVの鑑賞となっている。実家は中華料理屋「正美軒」を経営しており、ごくまれに家業を手伝うこともある。ただし、春馬自身は料理はできない。
佐藤 ゆずる (さとう ゆずる)
九条流のクラスメートの男子高校生で、飯田春馬と仲がいい。ふんわりした茶髪にかわいらしい顔立ちのいわゆる「意識高い系」で、かわいいものやおしゃれなもの、流行りものが好き。また、何かあるとすぐにスマホで写真を撮りたがる。基本的にはいつもにこやかだが、時折さらっととんでもない毒舌を吐くことがある。学校では映画研究会に所属しており、その活動内容は基本的に春馬が兄から拝借してきたAVの鑑賞となっている。「りか」という、はかなげでかわいらしい妹がいる。
荒井 千歳 (あらい ちとせ)
九条流のクラスメートの男子高校生。一匹狼のヤンキー気質で目つきが鋭く、太めのヘアバンドで髪をまとめている。ぶっきらぼうで他者に対して威圧的なところがあるため、当初は飯田春馬に恐れられていた。だが実際は心優しく他人の気持ちを思いやれる、面倒見のいい器の大きい人物。学校ではクラブ活動が必須ということもあり、途中から映画研究会に所属し、以後は学校行事において、流や春馬らとよく行動を共にするようになる。シングルマザーの母親に兄一人、妹二人、弟三人という大家族で、弁当作りをはじめとして家族の食事を一手に担っている。そのために料理上手で、その腕は流に直々に九条グループにスカウトされたほど。また手先も器用で、ソーセージを使ってタコはもちろん、ロケットや犬、花などの形を作ることもできる。子供の扱いも非常にうまい。
塩崎 (しおざき)
九条流に秘書として仕える青年。流に心から忠誠を誓っており、彼に危害を加える者には容赦しない。秘書としての能力は非常に高いが、怒りっぽいうえにケンカっ早く、流以外の相手に対してはちょっとしたことですぐに切れてつっかかりがち。流の兄の九条涼とは、彼が九条の家にいた頃から親しい友人関係にあり、当時から少々口が悪い。
飯田 咲 (いいだ さき)
飯田春馬の姉。ロングヘアの美人だが非常にノリが軽く、誰に対してもフランクでなれなれしい。幼い頃から弟の春馬を完全に尻にしいており、彼に対しては特に傍若無人に振る舞う。春馬にとって天敵ともいえる存在。ちなみに春馬より毎日ヒマにしているが、家業の手伝いはいっさいしない。
飯田 正美 (いいだ まさみ)
飯田春馬の父親で、中華料理屋「正美軒」を経営している。店ではシェフを務めており、その確かな腕で常連客を連日うならせている。かなりの怪力の持ち主で、感激するとまるで少女漫画の登場人物のように目を輝かせて相手を抱きしめ、勢いで絞め落としてしまうことがある。春馬のことを褒めてくれた九条流に喜びのあまり抱き着いた際には、流に顔色一つ変えずに受け止められたものの、その流にすら「次は遠慮したい」と警戒されたほど。
九条 涼 (くじょう りょう)
九条流の兄。つねににこやかな笑みを浮かべた中性的な青年で、性格も口調も非常に穏やか。大財閥の九条グループの後継ぎとして将来を嘱望されていたが、シェフになりたいという夢を叶えるため、家族の反対を押し切って、流が幼い頃に九条の家を出た。この決断には、当時の流の「シェフを呼べ」という言葉が大きな影響を与えている。のちにシェフとして大成し、雑誌に特集記事が組まれるほどになる。九条の家を出る前は、塩崎とは腹を割った付き合いの友人同士だった。
清水 (しみず)
荒井千歳がバイトをしているスーパーの別支店で、新たな店長となった若い女性。たまたま客として店を訪れた荒井が試食の爪楊枝をくわえていたところ、煙草を吸っていると勘違いして言いがかりをつけたことで彼と知り合う。その後、ヘルプとして荒井が自分の店を手伝いに来ることになったが、これまで不まじめな高校生アルバイトに手を焼かされてきたこと、さらに初対面時に荒井ともめたことで、敵意を持って彼の働きぶりを監視していた。だが、荒井の勤務態度が非常にまじめで客受けもよかったことから、自分の態度を反省し、素直に詫びた。この時の荒井のぶっきらぼうながら包容力のある応対から、彼に思いを寄せるようになる。
高橋 (たかはし)
九条流が初めて庶民の食に触れることになったコンビニの男性アルバイト店員。その際、流にホットスナックの「やみつき!チキン(やみチキ)」を販売したことから、彼には「チキンのシェフ」として認識されている。店で売っている商品の知識は深く、やみチキの一件以降、足しげく通うようになった流から商品に関するさまざまな質問を受けるようになる。流には優秀な店員として非常に気に入られており、自身の「担当店員」として指名されているが、そのせいでほかの業務が滞ることがあり、コンビニの店長には苦々しく思われている。