作品誕生のいきさつ
作者の東村アキコはK-POPや韓国ドラマが好きで、いつか日本の女性と韓国の男性との国境を越えたラブストーリーを描きたいと思っていた。そこに韓国のコミックサイト「NAVER WEBTOON」で多数の超人気作を手掛けるプロデューサーから声が掛かり、初の日韓同時のウェブ連載で、さらにフルカラーの縦スクロールという著者初の試みとなった。
関連作品
本作『偽装不倫』はTVドラマ化されており、日テレ系列で放送された。TVドラマ版では、主人公の恋人の設定が韓国人から日本人へと変更されている。濱鐘子を杏、その恋人役を宮沢氷魚、葉子を仲間由紀恵、吉沢賢治を谷原章介、風太を瀬戸利樹がそれぞれ演じている。
あらすじ
第1巻
32歳の派遣会社員の濱鐘子は、20代後半からさまざまな婚活に励んできたものの結果が出ず、自分は絶望的に男性にモテないと、もはやあきらめの境地に達していた。婚活に疲れた鐘子は、派遣社員の契約が終了したことを機に、韓国へ一人旅行に出掛ける。姉である葉子から借りたコートのポケットに、姉の結婚指輪が入っていることに機内で気づいた鐘子がその指輪を眺めていると、上から手荷物が落下してきて鐘子の頭に当たり、その衝撃で指輪を落としてしまう。指輪を拾ってくれたのは韓国人のイケメン男性、ジョバンヒだった。結婚指輪が姉のものだと言いそびれた鐘子は、話の流れで既婚者ということになってしまう。鐘子の頭にぶつかった荷物はジョバンヒのもので、彼はそのお詫びにと韓国を案内すると申し出る。鐘子は旅の開放感もあり、徐々にジョバンヒに惹かれていき、ジョバンヒも鐘子に不倫をしないかと持ち掛け、二人は一夜を共にする。ジョバンヒからダンナの写真が見たいと言われた鐘子は、自分が未婚だと言い出せないまま、つい姉の夫である吉沢賢治の写真を夫だとジョバンヒに見せてしまうのだった。
第2巻
濱鐘子は、ウソにウソを重ねながらジョバンヒとの韓国巡りの日々を送り、ますます彼に惹かれていく。しかし帰国の日を迎え、そんな期間限定の「不倫」も終わりを迎えようとしていた。連絡先を交換することもないまま日本へ帰国した鐘子だったが、ホテルの部屋に、姉の葉子の結婚指輪を忘れたことに気づく。ホテルへ連絡しても指輪は見つからず、姉からは指輪を返すように催促される。鐘子は、指輪はおそらくジョバンヒが持っているだろうと推測するが、彼の連絡先はわからない。検索すればFacebookやインスタで連絡を取ることは可能だろうと考える鐘子だったが、連絡を取ったらまた会いたくなるはずと、思いとどまっていた。そんな中、仕事で名古屋へ出張しているはずの姉を地元の街中で偶然見かける。結婚指輪を外していることからも、姉の不倫を薄々感じていた鐘子が姉を尾行すると、葉子はホテルへいったん姿を消し、別人のようなメイク姿で現れる。そのまま尾行を続けた鐘子は、葉子が若い男とオープンカフェでいちゃつく不倫現場を目撃する。
第3巻
姉の葉子の結婚指輪を返してもらいに行くだけだと自分に言い聞かせ、再び韓国へ向かう濱鐘子。ジョバンヒの連絡先はわからなかったが、先の韓国滞在時に食事したジョバンヒの姉のパクが営むスペイン料理店を訪ねる。パクがジョバンヒに鐘子の訪問を電話で伝え、二人は再会を果たす。結局、鐘子はジョバンヒのことが好きだという気持ちをより強くする。ジョバンヒも鐘子の気持ちに応え、いっしょに飛行機で日本へと向かう。しかし、空港には夫の出張を見送るために姉夫婦が来ていた。鐘子から夫だと写真を見せられていたことで、葉子の夫である吉沢賢治が鐘子の夫だと思っているジョバンヒは混乱して、そのまま空港から姿を消す。
第4巻
韓国から帰国し、姉夫婦と合流した濱鐘子だったが、姉の葉子は不倫相手の風太が総合格闘技の練習中に頭と首を負傷したと聞き、夫の吉沢賢治と鐘子に黙ったまま病院へ向かう。翌日、朝帰りしてきた葉子は、賢治との結婚記念日のディナー帰りに風太のお見舞いで病院へ行きたいからと、鐘子が急病となって病院へ行ったことにしてくれと頼む。お礼の一万円に釣られて病院へ行った鐘子は、偶然風太と出会い、そこへ葉子も到着。そこで鐘子は、葉子が結婚していることを隠したまま風太と付き合っている事実を知る。その後、インスタにアップされた写真で、ジョバンヒが鐘子の出身地である岩手にいると知った鐘子は、もし彼と会うことができたら自分が結婚していないことを伝えようと決め、新幹線で遠野へ向かうのだった。
第5巻
ジョバンヒを捜して遠野までやって来た濱鐘子は、ジョバンヒと再会を果たす。結局、真実を打ち明けられないままの鐘子だったが、再会の喜びもつかの間、ジョバンヒが意識を失い、救急車を呼ぶこととなる。病院でジョバンヒの意識が戻るのを待つ鐘子が、彼にかかってきた携帯電話に出ると、それは韓国にいるジョバンヒの姉、パクからのものだった。韓国語のわからない鐘子に対し、鐘子から電話を代わったジョバンヒの主治医のユンは、ジョバンヒが脳腫瘍を患っていることをパクに告げる。しかし、病院で意識を取り戻したジョバンヒは、鐘子が心配しないように、彼女にはただの貧血だと話す。二人はそのまま岩手の観光を続け、ジョバンヒはお土産屋で買ったガラスの指輪を、鐘子の左手薬指にはめるのだった。
第6巻
葉子は夫の吉沢賢治との熱海への一泊旅行をドタキャンして、不倫相手である風太の総合格闘技の試合に応援へ行き、試合には勝ったものの負傷した風太のそばから離れられずにいた。そして風太は、指輪を買って葉子にプレゼントする。仕事で忙しいと聞いていた賢治が葉子の会社を尋ねると、守衛から会社には誰もいないと言われ、ついに妻が浮気していることに気づく。風太のことを愛していながらも、夫を別れる気のない葉子は、旅行へ遅れた言い訳のために濱鐘子にも熱海に来るように頼み込む。仕方なく姉に付き合って熱海へと向かった鐘子は、姉から賢治は自分のことを愛していないのだと聞かされる。一方、姉のパクから病気のことを医師から聞いたと連絡を受けたジョバンヒは、一人ソウルへと帰国するが、機内で昏睡状態に陥り、韓国の病院へ担ぎ込まれてしまう。
第7巻
ジョバンヒがソウルで意識を失って入院したことを知らない濱鐘子は、LINEで自分が未婚であることを告げる。しかし、そのメッセージは昏睡中のジョバンヒには届かず、彼の姉のパクによって消去されてしまう。昏睡中のジョバンヒの脳に放射線治療を施すことによって、脳の深部にある腫瘍を小さくできる可能性はあるが、その治療によってここ最近の記憶を失ってしまう危険性があった。パクは過去の記憶よりも弟の命を優先し、その治療方法を受け入れる。一方日本では、地元で偶然風太と出会った鐘子が、うっかり姉の葉子が既婚者であることを話してしまう。その事実に大きなショックを受ける風太だったが、あらためて葉子に思いを伝えると、ウソをつくことに疲れた葉子は風太といっしょになることを選択するのだった。そしてジョバンヒと連絡がつかずにやきもきする鐘子は、姉に背中を押されて三度ソウルへと向かう。
第8巻
ジョバンヒに会うためにソウルへやって来た濱鐘子は、ジョバンヒが帰国中に脳腫瘍で意識を失って入院していることを知る。病院でジョバンヒと再会した鐘子だったが、彼は記憶を失っているためか、鐘子のことをわからない様子だった。ついにこの恋も終わりかと、失意のまま日本へ帰国した鐘子だったが、ショックのあまりスーツケースを丸ごと病室に忘れてきていた。実はジョバンヒが既婚者である鐘子との関係を終わらせるため、記憶を失ったふりをしているだけだと知った姉のパクは、弟が本当に鐘子を愛していることを知ると、以前に自分が消したLINEのメッセージをジョバンヒに伝え、鐘子が未婚であることを伝えるのだった。
登場人物・キャラクター
濱 鐘子 (はま しょうこ)
シングルライフを送っている女性で、年齢は32歳。3年間に及ぶ婚活に疲れ、自分は絶望的にモテないとあきらめの境地に達している。派遣社員として働いていたが、1年間の契約が終了して現在は無職。杉並区で両親、姉夫婦と暮らしている。一人で韓国旅行へ向かう機内で偶然、ジョバンヒと出会って恋に落ちるが、その場の流れで既婚者と偽ってしまう。ジョバンヒから既婚者であると誤解されたまま、彼と偽装不倫をすることになるが、未婚だと真実を告げたら関係が壊れてしまう恐れがあると考え、本当のことを言えずにいる。
ジョバンヒ
イケメン韓国人男性で、カメラマンをしている。年齢は25歳。日本の大学に留学していた経験があり、日本語を話せる。韓国へ向かう機内で濱鐘子と出会い、落下したジョバンヒの手荷物が鐘子の頭にぶつかったことのお詫びとして韓国を案内して、その流れで自分と不倫しないかと持ち掛けた。10代の頃はモデルをしており、その時にいっしょに仕事していた日本人のカメラマンからの紹介で、日本の写真学校へ留学した。現在は風景専門のカメラマンとして活動している。
こぶたん
ジョバンヒの手荷物が、濱鐘子の頭にぶつかったことでできたタンコブから生まれた、鐘子のイマジナリーフレンド(空想の友人)。ピンク色のふくらんだモチのような見た目で、つぶらな瞳をしている。鐘子の心の声や、本音をなぜか関西弁で代弁する存在で、鐘子だけに見える。鐘子が話し相手が欲しいと思うあまり、自分で自分の頭を殴って召喚することもある。
パク
ジョバンヒの姉。韓国でPOLA POLAというスペイン料理店を営んでいる。ピンク色のおだんごヘアで、ぽっちゃりとした体型をしている。父親の不倫が原因で両親が離婚しており、母と再婚相手との子供になるジョバンヒとは父親が違う。ジョバンヒが濱鐘子をパクの店へ連れていき、いっしょにパエリアを食べた。日本語は話せない。
葉子 (ようこ)
濱鐘子の姉で、年齢は37歳のキャリアウーマン。鐘子からは地味で男っ気がないカタブツ女だと思われていたが、3年前に突然、吉沢賢治を自宅へ連れてきて両親に紹介した。その3か月後には結納、半年後に結婚、1年後には自宅を二世帯住宅に改築して実の両親と同居するようになり、現在に至る。子供はまだ授かっていないが、はたから見ると幸せそうな新婚夫婦に見える。しかし、風太と不倫しており、風太に会う際は眼鏡を外して真っ赤なリップ、胸元の開いたワンピースという大人な女性に変貌する。
吉沢 賢治 (よしざわ けんじ)
会社勤めのサラリーマンで、葉子の夫。長身のイケメンで、濱鐘子にもつねに優しく接している。また、気配りもでき、葉子の両親との二世帯住宅での生活もうまくいっている。
ユン
韓国在住の男性医師で、眼鏡を掛けたイケメン。パクとは同級生。脳腫瘍を患っているジョバンヒの主治医を務めている。ジョバンヒから口止めされているため、病気のことはパクには話していない。
風太 (ふうた)
葉子の不倫相手で、カワイイ系のイケメン男子。年齢は23歳。「FUTA」のリングネームで総合格闘技の選手として活躍している。髪の毛がピンク色でチャラく見えるが、まじめな性格の持ち主。所属ジムから強く見えるように髪を赤く染めてこいとの指示で訪れた美容室で、葉子と出会った。葉子のことを心から愛しているが、彼女が既婚者であることは知らない。