UTOPIA 最後の世界大戦

UTOPIA 最後の世界大戦

藤子不二雄にとって、初の単行本となった作品。発表当時は足塚不二雄名義になっている。当時の子供向け作品としてはやや難解な内容であったが、手塚治虫の紹介で単行本化された。その経緯については藤子不二雄Ⓐの『まんが道』に詳しい。現存する初版の単行本はわずか数冊と言われ、古本市場で非常に高額となることでも有名。それによって他の作品に本作が登場することもあり、『エスパー魔美』では作中の漫画コレクターが所有していたほか、藤子不二雄作品以外でも『ビブリア古書堂の事件手帖』で重要なアイテムとして本作が登場するエピソードが存在する。

正式名称
UTOPIA 最後の世界大戦
ふりがな
ゆーとぴあ さいごのせかいたいせん
作者
作者
ジャンル
その他SF・ファンタジー
レーベル
小学館クリエイティブ
関連商品
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概要・あらすじ

20XX年、第三次世界大戦の最中に使用された氷素爆弾によって、地球は氷漬けとなってしまう。「戦争反対罪」で投獄され、人体実験のためにシェルターに入れられた父とその息子だけが皮肉にも生き残る。そして次に少年が目覚めたときには100年が経過し、父は動かなくなっていた。救出された少年が見たのは、再び文明を取り戻し、高度に機械化されたユートピアのような世界であった。

しかしロボットが人間に取って代わりはじめ、ついにはロボットが自らの考えで人類と戦争を始めてしまう。

登場人物・キャラクター

少年 (しょうねん)

20XX年に使用された氷素爆弾によって世界が氷漬けになってから100年後の世界で、ただひとり生きて発見された旧世代の少年。作中に名前は登場しない。100年後の世界の発展ぶりを目の当たりにし、はじめはユートピアのように感じるが、秘密警察に拉致され、「役に立たない人間は処分されてロボットに取って代わられる」という世界のあり方を知ると、それに疑問を感じるようになる。 そして反政府組織である「人類連盟」と行動を共にするが、ロボットが人類に対して反乱を起こしたために、この世界でも戦争に巻き込まれることになる。

少年の父親 (しょうねんのちちおや)

主人公の少年の父親。20XX年の第三次世界大戦下において、「戦争反対罪」によってA国の死刑囚となっている。そしてS連邦の氷素爆弾に耐えうる装置をテストする危険な人体実験の被験体に選ばれる。その際に面会に来た息子も装置に飛び込んでしまうのだが、実験は成功し、同時に投下された氷素爆弾によって外の世界は滅亡。 100年後の世界で発見されたときには活動停止状態だったが、実は生存しており、息子の危機を救ったのちに共に本当のユートピアを創ることを誓う。

首領 (しゅりょう)

100年後の世界で主人公の少年を救った組織である人類連盟のリーダー。科学者。実は100年前に世界を氷漬けにした氷素爆弾の発明者でもある。その行為に対する贖罪の意識は強い。行き過ぎた機械文明から人間を解放するための活動を続け、その原因である大統領の独裁政治を打破するために自らの作った大統領そっくりのロボットを本物と入れ替えることに成功。 しかし放射線の影響でロボットが自分の考えを持つようになってしまい、皮肉にもふたたび人類が滅亡の危機に瀕するきっかけを作ることになる。

大統領 (だいとうりょう)

100年後の世界を統治する独裁者。役に立たない人間をゼロの空間で処分し、能力の高いロボットに置き換える政策を推し進める。人類連盟によって自分そっくりのロボットと入れ替えられ、圧政は終わったかに思われたが、そのロボット大統領がより急進的に人間の排除を遂行しはじめ、ついには全人類を相手に戦争を開始してしまう。 最後は人類連盟の首領を憎々しく思いながらも協力し、爆弾によってロボット工場を破壊する。

秘密警察長官 (ひみつけいさつちょうかん)

大統領の命令を忠実に実行し、人類連盟を弾圧する。拉致された主人公の少年にゼロの空間の存在を明かし、この世界にふさわしい人間かどうかを見極めようとした。

ロボット

『UTOPIA 最後の世界大戦』の表紙にも登場しているロボット。作中に名称は登場しない。氷漬けになった都市のシェルターから主人公の少年を助け出す。さらに父の死に動揺する主人公を落ち着かせるために、頭にショックを与えて記憶の一部だけを忘却させている。ちょうどその頃より異常な動作が目立ち始めるが、調べてみると放射線の影響で電子頭脳が人間の脳と同じ働きをするようになっていたため、人類同盟の首領が大統領に似せたロボットを作った際に電子頭脳だけを移植される。 しかし圧政をやめさせようという首領の思惑とはうらはらに、命令を無視し、自分の考えで人類を攻撃する命令を出してしまう。

ロボット警官 (ろぼっとけいかん)

『UTOPIA 最後の世界大戦』に登場するロボット。ユートピアの機械化を推進するため、大統領が生産を決定する。人類同盟はそうなると人類の破滅と判断し、製造工場の襲撃を計画する。

集団・組織

人類連盟 (じんるいれんめい)

『UTOPIA 最後の世界大戦』に登場する組織。主人公の少年を氷の中から救出し、行動を共にすることになる。役に立つ人間以外をゼロの空間へ送り、徹底した機械化と管理を進める政府に抵抗する活動を続ける。メンバーは40名ほどだが、大統領と秘密警察長官の会話を常にモニタリングするなど、諜報能力は高い。また破壊活動だけではなく人間らしい文化の保護にも関心を寄せ、不必要とされた優れた芸術品などを美術室に保管している。

場所

ユートピア

『UTOPIA 最後の世界大戦』の舞台となる世界。氷素爆弾によって一度は人類が壊滅的となってから100年後、積み重ねた努力によって機械文明の発達した都市が作り上げられている。科学技術の進歩によって人間の寿命は200歳となり、人口は約470億人に到達。また、「引力遮断膜」によって高所から落ちてもケガひとつしない技術なども開発されている。 しかし、無駄なものは切り捨てられる傾向にあり、芸術は衰退し、食料も味より栄養が重視される。そして人間も役に立たない者は切り捨てられ、ロボットに置き換えが進んでいるため、これ以上人口が増えることは無い。

その他キーワード

氷素爆弾 (ひょうそばくだん、ひょうばく)

『UTOPIA 最後の世界大戦』に登場する兵器。「氷爆」と略される。20XX年の第三次世界大戦において敗色濃厚だったS連邦が、A国に対して使用。周囲の温度を急激に低下させ、一面を氷の世界にしてしまう爆弾。さらに放射線による被害も甚大となる。一発で7千万人が死ぬと開発者が語っているが、実際に使われた氷素爆弾の威力は想像以上に大きく、100年後の世界でも地球の半分は氷に覆われたままの死の世界となっている。

ゼロの空間 (ぜろのくうかん)

『UTOPIA 最後の世界大戦』に登場する建造物。細い通路の奥に幅の狭い入口があり、中は暗黒の空間となっている。必要とされなくなった人間は次々とそこに送りこまれ、消えて無くなってしまう。なお、藤子・F・不二雄作品である『21エモン』の「銀河系No.2の星」のエピソードにもほぼ同じ見た目の「ゼロ次元」という建造物が登場。 こちらは科学が発達して何千年も人間が死ななくなったボタンポン星で、生きることに飽きた人が自ら消滅を希望すると、ベルトコンベアに乗せられてそこに送られる。

書誌情報

UTOPIA 最後の世界大戦 小学館クリエイティブ

(2011-08-25発行、 978-4778031886)

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